AAF戯曲賞ドラマリーディング shelf・矢野靖人 インタビュー


人と言葉の関わり方を、演劇を通して探求し続ける矢野靖人さん。この名古屋出身の演出家は、【shelf】の名で手がけるドラマリーディングにどんな可能性を見ているのか。初めてのドラマリーディングに取り組む過程で掴んだ手応え。この企画に寄せる期待など、矢野さんは力強く、多くを語ってくれた。



shelf
"shelf"はbook shelf(本棚)の意。

何もない世界の両端を区切ることによって生まれる空間、 沢山のテキストが堆積・混在する書架をモチーフに活動を展開。 近年は、身体と身体の一部としての言葉との関係、言葉の発生する現場を炙り出すべく、意識的に文脈からズラされたテキストを題材に選び取り構成・上演する作業を続けている。


公式HPは此方

矢野靖人

【shelf】演出家・代表。

1975年名古屋市生まれ。北海道大学在学中に演劇を始める。

1999年4月より青年団演出部に所属。

2000年2月、青年団第5回若手自主公演side-b『 髪をかきあげる 』(作/鈴江俊郎)演出。
退団後、演劇集団かもねぎショット演出助手等を経て、2002年2月演劇企画・製作ユニットshelf始動。

コミュニケーションの手段(メディア)としての戯曲

―まず、今回AAF戯曲賞ドラマリーディングに参加を決めたきっかけから教えて下さい

実はこの戯曲、『大熊猫中毒』を書いた半澤寧子さんとは以前に一度、【shelf】の『R.U.R』という作品で一緒に仕事をしたことがあったんです。その半澤さんから企画の話を聞いたのが直接のきっかけでした。彼女の過去の作品は『R.U.R』の前に一通り読ませてもらってましたから、『大熊猫中毒』は知っている戯曲でもあったし、面白そうだな、と

―【shelf】としてドラマリーディングに取り組むのは初めてですが、ドラマリーディングという形態に対してはどう思いました?

僕の創作のモチーフに関わってくることなんですけど、僕のやる芝居ってなんというかわりといつもロールプレイ(=役割を演じる)なんですよ。役に“なりきる”というのではなく。
役になりきって、セリフを自分の言葉として喋ると、言葉の意味を伝えようとして役者の自意識が必要以上に前に出てしまうことがある。ベタになるというか。そうではなく「戯曲に書かれている言葉は自分の言葉じゃない」っていうことを前提にして役者には喋って欲しいんです。その上で、自分の言葉じゃない、これしか与えられていないという言葉を使って、どうやって相手とコミュニケーションをとるのかを考えて欲しい。僕の興味はいつもそこにあるし、その、言葉との距離みたいなものがドラマリーディングでは割と分かりやすく見せられるんじゃないかと思いました


―実際に取り組んでみて、どうでしたか?

やってみたら、やっぱりすごく面白いですね。今では変な話、「ドラマリーディング」って言っちゃうのがもったいないって思うくらいです。「ドラマリーディング」って言うと、やっぱりお客さんは「朗読でしょ?」「椅子に座って読むだけでしょ?」って思うかもしれない。でも、実はそうじゃない、全然違うんだ、と。言葉と人間がどういう関係を持つのか。一個の人間が(台本の)言葉を通じて、そこにいる別の人たちとどうやって関わりあおうとするのか。それを見せる舞台作品、パフォーマンスとして観てもらいたいですね

―ドラマリーディングだからこその制限、というのは気にならない?

制限というのは多分、“本を持って読む”ことでしょう。でもそれは逆に言えば、“本を持って読む”っていうことを踏まえてさえいれば、何をやってもいいってことだと思うんです。持っていることの必然性を何らかの形で出せれば、それはリーディングとしても、一つの舞台芸術としても成功するんじゃないかな、って


パフォーマンスの違いを楽しむ

―ドラマリーディングの魅力・可能性を矢野さんはどのように感じてらっしゃいますか?

これは今回参加する演出家4人にも共通する見解なんじゃないかな、と思ってるんですけど、……普通、リーディングっていったら「戯曲の紹介」ですよね。例えば欧米なんかだと、上演機会の少ない新作戯曲を安い予算で紹介する、そこでお客さんの反応を確かめて、ブラッシュアップして、本公演に繋げるっていうものですよね。でも日本は状況が、ちょっと違う。公演と言えば常に新作で、基本的に最初から普通の公演?があってしかも一回やって終わりという。ことの良し悪しはともかくその、そういう現状の中で、じゃあどうしたら面白い"リーディング"が出来るか考えたとき例えば、役者・演出家のショウケース(陳列棚)みたいなことにはなるんじゃないかって思ったんですね。その振幅を楽しむための。つまり単に戯曲を紹介する、のではなくて演出や俳優の違い、例えば同じ楽曲でも指揮者やオーケストラ、演奏者が違うとぜんぜん違うものになりますよね。そういう意味での「パフォーマンス」の違いを楽しむためのもの。それがわりと手軽に出来るというところはあるかなって思ってます。やっぱり短い期間で作品を作れるのは大きなメリットですし・・・ま、うちは今回すごい時間かけてますけど(笑)。
とにかく、演出家も普通に建て込む芝居の演出は年に何本もできないから、演出の機会が増えるのはありがたい。作家だってそう何本も書けるものではないから、書いたものが何回も上演される場があるのはいいことです。役者にとっても、ともすれば普通に芝居やるより高いハードルをリーディングで経験できる。…だからリーディングというのは“演劇未満”じゃなくて、うまくすると本公演とは別の次元で刺激的な企画になりうるんです。今回、そのフロンティアになれればいいな、ってこれはこの企画に寄せる自分の想いでもあるんですが、そう、考えています。
―さて、今回【shelf】が取り組む『大熊猫中毒』ですが、この戯曲の魅力は?

実は、役者も「よく分からない」っていうんですよ(笑)。でも、何かひっかかるものがある。根っこにあるものが面白いんですね。“オリジナル”というより原風景とか原体験の“原”っていう感じのものがゴロっとある気がして。幼児性というか、メルヘンの残虐さ・気持ち悪さとでも言うものがあるんですよね。それを引っ張り出したいと思うんです。
あと、僕、この作品のト書きが好きなんですよ。すごく綺麗で不思議なト書きです。だからト書きは全部読みます


―ちなみに矢野さんは名古屋のご出身ですが、その地元でこうした公演が企画され、参加する。特別な思いはありますか?

僕は東京にまったくこだわりが無いので、名古屋に限らず、機会さえあればどこでも行きたいんですよ。国内でも国外でも。新しい人や観客に出会いたいんです。だから、作品をつくるうえで、上演をするうえで特別な感慨は無いですね。
……いや、でも、やっぱりどっかで親孝行的なところはあるのかな(笑)。「愛知県芸術劇場なんていう立派なところで公演します」っていう(笑)


―最後に、このAAF戯曲賞ドラマリーディングを楽しみにしている名古屋の皆様へのメッセージをお願いします

ご覧になる方には、是非とも4作品全部を観て戴きたいですね。リーディングっていうよりも演劇、舞台芸術って言ってしまっていいと思うんですけど、ここにはこれだけの幅があるんだっていうことが間違いなく分かってもらえると思います。それと“演出”の違い、パフォーマンスの違いを楽しんでもらえるいい機会だとも思っています。特に今回の戯曲はどれも過去に一度名古屋で上演されてますから、その時の舞台を観ている人であればなおのこと、演出によって、そしてもちろんキャストによって、これだけ変わるものなんだっていうところも楽しんでもらえるのではないでしょうか


“本を持って読む”っていうことを踏まえてさえいれば、何をやってもいい――その言葉どおり、稽古でもかなり大胆なことを試していた矢野さん。本番でもその通りになるかは分からないが、いずれにしても、初めてのドラマリーディングで【shelf】が見せるパフォーマンスは、きっと刺激的なものになるに違いない。
「すごく優秀な役者が揃っています」…嬉しそうにそう語った矢野さん。その役者たちと重ねてきた稽古の成果に、確かな手応えを掴んでいるようだった。

2005/8/2+8/12 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

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