劇場と劇団との関係は、舞台公演を実現する上で切っても切れない関係である。
今回のBACK STAGE REPORTは、場を「貸す」「借りる」というだけの関係を超え、<劇場の存在意義>を問う試み 
― シアトリカル應典院主催の【SPACE×DRAMA】を紹介する。
劇場と劇団が「対等な関係で協働する」というこの演劇祭、その試行錯誤の先に見える、劇場と劇団の新しい関係とは?
me-te-lui-lui×××山本セリ、インタビュー
BACK STAGE REPORT 〜SPACE×DRAMA 【取材リポートシアトリカル應典院、インタビュー】〜
しかばんび観劇レポート

2003年6月22日(日)18:00。山本さんに大阪の劇場などを案内され、應典院にたどり着く。出迎えて下さったプロデューサー西島さん・ディレクターの川井田さん・劇場担当の柳澤さん、應典院の方々に、me-te-rui-rui×××の山本さんも加わっていただき、「SPACE×DRAMA」について詳しくお話を伺うことに。
「SPACE×DRAMA」とは、97年4月に宗教・宗派を問わない文化創造の場として再建された應典院、それと同時に発足した、表現者・NPO・市民がお寺という場で、出会い・協働し、芸術と社会をつなぐ回路作りをするNPO、應典院寺町倶楽部の中心事業である。

ハードルを一緒に越える
西島さん

― まず、大阪の演劇事情について感じている事をお聞かせ下さい

西島大阪の劇場が危機だ」と言われていますね。スペースゼロが無くなって、今年の春に扇町ミュージアムスクエアが閉館して、奇しくも来年の3月には近鉄小劇場が閉館する。そういった事が「危機」として捉えられているんでしょうけど……実は、大阪市内で言うと、小劇場をやれる場所はものすごく数はあると思うんです。だから、劇場の数が足りなくなるという事ではなくて、多分、関西の劇団にとって一番大きかったのは、<扇町のソフト>が無くなるという事だったと思うんですね。表現を磨いていくとか、交流を図るとか、東京から来る劇団を引き受けて公演をやるとか、多種多様なことをやっていたその部分が無くなってしまう。その、ソフトの機能が失われてしまうという事が大きかった。それと、もう一つ。扇町ミュージアムスクエアに関して言えば、あそこは高校球児にとっての甲子園と同じで、「いつかは扇町で!」というのがやっぱりあったのでしょう。そういう意味では目標の喪失でもあった。その辺が漠然とした危機感に繋がっているのではないかと思います。

― そういう状況に、シアトリカル應典院さんとしてはどのように対応を?

西島 「あまたある小劇場の中で、應典院というのは本当に「劇場」かと言うと……まず、お寺であるわけです。そのお寺を社会に開いていこうという想い、志(こころざし)があって、舞台芸術に関わるのみならず、教育の問題であるとか様々な社会の問題に対する活動の拠点にもなっていこう。NPOの拠点にもなっていこう、と。だから、単純に「劇場」=お芝居をする劇場、ではないという特色が應典院にはあります。

ちなみに『シアトリカル應典院』という呼び名は、色々な活動の中で、舞台芸術に関わる時にだけ使うブランドです。

そのシアトリカル應典院として、どんな特色のある事を出来るのか、僕達は何が出来るのだろうかと考えた、その結果の一つが、今回の「SPACE×DRAMA」です。
「SPACE×DRAMA」というのは、ここが出来た1997年の春から使っていた言葉で、当初はお寺が芸術活動をやっているという事を知ってもらう為に、販促レベルの考え方でこの名前で舞台芸術祭をやっていました。音楽だとかセミナー・ダンス・舞踏などもやりました。そんなこともあって、小劇場の場として使われるようになってくれたんですね。
そして今、劇場が潰れていくという中で、シアトリカル應典院は「劇場・小劇場としての位置」というのは得ている。だから逆に責任もあるな、と考えまして……そんなところから、今回「SPACE×DRAMA」の形を大きく変える事にしました。
旗揚げしてからの紆余曲折の中で、なかなか次のステップに踏み出せないような人達がいる。「SPACE×DRAMA2003」は、そういう人達をエンカレッジして、一緒になってやっていく演劇祭にしたいと思っています。参加するのに面接したり、プレゼンテーションしたりして、一年間制作会議をして、お芝居をして……足掛け3年かかるわけですけど、一緒になって支え合えるような演劇祭にできればな、と。
一番初めの5年ぐらいのハードルを一緒に越えられるような、そういう存在に、シアトリカル應典院がなれればいいですね。


― 若い劇団に何かを教える、という立場ではなく?

西島 「劇団さんの表現に対して、僕らが提案できることは無いと思っているんです。ただ……いろんな社会問題、例えば子供の人権問題や福祉の問題、教育の問題を考えているNPO、その代表の方達が寺町倶楽部の運営委員をしているんですね。その方達に、子供の人権の話を聞く、福祉の問題の話を聞く、というのではなくて、そういうしっかりと活動をしている人達と接点を持って、話ができるという機会は若い劇団さんにとっても決してマイナスではないと思うんですよね。一番人脈が作りにくい時に、そういう人脈だとか、先人の、学ぶべきものを持っている人達と出会いが生まれる。そういう教育の場としての意味はあると思いますね。それと、制作的な事、例えば助成金の取り方だとか書類の書き方だとか、そういう点は教えることができます。表現は自分達で悩んで創っていかなければならないけれど、制作面だとか、もっと底辺の部分では何かしら提供できる。そこが、シアトリカル應典院の取り柄です。

山本 「私には凄く勉強になりますね。一人でやっていると限界というものがあるんですけど、今、一人じゃないな、と。他の劇団の方もいらっしゃるし、應典院の方が励ましてくださったり。気持ち的に楽になってますね。

西島 「7つもの劇団がちゃんと一つのテーマについて話し合うことなんてこと、今まで無かったよね。それが出来ることだけでも良かったかな。

山本 「刺激にもなったかな……プレッシャーにもなったんですけど。

集うような魅力ある場へ
柳澤さん

― 制作会議ではどんな事を決めているんですか?

柳澤 「今年の場合は一年目ということもあって、劇団とどういう事柄について話を詰めるべきかというのは、スタッフ側も模索の状態でした。だから『そんなことも!?』というトコロからやってましたね。具体的には、チラシの挟み込みの段取りを決めていくトコロから話を始めて、宣伝をどうするか、記者会見をどうするか……應典院スタッフも分担して、アイデアを出して、もちろん劇団さんからもアイデアを頂いて、それを詰めていく。そういう作業をしていました。

西島 「今回、記者会見に関して随分学べた事が多かったと思います。メディアの方とのお付き合いの仕方というのがだいぶ分かったというか。……結局、人と人の繋がりがものすごく大事なんですね。一つの劇団で記者発表したら、それこそタワケた話なわけで、有名な劇団でもなければ有り得ないんですけど、演劇祭になれば十分ネタになりますよということで、実際来て頂けましたからね。

― 制作の負担を軽減できるのは劇団にとって、やっぱり大きいでしょうね

西島 「制作を専属で置けるほどの劇団は限られてますからね。

― 将来的には劇場が制作面をリードするぐらいまで体制を整えるお考えですか?

西島 「シアトリカル應典院を拠点として芝居をするとシアトリカル應典院が教えてくれるよ」って、そんなふうに言って貰えるようになればばいいですね。芝居を初めてやる方は、当然ぶつかりますよね、制作の事に関して。どうしたらいいのかって。そういう時に「とりあえず小屋に相談してみたら?」という所にあればいいかな、と。そうすれば使って頂ける率も増えるだろうし、逆に言えば、ここでみんなが集う時間も増えるだろうし……集うような魅力ある場にならないといけない。

― 今回参加する劇団はどのような経緯で決定したのですか?

西島 「今回、25団体が来て下さって、全部の劇団と面接しました。プレゼンテーションを行なってもらって、こちらから質問をして、5人の選考メンバーで話し合って決めました。基準は、一緒に演劇祭を作って行けるかどうか。表現という部分での選別ではありません。それは見ていませんからね。

― 成功のイメージは?

西島 「どうなるかな、という気持ちでやっているので、どんな形でも成功だと思います。表現を高みに持っていくという事であれば、成功というイメージはあると思うんですけど、そうではなくてインフラを作るというものですから、何かが無いから失敗だとか、そういう事ではなくて、とりあえず一個一個拡げて行く。それだけでも成功なのではないかな。

新たな公共圏
川井田さん

― 最後に、演劇の公共性に関して、御意見を聞かせて下さい

川井田 「應典院寺町倶楽部の事業、特にコモンズフェスタに象徴されるんですが、新しい公共圏=コモンズを創り出したいという願いがベースにあります。プライベート(私)でもパブリック(公)でもないコモンズ(共)、それは市民社会と呼んでいいものかも知れませんが…。効率性や合理性、経済至上主義といった価値観から抜けだして、一人ひとりが“違い”と出会いながら対話を重ね、多様性を認め合える社会の実現をめざす…ちょっと大げさで、尊大な言い方かも知れませんけどね。
そのためには、お上が決めた“公=制度や仕組み”を一方的に与えられるだけでなく、“私”という個人の意見をぶつけ合い、違いを違いとして受け入れながら接点を見つけていく努力が必要です。また、知らず知らずのうちに身につけてしまっている自分自身の価値観を見つめ直したり、時には自分の考えを変更する勇気も必要でしょう。日常の中で安心してもたれかかっていたものに揺さぶりをかけ、新しい視点を持つきっかけになるのが現代アートでしょうし、鑑賞した後の対話も大切だと思うんです。
そういった機能を果たすことが出来た時はじめて、「公共性がある」と言えるのではないでしょうか。もちろん、それには表現者だけではなく、繋ぎ手や観客にも、それぞれの立場で果たすべき責任があると思いますが……。


西島 「やっている事に責任を持たなければいけない。今回、何故この芝居をやろうとしたのか、きっちり言葉で表現して下さいということで、全部の公演にアフタートークをつけたんです。そのことによって、その芝居を題材にして、それを表現した人間と観た人間が、普通に対話するということが大事じゃないかと。面白くなかったら面白くなかったと言って貰う。劇団だってそれを望んでいるんじゃないかな。

 劇場が劇場の公共性を考え、責任を考え、そして演劇を考える。この、当たり前であって欲しいことが、今、とても新鮮に感じられる。シアトリカル應典院の試みが蒔いた種子は、どう根付き、どんな実を結ぶのか、今はまだわからない。けれどもその果実はきっと、渇いた多くの喉を潤し、癒すことだろう。


(文中、一部敬称略)
2003/6/22 文責・インタビュアー・撮影・編集:鏡田伸幸

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