BACK STAGE REPORT〜【Zero Project】【伊藤綾美インタビュー(1)】〜
「偶然」とは、誰の身にも平等に降りかかるものである。それは幸せであったり、時にはこの上ない不幸であったりもする。それが訪れたときに、どう受け止め、糧にしていくか? それは一人の人間に対する、一つの大きな問いかけのようにも思える。
かつて一人の女優であった伊藤綾美という人物に起こった「偶然」は、彼女に何をもたらしたのだろうか。

藤綾美 氏(【Zero Project】代表)
女優を目指しての役者修行から一転、ひょんな巡り合わせでプロデューサーへ。「情熱とパワーだけ(HPより抜粋)」で、2000年、ゼロから企画製作プロダクション【Zero Project】を立ち上げる。
レンディピティ(偶然の幸せ)によって
生まれたプロデューサー
―まずは女優からプロデューサーへと転身された、その経緯から改めてお伺いしたいのですが。

最初はプロデューサーのお仕事をするなんて、全く考えていませんでした。絶対に有名な女優になれると信じていましたので(笑)。

―そんな中、アルバイト先で知り合った流通会社の社長さんから、話を持ちかけられたのがきっかけだったとか……。

はい。まだ駆け出しで、お芝居の勉強ばかりしていた頃に、「ちょっと角度を変えてみたらどうだ」と。ただ、最初は「少し考えさせて下さい」というお返事をしたんです。確かに「演劇を作る」という土俵は変わらないんですけど……やっぱり実際に出演して演技をしたいという思いが強くありましたので、プロデューサーになるというのは少し勇気がいりました。

―社長さんがお声をかけたのは、企業の中の文化事業の一環として、という形だったのでしょうか?

そうですね。その社長さんご本人というのは、あまり舞台を観たことのない方だったんですけど、何でも『キャッツ』を観て感動されたことがあると(笑)。そんな中で色々と興味はあったそうで、一つ文化事業としてこういうことをやってみてはどうだろうか? ということで、私に声をかけてくださったんですね。

―そして、最終的にはお話を受けられたと……。

改めて真剣に考えてみて、やっぱり「角度を変えてみよう」と。でも、いざやるとなった時に、「じゃあプロデューサーって何なんだ?」と(笑)。そこから古い本なんかを引っ張り出してきて、今まではそこしか読んでいなかった「俳優とは」というページをすっ飛ばして……「制作とは」というページを読むところから始めました(笑)。

―伊藤さんは、その社長さんとの出会いを「セレンディピティ(偶然の幸せ)」と称しておられますね。

今、自分が何故こういう仕事をしているのかと考えた時に、やっぱり人と話をすることや、人との繋がりが好きだからということが一番大きいんですね。一期一会といいますか、出会いというものを大事にしたいという思いが凄くありまして……。

―「出会い」こそがセレンディピティであると……。

ええ。ものを作る時に、やっぱり私一人では作れないんです。周囲の人に支えてもらって、初めて出来ることだと思いますので……だから、最初にあったその社長さんとの出会いというのは、私にとって物凄い「偶然の幸せ」だったんです。そういう意味でも、これからも「出会い」は特に大切にしたいと思っています。
う一つのセレンディピティ……
『地雷を踏んだらサヨウナラ』
―初めて手掛けられたプロデュース公演について聞かせて下さい。

まず「何をやるか」というソフト作りから始めました。誰かから薦められたものではなく、あくまで自分で探して、自分が本当にやりたいものを公演したいという思いがありましたので。

―その中で出会ったのが、初プロデュースの題材となった映画、『地雷を踏んだらサヨウナラ』であったと。

はい。当時、「ずいぶん怖い題材だな」ぐらいに思って劇場に入ったんです。劇場に入って、実際に観て、そこで感じた自分と周囲の反応を見て……「これは絶対に舞台化したい」とすぐに決めました。

―この映画、そして主人公となった戦場カメラマン・一ノ瀬泰造さんとの出会いも、セレンディピティだと言われていますね。

あの映画を観た時、エンディングロールが流れている間、席を立つ人がいなかったんです。劇場は渋谷だったんですけど、茶髪の子とか、ガングロの子とか、ロンゲの鼻ピアスの子とか……彼らがずっと泣きながら席を立たずにいるのを見て、若い人たちが求める何かがこの映画にはあるんだろうな、と。彼らは一ノ瀬泰造という人間に、それぞれ自分をダブらせているんじゃないかと感じたんです。だったら、そういう情熱だとか、夢を追う姿勢というものをもっと身近に感じさせる作品ができれば、それをライブで観せることができれば、絶対に「行ける」と思ったんです。

―個人的には、『地雷を踏んだらサヨウナラ』という作品を観て、僕は映画の中の一ノ瀬さんの姿に圧倒されると同時に、ある種の怖さ、危うさというものも感じました。もしかしたら、「危険を冒すこと自体が格好いい」という間違った共感をしてしまう人も、中にはいるのではないか? と……。

そうですね……ただ、私の好きな一ノ瀬さんの言葉の中に「好きな仕事に命を賭けるシアワセな息子が死んでも悲しむことないヨ、母さん」という言葉があるんです。これからもそういう思いというものが必ず感じられる作品にしたいとは思っています。ただ、最近ではイラクでの人質事件などもありましたし、戦争というものがより身近になってきて、そういう時代の中での考え方の変化というのは勿論あると思いますので……だから、今後私たちが一ノ瀬泰造という人物を描いていくときに、今まで以上に慎重にならなければいけないという意識はありますね。

―描き方を変える……?

母親としての視点で描く、というのが一つの方法ですね。例えば一ノ瀬さんを見る母の目、そして今の子たちを見る母の目……そういう視点で作っていけたらと考えています。
ロデュース公演ならではの苦労、
やり甲斐とは?
―プロデュース業というものをされて、改めて感じられたことはありますか?

改めて思ったのは、人というのは情熱で動いてくれるものなんだ、ということですね。だから、そうやって受けた思いをそのままにしておくのではなく、必ず作品に活かしていかなくては、と。それから、やっぱりちゃんとした会社として早く一本立ちしなくてはいけないな、ということですね。今の状態ではやっぱり、どうしても皆さんにご無理を言ってしまう部分もありますし、やりたいアイデアがあっても予算的な都合がつかないこともありますので……できるだけ早くキチンとした形にしたいです。

―そのためにやっていくべき事とは何でしょうか?

地方公演なども積極的に行なっていく、そのソフトを作る、ワークショップなども行なって生徒や繋がりを育てていく……考えていくべきことは色々ありますが、何よりも舞台公演としていい作品、コンテンツというものを作らなければ観に来て頂けないと思いますし、リピーターもつかないと思いますので、まずはそこを重視してやっていかなくてはいけないですね。

―差し支えなければお聞きしたいのですが、第一回公演当時の予算や収益はどれくらいだったのでしょうか……?

収益としては、全6回公演をして延べ動員数が1200人くらいの、入場料が3800円くらいでして……その中の10〜20パーセントくらいだったと思います。以前、ある方に「結婚式みたいだね」って言われたことがありました。式(公演)を行なうことによってご祝儀(入場料)が入って、出席者(観客)が少なければ赤字になってしまうと……上手いこと言うなぁって(笑)。結婚式になっちゃいけないな、と思いました。

―今公演が十回目になるのですが、立ち上げられてから四年間で十回の公演というのは、予定通りだったのでしょうか?

当初の自分の中では、もっとできるんじゃないかと思っていたんですけど……一つの作品を作ることにはエネルギーもかかりますし、常に右肩上がりの状態で突き進むだけじゃなくてもいいのかな? と段々思うようになったんです。四年で十回の公演が多いか少ないかというのは、私ではなく皆さんに決めて頂けたらと……。

―公演のたびに新しい面子が集まるというのは、通常の劇団と異なる部分だと思うのですが、それだけに苦労されることはありますか?

たくさんありますね。劇団であればずっと一緒のメンバーでやっていきますし、例えば仕込みやバラシなども皆でやれると思うんですけど、プロデュース公演の場合はやっぱりそういうことを「お願いします」とは言えないですし……人手の足りなさというのは本当に大きいですね。

―劇団ならば、良いか悪いかはさておき、チケットノルマを課すという方法もあります。

そうですね。でも、ウチの場合は……善意でやってくれる場合以外では、やっぱり頼めないですね。
てが進行形のプロジェクト
―プロデューサー業をされてこられた中で、見出したやり甲斐などはありますか?

これはよく他のインタビューなどでも聞かれるんですけど、私の中で達成感というものを感じたことって、実はまだないんです(笑)。自分がお芝居に出ていた頃は、達成感というものも確かにあったんですけど、プロデューサーになってからは一つの公演が終わるとすぐに「じゃあ次はどうするんだ?」となりますので……「ああ、終わった!」という開放感、余韻がないんですね。

―気持ちを公演ごとには区切っていない、ということでしょうか?

そうですね。プロデューサーとしてずっと進行形なんだと思います。一つの公演が終わって、そこで喜んだり泣いたりしてしまったら、私はそこで終わってしまうんじゃないか? と思うんです。

―公演のためにキャストを公募する際は、オーディションを行なわれると思うのですが、伊藤さんが直接見られるのですか?

はい。オーディションは基本的には一対一ではなく、五人ほどの方を一度に見るようにしています。

―それは何か理由が?

私も以前はオーディションを受ける側の人間でしたので思うんですが、やっぱり皆さん「受かりたい!」と必死なんですね。実際私もそうでしたし、その気持ちはとても分かるんです。一対一でやると情が湧いてしまったりする部分もありますし……。

―だからこそ、複数の方を一度に見るようにしていると……。

何人かを相手に対比するという形でやると、その中で空気の違う人というのが分かりやすいんです。これは演技が上手いとか、経験があるとか、格好良い悪いという理屈じゃなくて、何か「華」、「色気」を持った人というのがいて、不思議と分かるんですね。それは何だって言うと、もうこれは自分の勘だとしか言えないんですけど……でも、あとから演出家さんや立ち会ったスタッフたちと話をしてみると、やっぱり挙がる名前が同じだったりするんです。

―素材的に醸し出す何かなのでしょうか……。

そうですね。だから、「私は当時、この五人の中の誰だったのかな?」と、ふと考えたり(笑)。

―またいつか、女優をされたいという思いは?

そうですね……例えば演技なんかを見ていて、「自分だったらこうするかな?」と考えたりすることは今でもありますね。いつかまた、何十年後かにでもやれたら……という、自分の中の夢の一つとしてあります。

―女優としての伊藤さんもまた、未だ進行形であると。

あくまで夢として、ですけど(笑)。でも、やっぱりそういう思いがあるからこそ、「私だったら」という目線でオーディションやお芝居を見ることがあるんでしょうね。
藤綾美プロデュースたる所以
―伊藤さんはプロデュースを手掛ける上で、「愛、夢、挑戦」というテーマにこだわられていますね。

それは私がこれまで女優とプロデューサーの仕事をやってきて感じたものですね。それまでは頭でっかちに「演技とは?」「プロデュースとは?」ということを小難しく考えていたんですけど、大事なことってもっとシンプルなものなんじゃないか? と。誰が観ても分かる、最後に何かしらハッピーな気持ちになれる作品……そういうものを考えていった時に、結局「愛」であったり、「夢」や「挑戦」であったりという、そういう「BE HAPPY」なものに行き着いたんです。

―それが伊藤綾美プロデュースたる、一つの根幹であると……。

はい。ただ、これまで続けてきた一ノ瀬泰造さんの舞台では、勿論「生と死」という別のテーマもありましたし、今公演の『ジュリエット』にしても重いテーマがあるんですけど……でも、最後にはハッピーな気持ちになれる作品にしようという思いは、これまでプロデュースさせて頂いてきた作品の中にある共通した思いですね。

→【伊藤綾美インタビュー(2)
(文中、一部敬称略)
2004/12/4 文責・インタビュアー:毛戸康弘  撮影・編集:鏡田伸幸

BACK STAGE REPORT〜【Zero Project】【伊藤綾美インタビュー(1)】〜
伊藤綾美インタビュー(2)

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