【劇団天才ホテル】『レジドロパット〜太陽売り〜』・インタビュー


【劇団天才ホテル】代表の神谷憲司さん、同劇団の作/演出を一手に手がけてきた佐藤智恵さん、そして、今回初めて【天才ホテル】作品の音楽を担当した鈴木治行さん。この3氏に、それぞれの言葉、それぞれの角度で新作『レジドロパット〜太陽売り〜』について語ってもらった。

神谷憲司(かみや・けんじ)(右)
劇団天才ホテル 主宰
1973年生。東京都出身。役者/演出家/音響オペレーター。

天才ホテル以外で手掛けた主な作品:劇団四季『李香蘭』(音響)『オペラ座の怪人』(音響)『美女と野獣』(音響)他。


佐藤智恵 (さとう・ともえ)(左)
劇団天才ホテル 作・演出・振付
埼玉県出身。演出家/作家/ダンサー。

日本演出者協会主催の若手演出家コンクール予選通過、全国85人の応募者中、15人に残り、今作『レジドロパット』が2次審査へ
天才ホテル以外で関わった主な作品:劇団四季『ジーザス・クライスト・スーパースター』(出演)『美女と野獣』(出演)他。大原高等学院 芸能・演劇コース演劇講師・演出。一橋高校・演劇講師


鈴木治行(すずき・はるゆき)(中央)
1962年生。東京都出身。作曲家。
'95年『二重の鍵(A Double Tour)』で第16回入野賞受賞。2000年には映画『M/OTHER』の音楽で第54回毎日映画コンクール音楽賞受賞。
演劇・美術・映像など他ジャンルとのコラボレーション、海外作曲家のコンサート企画、、芸術全般についての批評活動等、多面的な活動を精力的に展開し、その仕事は国内外で紹介されている。
作品収録CD:『Systematic metal 』『INSTANT MUSIC 』『TEMPUS NOVUM XIII on the Disc』etc.

レジドロパット――価値を変換する場所

―【劇団天才ホテル】の1年ぶりの新作、『レジドロパット〜太陽売り〜』の公演がいよいよ迫ってきました。さっそくですが、どんな舞台になるのか教えて下さい

佐藤 基本的には不条理です(笑)。「レジドロパット」というのはお店の名前なんですが、そこは、価値の変換を促がす店です。そして、そこに価値の変換を求める人間がやって来る。求める者と促がす店――需要と供給のバランスが一致した瞬間から、その変換がお店の見世物(ショウ)に変わる。そして「そのショウを観たい」「人間が変わっていく様を見たい」という観客が客席には集まっている、それが「レジドロパット」というお店なんです。
 その店の舞台の上では、誰が狂人なのか、誰が社会に不適合なのか分からない状態で話は続いていって、徐々に、そこにいる人間たちの関係性が明かされていきます……だから、話の筋についてはあまりお話できないんですよ(笑)。
 作り方の話をすると、今回はこれまでの【天才ホテル】作品とは違う作り方をしています。筋はドンと決めたんですけど、筋以外の部分は役者との交流の中で、コミュニケーションによって作っていこうと考えたんですね。…そう考えたがゆえに、台本を何回も書き替えることになりました(笑)


―その、価値の変換を促がす店「レジドロパット」のマネージャー役が神谷さん。……複雑な世界観のようですね


神谷
 確かに、台本を初めて読んだ時は難解でしたね(笑)。ただ、【天才ホテル】では4年前に『レジドロパット〜水治療師〜』という作品をやっていて、「レジドロパット」という店の設定そのものは経験していたので、その分は作品世界に入り易かった。それに、台本が変わっていく過程でもかなり分かりやすくなっていきました。とにかく、お客様にはいろいろなことを考えながら観てもらえるミュージカルになるだろうな、と思います。逆に言うと、リラックスして観られるミュージカルではないかもしれませんけど(笑)、いろんなことを考えながら楽しんで頂ければいいですね

―音楽を担当された鈴木さんは今日、稽古をご覧になってどんな印象を?

鈴木 ミュージカルに関わること自体、僕は初めてだったんで、とにかく新鮮でした。曲がイメージ通りに使われているところもあれば、「自分の曲がこういう風に出てくるのか!」っていう驚きもあり。音楽が自分のものでありながら、そうじゃないところもある……そんな新鮮な印象を受けました

―そもそも、鈴木さんと【劇団天才ホテル】の出会いは?

鈴木 3年前にフランスの作曲家リュック・フェラーリを僕が日本に呼んでコンサートを企画したんですけど、その時に佐藤智恵さんと初めて出会って…

佐藤 それで、「いずれ※ワイルのものとかを一緒にできたら」というお話しはしていたんです。それから鈴木さんには過去の公演も観て頂くようになって。

鈴木 観て、彼女の独特の世界がすごいな、と。今回はワイルという訳ではなかったんですが、こうしたものも普段自分がやっていることとは違いますから、自分にとってのチャレンジでもあるし。…今日、稽古を見て、つくづく「やって良かったな」と思いましたね

※ワイル:クルト・ワイル(Kurt Weill,1900−1950)。ドイツ生まれの作曲家。ブレヒトと組んで1928年に発表した『三文オペラ』が有名。オペラのみならず、ミュージカルの作曲もした。

   

混沌の中で育まれるもの――コミュニケーション

―先ほどお話のあったように、『レジドロパット』は4年前に「水治療師」という副題で上演されています。

佐藤 劇団のみんなが好きだったんですよ、『レジドロパット』

神谷 本当に。お客様の反応も含めて、自分たちの思い出に強い衝撃として残る作品でした。それを「久しぶりにリニューアルしてやろう!」という話から、今回のことは始まったんです。最終的にはまったく違う話に書き直すことになりましたけどね

佐藤 また、“価値を変換させる”ことは演劇においてもミュージカルにおいても大切な、そして面白い試みだと思うんですけど、それを一番やれるのが「レジドロパット」というお店でもあったんです

―その“試み”という部分。第一幕の稽古を拝見しましたが、いかにも【劇団天才ホテル】らしい実験性が溢れていましたね。いろいろな“試み”を詰め込んでいる感を受けました

佐藤 そうですね。特に今回は、混沌とさせないと「どういうことを求めていくのか」が見つからないような気がしたので“全部ぶち込んだ”感があるんです。そうすることで、例えば私の中にあるテーマにしても、みんなには「テーマはこれです」ってはっきり提示しないままに、コミュニケーションを大事にしてここまで来ています。この状態のままでいかないと失敗しちゃう気がしているんですよ。前回の『BAROCCO』では、私が立てた演出プランに沿ってガッチリと作り込んだんですけど、今回はそうはせず、初めにもお話ししたように完全にコミュニケーションの中で作っている感じです。
 ……なぜ、こうした作り方を試しているかというと、これまで私は演出としての信念を役者に伝えるというよりも、役者に完全に押し付けて、言ってみれば信念対立に勝ち続けようとしていただけなのではないか、という反省もあったんです。その集大成が『BAROCCO』の稽古場だったように思います。そこでは、真剣なコミュニケーションが希薄になってしまった。
 日常という水面の下にある非日常を描きたいと思っているのに、表層的なコミュニケーションを続けてきたに過ぎないんじゃないか?
 …そんなことを考えながら現代思想に触れる中で、※フーコーに出合い、感動しました。【天才ホテル】が常に持ち続けてきた“破壊と再構築”というテーマを、改めて考える手段の一つがそこにはあるんじゃないかと思いました。
 また、※ハーバーマスにもハマりました。――コミュニケーションとはその本質において、非常に成功の確率の低いもの、「壊れやすいもの」――そんなくだりをすごく納得しながら読んだんですね。そうした思想の影響もあって、今回、私にとって都合の良い一方的なコミュニケーションではなく、生きている人間同士、互いの脆弱さも見つめ直しながら、真剣にコミュニケートしてみたい――そう思ったんです。…こうした演出方法もまた、大きな実験ですね


―舞台の形も変わっていますね。「パノプティコン」と呼んでいるそうですが、このパノプティコン=一望監視システムという舞台について、少し解説してください。

佐藤 パノプティコンというのは、これもフーコーの著作の中で初めて知ったんですけど、監獄建築の、ある様式のことです。。監房が円形に配置されていて、円の中心は吹き抜けになっている。その中心に看守がいるのかいないのか囚人には分からないんですけど、それだけに、常に監視されている気になる。つまり、自分の中に監視者を作り上げてしまう訳ですね。…これを舞台に転用できないかな、と思って取り組んで、ああいう形になったんです

※フーコー:ミシェル・フーコー(Michel Foucault,1926−1984)。ポスト構造主義を代表するフランスの哲学者。前期には近代理性と狂気を、後期には権力支配構造を研究し、「生政治学」の概念を生み出した。

※ハーバーマス:ユルゲン・ハーバーマス(Jurgen Habermas, 1929年〜)。ドイツの社会学者、哲学者。公共性のあり方を問い続ける、「公共性論」「コミュニケーション論」の第一人者。

   

セリフのイントネーションまで考えられたメロディーライン

―前作『BAROCCO』ではダンスをコンテンポラリー寄りに仕上げていましたが、今作では?

佐藤 今作の振付の一番のイメージは、サーカスなんですよ。それも、踊りが踊れるサーカスではなくて、全員が道化(ピエロ)っていうのをやってみたくて。だから、上手く踊るというよりもパントマイムに近いような踊りで、コンテンポラリーとも少し離れたんです。しかも、「表現したいように表現して下さい」っていう感じなので……実は今回、全然振付けしてないんですよ。でも、そんな感じで「やってみて下さい」って言うと、みんなダンサーでもないのに意外と出してくれるんですよね。むしろ、ダンサーじゃないからこそ出てくるものかもしれない。そんな、集団即興みたいな感じでやっています

―音楽についてですが、以前から交流のあった鈴木さんに今作、このタイミングで音楽を依頼した理由は?

佐藤 鈴木さんの音楽を聞いているうちに、何か混沌としたものをやる時に是非一緒にやれたらなって思ったんです。それで今作の音楽をお願いしました。それに何より、鈴木さんはすごく性格が温かい方なので、全体のコミュニケーションを大事にする、という今回の作り方にもピッタリでした

―鈴木さんは今回、音楽を手がけてみていかがでした?

鈴木 今回の僕の仕事は佐藤さんから提示された、もともと存在する曲にメロディーラインを乗っけるというのが多くて、ゼロから作った曲はそんなに無いんですね。だから、音楽全体を僕がコントロールしている、ということではないんです。本当はもっと、自分が音楽監督になって音楽全体をゼロから作り上げる、というのも将来的にはやってみたいんですけど、今回はそこまでできなかったんですね。でも、それはそれで、普段僕がやらない作り方なんで楽しかったです

神谷 鈴木さんの作ってくれたメロディーラインには、「何でこの曲にこんなメロディーラインがつけられるんだろう」っていう驚きがありますよ

佐藤 それがまた、歌うとすごく気持ちがいいんですよね。それと、これは『BAROCCO』の音楽を作って下さった夢乃さんにも共通するんですけど、日本語が本当に乗る曲なんですね。歌詞を変更するのが気まずいくらい(笑)

鈴木 歌詞にメロディーをつけるときには、昔からイントネーションを意識しているのは確かです。「意味が伝わればいい」じゃなくて、イントネーションによっても表現がだいぶ変わってきますから。もちろん「このメロディーに乗せるために、歌詞のここを替えてもらいたい」と思うこともありますけど、「だから歌詞を直して欲しい」ということは今回は言わないことにして。…言ったら佐藤さん、怖そうだし(笑)。だから歌詞を大前提に、その中で何ができるかを考えました。

   

炙り出す、隠された欲求

―それでは、最後に今作の見所をそれぞれ聞かせて下さい。まずは音楽から

鈴木 ソロで歌う曲、集団で声を出す曲、かなり傾向の違うものがいろいろ混ざっているんで、それぞれを味わって欲しいと思います。それと、僕も今日初めて聞いたんだけど、『フェリーニのアマルコルド』(映画)の曲。あれ、曲そのものがすごく演劇的な気がするんですよね。今日聞いた中ではあそこが一番かな?

―作 / 演出の立場からは?

佐藤 ものすごく大きいことを言っちゃうと、現代思想と現象学で信念対立を考えていくところが見所です。話の核にあるのは“権力”。権力について考えたい。………って、これじゃさっぱり意味が分からないですね(笑)。
 …現代に生きていれば絶対的に現代思想の中で育ってきています。でも、例えば戦争に行った世代の人たちは、今とは違う思想の中で育ち、違う価値観を持っていました。そういう風に、時代の思想も価値も、どんどん無理な変換を繰り返します。でも、そんな無理な価値の変換を求めるのも人間である以上、それは実は、人間の隠された欲求なのかもしれない。ある価値観の中で麻痺していく日常の背後に、実はそんな欲求が隠れている……「レジドロパット」という無理な価値の変換を促がす店を舞台に、人間のそんなところが見えてきたら面白いですね


―締めは座長の神谷さん。お願いします

神谷 早変わりがすごく多い上に、舞台の形が特殊なため裏の通路が複雑なんです。はけ口から出の位置まで最長2分かかりますからね。そこで、果たして役者が間に合うのか間に合わないのか……これ、裏の見所です(笑)

   

 コミュニケーションの中で舞台を作る……これは、劇団の“その先”を考える流れの中で決した選択でもあったという。自由な意見を取り入れる姿勢は作品づくりにおいてのみならず、劇団運営にも積極的に導入している。そうして劇団の土台を踏み固めた上に、新しい血を注ぎ込み、スタッフ育成にも着手した2005年の【劇団天才ホテル】。

 「常に新しいことに挑戦していきたい」――最後にそう語った神谷さんの言葉通り、『レジドロパット〜太陽売り〜』では、また新しい【劇団天才ホテル】が見られることだろう。

2005/10/15 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

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