BACK STAGE REPORT〜はみでるもの はみだすおもい青年団若手自主企画Vol.30 World's end〜【西村和宏 インタビュー】
 初めての《若手自主企画》に臨む西村和宏さんに、今作に至るまで、そして今作でやりたいことなどを率直に語ってもらった。自身の立ち居地を踏み固めながら進む西村さんが、この作品を通して具現しようともくろむ“チャレンジする意識”とは?
西村和宏(にしむら・かずひろ)

1973生まれ 兵庫県出身

1999年、劇作家・演出家川村毅氏が主宰する
劇団第三エロチカに俳優として入団(2003年退団)。

2001年に劇作家・演出家山田裕幸氏が主宰する
ユニークポイントのワークショップに参加。
そこで知り合った俳優たちと劇団サラダボールを旗揚げ。
以降、同劇団全作品の演出を務める。

2005年、青年団に演出部として入団。
青年団第49回本公演「砂と兵隊」(作・演出 平田オリザ)
の演出助手を務める。また、俳優としても青年団リンク作品等に出演。
青年団に入るまで
      / 入ってから
――西村さんにとって、今回の作品が【青年団】の演出部としては2作目?

 そうですね。でも※前回は短編だったので、今回が初めてと言っていいかも知れません

※Osaka Short Play Festival 2006 参加作品『ボタン』

――その新作の話の前に、まず西村さんのこれまでの演劇との関わりについて教えて下さい。そもそも演劇の世界に足を踏み入れた経緯は?

 僕、なぜか小っちゃいときから「役者になろう!」って思ってたんですよ。頭のおかしい子だった(笑)。それで、芝居がやりたくて22〜23歳のころ東京に出てきたんですけど……小さい劇団に入ったり入らなかったりで、プラプラしてました。だから、真面目に演劇を始めたのは【第三エロチカ】に入ってからですね

――そして、自身の劇団【Saladball(サラダボール)】を立ち上げて、その後【青年団】演出部へ。【青年団】に入るきっかけは?

 自分で劇団を始めて、そのときに参考として読んだのが平田オリザさんの本だったんです。…衝撃的でしたね。それまで、演劇の理論をああいう風に言葉にしている人はいなかったですから。それで、すごく影響を受けて……もう旗揚げの時なんて、本に書いてあることをそのまま稽古場で喋ってましたからね(笑)。
 その後、ある程度自分でやってきて、やりたいことも段々見つかってくる中で、バッタモンでやってきた僕としては(笑)、とにかく1回、実際に平田さんに会ってみたいと思うようになって。それで入団試験を受けたんです


――そのときにはもう役者から演出家へと目標を変えていた

 そうですね。【青年団】に入ってからもたまたま声をかけてもらって役者として出たりもしましたけど、基本は演出の方にシフトしていこうと

――ちなみに入団試験ではどんなことを?

 演出部だと、最初に作文。お題が複数あるんですけど、それを提出して。そのあとに、二次面接で平田さんと直接面談しました。で、その場で即決。…驚きました

――実際に入団してからは研修のようなものは?

 演出部は基本的にほったらかしなんですけど、俳優のためのワークショップに参加する形で三ヶ月くらい。そこで平田さんの、一般向けに外部でやっているようなもの+α、という感じで授業のようなものも受けました。現代演劇についてや、アート・マネジメントの話もそのときに聞きました。で、集団創作の発表会みたいなものを3回ぐらいやって――という具合でしたね
押さえつけのない
    若手自主企画
――今作は《青年団若手自主企画》。これは具体的にどのように位置づけられ、企画運営されるものなのでしょう?

 【青年団】の本公演とは別のラインで、《青年団リンク》と《若手自主企画》というのがあるんですけど、《青年団リンク》というのはもう完全に批評の対象となり得るもので、本公演と同列に扱われます。《若手自主企画》というのはその“手前”ですね。
 具体的な筋道としては、まず、僕みたいに入って間もない演出部の者――あるいは俳優でもいいんですけど――が企画を立てて、【青年団】内で賛同者を募るんです。「こういう企画で、こういう本で、こういう時期にやりたいのだが、どうだろう?」って、俳優一人一人に声をかけていく。で、翌年度の前期分・後期分と、年に2回の企画提出期限があって、それまでに希望者は平田さんに直接企画を提出するんですけど、そのときには既に企画に必要な人員の8割の賛同者を集めていないといけない。…これってシステムとして良く出来ていますよね。というのも、演出家というのは何よりもまず俳優を説得できなきゃいけないわけで、例えば10人出る芝居の企画で8割、つまり8人も集められないようじゃ演出家として駄目だよ、ということでもありますから。
 で、そうやって8割以上の賛同者を集められた企画について、平田さんは企画書を見て、予算のチェックをして、場合によってはスケジューリングをしてくれます。ただ、作品にはまったく口を出しません。昔はそうではなかったらしいんですけど、今はもう、そこはある程度信用してくれているんですね。押さえつけがまったく無い、だからこそ新しいものが生まれる可能性もある。《若手自主企画》というのはそういう企画でもありますね


――独立採算制?

 そうです。自分たちで予算組みから何から、すべてやるのが基本です
なんとなく
       にじませたいもの
――さて、今作、『World's end』について。西村さんの劇団【Saladball】でもコンビを組む鈴木大介さんの作ですね

 ええ。僕と鈴木君のスタイルはちょっと変わっていて、最初から二人で話し合いながら作るんですよ。書くのは鈴木君ですけど、プロットなんかは一緒に考えます。大体の場合、鈴木君が「こういう設定はどう?」って言って来て、僕が「それ面白い!」ってなったら、そこから時間をかけてやりとりしながら作っていきます。
 それで今回、まず最初にあったのが「2人しか居てはいけない空間に、3人いたら面白いよね」っていう一言。そこから1年かけて、いろいろな要素を詰め込んで作りました。鈴木君がユーゴスラビアの内戦の話に興味を持っていて、それを僕がアフガニスタンのイメージにおきかえて取り入れて、とか


――どんなお話になるのでしょう?

 とある架空の国――その辺はぼかしちゃってます――に、ジャーナリストや学生、ボランティアの若い子たちがいて、内戦とはまったく関係なく、くだらない話をしている(笑)。シーンはホテルと路上と、舞台の核となるシェルター。そのシェルターは5人用なのに6人の男女がいるため、CO2濃度がどんどん上がっていく。このままではやばい。誰か一人が死ぬか、それとも全員死ぬか――
 …というようなことを、ユーゴスラビアなどの内戦と照らして、対比させられないかな、と。すっごいくだらない、どうでもいいような話ばっかり出てくる中に、なんとなくそういうことをにじませたいと思ってるんですけど……いかんせん、内容が内容なんで段々、最後の方は暗くなってしまいました。ただ、それでも最後には希望を見せたいなと考えてますけど

模倣では終わらない
――チラシにあった「リアルとか、リアルでないとか、もうどうでもいいやとか思ったりもする」という言葉が【青年団】らしくなくて面白かったんですけど

 …そう思ってもらえたら作戦通り(笑)。
 やっぱり、実際に【青年団】に入ってみると、あれだけ憧れていた平田オリザさんが“親”として居るわけですよ。そしたら“子”としてはどうしても、勝てないまでも何かしら“親”に一矢報いたくなるじゃないですか。何でもいいからチャレンジはしていこう。百種目あったらその中の一種目だけでもいいから、どんな手を使っても平田オリザさんに勝ちたい――そういう思いがやっぱりあるんですよね。オリジナルの真似事だと思われるのも悔しいですし、どうせなら新しいエンターテイメントを作りたい。…それで、勝手をやらせてもらってます(笑)


――そうしたことって、演出部の他の方たちとも話します?

 演出部の人間ってね、お互いめったに会わないんですよ。座組みが一緒になることがないですから。年に何回かアゴラで顔を合わせる程度で、ゆっくり喋ることはほとんど無いんです。
 でも、そんな中でも多田(淳之介)さんとは前に、「やっぱり平田オリザさんの模倣では終わりたくない、何か違うことを実験的にやりたい」みたいな話はしましたね
演出家として求めるものと
   さじ加減
――御自身のブログで、「演出家の環境として新しいレベルに来た」と感慨をもらしていますが、具体的に今回演出をしていて思うことは?

 正直に言うと、【Saladball】という集団を立ち上げた時……本当にみんなヘタクソだったんですよ(笑)。どうやったらそのヘタクソなのをお金を取って見せられるものにするか、その方法を稽古場でいつも考えてました。で、結局、セリフを全部短くして、抑揚もつけないでスピーディーに役者に言わせてたんです。そうすると上手いか下手かが見えなくなって、そこにリアリティーが生まれてきた。だからこれまでは、それが僕の方法論だったんですね。
 でも、ここ(青年団)に来ると、俳優たちがみんな普通に、リアリティーがあるように喋るんですよ。日常の身体でありながら、戯曲の会話を成立させてしまう。それはすごいことで、「やっぱり違うところに来たんだな」と。でも、じゃあそこで僕は何をするのか、何をしたいのか――それがいま、すごく試されていると思うんです。
 実際、現在の稽古でも、皆いとも簡単に会話を成立させてしまう。「すごいな」「上手いな」って思います。でも、「これを観ていて、俺が面白いか?」という部分もやっぱりちょっとあるんですね。だから、そこら辺のさじ加減にいま、挑戦しているところです。とにかく、演出家としての第一歩というか、「ようやくここに来た」という感じですね

――そうした西村さんの「やりたいこと」に対する俳優たちの反応は?

 多少の戸惑いはあるようですね。そもそも鈴木君の書く戯曲って、セリフのスピード感がすごく速いんですよ。僕はその、ちょっと類を見ないリズムとスピード感が好きだし、それが何か現代を表しているとも思っています。だからそのスピード感は大事にしたいと考えているんですけど、俳優はやっぱりそのセリフにまず、戸惑っているみたいです。
 ただ、僕は俳優に苦手なことを押し付けるようなことはしたくないですし…だからそこは、やっぱりさじ加減ですね。稽古を重ねるうちに僕と俳優たちがお互いに近付いていく、その感覚は楽しいですよ
――では最後に今作、『World's end』の見所を

 見所は…可愛い女優さんがいっぱい出ていること(笑)。今回のキャストは一人を除いて全員女性なんですけど、実は【青年団】史上、最も若い《若手自主企画》になっているんです。平均年齢は多分、23歳くらいですからね。だからというか、【青年団】のみんなには「エロ企画だ」とか、もう散々言われてて…(苦笑)。

 ま、それはともかく――。
 この作品では、僕が興味を持っている現代史や内戦や宗教といった問題を、くだらない会話の中にうっすらとだけ入れています。…世界ではたくさん内戦が起こっているけれど、日本人って宗教を知らないから全然分からないんですよね。
 戦争について知ろうと思ったら、宗教を知らないといけない。そして、そこに触れることは、きっと芸術にもつながっていく――そう僕は思っているんです。だから、この作品が皆さんにとっても何かを考えるきっかけになればと思っています。そうしたことも含めて、本当に楽しめる作品になっていると思いますので、是非ご覧になって頂きたいですね
 真似事では終わりたくないという思い――それは、【青年団】の中にいるからこそ一層強い感情となって芽生えるのだろう。西村さんは自身のうちに“枠からはみでる部分”を見出す現在の作業を、とても楽しんでいる様子だった。
 そんな“若手”のチャレンジがどんなエンターテイメントへと昇華されるのか、是非とも期待を込めて見届けたい。
2006/9/10   文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

BACK STAGE REPORT〜はみでるもの はみだすおもい青年団若手自主企画Vol.30 World's end〜【西村和宏 インタビュー】

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