元劇団四季のメンバーを中心に2000年に旗揚げし、既存の大規模一般向けミュージカルとは異なった、日本発の新しく刺激的なミュージカルを小劇場で上演し続けている【劇団天才ホテル】。一年ぶりの新作『BAROCCO〜残された者〜』では、東電OL殺人事件に想を得たストーリーにコンテンポラリー・ダンス、打ち込みによるクラシックとノイズ音楽の融合など、既存のミュージカルのイメージを破壊し、変えてしまうような様々な試みが大胆になされている。

今回のBACK STAGE REPORTでは、BACK STAGE読者にはあまり馴染みがないかもしれないミュージカルの作り方・芝居との違い・そして新作について、主宰の神谷憲司氏、作・演出の藤澤智恵子氏、音楽監督補の彩花氏の三名にお話を伺った。


BACK STAGE REPORT〜劇団 天才ホテル『BAROCCO〜残されたもの〜』〜 【インタビュー3】〜
ンタビュー1】 【ンタビュー2】【古REPORT
花 氏
夢乃あつし氏のユニット「彩風(あやかじ)」に作詞で参加。
今公演においては音楽監督補として、夢乃氏とともに作曲も担当している。
彩風〜あやかじ〜http://ayakaji.cools.cc/
←【ンタビュー2
照的な2曲のメインテーマ
―音楽について少し詳しく聞かせてください。彩花さんと夢乃さんは今までミュージカル音楽に携わったことは?

彩花:初めてです。夢乃も今回ミュージカルのお話をいただいて「自分の能力じゃできないよ」と言っていたんですけど……夢乃は作曲とオペラを大学で学んでいますから、オペラの作曲、歌なしの伴奏の指揮などもできますし、クラシックをはじめとして、色んなバリエーションの作曲ができるんですね

藤澤:オペラを作れるということはミュージカルではすごく強いですよ。それと、夢乃さんて現代音楽にとても強いんですね。なので、私の求めていたノイズとか、無調のB.G.とか、みごとに作れちゃうんですね。そういう意味では稀なミュージカル作曲者だと思います。「天才だ!」と思いました(笑)

彩花:本人も初めてのことでしたから、すごく楽しかったみたいですよ。曲で言葉を表現していて。曲を聴いていると「自然に歌いたくなる」と言う人もいました(笑)

藤澤:そういう力を持った曲です。いわゆる翻訳ミュージカルのリライトって、英語から日本語に翻訳するじゃないですか。そのときにどうしても、言葉がはまらなかったり、一本調子になってダラッとなってしまうんですが、夢乃さんの曲に関しては、言葉がきちんと音楽に乗ってくれます


―彩花さん自身は作曲を実際にやってみて、どうでした?

彩花:価値観の殻を破れない女性、というのが悲しくって、難しい脚本だったんですよ。「これはちゃんと消化しないと作曲に入れない」と最初に思いました。自分の中から生まれてくるものではなくて、他の方からいただいた大切な物語を元に作曲する。それは私も夢乃も初めてでしたね。…でも、とにかく楽しかったです!

―作曲を通してミュージカルに対するイメージは変わりましたか?

彩花:変わりましたね! 言葉を伝える歌を作っていけば観ている人に伝わるものがある、これはとても大事なことだと思いました。もっと日本のミュージカルが発展するといいなと思います。もう、ミュージカルに入れ込んでしまいましたね

―たとえば映画音楽ですと、メインテーマというのがありますよね。その曲がアレンジを変えて繰り返されるという。ミュージカルでも同様のことは?

藤澤:あります

―そのメインテーマ。今回はどういうイメージなのでしょうか?

藤澤:群衆用のメインテーマが地を這っているような、抜けきれないようなイメージの曲です。もう一曲、役者のメインテーマが童謡のようなすごく穏やかな、ほろっとする感じ。まったく対立項にあるような曲です。これが比較的メインの曲ですね。その上にノイズを被せています

―今回、藤澤さんが一番驚いた曲は?

藤澤:一幕最後にコーラス全員で歌う五重唱の曲があるんですね。その曲はとても大事に作ってもらって……他の曲が全てできてからゆっくり作って下さいとお願いしてたんです。その曲が出来上がってきたんですけど、予想と少し違ったので驚いていますね。……どうしようかと(笑)

彩花:悩ませちゃったんですよ。「時間をください」って言われました(笑)

藤澤:でも、その曲は脚本の意図にはしっくりきていますから


―そこがどうなるかも見所ですね

藤沢:そうですね
性・男性、両方に見てもらいたい
―今作『BAROCCO〜残された者〜』。どんな人たちに観てもらいたいですか? これまで【劇団天才ホテル】はクラブイベントなども行い、若い人達も意識した活動をしてきましたが

藤澤:確かにクラブイベントというとノイズ音楽やテクノ音楽が主で、そういうものを融合していますので、若者向けというイメージが今まではありましたね。ただ、今回からは少し変わるかもしれない

神谷:今回に限って言えば、あえて限定するなら20代後半から40代のバブルを経験した人たちですね


―東電OL事件はバブルの流れの中で起きたという側面がありますからね

藤澤:そうですね。今回のナンバーには『バブルの崩壊』という曲も出てきます。それも聞いていただきたいですね

―女性と男性ではどうでしょう? どちらに観てもらいたいと思いますか?

藤澤:やっぱり、両方ですね。男性の方でも気づくことが多いと思いますし

神谷:(男性として)自分の日常の問題を引っ張り出したり、他の人のことを考えたりすると、今回の話の中にあてはまることがあったり、怖いなと思うことがあります。例えば小学校時代のことを思い出したりして。いつの間にか男性の視点だけで考えるのが当たり前になっているのかもしれない


―ちなみに、お話の出たクラブイベント。これはどういうものなのですか?

藤澤:基本的にはミュージカルのプレビュー、本公演の抜粋のようなものですね。舞台上のものをクラブの中で表現するわけにはいかないので、DJとのコラボレーションなどで、歌やセリフをかけあっていく。ライブに近いものですね
劇場で本格的なミュージカルを体験してほしい
―今後、扱いたい事件、題材などはありますか? あるいはテーマなど

神谷:毎回、何かの事件を扱っている劇団というわけではないんですよ(笑)

藤澤:(笑)……一番扱ってみたいと思っているのは『幸福の王子』を描いたオスカー・ワイルド。あの人の生き様みたいなものをどこか取り入れられないかな、と。歳とった人間が若い人に伝えられることって、知恵とやさしさ、無償の愛なんだなと感じて。特に男同士なので、より無償の愛かなと思って(笑)。その辺を何か、男女にした時にどうなるかということを描けないかなと思っています。やっぱり愛とエロティシズム、生と死。そのへんはずっとテーマになってくると思います。そこに破壊と再構成を絡めて

神谷:それがやっぱり一番、普通に生活していて考えたり、誰もが感じるものだと思います。自分でも「いつ死んでもおかしくないな」とか……実際に周りで死んだ人もいますし、死に関して考えたりしていると「一日を無駄にしたくないな」「本当にやりたいことをやって一日一日生きていきたいな」と強く思いますね。だから、自分が思ったことは形にしたいな、と


―そういうところから、テーマ性の強さも出てくるのでしょうね

藤澤:ちょっとだけ……付け足し。こういう題材をやっていると、どこかの宗教じゃないかと勘違いされるんですよ(笑)。どっちかというと、宗教とかさっきのアイデンティティーといった依存や殻のようなものを壊していきたいという考えなので、まったく逆なんですけどね。ちょっとアングラっぽいことをやっているだけで、宗教とは関係ありません(笑)

―その「アングラっぽい」というのは【天才ホテル】の―つの方向性ではありますよね

藤澤:よく言われますね(笑)。寺山修司さんは、やっぱり大好きです

―それでは最後に、今作『BAROCCO〜残された者〜』の見所や意気込みなど、一言ずつお願いします

神谷:小劇場、小さい劇場の中で、本格的なミュージカルを体験してほしいですね

藤澤:みなさんがいつも持っている日常というものを劇場に来たことによって、確実に壊します。……なんて、できるかな(笑)? 日常をこちら側の劇空間に巻き込みたい、というのが目標です

彩花:言葉も芸術ですが、身体も芸術なんですね。演技する人の身体も声も芸術です。ぜひ、それを観に来てください
「BAROCCO」とは、もともとはポルトガル語で「歪んだ真珠」を意味する。
音楽史では、バロック時代と呼ばれる期間に起きた出来事として、劇音楽の誕生と発展というものがあげられる。バロック音楽を頂点まで高めたと言われるヨハン・セバスチャン・バッハは、過去の伝統を充分に尊重しながらも、当時の最も新しい様式もまた充分に吸収し、オリジナリティのあるドイツ的な音楽を作ったという。

近代以前に築かれた我々日本人の価値基準を揺さぶり、既存の道徳の破壊と再構成を試みる【劇団天才ホテル】。
彼らの作品は、本格的なミュージカルであるにも関わらず、文学的であり、正しく演劇的である。そして、その独特の方法論を用いて小劇場から発信することにより、ミュージカルという枠そのものをも、更新しようとしているのではないだろうか。【劇団天才ホテル】第6回公演『BAROCCO〜残された者〜』は、9月22日より、初日を迎える。
(文中、一部敬称略)
2004/8/16 文責・インタビュアー:浅井貴仁 撮影・編集:鏡田伸幸 

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