【山中 隆次郎 インタビュー1】
 【スロウライダー】の作品をすべて作/演出する山中隆次郎さん。静かな軋みを絶えず上げ続けるような気持ち悪さを持つ山中さんのホラー作品は、しばしば指摘されるように、背後にあるものを観客が想像し、補完することで初めて重層的な恐怖・不安を産み落とす。そんなホラーを作り上げてきた山中さんに、まずは【スロウライダー】の始まりから話を聞いた。
 山中さんが考える、ホラーの本質とは――?
山中 隆次郎

作・演出・出演

1977年生まれ。鹿児島出身。早稲田大学卒。
2001年、主宰・三好佐智子、俳優・芦原健介とともにスロウライダーを結成。
以降、同劇団の全作品を作/演出する。

2005年フジテレビ系『劇団演技者。』〜あたらしい生き物〜のオリジナル原作・脚本を提供。

ポツドール「騎士クラブ」では王子小劇場最優秀主演男優賞受賞。チェルフィッチュ「目的地」など個性派俳優としても活躍。
スロウライダーが
      動き出すまで
―山中さんは学生の頃から演劇を?

 ええ。早稲田の*【演劇倶楽部】に入って。それから大学終わるくらいまではずっと役者やってました。当時は1年で10本くらい役者として芝居に出てましたね。
 でも、大学4年の頃だったかな。僕が所属していたユニットが解散したんですよ。で、「どうしようかな」ってなったときに、僕も元々芝居を書いてみたいということもあったんで、それでまず、プロデュース公演という形で【スロウライダー】を立ち上げたんです。
 その一回目は今と全然違う、ホラーじゃない芝居をやったんですけど……とにかくね、その最初の公演がもう、大変だったんですよ(笑)。それで変な話、「このままじゃ引くに引けないよね」みたいなことになったんですね。
 それと、最初の公演の後に【ポツドール】の舞台に役者として出させてもらったんですけど、その時、役者紹介で所属が【スロウライダー】って出たんですね。これは【スロウライダー】を続けるのかどうかを問われているんだろうなって思った。その【ポツドール】の舞台には【THE SHAMPOO HAT】の児玉貴志さんとかいろんな人がいて、すごく刺激的で面白かったんですよ。だからというか、終わった時には「ああ、もう学生じゃなくなったんだな」って気がしましたね。それらのことがあって、ようやく【スロウライダー】を本格的にやろうかってなりました。そこからコンセプトも固まり、今の方向になったんです


―その一回目の時から三好さんと芦原さんは一緒?

 そうです。二人とも【演クラ】(演劇倶楽部)じゃなくて早稲田の別のところで芝居をやってたんですけど、お互いは知っていた。で、僕とあの二人は劇団が解散したり辞めたりっていう時期がちょうど重なったんですよね。それに三人とも、当時自分たちが観て面白いと思う芝居と、実際に自分たちがやっていた芝居にすごいギャップを感じてもいた。当時ってトラウマの話とかってすごい流行ってたんですよ。そういうのを否定はしないけど、別にそれをやりたい訳じゃないよねって話をよくしてました。じゃあ、やりたいことをやろうってことで【スロウライダー】って始まったから、最初は本当に、動員とか考えないで、「大いなる自己満足でいいじゃん」みたいな感じだったんですよね。「いま、これがウケるぞ!」みたいな考えはまったく無かったなぁ

※早稲田大学演劇倶楽部:同大学でも最大規模の活動を展開する演劇サークル。当サイトでも過去に取材したinnerchildロニーロケットをはじめ、カムカムミニキーナ、オハヨウのムスメ、ポツドール、水性音楽など、現在の小劇場の第一線で活躍する劇団を多数輩出。通称・演クラ。
ホラーが描くもの
―【スロウライダー】の一番の特徴が、モダン・ホラーに特化した芝居作り。山中さんはホラー・マニア?

 実はね、そうでも無いんです。僕、すっごいホラー・マニアみたいに思われてるんですよね。なんか、“ドS(エス)のホラー・マニア”みたいに言われることがたまにあって(笑)。初めて会った人に「山中さん、ドSなんですよね!」みたいな(笑)。意味が分からないんですけど。“ドS”ってそれ、性格じゃなくて性的な範疇のことだろって。なんで初対面のお前に性癖指摘されなきゃいけないんだって(笑)。
 それはともかく、元々は僕、「ホラー、チョー好き!」って感じではなかったんですよ。ただ、ある視点で観始めてからすごくホラーが面白くなってきた。その視点というのは、ホラーっていうのはそのときの社会の構造において、人が漠然と怖いと思っているものを表現するものなんだ、ってこと。例えばゾンビものってありますよね。あのゾンビのファースト(『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』)はベトナム戦争のこととか、公民権運動の話とかっていうものメタファーというか、それにおける人の、ある心性・心象をおそらく表現したものなんですよ。だからこの前やってた『ランド・オブ・ザ・デッド』を観た時にも「あぁ、本当にこの人は分かってるなぁ」って思いましたね。ゾンビっていうのはその時代時代でどういう層の人が虐げられていたのかを非常に見事に描いてて、寓話として本当にすごくよくできてますよ。そうしたことはゾンビに限ったことではなくて、例えば『エイリアン』なら性的なこととかね。あれ、女性なんですよね。女性が社会の中でどういうふうに抑圧されているのかっていうのと、その時代時代の女性像を取り込んでパート4までやってる。そういう表現の方向がね、面白いと思ったんですよ。そういうホラーをやりたいと思った。

 だから逆に、『呪怨』みたいに「人を怖がらせよう」ってだけのものはあんまり面白いとは思わないですね。……本当はこんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、ホラーって別に、そんなに怖くなくてもいいと思ってるんですよ。不安であるとか差別であるとかの、そこにある何か……それを言葉には出来ないんだけど、ある一定の感覚、それは負の領域に属する感情だと思うんですけど、そういう名付け得ないものをあぶり出すようなことができればいいのかなって


―つまり、山中さんにとってホラーは負の領域から時代を描く手段である、と

 そうですね。だから例えばいま、社会の構造の中でどういう人たちが虐げられているのかとか、何となくできてる階層みたいなものだとか、そういったことから考えたりします

―だからでしょうけど【スロウライダー】の作品にはすべてが理解されて解決、という意味でのカタルシスは無いですよね

 ああ、カタルシス、無いっすね(笑)。なんかね、実際作っているときは裏の話とか、あるシーンの前にあった話とかを作ってるし、実際にそういうシーンもあったりするんですよ。でもなんかね、説明がすごく巧みでカタルシスがあって、って芝居はいっぱいあるじゃないですか。だからそこはもう省くというか、観てくれた人が自由に補完できればいいのかなって思ってるんです。考える余地が無いほど本当に脚本が巧みで、っていうのもそれはそれですごい芸だと思うし面白いんだけど、でも、それを至上主義とするような感覚には強い抵抗があるんですよね。なんか、そういうファッショみたいな空気あるよなぁ、って
新たなスタイル獲得の試み
―ホラーという部分では一貫してますが、昨年の『わるくち草原の見はり塔』を境に、作風自体は少し変わってきています

 始めたばかりの頃は“静かな芝居”のフォーマットでホラーをやるっていうコンセプトがはっきりしてたんですよね。でも、やっぱり続けていくうちに人ってそういう、フォーマットの模倣に飽きてくるんですよ。

 『わるくち草原の見はり塔』の前までは本当に静かな芝居のフォーマットでやってました。でも、平田オリザさんのああいう芝居を他にもいろんな若い人たちがやり始めてたこともあったし、*ガーディアン・ガーデンに出場したことでスタイルの重要性に気づいたこともあって、それでもうその部分、フォーマットの模倣という部分にはあんまり興味が無くなったんですよ。それでね、もう現実なのかどうか全然分からないようなものを作ってみようっていうのと、『ホームラン』までの三作でやってきたことのエッセンスだけを抜き取ってやったらどうなるんだろう、っていうのが合わさってできたのが『わるくち草原の見はり塔』だったんです。
 …僕ね、『わるくち草原の見はり塔』、大好きなんですよ。でも思ったよりリアクションが無いんですよねぇ。なんか説教の方が激しい(笑)。「もっと共感を得られるように整理して書かないといけないよ」とか。…僕なりに整理はしてるんだけどなぁ(笑)。三浦さん(三浦大輔・ポツドール代表)も「あれは最高傑作だったんじゃないか」っておっしゃってくれたけど、同時に「意味が分からない」って(笑)


※ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル:株式会社リクルート企画・運営のコンペティション・ギャラリー《ガーディアン・ガーデン》が主催する演劇コンペティション。【スロウライダー】は2004年度の二次審査まで進出。
→【山中隆次郎インタビュー(2)
2006/3/7 文責・インタビュアー:北原 登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

【山中 隆次郎 インタビュー1】

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