BACK STAGE REPORT〜PORT+PORTAIL 『「空の余白」 夏目漱石「夢十夜」より』〜【インタビュー(2)】〜
思考のロジックと身体のロジック。それぞれを司どる林さんとKimさんは実に対照的でありながら、息はぴったり。そんな彼女達が夏目漱石の文学と出会って生まれた新作、『空の余白』について、後半ではたっぷりと聞いた。

Kim Miya 氏(振付・出演)
1978年長野生まれ。大阪芸術大学舞踊コース中退。2000〜2001年ロッテルダムダンスアカデミー(オランダ)卒業後、主にヨーロッパのカンパニーで舞台経験を積む。
2003〜2004年、フィリップ・ドゥクフレ「IRIS」出演。
2004年1月「ランコントル・コレグラフィック・アンテルナショナル・ドゥ・セーヌ・サン・ドニ」(旧バニョレ賞)伊藤郁女振付け作品に出演。ナショナル協議員賞受賞。
2005年1月22〜23日 STspot Dance Series vol.62「ラボ5〜20#17」(主催:ST Spotキュレーター:伊藤キム)に選出。キム・ミヤと河崎純(コントラバス)のコンビが出演。
他集団への振付けも多く、独創性溢れるユニークな振付け群は観る者の興味と興奮を掻立てる。
インタビュー(1)
原作について
漱石、格好いいじゃん!
――今作『空の余白』についてお聞きします。原作に夏目漱石の『夢十夜』を選んだ理由は?

タイに行くときに飛行機の中で原作を読んでいたんですけど……日本の言葉にすごく感銘を受けたんですね。強いしきれいだし格好いいし。「日本ってすごいじゃん」と(笑)。それはいろいろな短編が入ってる本だったんですけど、その中でも何の救いもなければ何の説教もないのが『夢十夜』だった。それがまた余計に格好よくて。「こんな夢を見た」って、‘夢落ち’であることを最初に前フリされているわけだからもう、何でもあり。その中で夏目漱石は色々な引き出しを見せてくれる。……「漱石、格好いいじゃん!」って、そんなノリで、これをやりたいと単純に思ったんです。ちょうど次回作はどうしようかと考えていた時期だったので、即決しました

――「第十夜」の話がメインになるようですね

そうですね。最初に「やりたい!」と思ったのがなにより「第十夜」ですから。(漱石は)紙面をさいて馬鹿な話をしているな、って(笑)。……格好いいけど、取り立てて何がある、ということのない話ですね

Kim この話を読んだだけで、「舞台はこうなる」ってどんどん浮かんできましたね
原作を舞台化する面白さ
――日本文学では、過去に芥川龍之介の『偸盗』も扱っていますね。原作ものの舞台化で難しい点は?

正直言って、自分でゼロから作るよりは楽です(笑)。助けてもらえるから。
自分の読んだ時の思い込みで作れるわけですけど、それは責任を持っての思い込み。傷つけたり、卑下したり、馬鹿にしたりではなくて、愛があっての作品解釈ですし、私は力づくで「これはこう見せてるけど、実は違う!」っていう風には作っていないんです。受け取ったまま出す。そうすると作家さんの癖が見えてきたりして、それも勉強になります。「また『しかし、』って書きやがったな」と思ったり(笑)。…ただ、どこにどのシーンを持ってくるかっていう組み立ては難しいですけどね


――面白い点は?

作業場的な話になるんですが、私がゼロから作ると、みんな私しか頼りようがない。だからみんな私に聞いてくるんです。それがなんだか私のトラウマを穿り返されているような気がして…(笑)。でも原作があれば、それぞれの思いで読める。みんな平等に作品を読むことができるから、スタートラインが一緒っていうか。作家が優位ではなくて、役者主体の稽古場にできます。全体の雰囲気とか情感までみんなわかって進められるので、話がぶれることがないですね

Kim 原作は最初から作品として想像している絵が見えるよね。これが台本だと、私の場合は特に台本を読み慣れていない、ということがありますから……役の名前を見て「これは誰?」って前のページを読み返しちゃったり(笑)、そういう読み方をしてしまう

――ちなみに、前回の横浜公演から2ヶ月経ちました。作品に大きな変化はありますか?

順番は換えるし、装置も変えるし、舞台も円形で……変わらないのは役者と原作くらいですね。イメージは同じでも、ある感情を表すのに他の表現を探したりしてますし。もちろん、大きく見れば変わってはいないとは思いますけど

Kim 目的というか、目指すところをクリアにする、というところで変わってるよね。だから、ぜんぜん違ってきたシーンもあります
新作『空の余白』
空白ではなく、余白
――『空の余白』というタイトルに込めた想いは?

夏の花火大会の時にふと思いついたタイトルなんです。花火を見ていて、「あ、こっちに余白がある」って思ったんですね。そうして見ると、空って余白だらけじゃないですか。みんな花火をクローズアップして観ているんですけど、パッと視線を変えると、星があったり、月があったり、何か変なものが飛んでいたり(笑)。その時に、余白って何かが生まれたから「余白」になるんだと思ったんですよね。例えば紙の真ん中に絵が描いてあるから、周りは「余白」になる。何も描かれていない「空白」ではなくて。そこにすごく抽象的なものを感じたんです。何かを置くだけで「余白」を感じることができるっていうか。
そういうことは例えば舞台の使い方にだってありますよね。役者が上手(かみて)の、すごく狭い部分だけで演技をしていて、ふっと役者が下手(しもて)にはけた瞬間、「あ、こっちもあったんだ」って感じたり。
でも、そうした舞台の使い方だけではなく、芝居そのものに関しても私達がやっていることがポンとあることで、他のものが見えたらいいなあと思いまして。『夢十夜』を読んで、私達の舞台を観て、違うこと、余白に気付いてもらえたらいいな、という願望があります


――舞台の使い方の話が出ましたが、今回の舞台は円形。しかも観客は好きな場所に座って、どこからでも観ることができるそうですね

Kim ええ。だから、どこからでも観られるっていうのは創っていく上でもやっぱり考えますね。いまの「舞台の余白」の話もそうですけど、舞台を大きく使う、小さく使うということも含めて、「円形だからこそ」という部分は動きながら考えています
ジャンルの違う表現との出会い
――今作では新進写真家の安楽寺えみさんとのコラボレートも話題ですね。このコラボレーションはどのようにして実現したのですか?

最初は彼女本人と知り合って面白くて、作品を観たらもっと面白くて。彼女の写真の持つ力はダンスや舞台の持つ力とすごく似ていると思うんですね。それで「何か一緒にやりたいね」って前から話してはいたんです。
彼女の写真は何ともいえず痛々しいというか、作りこんだ写真が多いんですね。トゲの様なものを食べているとか、口からあみだくじの紙が出ているとか。それはとても男性的だな、と思って。その前でMiyaが踊って、その中に吸い込まれていくっていう感じが良いんですけどね。まだそこは未消化ですけど、具体的には写真を絵としても使えるし、プロジェクターで映すので照明としても使えるし、そこを人が通り過ぎたり動いたりすると重なり合って、万華鏡みたいな相乗効果が生まれるのを期待しています


――『エレファント・バニッシュ』に出演されていた瑞木健太郎さんをはじめ、出演者のバックボーンも様々ですね。このメンバーをお2人から見ると?

大変なことはたくさんありますよ。見ているものが違う場合、やっぱり大変です

Kim でも、想像もつかないものが出てきて「おお!?」って思うときもありますね。その人らしい出し方がありますから。それをもっと、こうしたら面白くなるかな、と探ったり

やっぱり、役者はダンスと聞いただけで硬くなりますね。逆にダンサーはセリフと聞いただけで固くなる(笑)。でも、一回だけの付き合いでも、それでお互いに何かメリットあればいいなと思ってます。その人の引き出しが見えれば有り難いな、と
ソフトシェルクラブがきっかけ!?
――この作品は大阪現代演劇際への参加作品でもあります。この演劇祭参加に至った経緯は?

去年、一般公募しているのを何かで知って……小論文みたいなものを書くんですけど、ダメモトで書いて出したら通っちゃった(笑)

――小論文、というのは企画書のようなものですか?

企画書そのものではなくて、「この劇場で何がしたいか」というテーマで原稿用紙3枚分書くっていう。芝居の中身が決まってなくても書けるものだったので、私はなんとソフトシェルクラブについて書いたんですよ(笑)

――ソフトシェルクラブ?

脱皮したばかりの蟹です。高級品らしいんですけど、誕生日か何かでお食事をご馳走してもらった時に「珍しいものがあるから注文しなさい」と言われて。大きい蟹が、箸できれいにほぐせるんですよ。それぐらい柔らかい。もうね、「蟹は硬い、甲羅は硬い」という既成概念を見事に壊されましたね。…それがまた気持ち悪くて、貧血気味になったんですけど、せっかくご馳走して頂いてるんだし、食べざるを得ない。でも、柔らかくてとにかく触感が気持悪くて……それ以来、蟹が食べられなくなりました(苦笑)。
…で、「既成概念を壊すことは冒険をすることで、嫌いになる危険を孕んでいる」といったことを書いたんです。そうしたら、「自分達は何がしたいか」には触れていなかったのに合格してしまって(笑)。それから「どうしよう、何しよう」ってなって……今に至っています。これも挑戦だと受け止めています(笑)
――最後に、今公演への抱負を一言ずつお願いします

【PORT+PORTAIL】の公演を観るのは初めてのお客様が多いと思いますが……私たちも初めてだとどう観られるのか怖いですね。以前、長野で公演をしたんですけど、お客さんが皆さん、すごく真面目に観てくれたんですよ。「今、ここにしかなかったものを見た」という感覚で、一緒にいる空間を感じられたんです。大阪でもそういう風になれればいいな、と期待しています。初めての人に観てもらって、どういう反応が返ってくるかが楽しみですね

Kim 演じる側としては……私、舞台に立つ時って、お客さんをいじりたくてしかたがないんです(笑)。お客さんをまきぞえにしたいタイプ。なので、そこを更に出したい。もちろん舞台はライブだから体感するものですけど、もっともっと体感できる舞台にしたいですね。空間を最大限に使って…もしかしたら劇場の外までもがこの劇で、ライブは続いている、そんな風に思ってもらえるような舞台にしたいです
演劇とコンテンポラリーダンスの融合。様々なアーティストとのコラボレーション。そこに想像されるいくつもの壁を、2人の話は全く意識させないものだった。
自分達の表現に迷いなく、次へ、その先へ。
自発的で対等なコミュニケーションと、すばらしい作品を創ろうという強い意志に支えられ、これからも彼女達は軽やかに境界を越えていくのだろう。

「全員がデザイナーなんです」

そう言って笑ったKimさんの言葉が、【PORT+PORTAIL】の創作を見事に表していた。
(文中、一部敬称略)
2005/4/14 文責・インタビュアー:浅井貴仁 撮影・編集:鏡田伸幸  監修:北原登志喜

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インタビュー(1)

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