元劇団四季のメンバーを中心に2000年に旗揚げし、既存の大規模一般向けミュージカルとは異なった、日本発の新しく刺激的なミュージカルを小劇場で上演し続けている【劇団天才ホテル】。一年ぶりの新作『BAROCCO〜残された者〜』では、東電OL殺人事件に想を得たストーリーにコンテンポラリー・ダンス、打ち込みによるクラシックとノイズ音楽の融合など、既存のミュージカルのイメージを破壊し、変えてしまうような様々な試みが大胆になされている。

今回のBACK STAGE REPORTでは、BACK STAGE読者にはあまり馴染みがないかもしれないミュージカルの作り方・芝居との違い・そして新作について、主宰の神谷憲司氏、作・演出の藤澤智恵子氏、音楽監督補の彩花氏の三名にお話を伺った。


BACK STAGE REPORT〜劇団 天才ホテル『BAROCCO〜残されたもの〜』〜 【ンタビュー1】〜
ンタビュー2】 【ンタビュー3】【古REPORT
谷憲司 氏(劇団天才ホテル 主宰)
1973年生。東京都出身。役者。演出家。音響オペレーター。
天才ホテル以外で手掛けた主な作品:劇団四季『李香蘭』(音響)『オペラ座の怪人』(音響)『美女と野獣』(音響)他。
団四季】を辞め、【劇団天才ホテル】を設立した経緯
―【劇団天才ホテル】設立の経緯から教えてください

神谷憲司(以下神谷):設立したのは2000年の8月です。作・演出の藤澤と、ミュージカルが好きで、本当にちゃんとしたミュージカルを作りたいメンバーを集めてやろうとしたのがきっかけですね。
もともと音響と芝居の両方が好きで、【劇団四季】に入る前、専門学校の頃は芝居も続けていたんです。でも、どうしても仕事となるとどっちかに絞らなきゃいけない。それで音響を選んだわけですが、そのうちに、観ている側ではなくて「やりたい」と思う気持ちが大きくなりまして(笑)。当時の上司と話して、円満退社しまして、元いたメンバーに一緒にやってみないかと声をかけたんです


―神谷さんはもともとミュージカル一筋で?

神谷:ミュージカルは会社に入ってからですね。最初に芝居を好きになったきっかけは、高校生の時に【キャラメル・ボックス】を観たことです。学生の頃、他の劇団はだいたい割引券しかないのですが、【キャラメル・ボックス】の場合は招待券が手に入ったんです。で、「招待券なら観に行こうよ」と友達と観に行って、その芝居を好きになって。面白かったし、高校時代はどこのコンクールでも【キャラメル・ボックス】の脚本を使っているほど流行ってもいましたし

―では、専門学校の頃にやっていた芝居も?

神谷:そうですね。特にミュージカル、というわけではありませんでした。東放学園音響専門学校に入学して、本当は音響技術科に進めばよかったのですが、音響芸術科の方に進んでしまって……(笑)。そこに通いつつ東京アナウンス学院という同じ系列の学校の演劇サークルに入れることになって、そこで芝居をやってました。
【劇団四季】の音響部に入ってからはもう朝から晩まで、ずっとミュージカルの仕事をして……音響をやるぐらいですから元々音楽が好きで、芝居にプラス音楽と踊りが入り、ショーとお芝居の間みたいな、それでいて裏方から見ても他の芝居よりも効果的で派手でっていう、それでミュージカルが好きになりました


―【天才ホテル】という劇団名はどのようにして決めたのですか?

神谷:実は第一回公演では【神‘s Dust Box】という名前だったんです。自分の名前のカミヤに色んな要素を詰め込んだゴミ箱のようなものを意識して。二回目から【劇団天才ホテル】という名前にしたのは、何かの映画で「天才ホテル」という名前のホテルがでてきたのを見て「面白いな」って思ったのと、勝手に自分たちを「天才」と褒め称えて(笑)、意欲をかき立てようということがあって。……それと、これは夢というか、将来的には自分たちのホテルを造れたらいいな、というのもありまして。何号室には照明スタッフ、何号室には音響スタッフが住んでいる、というようなものを作れたらいいなっていう。本当に夢なんですけど
代家族システムの中で歪んでしまったもの
―今作『BAROCCO〜残された者〜』について聞かせてください。東電OL事件に材を取っているそうですね

藤澤智恵子(以下藤澤):ええ。今回は完全に女性の視点、女性主体の作品になっていると思いますが、ただ、実際の事件とはかなり離れています。何を題材に取ったかというと、単純にヒントを得たというか想を得たというか。彼女のトラウマになったもの、引き裂かれたものが、近代家族システムの中で段々歪んできてしまった核みたいなもので……社会と個が引き裂かれていく様を表現できるものが何かないかなと思っていた時に、ちょうど東電OL事件の女性が5年ほど前から「消化できないかな」と引っかかっていまして、少しずつ自分の年齢が上がってきて、整理されてきたかなと思い、書いてみました。だから、ストーリー的には事件そのものと近くはないんです

彩花:この話、最初は自分たちとはかけ離れていると思っていたんですけど、脚本を読むと、どこの家庭にでもあるようなことだと思えてくるんです。たとえば兄弟がいる場合、親はこの子が一番かわいいとか比べようとする気はないですよね。でも、子どもの方が比べられていると感じて、これではお兄ちゃんに敵わないから、自分は別のことでがんばって親に認められようと思う。こういうことはどこの家でも起こるな、という感覚が脚本を読んでいるとふつふつと起こってくるんですよね

―歪んだ核……演出方針でも「乖離した精神と肉体の歪みが生じる感情に焦点を当てる」と企画書にありますね


藤澤:
ええ。かっこいいこと書いてみました(笑)。……とても単純に言えば、社会の中で仮面を被ることに慣れてしまっていて、それが当たり前になっているという状態 ― 今作で言えば、お葬式のシーンでは悲しい顔をしている、といった儀式的な仮面がわかりやすいと思うんですが、顔では悲しそうな顔をしているのに、その仮面の下には「どんな狂気があって死んだんだろう?」という好奇心がある。それを表現するために、頬にハンカチを当てながら早口で「何が彼の身に起こったのか?」って歌わせたり。そうしたことでも乖離した精神と肉体の歪みを表現できるかな、と。ちょっと実験なので、どこまで伝わるかはわからないんですけどね


―それは【劇団天才ホテル】の理念、「既存の道徳の破壊と再構成」というところにも繋がってくると思うのですが

藤澤:
そうですね。「既存の道徳の破壊と再構成」というのは、神谷さんから第一回公演の原案をもらった時からのプランで、ずっとそれに対する挑戦というものを考えています

神谷:話しがムズカシイな(笑)

藤澤:神谷さん、読んでたじゃないですか、ボードレールとか(笑)
らない振り付けと、大劇場に負けないコーラスの「圧」
―藤澤さんは振り付けもしていますね。その振り付けですが、今回はコンテンポラリーな構成と聞きました

藤澤:はい。いつもですと音楽があってシーンのコンセプトがあって、それで振りを付けていくという感じなんですけど、今回はそういうものがないんですよ。ブロードウェイとロンドンでいうならば、明らかにロンドン寄りです。オペラに近い。ダンスシーンというのはほとんどなくて、スローモーションであるいたり、円陣を組んで移動したり、それをコンテンポラリーと言っているだけで振り付けらしい振り付けは一つもないです。
私はもともと舞踊の人間なのですが、舞踊って、一個の言語になってしまうんですね。踊りっていうものが完全に一つの表現になってしまう。だから歌いながら踊る、ということに違和感があるんです。いきなり歌いだすことに違和感はないんですが、いきなり踊りだすことには違和感がある。二つの言語が対立しているイメージがあって。それで今回は振り付けが小さくなりました。まだ研究中なんですけど


―全く今回から?

藤澤:そうですね。今までは「またやりすぎちゃった!」って思いながら全曲踊るいきおいで、バリバリ踊っていましたね(笑)。今回は勇気を持ってやめちゃいました

―今回はキャストが23人ですね。これは多い?

神谷:劇場の規模からしたら多いんですが、今回はどうしてもコーラスに関して「圧」を出したいというのがありまして。実際、今回の曲・台本を考えると、できれば600人クラスの劇場でやりたいなと思ったんですけど……(笑)。音楽を聴いていても、もう少し大きいところでやりたいなと。それで、小劇場でもそれに負けないパワー、「圧」を出したいと思ってこの人数にしました。あくまでコーラスという形で。でも実際に稽古が始まってみると決して多くはないと思いましたね。アトリエフォンティーヌという劇場はフラットではなく二階建ての劇場なので、上下の空間を使うことができるというのもありますし
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(文中、一部敬称略)
2004/8/16 文責・インタビュアー:浅井貴仁 撮影・編集:鏡田伸幸 

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