BACK STAGE REPORT〜【面接の人達】【岡本貴也インタビュー】〜
自身が生まれ育った街の被災を生々しく再現した、昨年上演の『阪神淡路大震災』が記憶に新しい岡本貴也さん。その震災から今年でちょうど10年。節目の年でもあることから、今年最初の公演は同作の再演であろうとすっかり思い込んでいたのだが……あに図らんや、意表をついてなんと今年最初に手がけるのは、就職活動を取り上げたコメディーだという。その岡本さんに、今回の企画立ち上げの経緯から、果ては『阪神淡路大震災』のその後の話に至るまで、多くを語ってもらった。

本貴也 氏
【劇団タコあし電源】主宰。『面接の人達2006』ではチーフプロデューサーを務める傍ら、脚本の一部も受け持つ。
会人と作る芝居、普通にやったらつまらない
―『面接の人達2006』、この企画はそもそもどのような経緯で始まったのでしょう?

実は、今回も時期的に『阪神淡路大震災』をやろうと思っていたんです。けれど、『阪神淡路〜』を持っての全国ツアーの話が出まして、『阪神淡路〜』に関してはそちらのツアーに専念したいと思ったんですね。ただ、上演のためにあらかじめ小屋だけは押さえてあった。
そんな時に、テレビプロデューサーの木村元子さんから声をかけて頂いて。木村さんはデジタルハリウッド大学院大学のプロデューサーコースで教鞭も取ってらっしゃるんですね。その木村さんが「小屋があるのなら(自分のコースの)生徒たちと一緒にやってみませんか?」と提案して下さったんです。
で、それは面白そうだと思って。学生さんたちも授業ばかりではなく現場も知りたいだろう、と。そこで「希望者を募ってやろう」となったのが最初ですね


―そうして立ち上がった『面接の人達2006』。なぜ就職活動を取り上げようと?

せっかく大学院の人たちとやるんだから普通の芝居をやってもつまらない、というのがまず頭にあったんです。そこで「せっかく君たちがやるんだから、普通に小劇場でやる芝居じゃなくて、何か考えて来て欲しい」って、企画を色々持ってきてもらって。そんな中に就職活動の話にしようという案があったんですね。
…僕、最初はそれも「つまんないなぁ」と思ったんですよ(笑)。よくある話だなって。
でも、もしそれがちゃんと実践に基づいている話なら…つまり、ターゲットを一般の演劇ファンではなく、実際に就職活動をしている人たちにしたら面白くなるんじゃないか、と考えを改めました。そういう人たちが就職セミナーのような感覚で芝居を観に来て、そこには就職活動のいろんなノウハウが詰まっていて、観た人は帰る時にはもう、自分が面接を体験した感覚になっていたら…これは面白いなって思ったんです


―デジタルハリウッド大学院大学は社会人大学院ですよね。学生達も多くは就職活動を実際に経験されている。そうした経験の中で面白いエピソードをみんなで持ち寄ったり…?

それはありましたね。バブル入社の人たちもいれば、そうでない連中もいるし、今現在就職活動中の人もいますからね。
…あの、普段、僕の周りにいる作家さんとか役者さんって、結構…就職活動したことなかったりするんです(笑)。だから、こうした一般の社会人と何かを作ることって、実はなかなか無いので、そこがまた楽しいですね。みんな感覚が社会人なので


―ちなみに、企画段階以降、デジタルハリウッド大学院大学の学生さんたちはどんな役割でこの企画に関わっているのでしょう?

企画以外でも、制作仕事を基本に広報、営業、映像制作等を受け持ってもらっています。今日も3人、稽古場に来ていますよ
ニュアルでは終わらせたくない
―この企画を“演劇でやる強み”というのはどういうところなんでしょう?

やっぱり「生で見る」っていうのが一番大きいですよね。就職活動の勉強というのは本を読むかセミナーを受けるかしかないので、だからこそ演劇でやって見せる意味は大きいと思いますね。生で感じてもらえる。あと、本やセミナーの先はもう、本番に行くしかないので、その間を繋ぐものとしてもちょうどいいんじゃないでしょうか

―岡本さん自身、就職活動を経験されているかと思いますが、就職読本などのマニュアルと現実とのギャップって感じました?

就職読本に書かれていることと現実のギャップみたいなものは、実はあんまり無いんですよ。でも、マニュアルを“読む”感覚と、それを“実践する”感覚との間には大きなズレがあるんじゃないかな。例えば、就職読本を読む。読んだ人は多分、そこに書かれていることがすごくよく分かると思うんですよ。でも「よし、分かった。じゃあ、やってみよう!」って言っても、絶対に出来ない。だから、この芝居でそこの部分をリアルに繋いであげられたらな、と思います。
今回の登場人物たちもみんなすごく悩みます。マニュアルは分かるんだけど、じゃあ実際にどうすればいいんだろう、って。そんな悩みがあるんだっていうこともね、先に提示してあげた方が就職活動もやりやすくなるんじゃないかな


―そうした就職活動ガイド的な役割を持つこの芝居。もう一方では当然エンターテイメントとしての側面も持つわけですが、その両者に溝はありませんでしたか?

いや、それは全然大丈夫ですね。「笑い」に関しては自信がありますから(笑)

―このお芝居自体がマニュアルになってしまう、鵜呑みにされてしまう、という危惧は?

この話をマニュアルでは終わらせたくない、というのは作家さんたちともずっと話しをしています。ただ、そのためにもちゃんと「マニュアル」は入れよう、と。そして、そのマニュアルを乗り越える方向にいければって考えています。
就職活動、面接会場って、すごく独特な世界観があるじゃないですか。やった人間にしか分からない、あの独特の、偽善的と言いますか(笑)…。ああいうものをね、どう乗り越えていくか。で、それを乗り越えた瞬間に内定って出るものなんだなぁ、というのがなんとなく経験としてあるんですよね。ざっくばらんに、素でいけた時に内定があっさり出たりとか、好きになれる会社が見つかったりだとか。
だから、そこの部分での葛藤、マニュアルをどう越えていくか。それはストーリーの中にちゃんと組み込んであるし、それこそが大事だと思うんですよ
5人の作家が綴る、1つのストーリー
―今回、脚本を5人で分担しています。これには何か狙いが?

いや、僕一人で書くのがしんどくて(笑)。…というのは冗談ですけど、せっかくプロデューサーなんだから、普段僕が作家としてプロデューサーさんとやっていることの逆をやってみたいというのもあったし、なによりも就職観、面接観はいろんな作家さんを入れることによっていろんなパターンが出るでしょう? その方が面白い、というのがありました

―作家さんそれぞれの短編を集めたオムニバスになるのでしょうか?

オムニバスではありません。単純にシーンが多いだけで、完全にストーリーものにしています。
実は当初、オムニバスにしようかとも思ったんですよ。でも、ターゲットが一般の演劇ファンとは異なるということで、「分かりやすくしなきゃいけない」と思いまして。だったらストーリーにしよう、と


―作家さんごとに“視点の分担”というのも明確にあったのですか?

そうですね。僕は笑い担当で、テレビドラマが専門の渡邉睦月さんは恋愛担当で、くろいぬパレード主宰のイケタニマサオさんはなんだろうな…群集担当みたいな、そういうのはあります。それぞれに得意だろうという部分を受け持ってもらっています


―今回、演出は企画ユニット【ブラジル】主宰のブラシリィー・アン・山田さん。岡本さんが演出しなかった理由は?

プロデュースの方で忙しいですから。それに僕が作ってしまうと面白くないな、とも思って。せっかく作家が5人もいるんだから、演出も違う血を入れた方がふくらみが出るだろうと考えて
益を備えた演劇、『面接の人達2006』
―ターゲットが一般の演劇ファンとは少し違うという部分で、宣伝の仕方にも違いが出てくると思うのですが

もちろん普通にチラシの挟み込みはやっているんですけど、置きチラシは主に学校の就職課をまわろうと考えています。大学の掲示板とかにもバンバン貼っていこうって

―お客さんにはこのお芝居をどんな風に観てもらいたいですか?

いや、楽しんでもらえれば、笑いに来てもらえればそれが一番いいですね。
…僕自身、久しぶりにコメディーやるんで、もう楽しくてしょうがないんですよ(笑)


―夜公演はリクルートスーツ着用だと500円キャッシュバックだとか。どうします? 客席全員リクルートスーツだったら…

いや、いいですよ。是非ぜひ! …そうなったらいいですねぇ。そういう空間作りがやりたいですね

―そうなったらまず、その劇場の様子を見てみたいですね。劇場からリクルートスーツの人がぞろぞろ出てくるところ(笑)

そうなったら大成功ですよ(笑)

―ところで、演劇というのは見方によっては実用・実益の対極にあるものですよね? その意味で「実益を提供できる演劇」という今企画の発想はとても面白いと思うのですが、岡本さん自身はこういう方向性は以前から温めていたのですか?

そう言われると、どうなんだろう? ……ただ、『阪神淡路大震災』にも似ている部分はありますよね。普通のストーリー芝居じゃない、っていうところも含めて

―今後、『実益シリーズ』みたいなものは考えています?

(笑)それはないです。面白ければなんでもやります。ただ、普通の芝居はやりたくない、というのはありますけどね

―『面接の人達』もシリーズ化しない?

しません(笑)!

―それでは最後に、プロデューサー・岡本貴也さんの口から今作『面接の人達2006』の見所をお願いします

これは架空の就職塾を舞台にした話なんですけど、劇中で塾長が生徒たちにいろんなことをレクチャーするんですね。その中には経験則だとか、わりとマニュアル本には載っていないことも出てくるので、そういうところも見所になっています。
それと……ラストシーンが相当カッコいいんですよ。渡邉睦月さんがすごく良いシーンにしてくれたので、そこも是非観て頂きたいですね
ターゲットを一般の演劇ファンに特定しないスタンスについて、「その方が一般の演劇ファンにとっても楽しめるんじゃないですか?」と岡本さんは語った。確かに、スーツ姿の観客が客席を埋める図、それだけを取ってみても、いち演劇ファンとして非常に興味深い。
就職難のこの時代、『面接の人達2006』が就職活動を控えた人々の光明となることを期待しつつ、でもやっぱりただの演劇ファンとして、単純にこの「実益ある演劇」を楽しみにしたい。
なお、インタビュー冒頭で話の出た『阪神淡路大震災』の全国ツアーについて、インタビュー後に少しだけ話を聞かせてもらったので、その内容も紹介したい。

―『阪神淡路大震災』全国ツアーの話が出ましたが、現在、どんな具合で話は進んでいるのでしょう?

企画として、埼玉をスタートして新潟と岩手と青森に行って、ぐるーっと帰ってきて西宮(兵庫県)で終わる、というツアーを考えています。うまくいけば九州まで行きたいんですけどね。そういう企画を今、西宮の財団に相談している最中です。
…新潟へ行くことになったのは、新潟の学校からオファーがあったからなんです。たまたま前回の公演をその学校の生徒さんが観に来て下さってたらしくて、是非、今年の10月23日(新潟中越地震が起こった日)に合わせて上演してもらえないか、と。こちらから「新潟に行こう」ってことじゃなくて、新潟の方からお誘い頂いたので、だったら是非行ってみたいと思ったんですね。あの芝居を観て下さる新潟の方が、「神戸の人たちも10年前頑張ったんだ。だから私たちも頑張ろう」って、そういうメッセージになればいいなと思って。
そんなふうに新潟からお話があって、で、「もしかしたらこれは繋がるんじゃないか」と思っているところに、今度は岩手からオファーがあって。そんな感じで、どんどん向こうの学校からお話が来る形で広がっていった企画なんです
新潟の震災直後には、ボランティアとして現地入りした岡本さん。その時に肌で感じたことも全国ツアー版『阪神淡路大震災』には反映させていきたいと、岡本さんは熱っぽく語った。阪神淡路大震災後10年を迎え、更にはスマトラ沖地震が生んだ津波大災害のショックに騒然となる中で明けた2005年。そんな今年に突きつける、岡本さんの“事実演劇”公演活動にも注目だ。
(文中、一部敬称略)
2005/1/10 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

BACK STAGE REPORT〜【面接の人達】【岡本貴也インタビュー】〜

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