BACK STAGE REPORT【シンクロナイズ・プロデュース】〜20年前、あなたは何をしていましたか?
――現在(いま)を生きる、大人たちの青春群像劇!
〜久次米健太郎インタビュー〜
 【シンクロナイズ・プロデュース】第16回公演『最初で最後の晩餐』は、現在(2005年)から1985年へと遡行する“自分探しの旅”を描いた作品だという。1985年といえばバブルの引き金、円高時代へと突入していった年だ。日本全体にどこか浮かれた空気が漂い出したその頃、作/演出の久次米健太郎さんは高校生。教室でチェッカーズを口ずさみ、おニャン子の話題で盛り上がった――そんな世代である。その久次米さんに、なぜいまこの時代を振り返ろうと考えたのかを聞いた。自身の来し方と重なるこの物語に込めた思いとは――?
久次米健太郎
演出家 / 劇作家 / シンクロナイズ代表

兵庫県立宝塚北高等学校 演劇科
近畿大学文芸学部芸術学科演劇・芸能専攻
兵庫県立ピッコロ劇団の演出部を経て
97年 シンクロナイズ・プロデュースを設立

シンクロナイズでの作・演出をはじめ、
お笑いユニットLIVESの専属演出スタッフとしても活躍
最近ではイベント企画や番組・CMの構成演出も手がけている
同年代の人たちが
     共感できるものを
―早速ですが、なぜ今回、20年前を振り返ろうと?

 実は前々回の公演、『約束』という作品で10年前を描いているんですね。’95年の阪神淡路大震災をモチーフにした作品です。それで今度は20年前――最初は安直だったんですよ(笑)。去年、小泉自民党が圧勝したけど、そういえば中曽根自民党が圧勝したのもその頃だったな、って。でも、去年も20年前も阪神が優勝している。あるいは福知山線の大事故を考えると、20年前には日航機墜落事故があった。…なんかね、現在と20年前には重なる出来事が多いと思ったんですよ。
 そこから逆に、じゃあ20年前と今で何が変わったんだろうと考えると、もちろん当時は携帯電話が無かったとか、そうした時代の変化はありますよね。でも、いろんな事が発達して幸せになったかというと、そうでもない。だからといって荒(すさ)んだかといえば、やっぱり20年前は20年前でいろんな事件が起きていた。だから、「昔は良かった」ということでもないな、と。結局、人間はいつの時代もそう変わるものじゃない……まずそこが発端でしたね。

 それと、自分が30代半ばになって実際のところ……やっぱりお芝居づくりに行き詰まるんですよ(笑)。と言っても、別に“書きたいことが無い”ということじゃなくて、“何の為にお芝居を作るのか”という部分で。

 僕らお芝居をやっている人間なんて、いくつになってもアルバイトしてたりとか非日常的な世界で生活をおくってますけど、普通なら僕らの世代はもうある程度、社会的地位も出てきて、結婚して子供も生まれてます。それまで持っていた悩みから、会社での悩み・子供の悩み・親のこと……悩みも変わってきている。で、一般的に、そういう世代の人たちがお芝居を観に来るかといったら、あんまり来ないですよね。忙しいということもあるでしょうし、お芝居に興味が無いということもあるでしょう。でも、「このまま僕らが芝居作りをしていく意味って何だろう?」って考えた時に、やっぱりそういう人たち、同年代の人たちに共感してもらえる作品を作らないといけないって考えたんです。それが今回の大きなテーマとしてあったので、まず20年前の、高校生の頃のことを思い返してみよう、と
   
「昔は良かった」で
     終わったら意味が無い
―同年代の人たちが共感できる作品づくり。そのためにご自身を振り返る形で1985年に行き着いた

 そうですね。まぁ、キリがいいから20年前っていう話で、特別1985年に注目したわけでもないんですけど。ちょうど高校も卒業間近で、自分の進路を決めるとか、多感な時期を取り上げたらそれが1985年だった。そうしたらたまたまその年に、阪神の日本一があり日航機事故があり豊田商事会長の刺殺事件がありプラザ合意があり――

―ゴルバチョフがソ連の書記長になり、テレビでは『夕やけニャンニャン』が始まって…

 そうそう。あと、『ニュースステーション』が始まって『8時だヨ! 全員集合』が終わったのもこの年。何かやっぱりね、区切りの年ではあるんでしょうね。

 でも別に、過去をノスタルジックに回想したいと思っているわけではないんです。当時だってやっぱり、高校生は高校生で焦燥感であるとか、いろいろなものを抱えていたわけですよね。それなのに主人公が、今が嫌で過去を回想して「昔はよかったな」と思う、そんなお芝居を作っても意味がない。そうじゃなくて、当時の夢だったり友人と上手くいかなかったことだったり、いろんなことを思い返して、そうした過去の上にある現在を“やっぱり生きていく”“それでも生きていかなきゃいけない”っていう部分、そこをうまく表現できればと思ってるんですけどね


―’85年当時の風俗なども随所に挟まれるのでしょうか?

 出したいんですけどねぇ。でも、その当時に流行ったものとか風俗とかを出そうとすればするほど、非常にチープ感が出てきてしまって困ってるんですよ。例えば「阪神が優勝したね」とか、セリフにすると説明的になるし……だからそこは台本上どうこうするのではなく、何か演出的に見せれたら、とは考えているんですけどね
   
さらけ出すことで広がった幅
―主人公は大阪出身という設定のようですが

 そうです。【シンクロナイズ・プロデュース】は関西人が多いっていうこともあってのシチュエーションですけど。主人公は学生時代を関西で過ごして卒業後に東京に出て来た、という設定です

―余計に久次米さん自身にとても近く感じますが

 うん、だからね、やっぱり主人公に自分をオーバーラップさせてますよね。

 僕は【兵庫県立ピッコロ劇団】にいたんですけど、「やっぱり一度東京に出てみたい!」って言って、周りに反対されながらも結局こっちに出て来てしまいました。それから10年近く経ったいま、何が変わったか……東京に出て来た当時は5〜7人でやっていたのが今ではこれだけのメンバーが集まってくれているし、観客の動員も増えてますし、そういう意味では形ができてきたと思いますけど、じゃあ果たしてそれで食っていけるのか、本当にこのまま続けていけるのかっていう問題は今もやっぱりありますしね。そういうところでも、主人公に自分を投影させている部分はありますね


―前々回の『約束』、そして今作と、久次米さん自身の内面に踏み込むような作品が続きますね

 ええ。女性キャストだけでお芝居を作っていた頃は“客観的に見る”ということでの表現だったんですけど、ここ何回か、震災のこともそうだけど、さらけ出す要素が増えてきてるのは確かですね。でもその分、女性キャストだけでやっていた頃よりも幅は広がっていると思います
   
原点に戻る、ということ
―今回、稽古場で「原点回帰」という言葉がよく出るそうですが

 僕が演劇を始めたのが高校時代なんですね。その高校時代、20年前を思い出すにあたって、“原点回帰”しようということがまず僕の中でありました。それと、うちはプロデュース公演だからメンバーは毎回オーディションで募(つの)ってるんですけど、それでも今回、うちが初めての人間って3人だけなんですよ。他はみんな、これまで出てもらっている人たち。だから非常に理解が早いし稽古場を自分たちでまわしてくれるし、すごく潤滑にいっているんですけど、ただ、知っているからこそ“馴れてくる怖さ”があったんです。それでみんなで“原点回帰”しようよと。この場所で初めて出会って芝居づくりをしたとき、更には初めてお芝居に出会ったときを思い出して、新鮮な気持ちで一から新しいものを作っていこう――そういう話をしたんですよ。それが今回の稽古場のテーマになりました

―ちなみに久次米さんの演劇との出会いは?

 中学校の文化祭でやった劇がお芝居との初めての出会いでしたね。
そのとき僕は主に舞台監督みたいなことをやってたんですけど…そのお芝居ね、最後のシーンで男の子と女の子が抱き合うんですよ。とても感動的なシーンなんですけど……そりゃね、そんなの見たら生徒たちは冷やかしますよね(笑)。で、感動的に終わるはずが、ものすごい客席から笑い声とか出ちゃって、僕らみんなショック受けて。

 ところが、落ち込んだまま職員室に行ったらね、劇と何の関係もない同級生のスケ番の女の子が、職員室で怒鳴りまくってるんですよ。「1年と2年の学年主任出せ!」って。僕ら同級生が何ヶ月もかけて作ったお芝居を1年と2年は冷やかした、どういう指導をしているんだって。それ見てね、「何をコイツは熱くなってるんやろう」って思いながらも、なんだか非常に感動しましてね。「ああ、ものづくりってこういうことなんだ」って。それが演劇に向かうきっかけになりました。そこから人生の転落が始まった…(笑)
   
身に染みるものを目指して
―【シンクロナイズ・プロデュース】の舞台の大きな特徴が、芝居に挿入される“ムーブメント”ですね。今回も挿入されるようですが

 ムーブメントって非常に面白いんですよ。ダンスとは違う象徴的な動き――1人が歩いている、全体で歩いている、そういう構成でお客さんの中に何かをイメージしてもらえる。人それぞれのイメージを大事にできるものなので、【シンクロナイズ】では必須事項になってますね。お客さんの中にも「あれがないと嫌」って言ってくれる人がいますし。…「あれは何の意味があるんですか?」って訊かれることもありますけど(笑)

 実は今回、ムーブメントは役者が作ってるんですよ。もちろん「こういうイメージでこう作りましょう」ということは言いますけど、最終的にどう動くかは役者たちで考えてくれている。これまではすべてにおいて指示を出していたんですけど、みんなが協力して稽古場をまわしてくれているので……このところ、楽させてもらってます(笑)


―それでは最後に、今作『最初で最後の晩餐』。こんな風に楽しんで欲しい、というのを一言

 いつも【シンクロナイズ】で言うんですけど、やっぱり何か、自分たちのやるお芝居にお客さんの人生や生活がダブルイメージできないと意味が無いと思うんです。だから観に来て下さった方には、自分との共通項を見出してもらえたら嬉しいです。人間として何か共感できるもの、身に染みるものを目指してやっているので、そこを期待して頂きたいですね
   
自身の内面への遡行、いちから見つめなおす創作、原点回帰――。

インタビューの合間に久次米さんはその、“いちから”始めることの苦しさをポロリともらした。それだけに、支えてくれるメンバーへの感謝もひとしおなのだろう。稽古中、メンバーの頑張りにほろりとくることもあると、そっと教えてくれた。

だが、「苦しみがあるからこそ、そこをくぐり抜けたときに今作がシンクロナイズ・プロデュースの新しい原点になるかもしれない」――確かな手応えをそんな言葉に代えて、最後に久次米さんは力強い笑みを見せた。

シンクロナイズ・プロデュース第16回公演『最初で最後の晩餐』


これは希望の物語だという。1985年当時に青春期を過ごした方はもちろん、そうではない世代のみなさんも、この物語にそっと芽生える希望に触れて人生の充電をしてみてはいかが?
2006/1/7  インタビュアー・文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 
稽古場等の大きな画像をご覧になりたい方は、【稽古REPORT】へ

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