BACK STAGE REPORT〜PORT+PORTAIL 『「空の余白」 夏目漱石「夢十夜」より』【稽古REPORT】〜
演劇とコンテンポラリー・ダンスの融合……果たしてその稽古場とはどのような様子なのだろう? 
ここからは、【PORT+PORTAIL】が常用している巣鴨の稽古場から、公演間近の彼らの表情を紹介する。
彼らの舞台を観たことがない人にも、稽古の様子から本公演のイメージを僅かなりとも捉えて頂ければ幸いだ。
にしすがも創造舎。廃校を演劇練習場に転化した、都内ではちょっと珍しい施設である。その3階の一室が【PORT+PORTAIL】の稽古場になっていた。
室内には黒板もあって、学校時代の面影を色濃く残す。広さは子どもの頃に通った学校の教室を想像してもらえばいい。昔は随分広く感じた教室も、大人になってみると存外狭かったのだと気づかされるけれど、それでも少人数の稽古には十分なスペース。
床にはテープで大きく円が描かれている。今作の発表の場は大阪現代演劇祭<仮設劇場>WA。円形の舞台を観客が思い思いの場所から楽しむ趣向になっている。床のテープはその円形舞台を採寸したものだろう。
その円の中で、5人の役者達が等間隔に立ってダンスの確認をしていた。今日は井上真鳳さんがお休みらしい。
ちょうど直すべき部分が見つかったところのようだ。振りをなぞるように繰り返していた5人の輪の中から、Kim Miyaさんがすっと外に出る。同時に、演出席に座っていた林未知さんが立って席を空けた。その席にKimさんが自然に腰を下ろす。…この一連の動きに、【PORT+PORTAIL】の思考の流れが見て取れた気がした。
全体を見るのはもちろん演出の林さん。だが、ダンスの作り・身体の動きに関してはKimさんがイニシアティヴを執る…そういうことのようだ。
Kim Miyaさんが身振りを交えつつ、役者たちに指示を出す。
「もっと動きをハッキリさせて。それと、もうちょっと‘土っぽい’感じが欲しい」
……土っぽい? いきなりの難解な注文に役者達がどう反応するか注目していると、本居蓮さんがしばらくダンスの動きをなぞってから、パッと顔を上げた。
「あ、わかった!」
…こうした意思の通りの良さはさすがだ。なにせ林さん・KimMiyaさん・本居さんは高校時代からともに舞台を作ってきた仲。ついでに言えば、KimMiyaさんと本居蓮さんは姉妹でもある。
さきの演出席交代の場面といい、こうした連携の良さがこの団体の大きな強みなのだろう。

このダンスの確認を終えたのち、稽古は既におおかた作り込んだシーンの通し稽古に進んだ。
白い衣装に着替えた役者たち。彼らの他に、舞台には椅子だけ。
「いらっしゃませ!」
その一言から、世界が突然に動き出した。
『夢十夜』の「第八夜」。一人称の「自分」が床屋の鏡越しに往来を眺めるという、もどかしい夢の話。その原作の不思議な味わいはそのままに、けれど【PORT+PORTAIL】の「第八夜」はとにかくはげしい。どこかコミカルな動きを交えながら、様々なものが目まぐるしく変化(へんげ)していく。
「自分」・往来を行く人・床屋の店員…と、役者達の存在がころころと入れ替わる。芝居場もあちらからこちらへと息つく間もなく動いていく。鏡のこちら側と向こう側の境界はあっという間に崩れ、世界が凄い勢いでズレていく……。
…至近距離で観ていると覚えず軽い酩酊感に捕らわれる、そんな幻想奇妙の「第八夜」だった。
通しが終わる。円形の舞台をいっぱいに使ってはげしく動き続けた役者たち、その上気した顔に汗が光る。一話分でこの運動量は驚きだ。
役者たちの息が整うのを待って、林さんがダメを出す。タイミングの早い・遅いといった具体的な指摘から、はげしいダンスの中に一瞬生じた間(ま)など、役者が見せた動きの意味を問うことまで、指摘は広くに及ぶ。そして問題解決のために林さん・Kimさんのみならず、メンバー全員でブレイン・ストーミングが始まった。
「健太郎、ここで先に出てく?」「いや、行かない。それより…」
「そこ、止めないでやってみたら?」「うん、その方が気持ちイイ。キレイ」
身体の動きを交えつつの模索なので、ブレイン&ボディー・ストーミングとでも言った方が正確か。
とにかく、それぞれが対等に意見と動きを出し合う様は見ていて気持ちがいい。
その対等な雰囲気を増幅させているのが紅一点ならぬ黒一点(?)の瑞木健太郎さん。
過去【PORT+PORTAIL】の作品に3度出演しているだけあって、率先して意見を皆にぶつけていく。
須藤幹子さん、兼子益美さんも負けてはいない。2人は林さんの後輩だというから、やはり気心の知れた仲だ。こちらも遠慮なく思ったことを口にしている。
そんな対等な合議ではあるが、やっぱり最後に可・不可の判定を下すのは林さんだ。
活発な議論の末に出された幾つかの提案。それに林さんがうなずいたことをもって、この「第八夜」の詰めが終わった。
続いては「第十夜」の稽古。通しの前に部分部分の動きの確認が入る。ここでも互いの動きを歯に衣着せず論じ合うメンバー達。限られた空間でそれぞれが目一杯に動くから‘何となく’では立ち行かない、ということもあるだろう。動きは厳密に計算されていなければ、単純な話、役者同士がぶつかってしまう。それでも遠慮なくものが言い合えるのは、作品への理解を共有していればこそだ。
その上で、最後にものを言うのは「(見ていて)気持ちイイ」動きか否か。「第八夜」に見た酩酊感、それを生み出す大事な要素を、じっくりと煮詰めていく。
部分の確認が終わり、「第十夜」を通す。コミカルな身体の動きに、まるで水面の波紋に垂らした油滴のように、言葉が重なる。やがて、動きは激しさを増していき………と、これ以上は本番をお楽しみに。
原作の、あの呆気にとられるような可笑しみをきっと味わわせてくれるであろうことは付言しておく。
この「第十夜」を通したところで、本日の稽古が終了する。【PORT+PORTAIL】の現在の充実ぶりを示す、とてもスムーズな時間が流れる稽古場だった。
夏目漱石の『夢十夜』。一人称で語られる、その名のとおり夢の話だ。
夢にはうなされるような悪夢もあれば、思い出し笑いを誘う奇想天外な夢もある。でも、どんな夢にも共通していること。それは精密なリアルと途方も無い非・リアルが当然の顔をして同居している不思議だ。そんな夢の在り様に、芝居とダンスを融合させる【PORT+PORTAIL】の表現は無理なく重なる。
この珠玉の名短編を得た彼らが、充実の稽古の果てに、伸び伸びと遊ばせるイマジネーションの世界――『空の余白』。
そこはきっと、観る者にとっても格好の遊び場になるに違いない。
稽古場の大きな画像をご覧になりたい方は、【稽古REPORT(2)】へ
2005/4/14 文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 

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