BACK STAGE REPORT〜PORT+PORTAIL 『「空の余白」 夏目漱石「夢十夜」より』〜【インタビュー(1)】〜
演劇とコンテンポラリーダンスの融合を図り、他ジャンルのアーティストとのコラボレーションを重ねることで、独自の表現を模索し続けている【PORT+PORTAIL】。
夏目漱石『夢十夜』を原作にし、新進の写真家安楽寺えみとのコラボレートによる新作『空の余白』は3月の東京(ペニサンピット)、横浜(赤レンガ倉庫一号館ホール)の1夜限定実験公演を経て、2005年第三回大阪現代演劇際の参加作品として新たに練り直され発表される。
 夏目漱石の怪談説話的な語りに近代的自我の葛藤。そこに林未知が現代人の抱える自己喪失感と自分探しというテーマをつなぎ合わせ、Kim Miyaのダンスと安楽寺えみの映像によって、時間と空間を飛び越えさせる試みはいったいどのような作業・方法論によってなされているのだろうか。
今回のBACK STAGE REPORTでは主宰・作・演出の林未知さん、振り付けのKim Miyaさんに劇団【PORT+PORTAIL】と新作『空の余白』について話を聞いた。
林未知 氏 (脚本・演出)
1977年長野生まれ。桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇専攻卒業。
1997年、8月PORTAIL(ポルタイユ)結成に関わる。
2001年PORTAIL(ポルタイユ)主宰のKim Miya留学のため、PORT(ポルト)に名称変更し、主宰となり、以降全ての作・演出を担当。
2003年日本演出者協会主催「若手演出家コンクール2003」奨励賞受賞。同年7月Kim Miya帰国により、名称を現在のPORT+PORTAILとし、二つの活動を統合。作・演出を林未知、振付・出演をKim Miyaが担う。
2004年2月「ギィフォワシイ演劇コンクール」にて「AGF賞」受賞
PORT+PORTAILとは?
演劇のはずが、コンテンポラリーダンスに!?
――高校時代から一緒だった【PORT+PORTAIL】の3人。その創作はそもそもどのようにして始まったのですか?

林未知(以下、林) 私と蓮(本居蓮)は長野の高校の演劇部で一緒だったんです。Miyaは演劇部ではないけど、たまに手伝ってくれてました。卒業してからは上京して、私は桐朋短大に入り、蓮は浪人して、Miyaは後輩だから一年遅れて大阪芸大に行ってと、バラバラになったわけですけど、「何かやりたいね」とは言っていて。その「何か」は最初は演劇だったんですけど、私が台本を書けず(笑)……「どうしようか」って言っていたらMiyaが…、

Kim Miya(以下、Kim)「ダンスやるよ!」って(笑)

「コンテンポラリーダンス?……分かんない。けど、ひとまずやろう!」と。
そのときのメンバーは長野県人が多かったですね。上京している人に声をかけたんです。ダンスをやったことのない人、演劇の人が多かった。「私もよく分からないけど、どうも『コンテンポラリーダンス』というのをやるらしい」と誘って(笑)


Kim 最初はワークショップのような形でやったんですね

それが何なのかも分からず、でもやってみたら「面白い!」と。
桐朋卒業者は新劇系に入る人が多かったんです。でも、それもピンとこない。自分で何かやりたいんだけど、どうしていいか分からない……そういう時だったんで、渡りに船でしたね。それが私が短大を卒業した年の夏です
手探り、そして生まれたイメージ
――始めた当初はダンスだけ?

ダンスだけでしたね。…その頃は劇場の押さえ方も知らなかったので、シアタートラムとかに突然電話して「すみません、8月は空いてますか?」「空いてません!」みたいな(笑)

Kim 「誰だ、おまえは?」って感じですよね(笑)

「東京って難しいねぇ」って(笑)。そういうところから始めました。チラシの作り方も分からないので、カラーコピーしちゃって。当時はカラーコピーって、1枚500円くらいしたんですよ

Kim コンビニ行って、ずっとカラーコピー。「いや〜、チラシってお金かかるんだなぁ」って(笑)

…その公演を高田馬場のプロトシアターという、ちっちゃいところでやりました。
その後すぐにMiyaはロンドンに留学。帰ってきたときにまたダンス公演をやって、でもまたMiyaが留学に…。それで、その間、私だけでも何かやりたいと思って同じメンツを集めて、今度は演劇で『凶暴な青』という作品をやろうとしたんです。そしたら、その3ヵ月前くらいにまた突然Miyaが戻ってきたので、「それなら出てよ」と役を増やした。
そのとき初めて芝居に挿入的にダンスシーンが入る、という形にしたんです


――現在の【PORT+PORTAIL】の表現の芽生えですね

もともと動きに興味があったんです。でも芝居にダンスをどうミックスさせればいいのか分からなかったんですね。いわゆるミュージカルくらいしかイメージできなかった。でもジョセフ・ナジとかの海外のもの、あるいは日本の能や歌舞伎や浄瑠璃を見ると、歌もセリフも動きも全部ある。「これか!」と思ったらあまり構えることもなくなりました。あと「水と油」さんみたいにパントマイムなのにストーリーがあるとか……すごく影響を受けましたね
入り口? 港?…名称の変遷
――最初は【PORTAIL】という名前だったんですね

ええ。でも、Miyaがいない間にその名前で『凶暴な青』をやったら、「ダンスじゃなくて芝居じゃないか」とお客さんに言われて。それじゃ、少し名前を変えて【PORT】にしよう、と。そうして2〜3作やっているところに一昨年、Miyaが帰ってきたので、一緒にして【PORT+PORTAIL】になったという経緯です

――ちなみに、【PORTAIL】という名前の由来は?

Kim フランス語の「入り口」とか「門」という意味の言葉です。私が海外に行くこともあってフランス語のガイドブックを見ていたら目にして。何となく響きも良いな、と

【PORT】はそれを短くしただけなので意味は無いんですけど、よく「『港(ポート)』と『入り口』って何なの?」って聞かれますね。変えたほうがいいって、いろんな人に言われてます(笑)
作品の創り方
スタートはアイデア出し
――ダンスと演劇を融合させた独自の舞台が高い評価を受けている【PORT+PORTAIL】。その作品づくりの流れを、簡単に教えてください

毎回違うんですよ。私が書いた台本をもとに創ることもあるんですが、ここ2作品は原作があって、それを読んでアイデア出しをするところからスタートしてます。
出演者みんなで「こういうことがやりたい」「このシーンはこういう風にしたらどうか」と


Kim …細かいよね、最初は。「このセリフが気になる」とか、雲の出るシーンが出てきたら「雲ってこんな感じだよね」とか

「揺れている感じ」とか「暗い中を歩いている感じ」とか…イメージ的なものですね

――出演者も最初から一緒にアイデアを出す、というのは面白いですね

そうですね。出演者が一人ひとり意見を言ってみる。良ければ取り入れて変えていくし、使い道が見つからなければとりあえず保留にして。そういう期間を二週間くらい取ってますね。新しいものを求めつつ、使えるものをどんどん膨らましていって。
最近はそうやって動きを最初に作ってから、セリフを足していって、それができてから台本を作ってます


Kim 「このシーンはここにいれよう」とか、小さいボックスを組み合わせていく感じですね

――その「部分」を「全体」に組み上げる作業は林さんが受け持つ?

 そうですね。何が使えるか、どう組み立てていくか、どうつなぎ合わせていくか。あと、お客さんからどう見えているか。原作から使いたいベースになるもの、これがあればストーリーが伝わる、というものを台本に組み込んだり
視覚と聴覚で作り上げる絵
――実際、稽古を拝見していてもKimさんが振り付けをされる一方で、出演者のみなさんもどんどん意見を出していって振り付けが変わっていきました

Kim それはダンスだけじゃなくて、すべてに言えますね。私は、私が振り付けをしたそのままのものを踊って欲しいとは思わないんです。それぞれにキャラクターがあって、個性があって、それを自由に踊ってくれればいい。ただ、やっぱりすぐにダンスにできない部分もあるから、それは私が「こういう感じに踊ってみたらどうなるか」ってやってみる。それを見た本人が自分なりに踊ってみて、よければそれでいく、と

――意見を出し合うのはダンス以外、演技やセリフにも及ぶ?

共通認識さえ持っていれば、みんな良くしようとしての意見ですから、どんどん出してもらっています。突拍子もないことを言われて「はい、無視!」っていうこともありますけど(笑)。最終的に私が判断して、私が決めた通りにしてっていう部分もあるけど、まずは聞いて、実際にやってみて、ですね。「だったら、こうしてみて」とか「何が欲しいの?」と、みんなでまた出しあって。その方が早いですね

Kim 感覚っていうものもあるから、その方がスムーズですね

――ダンスと演劇を融合する上で、クリアーしなければいけない問題として出てくるものは?

もっと良いやりかたがあるのかもしれないですけど、今のところ、稽古期間が2ヶ月くらい必要なんです。手の動き一つとっても、演出家に言われたから「動いています」というのではなくて、自発的に動けるようになるにはすごく時間がかかる。稽古時間は大きな問題ですね

Kim 私たちのカラーが分かっている人なら、「あ、そういうことね」とすぐにできるんですけどね。
「セリフ言いながら、こっちから向こうまで歩いて」と言う。それは、普通にセリフを言いながら普通に歩くってことをやって欲しいわけじゃないんですよ。それをやりながら、絵が身体で見えてくると同時に言葉として聞こえてくるという、視覚と聴覚を両立させることをやって欲しい、そういうことなんです
言葉と動き、明と暗
――作品の内容についても少し。扱う題材がリストカットや集団自殺などシリアスなものが多いですね

Kim 最近は変わったかなとも思うんですけど……暗いんですよ、作品は(笑)。
私の振り付けはコメディっぽいので、逆にバランスがいいのかな、とも思います。暗いものに暗い振り付けをするのではなく、暗いものに可笑しなものが出てきた方が逆に悲しい気がしますから。明るい場面で悲しいダンスをしても楽しく見えたり、暗い場面で可笑しいダンスをしても暗く見える……不思議ですね


確かに暗いものを書いているんですけど、あまり自分で暗くしたくなくて、追い詰めた感じには作ってないですね。能天気なダンスがあったりすると、バランスはいいですね(笑)。観た人の感じ方次第なのに、なぜか悲しくなったり、何かと戦っているように見えたり。別に戦っているような動きではないのに。言葉では明確に言えないものでも、動きでは伝えられる。ただ、漠然とはしてしまうから、セリフで道筋を立ててあげたい……。
……あ、今も何か漠然とした説明になっていますね。漠然としたことをやっているからかもしれません(笑)
 「もっと自分の周りを煮詰めたい」
「やりたいことはどこにいても一緒」
Kim
――芥川龍之介や夏目漱石に原作をとったり、またそれだけでなく「日本」で活動する意味というものを強く意識されているように感じますが

そうですね。私が書くのはやはり日本語で、考えるのも日本語で、日本人に観てもらって、それをちゃんとできて初めて、人や世界と向き合えるなと思うんです。
世界で何か事件が起こると、その情報は瞬時に日本で得られて……例えばイラクの戦争に感情移入はするけど、行った事はない。行ったことはなくても今日何人死んだとか知っている。だから一見、開いているように見えるんですけど、でも私の身の周りは閉じているんです。
もっと自分の周りを煮詰めようと思っています。今は自分はそういう時期だと思いますね


――「日本」を強く意識する林さんと、海外でも活動されていたKim さん。この対照も面白いですね

Kim そうですね。私が日本に帰ってきた理由は「どこでもできるな」と思ったからなんです。海外でなくてもどこでもできるなと。結局、私のやりたいことはどこにいても一緒なら、やりたい仲間とやりたいと思った。
海外でも小さなカンパニーやフィリップ(注)とやってきましたが、やっぱりもっと自分自身を高めたい。舞台芸術というものをもっと研究したいと思ったんです。舞台に立つ人間として考えたときに、ダンスだけではなくて、歌えと言われたら歌うし、演技もする。必要とあれば全部やっていきたい。それがまずは「演劇」という形になっています。
…最近なんですけど、ダンスも演劇もだいぶ重なり合ってきて、さらにもう1つ先に何か生み出せそうな気がしているんです


ようやくだよね。だからこそ、演劇の公演もできるし、ダンスの公演もできるようになった

Kim ‘ダンスと演劇の融合’ということばかりを考えるところから、ダンスだけでもいい、という風に。あんまり、ジャンルっていう意識はなくなりましたね

――そうした越境は【PORT+PORTAIL】だからこそできることでしょうね

そうですね。積み上げてきたものだと思いますね。やりたいことはまだたくさんありますけど。例えば……来年の3月にはフランス現代演劇際に出ないかって誘われていて。台本は既にあるものなんですけど、それが1人でも100人でもできる内容で面白そう。あと、台本だけのオファーもあって、それはゴールデン街の人たちからのオファーですけど(笑)。動きの勝負ではなくセリフの勝負なんで、それも面白いかな、と。
…でも、【PORT+PORTAIL】としてやっていくことのカラーは変わらないかな、とも思います。引き出しをどんどん増やしていくということですね


注)フィリップ・ドゥクフレ:フランスの振付家・演出家。 カンパニーD.C.A代表。
インタビュー(2)
(文中、一部敬称略)
2005/4/14 文責・インタビュアー:浅井貴仁 撮影・編集:鏡田伸幸  監修:北原登志喜

BACK STAGE REPORT〜PORT+PORTAIL 『「空の余白」 夏目漱石「夢十夜」より』〜【インタビュー(1)】〜
インタビュー(2)

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