BACK STAGE REPORT演劇のチカラ〜その可能性をめぐって〜東京国際芸術祭2006、開幕!
【市村作知雄インタビュー1】
 東京国際芸術祭(TIF)ディレクターの市村作知雄さん。市村さんは他にも芸術振興協会(APA)代表、トヨタアートマネジメント講座ディレクター、NPO法人芸術家とこどもたち副理事長、東京芸大音楽学部音楽環境創造科助教授など、様々な肩書きを持つ。それだけ多くの角度から芸術を、特に舞台芸術を見つめてきた人でもある。そんな市村さんに、この芸術祭に注ぐ思いを語ってもらった。
市村作知雄
東京国際芸術祭ディレクター

1949年大阪生まれ 早稲田大学文学部卒

1983年から1997年まで山海塾制作を務める

パークタワー・アートプログラム・ダンスシリーズアドバイザーとして内外のダンス公演に携わり2000年 NPO法人アートネットワークジャパン(ANJ)設立
その後もシアター・テレビジョン社長などを経て現在はANJ理事長、NPO法人芸術家と子どもたち副理事長、東京芸大音楽学部音楽環境創造科助教授
常識を揺さぶる演劇の力
―“演劇の力”を世に問い続ける東京国際芸術祭。改めてこの芸術祭の趣旨、込めた思いを聞かせて下さい

 舞台芸術が社会に対して持つ力はもっとあっていいはずだ――この芸術祭を通して、それはずっと言い続けているんです。どうも日本では芸術が“癒し”とか“楽しみ”とか、刺身のツマみたいな扱いになっているんだけど、「芸術はもっと社会的なものじゃない?」って。だから東京国際芸術祭は、疲れたサラリーマンがカラオケを歌うように演劇を観る、そういうものではないかもしれません。「仕事で疲れているのに難しい芝居なんて観たくない」と言う人はたくさんいるでしょう。でもそれは日本特有の現象なんですね。それって世界に行ったら誰も分からない。仕事で疲れた上に人間らしいことまで放棄してしまったら、何の為に働いているんだってことですよね。そういうところで、演劇やダンスに対する関わり方が日本はちょっと違っている気がして、それを変えたいと思っているんですよ。働いて疲れている人を単に癒すのではなく、「もっと色々考えようよ」というところへ行きたい。それがこの芸術祭でずっとやっていることなんです。

 我々が普段常識と考えていることは意外と常識じゃない。何となく習慣で「そういうものだ」と思い込んでいること、それは「実はそう思い込まされてるだけじゃないの?」って言う力が演劇にはあるんです。“そう思い込ませたい”人がいるってことを表に出す力ですね。そういう演劇を僕たちはやりたい。

 例えば日本は豊かだと言っているけれど、本当なのかは誰も知らないですよね。僕から見たら全然豊かじゃないはずだし。

 僕たちは芝居を非常に安い値段でやってます。例えば海外から呼んだものを4,000円とかでね。だからやればやるほど赤字なんですけど(笑)。それはともかく、公共ホールだって海外物をやる時はもっと高いんだけど、でも、じゃあ4,000円が本当に安いのかとなると、日本のサラリーマンで4,000円を小遣いからスパスパっと払える人はそんなにいないわけでしょう。これがドイツとかに行くと、サラリーマンが劇場に山のように来てるわけ。ひと月に何度も観に来ますっていう人たちが。給料だけ比べると日本の方が高いんだけど、でも生活は向こうの方が豊か――そういう現象が起きているんですね。そんなこと一つ見ても、常識というのは結構常識じゃないんですよ。……「日本は豊かだ」って思い込ませたい人がいるんだよね(笑)。

 マスメディアはそういう嘘に加担する。ホリエモンの件を見たってメディアが全部加担してますよね。それに対して、演劇が同じように加担してはいけない。演劇は結構権力から自由に、ものごとの裏というか、「逆の見方があるよ」っていうことを言えるんです。中東の芝居なんかみんなそうですよ。――中東と言えば、このあいだのパレスチナの選挙。ハマスが勝ったことを「想定外だ」って言うけど、そんなのパレスチナの人間と付き合ってれば想定外でも何でもないですよ。「当たり前じゃないか」って話しなわけ。やっぱりそこにも嘘というか、何か作為的なものがある。既存のメディアがそういうものに加担していくなかでも、演劇は直接ものを伝えることができます。今回芸術祭に出る中東の芝居にしてもイスラエルのダンスにしてもそうだけど、現実に生(なま)の人間がここに来てやるわけだからね。だから「嘘じゃないよ」って言える。そこにメディアの編集者は入っていない。そういうことがね、演劇やダンスではダイレクトにできるんですよ
芸術がしてはいけないこと
―中東シリーズのような継続プログラムの他に、今回は新たにアメリカの現代戯曲を紹介するプログラムが組まれていますね

 アメリカをやろうと思ったのは、一つにはアメリカの人たちがいま、何を考えてるのかがすごく分からなくなってるからなんです。伝わってくるのは「ブッシュに賛成してなんとか〜」とかで、「アメリカのアーティストはどうなの? 何考えてるの?」っていう、それが分からないですよね。だから実際に現代のアメリカの戯曲をやれば我々が知らないことが出てくるんじゃないかって思った。

 それともう一つ。例えば日本と韓国との間では何年かに一度は問題が起きていて、交流がストップしてしまうようなことがありますよね。教科書問題であるとか、何か問題が起きたら演劇の交流もそこでスパーンと中止になっちゃう。そういうことが実際に起こるわけですよ。でも、僕から見るとそれは絶対にやっちゃいけないこと。政治的な権力がぶつかってる時に芸術までぶつかっちゃったらもう戦争じゃない、っていうね。政治権力がどうぶつかろうが、ここは交流してなきゃいけないわけ。もちろんそれは非常に難しいんだけれども、イスラエルの人がどう言おうとパレスチナの人がどう言おうと、僕なんかの主張は「権力がどうぶつかろうと、アーティスト同士は交流しようよ」というものなんですね。

 それでアメリカなんですけど、確かにアート関係の世界でブッシュは非常に評判が悪い。だからアメリカのアーティストは世界で孤立してるし、ほとんど(外国に)呼ばれない。でもそれはおかしいよ、と。ブッシュが非道いからといって、アーティストと交流をやめる必要は全く無いでしょう? 世界のフェスティバルとかを見ても、ここまで呼ばれないというのはおかしいですよ。ブッシュがやっているアメリカの強硬路線をほとんどのアーティストは非難しているんだけれど、だからアメリカのものを呼ばないという論理は逆に言うとブッシュの論理と同じじゃないですか。これってアートをやる上で一番の根幹にかかっていることです。権力と同調して同じようにやっちゃいけないっていう。そういうことも今回はありますね

 もちろんその他にも今回の芸術祭には色々あって、例えば専門的に演劇の作り方を考えるっていう部分もある。でも、こんなフェスティバルを“ツッパッて”やっている一番の理由は――日本のアートを自然にやっちゃうと、かなりエンターテインメントなもの作って、芝居にしてもテレビタレント入れて、非常に分かりやすく作ってしまうことになる。もちろんその方がお客さんは入るわけで、お金の面から考えればそっちの方がいいかもしれないんだけど、「それはテレビだけでいいじゃない」と。演劇界の悪いところはタレントの出ない芝居にはお客さんが入らなくしちゃったっていうこと。それは僕なんかも含めて、演劇界の責任だよね。お客さんはタレントを見に行くんであって芝居を観に行くわけじゃない。でも、そういう現状をそのまま認めてやってもしょうがないんで、お客さんは少なくてもいいから、そこから広げていこうって思ってるんですよ。そんなことをやるところって非常に少ないので、まあ、一つ二つあってもいいんじゃないってことでね
変わると信じること
――根本にあるもの
―それにしても、これだけの規模を維持しながら日本の常識・演劇の在り様に石を投げ続けているのには正直、感服します

 その石が自分に当たらなければいいんだけどねぇ(笑)。

 でも、本当に日本はアートに対する意識が外国とは全然違うんですよね。色々驚いたことがあるんだけど、例えば日本の公共ホールはパレスチナとか中東のものとか、そういう政治的なものは「税金で運営しているのでできません」って言うわけです。公共ホールだから政治的なものはやらない――それって日本では常識のように思うじゃない。でもこれ、全然常識じゃないのね。例えばフランスに行ったら逆ですよ。「公共ホールだからそういうものをやるんで、(商売でやってる)プライベートな劇場ならそれはできないですよ」ってなる。そういうように、日本で常識と思っていることが世界でも常識なわけではないんです。

 日本の若い人は――大人もそうだけど――「世の中なんて変わらない」って常識のように話してますよね。何やっても同じだ、自民党がやろうがどこがやろうが変わらないって。これも海の向こうでは全然通じないですよね。だって彼らは「変わる」と思ってるんだから。そこが一番、根本的に違う。何も変わらないと思ってるから「何やっても同じなら、じゃあ楽しく」っていうのが日本。でも向こうは変わると思ってて、そして演劇には変える作用があるって信じているわけです。もちろん東洋的な歴史観っていうのもあるだろうし、西洋的な発想がすべて良いと言うつもりは無いけど、ただ、世界の常識だと思っちゃってることはおかしいよ、と。これは日本だけのことなんだって前提で話してるんならいいんですけどね
市村作知雄インタビュー(2)
2006/2/2  インタビュアー・文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 

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【市村作知雄インタビュー1】

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