BACK STAGE REPORT演劇のチカラ〜その可能性をめぐって〜東京国際芸術祭2006、開幕!
【宮崎真子インタビュー】
 東京国際芸術祭2006のオープニングを飾る《アメリカ現代戯曲&劇作家シリーズVol.1ドラマリーディング》。4作品中、トップを切って登場する『MAYHEM(メイヘム)』の演出を受け持つ宮崎真子さんに、リーディングの面白さ、今作品について思うことなどを聞いた。
宮崎真子
演出家。俳優座所属。

1991〜93年文化庁芸術家在外研修員として渡英。R・ルパージュ、A・エイクボーンに師事。古典から現代劇、オペラまで幅広く、造形美に満ちた斬新な演出を展開。演出作品に『ヒトノカケラ』(新国立劇場)、『アンティゴネ』(シアタートラム)他多数。最新作は俳優座劇場プロデュース『サマーハウスの夢』。
演出家・翻訳家・ドラマトゥルク
三人がかりで挑む手強いアメリカ戯曲
―今回、ドラマトゥルクという役割で長島確さんが作品づくりに参加してらっしゃいますね

 ええ。ですから稽古が始まる前にすでに何度も長島さんとはお話ししてます。…楽しいですね、やっぱり。1人で考えるよりもいろいろと、話をする中で生まれてくるものがあるので。話し合いをすること自体がとてもクリエイティブです。

 ドラマターク(ドラマトゥルク)という存在はこれから日本でももっともっと重要になってくると思います。ただ、ドラマタークがいる公演が私自身は初めてなんですね。初めてな上に、アメリカの今の戯曲を紹介するという難しい公演でもあるので、是非ともいいコンビを組んでやりたい――ですから長島さんとは「いま我々は何をすべきか」みたいなことから話し合いました。今はもうひたすら戯曲の背景の勉強を缶詰状態でやってます(笑)。2000年に書かれた作品ですけど、その頃のアメリカの状況・時事問題を作中にたくさん取り込んでいるので、長島さんにも翻訳の川島健さんにもいろいろと教えてもらってます。

 この作品はものすごく面白いけど、手強いんですよ。本当に手強い。だからみんなで情報交換しながらやってる感じですね


―その「手強い」というのは具体的には?

 
まず4人の登場人物それぞれのキャラクターが……日本の、私の周りにはいない感じなんですよ。アメリカの人に聞いたら「よくいるよ、こういう人」って言われたんですけど(笑)。

 1人はアメリカの銃社会で事件に巻き込まれてトラウマを持っている。1人は麻薬中毒・アルコール中毒から抜け出すことができない元パンクバンドの前座をやってたベーシスト。もうひとりはイギリスの富裕階級の娘で、自分は働いて稼ぐ必要もなくて、社会運動や社会的弱者の救済活動をやっている。もう1人はジャーナリストでこれからアフガニスタンに行く――。

 たった4人なのにどの1人をとってもキャラクターを想像することが難しいんです。しかも舞台はロサンゼルス。当然ロスの暴動とか地震とかも背景にはあるわけです。そうした、ロサンゼルスという場所が持つ特殊性・地域性もある上でその4人が登場しますからね。読み解くのがすごく面白くて大変で、その分やりがいもある感じです。

 実は今日、これから出演者たちの意見を聞くんですけど、どうなるかが楽しみ(笑)。私自身が公演初日に「ああ、こういう戯曲なんだ」ってことに出会えるような気がしてますね。「これが2000年時点でのアメリカなんだ」っていうものに私たちなりに触れる体験になればいいなって思っています


*ドラマトゥルクとは
演劇創作において台本、演出家、俳優との橋渡しの役割を果たし、演劇と社会を有機的かつ創造的につなぐ知的職業。発祥となったドイツでは、演劇の現場に不可欠な存在。
塩田朋子 阿部一徳
ごまかしのない“言葉の良さ”を
楽しめるのはリーディングならでは
―宮崎さんはこれまでリーディングの演出を何度も経験されていますが、リーディングの面白さは?

 やっぱり言葉の良さが分かるということ。“言葉を聞く”ということがどれほど豊かなのか、その豊かさに触れられますね。

 演技が入ると物言いや芝居のエネルギーで何とかなっちゃうことがあるんですけど、リーディングだと全くごまかしがきかないんですよ。ですから一緒にやった俳優たちも「リーディングがこんなに疲れるとは思わなかった」ってよく言ってます。「朝から体調が気になって仕方がない」とか。声に体調が全部出ちゃうんですね。その“ごまかしがきかない”という部分で、逆に俳優にとっては自分の言葉の表現を試すいいチャンスだってよく言われますけど、そうした面白さもリーディングならではですね。

 その「言葉の表現」ということでは今回、キャストが文学座から2人、俳優座とク・ナウカから1人ずつと、ちょっと面白い顔合わせになっているので、私も少しドキドキしてます(笑)。ク・ナウカはご存知のように独特の表現をとっているところだし、文学座と俳優座の言葉へのアプローチの違いも楽しみ。リーディングで文学座と俳優座の人と一緒にやるのは初めてなんですね。座内だけでやっているとその差が見えてこない。信濃町(文学座のこと。ちなみに俳優座は“六本木”とか)は、いわゆる朗誦術みたいなものを持っているんですよ。言葉をどう伝えるかという技術の部分で彼らのスタイルを持っている。俳優座ではそこは俳優が自分で作っていくという考え方です。そうしたところでの違いもいろいろ見えてくるだろうと思っています。そこにク・ナウカが入って、もう三つ巴みたいな(笑)。それぞれの言葉の扱い方がまた、楽しみですね
来たるべき“暴力のカオス”の時代を
見据えた、予言的な戯曲
―この『MAYHEM(メイヘム)』という戯曲の面白さをどのように感じていますか?

 “MAYHEM”という言葉はちょっと難しいんですけど、これについては作家のコメントを頂いています。それによると、秩序が全部崩壊していってある種のカオスが現れて、新たな暴力がいま生まれようとしている、その状態をイメージしているということなんですね。

 アメリカ国内の暴力、家庭内の暴力であったりダウンタウンで起きているような暴力と、国際的な紛争がどういう風に鎖になってしまって解くことができなくなっているか、それを登場人物たちの身近な経験をもとに実によく私たちに示してくれる。よく書けている戯曲だと思いますね

 今言ったように“MAYHEM”というのは“暴力のカオス”というのが作家のイメージに近い。それはつまり、2000年の時点で新たな暴力が生まれてくるような、ある混沌とした状況を彼女は感じていたわけで、それから9.11につながっていくということではある意味、予言的ですね。そういうことが社会的に感じられていた時期なんでしょうけど、それがすごくはっきり出ている戯曲だと思うんですよ。だから、この戯曲をTIFが見つけたのはすごいことだと本当に思います


―宮崎さんが東京国際芸術祭2006のトップを切ることになりますが

 オープニングなんでね、体育館(特設劇場)にバトンを吊ってもらったりして、それがすごい楽しい(笑)。「照明吊るところないんですか?」って言ったら舞台監督さんが「宮崎さんが言うからつけました!」って(笑)。吊られたバトンを見ながら「おお、劇場の始まりだ!」って思ったり。やっぱり演劇人にとってはオープニングに立ち会うというのはすごくスペシャルな経験ですよね。劇場じゃなかった場所が劇場に変わっていくプロセスにも立ち会えるし、それが本当に嬉しいですね

―最後に、ドラマリーディングをこんな風に楽しんでもらいたい、というのを一言お願いします

 もう、コンサートに来るみたいに言葉の世界にひたってもらいたいですね。そして自分の想像力で遊ぶ楽しさっていうのを体験して欲しい。リーディング公演を初めて観た方がよく「こんなに楽しいとは思わなかった」って言ってますけど、そんなリーディングの楽しさを是非、体験しに来て頂きたいですね
大原康裕 ドラマトゥルク:長島確 翻訳:川島健 坪井木の実
 mayhem――意図的に誰かを傷つけること、中傷。その先へ、暴力のカオスへと突き進む現在のアメリカ。そんな“場”に生きる「よくいる」4人のアメリカ人の声は、日本に住む我々の耳にどんな響きとなって伝わるのだろうか。

 目の前にかかげられたハードルの高さを憂うよりも、そこを越えた瞬間に見えるであろう景色に思いを馳せて、終始楽しげに話しをしてくれた宮崎さん。その、ものを作る楽しさを基底に、演出家・翻訳家・ドラマトゥルク、そして4人の俳優たちがタッグを組んで作り上げる言葉の世界に、大いに期待したい。
2006/2/2  インタビュアー・文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 

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