BACK STAGE REPORT演劇のチカラ〜その可能性をめぐって〜東京国際芸術祭2006、開幕!
【中野成樹インタビュー】
 独自の“誤意訳”というスタンスで取り組む翻訳劇が注目を集める【中野成樹(POOL‐5)+フランケンズ】。いわゆる古典を好んで取り上げてきた彼らだが、今回挑むのはアメリカの現代戯曲だ。しかもリーディング。この挑戦で、彼らが大切にしたものとは?
 演出を受け持つリーダーの中野成樹さんに、自身が翻訳劇に惹かれる理由と絡めて語ってもらった。
中野成樹
1973年東京生まれ。POOL-5所属。

’98年、自身がリーダーとなる演劇ユニット、フランケンシュタイナーをまったく別口に立ち上げる。2003年、中野成樹(POOL-5)+フランケンズに改名。“フランケン”では一途に翻訳劇をとりあげ、誤意訳なる独自のスタイルで注目をあつめる。
つかんだ手応えは
――「原作、スゲェ!」
―中野さんは【中野成樹(POOL‐5)+フランケンズ】で古典の翻訳劇に取り組んできていますが、今回は現代戯曲のリーディング。やはり勝手が違うこともあります?

 大きな違いは……今回は作家さんが生きてる(笑)。だから好き勝手はできないですね。翻訳家の方もちゃんといらっしゃるし、そこはちゃんと気を使ってます。作家さんの意思を尊重して、カットする案も無しにしたし

―ちなみにこれまでリーディングを演出した経験は?

 昔一度だけやりました。その時は「芝居にはしない」ということで、リーディングの作品をラップと漫才にしたんですけど(笑)。でも、リーディングはある一線を越えるとリーディングではなくなるという規制がある分、楽しさもありますね。逆にそれが無いと何に頼っていいのか分からなくなっちゃうとも言えますけど

―今回、改めてリーディングに取り組む上で考えたことは?

 …もうこれ、ボツになったから言っちゃいますけど、本当は今回、お客さん全員に戯曲を配って、お客さんも活字を追いながら読むっていうのをやろうって言ってたんですよ。でもそれって、すごい労力が必要になるんですね。直前まで直しを入れたものを一気に印刷にかける、とか。で、昨日本格的に試してみたら……労力のわりにつまらないということが分かった(笑)。だからその案はボツ。……ということで、わりといま、自分の中で大きな柱を失っているっていう(笑)。

 でも逆に、そうした仕掛けを使わなくても戯曲の言葉やお話をキッチリ提示できればそれだけで面白い作品だという手応えは感じているんですよ。「原作、スゲェ!」っていうね
村上聡一 野島真理
「普通に面白い」という
確かな手掛かり
―そもそも、今回の企画に参加するまでアメリカの現代の作家・戯曲に対しての関心は?

 僕、現代物じゃないアメリカの作品や劇作家は相当好きなんですよ。ワイルダーとかサローヤンは自分でも取り上げたし、ウィリアムズも昔一回やった。オニールもやっぱり好きです。でも、現代のものには正直関心は無かったんですね。そういうものは向こうに本家がいるんだから、日本でやることはないだろうって思って。でも今回、こういう機会を頂いて読んでみて、やっぱり面白いなって思いましたね

―どんなところを面白いと?


 まず一つ。これはすごくひねくれたものの言い方なんですけど、やっぱり現代物であろうと翻訳劇は翻訳劇であるっていうところなんですよ。日本の劇作家が書くものとは言葉遣いであるとか、文体、肌触りがまるっきり違う。それが翻訳劇であるということの面白さです。

 あとはやっぱり戯曲自体の面白さ。今回の『THE SEX HABITS OF AMERICAN WOMEN』という戯曲は生意気な言い方をすると、すごくキッチリ書かれている。バラバラになっているパズルのピースをカードに書き出して、それを並べてみんなで分析したんですけど、そうすると全部のピースがピタ、ピタって全部合うんです。それは当たり前のことかもしれないけど、これだけキレイにパズルのピースを散りばめて、でも最終的には一枚のキッチリした絵になるっていう本には久々に出会った気がしましたね


―その「カードを並べて」というのは出演者みなさんで?

 出演者みんなで。フランケンズとか、ゲストで呼んでる仲間内でいつもやるんですよ。何でもいいからとにかくどんな出来事があるかをカードに全部書いていって、それを並べて関係性を考えて。そうすると、なんとなく眼で分かるんですよね。まず単純に、各章とか各シーンの長さが分かる。このシーンは大体こういうバランスなんだっていうのも分かるし、カードの前後関係とか見ていくと「ここにパズルのピースが一個あるんだ」っていうことも分かる。…ま、意外と不確かなものなんですけどね(笑)。でもやった気にはなれるし、それが大事かなっていう。

―そういう形で今回も共通の認識を作り上げた

 そうですね。特に今回は「普段の僕たちの感覚でこの戯曲と向かい合ったらどうなるのか」を試したかったというのもありましたから。

 今回の話は女性の主人公が二人いるんです。一人が65歳で、一人が50代。同じくらいの年齢の女優さんを紹介してもらうというやり方もあったけど、今回はそうじゃなくて、普段一緒にいる仲間の感覚を頼りにやってみたかった


―その“感覚”が一つ、今作に取り組むに当たっての中野さんの手掛かりだったわけですね


 そうです。で、実際に確実な手掛かり、拠り所だと思えたものがやっぱりあった。初めにみんなで戯曲を読んだんですけど「みんなの感想を聞かせてよ」って言ったら、全員が共通のある言葉を口にしたんですよ。それは、「普通に面白かったですよ」っていう言葉(笑)。でも、それってすごい感覚だなって。「普通に面白かった」――その感覚は正しいと思いましたね。それなんだろうな、と。その感覚でものを作って、その感覚を観に来て下さったお客さんも味わってくれればいいなって。頭で考えて観るんじゃなく、情報として理解するんじゃなくて、単純に聞いて「面白い話だな」って思える、そこの感覚はしっかりキープしなきゃいけないって思いましたね
言葉のフォルムの面白さ
本当のことがないという自由
―翻訳劇の面白さで言葉の話が出ましたが、そうした翻訳劇の面白さについて少し詳しく教えて下さい

 これ言うといろんな人に怒られそうなんだけれども、“翻訳されたものの語尾”っていうのがあって、僕はその語尾が好きなんですよ。日本の芝居では絶対にない語尾、例えば女性が「構いませんわ」とか「そういったものですわ」とか、「だって私、嫌いなんですもの」とか言う、そういう語尾が好きなんですね。そんな語尾を含めて――以前別のところで“言葉のフォルム”っていう言い方をしたんですけども――そういうフォルムを持った翻訳された文体は、僕にとっては短歌とか俳句とかと同じ、一つの詩の形式なんですね。そんな形式・フォルムを持った言葉が好きだっていうのがまず一つあります。

 それと、日本で翻訳劇をやると“正解”が分かる人が誰もいないんですよ。今回だってそう。アメリカの戯曲をやりますって言っても、それは日本語なわけです。アメリカの作家さんが見て「アメリカ人はそんな仕草はしない」「アメリカの習慣ではそんなことは絶対にない」って言っても、逆にじゃあ、アメリカ人がやるようにやったらそれが本当なのかと言ったら、それ絶対に嘘ですからね。日本語で書かれたものを日本語でやるならきっと正解はあるわけです。でも、外国語で書かれたものを日本語に訳してやる、それを日本語で喋るという時点で、本当のことはどこにも無くなっちゃう。変な話ですけど、そういうところが翻訳劇の魅力なんでしょうね。なんとなくそれっぽいラインはあるんだけれども、最終的な細かい部分っていうのは自分で作っていくしかない、或いは自分で作っちゃっていい、というところが。

 大体、相手のことなんてこっちの勝手な推測でしか分からないんだけれども、それでも相手とちゃんと向き合って、コミュニケーションをとってみる。そして知らない人に相手を紹介してあげる。多分俺の解釈は間違ってるけれども、でもそれはしょうがない。だから俺の解釈で紹介する。ちゃんと愛はある――みたいなことを考えていて。そこが魅力で、“誤意訳”という言葉を使ったりして翻訳劇をやっているんですよ


―「本当のことがない」というズレの中に、ある意味では自由に表現できる余白が生まれるということでしょうか

 まったくその通りです。だから逆に日本語のものをやるのが怖いですね(笑)。正解を知っている人がいるわけじゃないですか。だから、できれば避けたい(笑)

―ちなみに、今回長島確さんがドラマトゥルクという役割を担っていますけど、やはりお互いにコミュニケーションをとりながら?

 ええ、もう何度か。僕、ドラマトゥルクという役割を全然分かってなかったんですけど、でもいろんな人から「いっぺんドラマトゥルクと芝居作ると便利で手放せないよ」っていう話は聞いていたんです。それで実際に長島さんとミーティングをすると、これが非常に心強いんですね。「そこはこういう可能性があるんじゃないですか?」とか「そこは翻訳家に聞いてから結論を出しましょう」とか、本当に間に入って下さってる。すごいですよ。演出家がどんなことをやりたいのか、ちゃんと見抜いているんじゃないかと思いますね。それで「じゃあこうしましょう」と言ってくれる。本当にそういう専門家っているんだなって思いましたね

―最後にドラマリーディングの楽しみ方について。「普通に面白い」という言葉が大きなヒントになっていると思いますが、改めて一言お願いします

 うん、普通に面白いと思いますよ。リーディングだからといって特別なものにはしたくない。“リーディングである”ということは作る側が感じていればいいことで、観てくれるお客さんには「リーディングだからどうこう」というのはすっ飛ばして、普通にふらっと来て楽しんでもらえればって。「普通に面白い」っていうのができれば本当にいいなって思っていますからね
 
 気の利いたコメントよりも、仲間の「普通に面白い」という感覚を頼もしく思ったという中野さん。確かな土台を踏みしめて挑む翻訳劇、その魅力をどう伝えてくれるのか――“語尾フェチ”中野さんの手腕が楽しみだ。

 なお、演出プランに関して「大きな柱を失った」と笑った中野さんだが、もちろんこれは冗談。あとで教えてもらった演出プランは意表をつく魅力的なもの。それも是非、劇場で確かめて頂きたい。
2006/2/2  インタビュアー・文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 

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