| 【山中 隆次郎 インタビュー2】 |
| 社会構造の背後でざわめく負の感情を引き出せれば、ホラーは怖くなくてもいい――そんな山中さんの姿勢が表れた過去作品の解説を絡めて、後半ではより深い部分で【スロウライダー】が求めるものへと話は移った。新作『トカゲを釣る』の話と併せて、どうぞ。 |
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| ←【山中隆次郎インタビュー(1)】 | |
| 始まりとでき上がりは いつも別物 |
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| ―ここから過去作品の解説を少しだけ。スタイルの転機とも言える『わるくち草原の見はり塔』。「大好き」とおっしゃいましたけど、具体的にどんなところを? まず一個好きなのは、あれ、前半ほとんど英語なんですよね。あそこまで粘って英語を喋るっていう。しかも本当にちゃんとした英語を喋ってるんですね。そこが好きなんだけど、でもお客さん的にはそれ、超不快だったらしくて(笑)。ただね、そこは言葉が無くても分かるだろうって思ってたんですよね。『ホームラン』の時にも【タテヨコ企画】の佐藤っていうのに宇宙語を喋らせたりしてましたけど、でもそれで、普通のセリフよりも伝わるものがあるんじゃないかって思ってたし。それであそこは英語にしたんですよ。 もう一つ好きなのが、静かな芝居なのに舞台上ですっごい走るんですよね。中盤はもうずっと、SABU監督の映画くらい走ってる。で、走って何してるかって言うと、ポコペンしてる(笑)。バカな設定だよね、あれ。なんで中盤全部ポコペンなんだよって(笑)。 でも、そこが結構象徴的だったんですよ。静かな芝居のフォーマットで扱える情報には限界があるのかなっていうところで。静かな芝居だと、シーンを換えるにしても1回暗転してっていう手続きが必要だったりして、バーっと見せることができない。そこをどうしようとなったときに、「じゃあポコペンだ」みたいな話になったんですよ。“黒木”って奴が逃げていくんだけども、その過程で、オカシくなっていく人たちがイチゴ植えてたりケンカしてたりっていうのをずっと追っていくってことだったんですよね ―その、場面がどんどん変わるというのもあって、あのテレビ画面ですよね。舞台に据えられたテレビ画面に、場所の情報が表示されるという そうです。でもあれ、別にテレビ画面が無くても良かったのかなっていう気もしてるんですよ。でもあの絵面(えづら)が好きなんですよね。なんでここにテレビがあるんだよっていう。 …あれは悪魔が出てきてるって話なんですよね。結局あの塔に女の人がいるのかは分からない。塔に出入りしているのが佐藤という役者なんですけど、佐藤がやってたのがベルゼブブ(悪魔・蝿の王)。ベルゼブブがあそこに蝿としていて、地下で、死体を使って何かしてるんですよ。その蝿が佐藤の中に入って、あそこにいる人たちがカードで揉めたりっていうのを全部操ってたりする。そういう悪魔がなんとなく忍び込んでいる、みたいな。その操られる人たちが塔の中の女の人をイメージしてるっていうのが面白いかなって思ったんですよね。 あの人たちは虐げられている人ってことなんですけど、実は最初は全然違う話だったんですよ。日系人の話に興味があって、最初は*東京ローズとか調べてた。でもちょっとなんか、道徳の授業みたいになっちゃったからそれはやめたんです。で、結局塔だけに絞ってああいう風になっていった。 そんな感じで、実は毎回、最初に考えたものと出来上がったものって違うんですよ。 『むこう岸はエーテルの国』のときも、最初は*山窩(サンカ)の話だったし。日本の漂流民族・山窩の話を書こうと思って、相当調べたんですよ。だから『もののけ姫』とかも「俺が一番分かってるんじゃないの?」って思いながら観てた。「すっげぇ分かるよ、駿(はやお)!」って(笑)。これ、ストーリーがつまんないとかいう話じゃなくて、完璧に思想的なものだよねって。ショーケンの『瀬降り物語』とかも最高に面白かった。 でも、いざやるとなったら、「どうすんの?」ってなっちゃった。誰か山窩を出すわけ?みたいな。もうね、山窩に肩入れし過ぎちゃって出来なくなっちゃったんですよ。それで最終的に地域通貨の話を持ってきて、それと合わせて作ったんですよね。ただ山窩も形だけは残ってて、それがあの渡来人のような人たち。だから劇場の方たちはあれ観て「これは日本人のアイデンティティーの話なんですよね」って言ってましたね。 『エーテル〜』のあの屋敷って、もともと部屋ごとに元号の名前がついているんですよ。だから台本にはシーンごとに“何々の間”ってついてて、それが宝永の間、平治の間…ってずっと続いてて、後藤飛鳥さんが入っていった部屋くらいになると白村江(はくすきのえ)の戦いの時代を超えちゃうんですね。そうすると、あの人たちが出てきたりする。そういうのが実は『エーテル〜』にはあったんですよ ※東京ローズ:太平洋戦争中、日本軍が流していたプロパガンダ放送「ゼロ・アワー」の女性アナウンサーに米兵がつけた愛称。単独ではなく複数いたとされる。その一人(とみなされる)アイヴァ・郁子・戸栗・ダキノ(日系アメリカ人二世)は終戦後、母国アメリカで人種的偏見に満ちた裁判の末、反逆罪で投獄された。 ※山窩:日本の山地・河原に漂泊し、木の実採取や川漁、竹細工などで生計を立てていた非定住民の集団につけられた蔑称。独自の言葉と文化を持ち、その起源は諸説あるが、古く神代にまで遡れるという説が強い。なお、“瀬降り”とは彼ら独特のテント生活のこと。 |
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セリフ、モチーフ ――作り方の裏側 |
| ―【スロウライダー】の作品はセリフもまた特徴的です。若い世代が日常的に使う口語を、日常そのままに舞台上でもブロークンに使ってますね。それが徹底しているのが面白い。あのセリフはまったく脚本の通り? そうです。あれしか逆に書けない(笑)。でもね、最初の頃は今見るとちょっと違うんですよ。別に意識して若者言葉を書こうみたいなのは特になかったんですけど、でも『オナモミ』とか見ると、セリフが堅いんですよね。 僕、一年くらい会社(編集プロダクション)勤めてたんですけど、そこの言葉っていうのが、すごいツボで。「こんなバカな言葉で話してていいんだ」みたいな。多分ね、その安心感があったんだと思います。それくらいから“山中語”みたいなことを言われるようになりましたね。『ホームラン』くらいからかな。あのあたりから、どんどんブロークンになってきた。語順とかめちゃくちゃ、みたいな。 だから『エーテル〜』のときまではあれ、完璧に脚本に書かれたセリフの通りなんです。役者がそれを崩したからといって僕は別にぶちキレたりとかしないんですけど、いつの間にか役者がそれを完璧にやれるようになっちゃった。 ただね、今回は演出の方法をちょっと一段階進めてるんですよ。だからセリフについても脚本の言葉を100パーセントそのまま喋っているわけではなくて、ちょっと崩れてたりもしますね ―ホラーの常道で、名作や古典、あるいはその中で生み出されたモンスターだったりをモチーフに、今流に解釈したりしてマニアはクスリと笑う、みたいなサービス精神ってありますよね。そういったことは意識します? 誰にも分からないと思うんですけど、一番最初の『オナモミ』っていう作品はドラキュラをモチーフにして作ってて、『アダム・スキー』はフランケンシュタインがモチーフ。『ホームラン』はゾンビで、『わるくち〜』がエイリアン……っていうのはね、一応あるんですよ。そういうのはやりますね。コンセプトとして。現代だったらそれは何なんだろう、みたいな。例えばドラキュラだったら封建領主で、そういう権力を現代で考えると親父であったりとか、忘れられない記憶がつきまとうとか、そういうことなのかなって。あるいはフランケンシュタインのように人をイメージで作り上げるとどうなってしまうのか、とか。『エーテル〜』からはモチーフは無いんですけどね。大枠としてボディー・スナッチャーものっていうのはあるにしても |
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| 山中流「男はつらいよ」!? | ![]() |
| ―ちょっと話が戻りますけど、さっき『わるくち〜』で「操られている人たちが塔の女性をイメージしているのが面白い」とおっしゃってました。そしてその話は『エイリアン』がモチーフになっている。…確かに『わるくち〜』は性、特に女性性というものを背後に感じましたが、そこはどういう意識で? なんとなくですけど、あれでやりたかったのは男性が妊娠させられる、ということなんですよね。虐げられてる男の人が卵を産みつけられるっていうのが、僕的にはすごく怖いなっていう感覚があって。あれ、袋をかぶった女の人が出てくるんですよね。それって塔の幻影なのかもしれないし、何なのかは分からないんですけど、あの人たちには自分の中に女の人のイメージがあって、そのイメージによってある種レイプされていくっていう。そういう立場に追いこまれるのが『エイリアン』だったら女の人なんだけど、現代だったら多分それは男だろうと思ったんですよ。 なぜそう思ったかというと、それは産業が変わったから。それこそ昔、産業革命から今まで、ギリギリ80年代くらいまでかな、そういう工業の社会とかだったら、まだ“男であること”みたいなものが通用したわけです。仕事として。だけど今は「エクセル使えますよ」みたいに、仕事の質が違ってきている。誰がそこで疎外されているかっていうと、実は男の方だったりするんじゃないかって思うんですよ。 実際、「いま男の子の学力が危ない!」みたいな話があるんですね。それはどういうことかというと、今の社会が必要とする能力――PCのスキルとか、細かい仕事をすばやく処理するみたいなことは、特に小さい頃は女の子の方がずっと得意なんですって。男の子みたいに、だらしないけどここぞという時に頑張れる、みたいなのはいま必要とされてないんですね。だから男の子は生きづらいっていうことなんですけど……その生きづらさみたいなのはね、『わるくち〜』だけじゃなく、結構【スロウライダー】のどの作品にも根底にあると思ってるんですよ。 …ま、こういうことを言うとなんか、僕すぐ女嫌いとかホモみたいにとられるんですけど(笑)、別にそれは無いですよ! |
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新作『トカゲを釣る』 |
| ―さて今作、第7回公演『トカゲを釣る』。話せる範囲で結構ですので、どんなお話なのか聞かせて下さい ある施設があって、そこはロの字型になった5階建ての木造の建物で、真ん中に穴がある。そこで“蝸牛”っていう怪物なのか分からないですけど、それを一人一人飼いながら修道院みたいな生活をしている――そういう施設での話です。あ、もちろん、登場人物全員、男です(笑)。で、彼らは“蝸牛”が外の何かから自分たちを守ってくれているから、すごく感謝してる。でも蝸牛を操作するとかは直接的にはできなくて、じゃあどうするかっていうと、おのおのに渡された“トカゲ”っていうのがいて、そのトカゲに告悔するんですよ。そうすると“トカゲ”の夢の中で“蝸牛”が動いていくっていう ―今作によせたコメントで山中さんは、いま、空洞化した地方の都市で「呟くように」生きている若い男に恐怖の気配を感じる、とおっしゃっています。この言葉について、少し解説して下さい いま、ネットとかで「酒鬼薔薇がどこどこにいるらしいぜ」とかっていうのが結構出てたりするんですよね。要するに、昔「キレる何歳」とかってありましたけど、その人たちが今、23歳とかになって出てきてる年なんですよ。あるいはその人たちが初めて会社に入ったりとか。何て言うんだろう……彼らがどういう人たちなのか、ちょっとね、分からないんですよ。 でね、地方っていま本当に厳しいというか、本当に何も無いんですよね。プチ東京化しちゃってるからかえって閑散としてて。アーケイドは全部シャッター通りになってるみたいな感じで、すごく寂れたことになってる。そういうところにいたらやっぱりね、精神だって病むこともあると思うんですよ。だからというか、今もう、特に地方では恒常的にブスって人を刺しちゃったりする事件が起きるじゃないですか。そういうのって何なんだろうって思う。殺しちゃうっていうのは。その「何なんだろう?」っていう疑問がまずひとつあるんです。 それと、その後のことへの疑問。ああいう事件があるといつも描かれるのは、その人が殺しちゃったっていうところと、その前のストーリー。そこの部分に関してはもう根掘り葉掘り、小学校のアルバムからそれこそ初めての性体験まで、何から何まで全部描かれる。でも彼らが実際にその後社会に出たとか、その後彼らが実際に生きないといけなかったということに関しては、あんまり言及されてないんですよね。僕が興味があるのは多分そこなんですよ。その後っていうのをどう生きるのかっていう |
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| 新しい企画 ――短編『ウォッチャーズ』 |
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| ―今回の公演期間中、3回だけ『ウォッチャーズ:監視者〜1st season〜』という作品が同時上演されますね。これはどういう企画なんですか? 『ウォッチャーズ〜』は短篇なんですね。短篇で、一人芝居ないしは二人芝居を作ろうと思ってます。どういう企画かというと「〜1st season〜」ってあるようにこれ、もしかしたら続いていくかもしれないんですよ。で、短篇なんだけど続き物をやって、一時間分くらいまとまったらDVDにまとめる。そうすると、今回は楢原拓さん(チャリT企画)が出てくれてるんですけど、楢原さんが出る同じ芝居に、例えば後藤飛鳥さん(五反田団)が出るみたいな、夢のような大河ドラマができていくんじゃないかって思って(笑)。そんなことをね、ちょっとやってみたいなっていう企画なんです。ちなみに内容は全然ホラーじゃないです。そういう、ホラーじゃないものもできるっていうところもまた、見せられればなと ―最後に、今作を楽しみにしているファンの方、もしくはこれから【スローライダー】に出会う方に一言 今回は作品の密度みたいなものをすごく上げています。と言ってもそれは見えないところでしてることだから表面にはなかなか現れないものかもしれないけど、とにかく浮ついていない感じなんですよ。今までの『わるくち〜』『エーテル〜』はちょっと実験的なところもありました。でも今回はもっと本筋みたいなものを推し進めていきたいっていうのがあるんです。それは演出家として役者ともっと対峙することであったりするんですけど、そこをすごく密にやっている。だからいつもよりフィジカルな感じというか――これまでは結構、「頭で考えてるでしょ」みたいに言われることもあったんですよ。そういう意味では今回はいつもより肉体的な感じになってる作品だと思います。トリッキーなものじゃなくて、真っ向勝負で見せられるものになると思っていますから、是非、【スロウライダー】を観たことの無い方にも観て欲しいですね |
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東京ローズから山窩まで。虐げられる側、疎外される側からの視点が【スロウライダー】の作品づくりの根底で働いている――世界観の奥行きを支える秘訣の一端を知った思いだった。とは言え、そうした奥行きや見えない答えは、観客の想像する楽しみのために残された領域だ。その領域を観客が積極的に活用したとき、【スロウライダー】の作品が醸し出す恐怖が、より生々しい手触りを伴って伝わることだろう。 そんな【スロウライダー】が“真っ向勝負”で挑む新作『トカゲを釣る』は、「スロウライダー入門にも最適」と主宰・三好佐智子さんも太鼓判を押す作品。是非ともこの機会に、彼らが掲げる〈ポスト・リアル〉なホラー世界に触れてみてはいかが? |
| 2006/3/7 文責・インタビュアー:北原 登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 | |
【山中 隆次郎 インタビュー2】
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