生きるのは別で死ぬのは一緒
――マンションマンションの新作『キング・オブ・心中』公演迫る!

 舞台美術先行の芝居作り――この一風変わったアプローチで舞台製作に取り組むユニット【マンションマンション】。彼らの新作、『キング・オブ・心中』が3月30日より、下北沢OFF・OFFシアターで上演される。
 そもそも“舞台美術ありきの芝居”とは?
 そこで彼らが目指すものとは?
 ――ユニット2度目の公演を前に大忙しの主宰/舞台美術/出演の横畠愛希子さん、作/演出の福原充則さん(ピチチ5)に話を聞いた。

横畠愛希子:【マンションマンション】主宰/舞台美術/俳優。
大学卒業後、【iOJO!】入団。退団後も俳優として数多くの舞台を経験。
2004年の『三年パンク』にて舞台美術先行型のユニット【マンションマンション】を立ち上げる。

福原充則:作/演出。
大学で映像を学ぶも、役者として【iOJO!】に参加。以降、様々な舞台出演を経て、2003年の『大クラシック』にて自身が作/演出する【ピチチ5(クインテット)】を本格的に始動する。


2006/3/16 インタビュアー・文責:北原 登志喜  撮影・編集:鏡田伸幸
 【マンションマンション】はもともと、役者・横畠愛希子さんが求める舞台美術を実現する為に結成されたユニットだ。――と言うと、華美や壮麗に寄った趣味的な舞台美術を想像する向きもあろうが、ちょっと違う。横畠さんが労を厭わず作り上げる舞台美術とは、役者が活きるそれ、役者視点から生まれる舞台美術である。


横畠さんと福原さんは、とある自主映画で“同棲する恋人同士の役”で初めて出会ったとか。
始まりがそんな二人だけに、インタビューの間も息はバッチリ!




本日の稽古場は世田谷の、とある公民館の一室。ご覧の通り、和室である。畳の上で繰り広げられる丁々発止は、くつろぎ感と緊張感の間で奇妙なテンションを湛えていた。



俳優たちが仮想舞台に上がるとこんな感じ。この顔合わせの妙は一見の価値ありだ。
なお、畳上には実際の舞台をかたどってロープが張られているが、その形が随分と複雑なのも印象的だった。



芝居を見守る福原さん。今はかなり細かく止め返し。「こういうパターンも見てみたい」と、芝居の質を複数試しては消去法でベストを探る作業が続く。俳優陣の引き出しの多さを信頼しているからこその作り方だろう。

横畠:
 私は基本的に役者が好きなんです。だから、役者さんを自由自在にいろんな空間に連れて行けるものを作りたいし、役者が魅力的に見えるような舞台美術や仕掛けばかり考えてます。そうしたことについては、自分が役者だからこそ出来ることがあるんじゃないか――そう思って実際に舞台美術をやってみたら、役者さんたちの食いつきが意外なくらい良かったんですよ。すごく面白がってくれた。他所では言えないことも私には言えるからでしょうけど、役者さんの美術に対する関心の高さには驚きました。それだけ役者さんは美術を大事に思ってるし、だから私が美術をやる意味はあるのかなって思ってます。

 横畠さんの視点から出てくる仕掛けのアイデアを聞くと、出演者同士でその仕掛け担当の取り合いになることもあるそうだ。役が決まる前に舞台上のどこに誰が立つかまで決まってしまうこともあるとか。
 そんな役者主体の舞台美術を活かす、確かな物語を組み上げるのが作/演出の福原充則さんだ。横畠さんと福原さんは年齢の近さだけでなく、いくつもの共通点を持っている。時期はズレるが共に【オッホ】に在籍していた時期があり、余計なものが嫌いで、引き戸が大好きetc.…。
 そんな二人の間で、【マンションマンション】の芝居はどのようにして立ち上がるのだろう?


横畠:
 単純に、無駄話から始まります。私が「こういうことがやりたい!」って話して「あ、それいいねぇ!」みたいな。例えば前回の『三年パンク』だと、私が劇場の、高さに上限がある感じが嫌なので「もっと上手く見せたい」って言ったら、福原君が「じゃあ、山にしよう」って言ってきて――。


福原:
 だから前回だと、(レンタルビデオ屋の)セットが回転したらエベレストになるっていう設定が、まず先に決まってたんですよ。そうやって面白がってアイデアを出し合う時は完全に書く自分のことを忘れているので……痛い目にあってます(笑)。


 こうした作り方は福原さんが普段、自身の劇団【ピチチ5(クインテット)】でやっている芝居作りとは当然、大きな違いを持っている。その点について福原さんはこう語った。

福原:
 ストーリーより先に美術で話を展開できるのは分かりやすいですよね。僕はすごく簡単なこと、馬鹿なことをやりたいんです。それも「全力で空振りする」というようなものをやりたい。それが美術と一緒になることでダイナミックさ、馬鹿馬鹿しさが倍増する感じですね(笑)。そこが面白い。
 ただ、【ピチチ5】でやっている作品はすべてオムニバスで、“貧乏”だとか“モテない”だとか、一つのテーマで15分程度のもの。…僕、伏線だとか、結論を後にまわしていくのって嫌いなんですよ。だから自分の劇団では、普通なら1時間半かけてやるかもしれないようなものを要約・濃縮するかたちで、それでオムニバスなんですけど……だから、普通の、1時間半くらいの芝居を一本書くのって、すごく難しいんですよね。普段使わないテクニックも必要になってくるので、葛藤はあります(笑)。

 【ピチチ5】で男の哀しさや格好悪さなど、ともすれば自虐的にも映るネタを、カラッとスパイシーに料理して楽しませてくれる福原さん。その、哀しさを一歩突き放して昇華する視点に変わりは無くとも、役者の主張を積極的に取り入れた舞台美術と対峙しながら長尺の作品をつくり上げる【マンションマンション】では、また違った味わいの福原ワールドを堪能させてくれることだろう。


横畠さん登場――と言っても、顔、隠れてますが…。ちなみに美術も受け持つ横畠さん。その作業量ゆえに、出番が減らされることも多々あるそう。そのせいもあって「自分が考えた仕掛けを自分が使うことは無いんです」とは、横畠さんの悲しげな弁。



福原さん一流のデフォルメが効いた、かなりシュールなこの場面。出来事の深刻さとその表れ方のギャップが堪らない。合間に笑いの絶えることのない稽古の様子には、見ているこちらもついついニヤリ。



写真の高木珠里さんをはじめ、エキセントリックなキャラクターたちが舞台上に小さな竜巻を起こしては、物語をとんでもない方向へ引っ張っていく。まさしく全力のフル・スイングがあっちこっちで空を切る!?



富岡晃一郎さん、福原作品に無くてはならない“男の哀しさ”を炸裂させてます!
個性豊かな俳優たちが腕によりをかけて組み上げる複雑怪奇な人間模様、その行き着く先は?――劇場公開の日をお楽しみに。


 最後に、今作『キング・オブ・心中』への抱負をそれぞれに語ってもらった。

横畠:
 うちの芝居は決してリアルじゃないんです。現実離れした美術であったり、現実離れした話であったり、もう妄想が膨らんでる(笑)。でも、例えば演じている役者も、役者である以前に現実を生きている人たちなわけだし、そんな彼らを通して、そしてもちろん私たちが重きを置いている舞台美術を通して、感覚として、よりリアルに切実に何かを感じてもらえたら嬉しいですね。


福原:
 今作はタイトルで「心中」って言ってますけど、今の世の中、その場で、その恋愛の過程で一緒に死ぬというところまではリアリティーが感じられない。でも、別々に人生を送って、最後に死ぬ時は再会して一緒に死のうね、くらいの恋愛は僕も30なんでしてきたなぁ、と。そういう“中途半端な思い切りの良さ”みたいなものを今回書きたかったんですよ。それと、大袈裟なことが好きなので、とにかく大袈裟なものをやって、お客さんに楽しんでもらえたら。
 大学時代、テント芝居で際限の無い舞台美術に接してきた、シュール好きの横畠さん。
 大学時代、存在しない映画のレビューを本物のレビューに混ぜてネット上で公開していた福原さん。
 特異な道筋を辿ってきた二つの個性が重なったとき、どんな「遠回りなリアル」(福原)が生まれるのか。
 【マンションマンション】の新作『キング・オブ・心中』――この春、是非覗いてみたい一本である。

キング・オブ・心中』
3月30日(木)〜4月3日(月)

下北沢OFF・OFFシアター
⇒詳細情報はこちら
出演
今林久弥(双数姉妹)
瓜生和成(東京タンバリン)
高木珠里(劇団宝船/ドーナツもぐもぐクラブ)
富岡晃一郎
根上彩(青年団)
三浦竜一
草野イニ(ロリータ男爵)
山本了(同居人)
横畠愛希子

稽古場の大きな画像をご覧になりたい方は、こちら

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