元劇団四季のメンバーを中心に2000年に旗揚げし、既存の大規模一般向けミュージカルとは異なった、日本発の新しく刺激的なミュージカルを小劇場で上演し続けている【劇団天才ホテル】。一年ぶりの新作『BAROCCO〜残された者〜』では、東電OL殺人事件に想を得たストーリーにコンテンポラリー・ダンス、打ち込みによるクラシックとノイズ音楽の融合など、既存のミュージカルのイメージを破壊し、変えてしまうような様々な試みが大胆になされている。

今回のBACK STAGE REPORTでは、BACK STAGE読者にはあまり馴染みがないかもしれないミュージカルの作り方・芝居との違い・そして新作について、主宰の神谷憲司氏、作・演出の藤澤智恵子氏、音楽監督補の彩花氏の三名にお話を伺った。


BACK STAGE REPORT〜劇団 天才ホテル『BAROCCO〜残されたもの〜』〜 【古REPORT】〜
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同棟内にある音楽室。音楽補佐 / 福井小百合さんの弾くピアノに合わせて、歌声が室内に満ちる。
 「これがさっきお話した第一幕最後の五重唱です」
 先ほどインタビューした藤澤智恵子さんがすばやく駆け寄ってきて教えてくれた。出来たばかりの歌の練習(音とり)から、本日の稽古は始まったようだ。ちなみに「藤澤智恵子」は作家としての名前で、ここでは演出家 / 佐藤智恵さんだ。

真新しい楽譜を手に、音合わせに励むメンバーたち。とにかく元気よく!

進行を確かめる演出の佐藤智恵(藤澤智恵子)さん。右側は照明の飯塚登さん
「はい、下の(パートの)人、入ってください。どーぞ!」
「〜ここで半音です、はい!」
 福井さんのハキハキとした声が響く。さすがは歌唱講師の顔も持つ福井さん、いかにも先生然としていて頼もしい。歌の指導は完全に福井さんの受け持ちのようだ。こうした分業ができるのも、分野ごとのエキスパートが揃うこの劇団の強みだろう。

音楽補佐の福井小百合さん。明るい笑顔でキツい駄目だし

最後に全員で。短時間で形にしてしまうのはさすが!
   
 パートごとのレッスンが一段落し、全体で合わせる。さすがにまだまだ未完成だが、曲の美しさと、その曲に乗るドキッとするような歌詞はとても印象に残った。

 この重唱の練習が終わったところから、佐藤さんが稽古を引き取る。
「1幕M1からです」
 芝居の冒頭からシーンごとに通しては返す稽古が始まった。なお「M1」というのは楽曲ナンバーのこと。楽曲ナンバーとシーンがほとんどイコールのように扱われていて面白い。これもミュージカル劇団のゆえだろう。

オペラが本職の中西勝之さん。堂々とした歌いっぷり
 今回【劇団天才ホテル】が公演を打つ六本木・アトリエフォンテーヌは、舞台に2階がある。その2階に見立てて、稽古場中央・奥に置かれた台。その上に中西勝之さんが屹然と立ち、オペラ歌手らしく朗々とオープニングのナンバーを歌い上げる……そんなシーンで芝居は始まった。中西さんの前(=1階)にコロス。そのコロスが歌に参加した途端、
「弱い!」
 雷のような佐藤さんの声が響き渡った。思わず腰が浮くほどの大声だったが、演者たちは慣れたものなのか、リズムを乱すことなくシーンを続けていく。

腹筋のトレーニング?

いえいえ、みんなちゃんと歌ってます
   
 この間、佐藤さんは隣に座る照明の飯塚登さんと何ごとかを確認し合ったかと思えば、舞台上の気付いた点を高速でメモし、そして時に大声を張り上げてハッパをかけたりと、とにかく忙しい。更には見ているこちらにもシーンの説明を簡潔にしてくれる、という気の回りようには頭が下がった。

 やがてこのシーンが終わり、佐藤さんが芝居を止める。
 まずは歌の駄目出し。これは完全に福井さんにお任せだ。福井さんが各人の、あるいは全体の悪かったところを歯に衣着せず指摘していく。
 歌の駄目出しのあとは佐藤さんが芝居の駄目出し。まずは登場する全員に一人ずつ声をかけては個別に気になるところを指摘。次いで、全体の雰囲気や流れを、笑いを交えながら総評する。
 ちなみにこの「歌―個人―全体」という駄目出しの流れは稽古の最後まで変わらなかった。これがこの劇団のスタイルなのだろう。

ポーズの確認中。形の美しさをチェックするのは島田ダンスキャプテン……足が攣りそう?

主人公のOLを演じる歌唱担当 石田祐華利さん。オペラ仕込みの歌を披露

佐藤さんの歯切れ良い駄目出しは稽古場を明るくする

思いつめたような目が印象的な演助の小林篤さん

稽古を見ながら、自動筆記の勢いでメモをつけていく

熱唱する小野剛昭さん。力入ってます!
    
 稽古は続き、M2、M3と、芝居は激しさを増していく。
 ミュージカルであるだけに、多くのセリフは歌に乗って繰り出される。そこが普通の芝居と異質と言えば言えるのだが、その中で大事にしているもの、それは一般の芝居と何ら変わらなかった。役を血肉に取り込み、「セリフ」を「言葉」に変えていく。その「言葉」が、ミュージカルでは音楽を媒介に交わされるだけなのだ……そんなことを、佐藤さんの駄目出しを通して改めて認識する。
「このとき何を思っています?」
「気持ちが見えない」
「セリフが音になってきてます!」
 曲にノッて芝居をするのではなく、芝居を音律に乗せていく。ただ、一定のリズムを伴う音楽が背後にある分、繰り返しからくる「慣れ」は普通の芝居よりも出やすくなるだろう。だから、これは想像以上に骨の折れる作業だ。佐藤さんも絶えずその「慣れ」に目を光らせる。
「予定調和になってきてますっ!」
 また佐藤さんの大声が飛んだ。

佐藤さんの指示はとても具体的

桝谷裕さんは文学座出身。大きな目がギロリと睨む

首を絞められているのは、ダブルキャストで主人公の母親を演じる染河佳奈さん

稽古を見つめる音楽監督補の彩花さん。
   
演出 / 佐藤さんの開けっぴろげな笑い声が作る緩急。各分野で実績を残してきた演者たちの自信。それらに引っ張られて稽古はテンポ良く進む。僅かとはいえ稽古が止まったのは、石田祐華利さん演じる主人公が刑事に突き飛ばされるシーンくらいだった。
 この場面、どうしても石田さんが上手く「突き飛ばされ具合」を掴めない様子。刑事役の小野剛昭さんも遠慮があるのか、思い切って突き飛ばせない。…と、すかさず「俺が!」と進み出る藤原麻由さん。小野さんを石田さんに見立てて、「突き飛ばし」のお手本を披露する。
「おおおぉぉ!」
 見事に小野さんをフッ飛ばした藤原さんに対して、賞賛の声が上がった。……が、佐藤さん、間髪いれずに、
「いきなりやってもらってなんですけど、駄目出ししていいですか(笑)?」
 ……二次災害的な駄目出しを悲しげな顔で受ける藤原さん。そんな一連のやりとりが、稽古場を笑いで満たした。

四季でお馴染みの藤原麻由さん。流れ弾のような駄目出しが直撃!

とにかく楽しげな稽古場。……にしても、近っ!

さとうさんと福井さんの、ポスターのような2ショット。絵になります
 M11まで来たところで休憩が入る。澱みなく流れる稽古風景に思わず時間を忘れていたが、時計を見ればちょうど20時。稽古開始から2時間が過ぎていた。

 美しい旋律とノイズ。狂気と欺瞞。秩序と歪み……様々なものを詰め込んだ、実験的とも言えるミュージカル―『BAROCCO〜残された者〜』。この、【劇団天才ホテル】の大胆な試みは何を壊し、何を生み出すのか。尽きない興味と期待を胸に、歌と笑いが満ちる稽古場をあとにした。
(文中、一部敬称略)
2004/8/16 文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 

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