BACK STAGE REPORT【フライングステージ】
〜SALON つながる おもい〜【関根信一インタビュー・稽古風景】
 ゲイであることをカミングアウトしている劇団フライングステージ。
 その第31回公演『サロン』がいよいよ幕を開ける。
 原作は人気漫画家・桜沢エリカが90年代に発表した同名作品。
 明るく生きるゲイたちと孤独な少女の出会いを瑞々しく描いて好評を博した、知る人ぞ知る名作だ。
 主演に劇団鹿殺しの菜月チョビを迎えるなど、意外性溢れるキャスティングも見所となる今作は、ゲイという枠を超えてコアなファン層を広げている劇団フライングステージの入門編としてもオススメの一本となりそうだ。
 この新作公演を前にして、作・演出の関根信一さん(フライングステージ代表)に話を聞いた。
関根信一

東京都葛飾区出身。作家、演出家、俳優。劇団フライングステージ代表。
旗揚げ以来、同劇団のほとんどの作品で作・演出を手がける。
俳優としては自劇団のみならず、絶対王様など多数の舞台で客演もこなす。
「東京レズビアン&ゲイパレード2002」実行委員長。日本劇作家協会理事。























 柔らかな曲線を描くドレスに身を包んだ、劇団フライングステージ主宰・関根信一さん。なんでもこの衣装、稽古着なんだとか。ゆったりとした物腰と相まって、纏(まと)うはエレガントなオーラと……スパイシーなタイカレーの香り!?
 ――実は直前まで行われていた前半部の通し稽古に“ゲイのみんなで賑やかに食卓を囲む”というシーンがあり、本日のメニューがタイカレーだった、という次第。
 もっとも、化粧をして舞台に立つ予定の俳優たちには「辛すぎて汗をかく!」とカレーは不評だったが……


 原作となった桜沢エリカさんの漫画『サロン』には、みんなでご飯を食べるシーンが多く出てくるんですね。で、そこはこの舞台でも再現したいと思ってるんです。一人じゃなく、もう馬鹿馬鹿しいくらいの人数で食卓を囲む。そんな風景を作ってみたいなって。それで今日はタイカレーを用意したんですけど……カレーはやめた方がいいみたいですね(笑)。
 その原作は1993年、田舎から東京にやって来た孤独な高校生の女の子が、ゲイのコミュニティーに接することで元気を貰って帰るというお話です。…でも実は現在、もうこういうゲイのコミュニティー的な集まりってあまり必要とされてないんですね。今はメールやインターネットが発達したおかげで、「自分は一人だ」って思う同性愛者はあまりいませんから。インターネットで情報は手に入るし、メールで知らない人や知らないサークルとも連絡が取れちゃう。そんな現在(いま)と、この物語を繋げたい。そう思って今回の芝居では時代設定を今からちょうど10年前の1997年にしました。そして芝居の最後では2007年を描く、という構成になっています。

 10年前って、まだポケベルの時代なんですよ。だからあの当時の同性愛者、ゲイはやっぱり、人と会いたかった。人と会うことがとっても大事でした。そんな、人と会うことの大事さの中に孤独な女の子が入ったからこそ、その女の子は変わっていったわけです。
 だからね、みんなで食卓を囲むシーンというのは是非やりたかったんですよ。そんなゲイたちの、というか世の中全体の人と人との繋がりみたいなもの。それがメールや携帯のおかげで「会わなくても済んじゃう」という風になってしまったこの10年――その間の人同士の関係性の変化みたいなものが、この芝居全体のバックボーンとしてあるんですね。
 具体的に言えば原作の、孤独な女の子がゲイから元気を貰うという部分はこの芝居でももちろん描きますけど、それだけじゃなくて、2007年になった時には孤独でバラバラになっているゲイたちが、逆に女の子から元気を貰うっていう形の作品にしたいと思っているんです。そうじゃないとバランスが悪いし、私たちがやる意味が無いですからね。

 確かにこの10年でコミュニケーションの手段は劇的に変わった。そして、作中で描かれる同性間の結婚に対する社会の認識も。
 「2007年だともう、これは現実なんです。それを1997年に描いた桜沢さんもすごいですけどね」――それも時代設定をずらした理由のひとつだと、関根さんは語った。
 続いて関根さん、今作で描きたい“人間ドラマ”の部分に関してこんな風に話してくれた。


 ゲイのコミュニティーに外から人がやってきて、そこで何かを貰って帰るっていう話は古今東西、とくに日本では一杯ありますよね。『おこげ』とか『きらきらひかる』とか、最近では『メゾン・ド・ヒミコ』とか。映画は概ねそういうものじゃないでしょうか。ゲイを描こうとするときに、何かよく分からない所に探検隊のように外から誰かが入って行って、その人に観客の視点を重ねながら描く。そういう作品はとても多いんですよ。でも、それってある意味、秘境探検モノとまったく同じでしょう。あるいは西部劇がネイティブアメリカンの気持ちには絶対に立ち入らないのと一緒です。逆からの視点が無くて、一方通行でしかない。
 だからこそ、私たちがやる以上はそれだけではいけないと思っているんです。私たちの中に外から来た人が元気を貰って帰るのならば、私たちもその人から何かを貰わなきゃいけない。それは人間ドラマとしては当たり前のことだし、私たちがこの作品を今、敢えてやることの面白さもきっとその辺にあるんだろうなって考えています。

 人と人が関わる以上、貰うだけじゃなく与えるものもきっとあるはず――その想いを込める芝居の原作に『サロン』を選んだ関根さん。リアルタイムで読んでいたというだけあって時代的な共感も特別で、話は自然と原作が描かれた90年代の頃へ――。

 私が桜沢エリカさんにシンパシーを感じるのは――あの人は90年代のゲイシーンの中に飛び込んで、その中でとても楽しく生き生きと、ドラァグクイーンと同じように自分も着飾って、ゴールドとかいろんなクラブで遊んでいた。間違いなく同じ時代を生きていた。で、その“自分が生きた時代”みたいなものを作品にしている、という所なんです。
 私にとっての90年代は、みんな若くって、人と人との繋がりがあった。それが10年経ってバラバラになった。そんな今、「“サロン”って何なんだろう?」って考えたときに、一人ひとりが自分らしく生きる、自分として息ができる、あるいは自分が正直に生きられる、しっかり一人でも生きていける――そういう場所として、みんなが集まるところなのかなって思ったんですね。その“サロン”っていう言葉の、若干の懐かしさみたいなもの。それが僕の中ではとても大きいんです。フライングステージは基本的にゲイの仲間だし、ゲイの友達が一杯いるわけなんだけど、それでも昔の方がもっともっと、顔を合わせたかったかなって思う。で、そんなときに、少なくとも10年以上前はとにもかくにも新宿二丁目に行かないと何も始まらなかった。そういう時代が長かったわけです。でも今は全然そうじゃなくって、ネットで会えちゃう。そういうところで人と人との繋がりの希薄さみたいなものを感じるんですね。

 もっとも、だからと言ってノスタルジーだとか、「今と昔、どっちがいい」だとかっていう話をしたいわけではないんです。…ただね、忘れちゃうじゃないですか、10年前のことって。誰にでも10年前はあるんだけれども、忘れてますよね。10年前、ダイアナ妃が死んで、香港が返還されて、『もののけ姫』がヒットした。そういうことがあったことは憶えてても、97年がどういう年だったかなんてことはなかなか考えない。そんなこともね、ちょっと自分なりにマークしておきたかったんですね。
 多分、桜沢さんにとってもこの作品は実際に連載していたあの時代のマークだと思うんですよ。自分の中で印をつけて「この年にはこういうことがあった」っていう風な。で、私も今回、2007年から1997年っていう時代を振り返って「あのとき自分はこうだった」みたいなことをマークしているような気がするんです。それはこの芝居のドラマの部分とは全然関係無いんだけど、ゲイ業界に身を置いている私のやや個人的なマーク。そんな思い入れがあるのは確かですね。
         
 そうしていよいよ姿を現す舞台版『サロン』。当初の予定だとこの作品、劇団フライングステージの十八番でもある“なんちゃってミュージカル”になると聞いていたが、稽古を見る限り、いささか趣きが異なる様子。

 確かに当初の企画では全編をミュージカルにするつもりでしたけど、お話がわりとヘビーなところに行きそうだったのでセリフ劇に方向転換しました。もっとも、完璧なセリフ劇ってわけでもないんですけど。芝居の真ん中にはショーを入れて、そこだけちょっとミュージカル的なことをしようっていう構成になってるんです。そうやってさり気なく“なんちゃってミュージカル”も入れたので、「それで許してね」みたいな(笑)。そこではみんな歌う気満々。客演の菜月チョビちゃんも劇団鹿殺しでガンガン歌っている人で、モチロン今作でも歌ってくれます。だから最終的には何か“お気楽極楽”なものになるんじゃないかと思いますね。
 ――私たちはね、“ミュージカルな人たち”なんですよ。世界共通でゲイはミュージカルが好きで、それは日本も例外じゃない。でもチョビちゃんはミュージカルよりはロックなのね。で、全編をミュージカルにしちゃうと、菜月チョビという女優さんの歌のパワフルさ加減とかが薄まっちゃう。そんなこともね、全編ミュージカルにしなかった背景にはあったんです。

 冒頭のシーンの稽古では関根さん演じるドラァグクイーンのように原作には存在しないキャラクターも登場する一方で、語られるセリフは思った以上に原作に沿ったものが多かったが――

 そうなんです。やっぱり漫画のセリフってものすごく凝縮されていて、敢えて他の言い方を探しても結局そこに落ち着いてしまうんだって分かりましたね。
 それと、この芝居ではもちろんどこかで原作を大きく踏み外すわけです。例えば私の演じる役もそう。あるいは原作で描かれなかった結婚式の前のくだりも描いています。そうやって最終的には原作と全然違うことをやっちゃうから、同じでいけるところは同じにやらせてもらおうって思ったんですよ。会話はそれでちゃんと成立しますからね。
 ただ、桜沢エリカさんはモノローグの部分も本当に上手くて切ないので、最初は今よりもっと正面向き――チョビちゃんがもっと前(客席)を向いて語る芝居にしようかとも考えたんですけど、全編それになっちゃうし、漫画のモノローグは舞台上のモノローグとしては微妙に成立しないということに気がついたんでやめました。この辺は演劇の中で語られる文体と漫画の中で語られる文体の違いなんでしょうね。

 原作との相違点。この10年で変わったもの。そして、フライングステージだからこそ描ける、ゲイの側から見たコミュニケーション――見所たくさんのこの舞台だが、関根さんからはこんな見所も挙げてもらった。

 原作を読んでいらした方が大勢いると思いますけど、その原作に出てくるオカマたちの言いたい放題みたいなところを、実際に声を出してゲイが演じる――まぁ、ゲイじゃない俳優さんもいますけど――その面白さを楽しんでもらいたいですね。
 他の劇団でゲイを描く時って、過剰なオネェ言葉だったりっていう部分とか、色々あると思うんですよ。だけど今回、初めて出演して頂くヘテロセクシャルな俳優さんたちには「ゲイとかなんとか、そういうことはまず置いといていいから、“関係”を作りましょう」って言って始めたんです。だから、他所で「ゲイがたくさんいる中に女の子が来た」という芝居をやったら「すごく薔薇色で花園ね!」みたいな華やかなイメージになると思うけど、この芝居はそんな花園じゃありません。でもちゃんとそこには、すぐ隣にいるような、身近な存在としてのゲイが一杯います。だからこそ余計に観ている人も、チョビちゃん演じる“ナオ”という女の子と同じような気持ちで、この人たちから元気を貰えるかもしれません。私たちは演劇人なので観て下さる人たちに何かを持って帰ってもらいたい――でも、“ナオ”がゲイたちにも何かを与えるのと同じように、私たちもお客様から何かを貰いたいって思うんです。そういう関係、持ちつ持たれつ、みたいな。そんな風に楽しく、面白い時間を過ごせればいいなと思ってます。是非、皆さんにも楽しみに来て頂けたらいいですね。
 あと、菜月チョビちゃんのパワフルさも見所です。東京で初めての客演だそうですけど、一緒にやってて本当に面白いんですよ。その菜月チョビちゃんの他流試合的な、しかも、思いっきり異種格闘技みたいなところも楽しんで頂きたいですね。

 奇しくも出た「異種格闘技」という言葉。それは菜月チョビさんのみならず、オーディション組も交えたキャストの顔ぶれ全体を見て感じる率直な印象でもある。
 最後に関根さん、この座組みに触れて、今作へよせる熱い思いを聞かせてくれた。

 今回は本当に、これまでやってきたことがバラバラっていう人たちが集まっているんですね。でも、バラバラだからこそ、この話が含んでいる“人と人との繋がり”に届くのかなって思うんです。ぶつかる部分を残しながらも「コミュニケーションしようよ」というラインに、みんなで並べているのかなって。だからオーディションで集まったこの座組みは、お話的には良かったと思ってます。逆に、うちの劇団と質が似ている人たちを集めたら、この「バラバラだけど繋がってるね」「繋がりたいんだね」っていうイメージはなかなか出てこなかったかもしれないですね。
 今はまだ、そのバラバラなものをどうまとめるかという問題も残ってるんですけど、でもそれがそのまま“想い”というか“祈り”になっているんですよ。お芝居って“祈り”じゃないですか、作り手としては。どうしても伝えたい、どうしても祈っていたい――自分たちが考えていることを届けたい。それは神様にでもいいし、世の中全体にでもいい。その“想い”“祈り”は多分、「みんなで伝えたいね」「お互いに伝え合いたいね」「伝え合えていることを確認したいね」ってことだと思うんです。この作品の世界にあっては、集まっている人たちがバラバラになることの寂しさとかっていう部分が描かれるんですけど、作品をつくっていく上で感じるのは、バラバラな、お里の違う人たちが“繋がれる”っていうことの確認だとか、その嬉しさだとか、その喜びなんだ――そう思うんですよ。
 かつてあった場所。繋がりたいという想い――10年経った今、すべては変わってしまったのかもしれない。いや、もしかしたら本当は、何も変わっていないのかもしれない。
 それを確かめに、ゲイだノンケだなんてことはひとまず置いておいて、是非“サロン”へと足を運んで欲しい。劇団フライングステージが祈りを込めて贈る第31回公演『サロン』――梅雨空を吹き飛ばす開演のベルは、もうすぐだ。
2007/7/6   文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

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