1995年1月17日、午前5時46分。
震度7、マグニチュード7・3とされる大規模な地震が、阪神間と淡路を襲った。
死者6433人、負傷者4万3792人、全壊住宅10万4906練……歴史的な惨事となったあの出来事を、「舞台演劇」として再構築しようという【劇団タコあし電源】。
これまでエンターテイメント性の高い舞台を公演してきた彼らが、あえて今「あの出来事の追体験」に挑戦する……果たしてそこには、どのような思いがあるのだろうか。

今回のBACK STAGE REPORTは、その脚本・演出を手掛け、TVドラマの作家としても活躍中の、現地出身者である【タコあし電源】主宰・岡本貴也氏、そして実際に震災を体験した出演者にお話を伺い、今公演への、そして震災への思いを語って頂いた。

BACK STAGE REPORT〜タコあし電源 『阪神淡路大震災』〜 【本貴也インタビュー2】〜
本貴也インタビュー1】【橋幸生 役者インタビュー】【多彩子 役者インタビュー】【本展弘 役者インタビュー
本貴也インタビュー1
災で得た教訓など、僕はないと思っています
――震災などの自然災害を扱うとき、テーマとして悲惨さ、教訓、復興の力、防災意識など、様々に切り口があると思うのですが。

そうですね。でもただ……ありがちな被災者の方の希望であったり、明日への光みたいなものというのは、凄く凡庸だなとも思うんです。確かに東京に住んでいて、美談というのはたくさん伝わってきました。例えば、ボランティアとの交流の中で、被災者の方が泣きながら「ありがとう」と言った……では、その人は何故泣きながらそう言ったのか? その裏を僕らは突き詰めて描かないといけないと思うんです。先ほどテーマとして挙げられたものの中で言いますと、悲惨さというのはありますが、教訓というのはありません。それ以前に、震災で得た教訓など、僕はないと思っています。そういうものを押し付けたくもありませんし、生き残った人はやっぱりとにかく生きていくしかありませんから……。復興の力にしても、防災意識にしても、先ほども言いましたがその裏にあるものが重要なのであって、安易に作品の中で希望のようなものを見出して、勝手に分かったような気になっちゃ駄目だと思うんです。

――希望というもの自体、千差万別だと思いますし……。

でも、じゃあだからといって、一緒に悲しんで、泣いて、辛さを理解して……ってものでもないと思うんですね。舞台演劇という「作品」なんだから、やっぱり観る人が純粋に面白くなかったなら、どれだけメッセージがあっても怒って帰られるでしょうし……。

――単に訴えかけるだけの芝居では駄目だと。

ええ。実は今回、非常に参考になったのが「フルメタル・ジャケット」という映画だったんです。あの映画というのは、ただベトナム戦争の事実を追ってるだけなんです。ただ役者にリアルな芝居をさせて、ただそれを撮る。ストーリー進行もなく、人が次々に死んでいく……でも、面白いんです。この方法論は素晴らしいなと思いました。それと同時に、こういう舞台演劇って見たことないな、と。震災への思いというのはもちろん根底にあるんですけど、そういう作り方で観せる今回の舞台に対して、作り手としての勝算というものはありますね。

――ホームページを拝見させて頂いたのですが、震災の詳細なデータがズラリと挙げられていました。その最後の一行に、「それでも空港を作る神戸市」という言葉があったのですが……。

ええ。それも取り上げたい問題です。行政と言いますか、マスコミと言いますか……神戸の方にお話を伺うと、まず皆さん言われるんです。行政やメディア、それらをまとめて「神戸市はあかん!」って(笑)。では、何故そう言われるのか……それはちゃんと描かないといけない部分だと思いますね。そういう部分は、今回かなりジャーナリスティックに描いてます。

――被災者としては、出演者の志田健治さんが北海道での地震を体験されていますね。そういう他地域の被災者の方にも重ねることのできる舞台であると……。

そうですね。作品として、同じように提示できるものであると思っています。
に来て下さる動機というのは、どんなものでもいいんです
――関西公演も検討されているとのことですが?

う〜ん……やる小屋(劇場)がないという問題がありまして……。ただ、もし関西でやるとすれば、別の脚本を書きたいんです。もう少し小中学生を相手にしたものにしたいですね。

――確かに、現地のそれくらいの年齢の人たちというのは、当時は物心もついていなかったでしょうね。追体験という目的では、凄くやる価値があるように思えます。

そうですね。そういう思いはやっぱり強くありますので。

――個人的なことなのですが、以前こんなコラムを読んだことがあります。『歴史的な出来事の意味を深く認識するには、「作品」が必要である。多くのメディアが震災のレポートをしてきたが、それらは事実を伝える意味はあったが、本当に掘り下げた「作品」というのは、未だ誰も描ききれていないのではないか』という意見なのですが……。

素晴らしいです!(笑)

――今回は舞台演劇という、まさに「作品」です。ならばこういった意見の指すところの、本当に掘り下げた「作品」になり得るのでは?

ええ、まさに「作品」ですね(笑)。「作品」なんだから、震災への思いというものをあまりにも前面に出し過ぎてしまうと、逆に「作品」として観てもらえなくなるんじゃないか……という心配はあります。ですので、演出という立場からは、やっぱり純粋に観て面白い作品を目指したいと思ってますね。事実演劇でありながら、「作品」としてどこまでの評価をしてもらえるかという、そういう意味での意気込みというのはあります。

――最後になりますが、インタビューを読まれる方にメッセージがあればお願いします。

そうですね……まず、震災を知らない人に対して「平和ボケ」だとか「対岸の火事だと思っている」だとかって言われる人がたくさんいるんですけど、僕としてはそれ自体はどうでもいいことなんです。「もし自分に起こったら」と、想像することはあるでしょうけど、それでもやっぱり普段は気楽に生きていると思うんですね。僕はそれは全然構わないことだと思ってます。だから、今回のこの舞台に対して、「観ることが偉いんだ」とか、「道徳的なんだ」とか、そういうかしこまった感覚で観て欲しくないという思いがあるんです。

――観ることに対する気負いはいらないと……。

「どんな芝居なんだろう?」、「面白そうだ」……観に来て下さる動機というのは、どんなものでもいいんです。観てもらって、それぞれ何かを感じて頂いて……心に響く場面っていうのが、必ず一箇所はあると思っていますので、そういうところを持って帰ってもらえればと思いますね。

――今公演、一被災者としてもとても期待しています。

ありがとうございます。本当は来年が10年目ということで、年末くらいから神戸市などで助成金が出るんですけど(笑)。でも、そういうことを置いておいても、やっぱり真っ先にやりたいという意気込みが強くありましたから。

――本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
東高円寺の閑静な住宅街にある建物の中で、「阪神淡路大震災」は日々何度も再現されていた。狭い一室に、10人を軽く超える劇団員たちがひしめき合いながら稽古に励むその様子に、ふと当時訪れた公民館の避難所を想起させられた。

【タコあし電源】主宰の岡本氏は、被災者しか知らない、そして同じ被災者でも知らない衝撃的で凄惨な事実が、未だ報道されることなくあちこちに放置されていると語る。
残された映像もなく、文章で語るにはあまりに実感に乏しいそれらの出来事を、ならば演劇という手法でそのまま再現しようというのだ。
観客たちはその出来事を、僅か数メートルという距離だけを挟んで目の当たりにすることになる……これはまさしく、小劇場で行なわれる舞台演劇だからこそできる試みかもしれない。

そんな舞台演劇としての期待と可能性。そして、これまで埋もれていた隠れた事実の追体験。
担当記者として、また被災者として、改めてこの9年目の『阪神淡路大震災。』をしばし見守りたいと思う。
本貴也インタビュー1
(文中、一部敬称略)
2004/7/14 文責・インタビュアー:毛戸康弘 撮影・編集:鏡田伸幸 

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