BACK STAGE REPORT【庭劇団ペニノ】〜意図的なオブジェとしての演劇〜【タニノクロウ インタビュー】
 インタビュー場所は青山劇場の裏側に位置する、とあるマンションの1室。タニノ氏の自室であるこの部屋は「はこぶね」と名付けられ、第9回公演『小さなリンボのレストラン』の会場としても使われた。
 稽古用に組まれた舞台セットを前に、【庭劇団ペニノ】についてタニノ氏は語りだした……。
タニノ クロウ
医師免許を持つ異色の劇作家、演出家
絵画その他の美術にも才を発揮し、公演によっては舞台美術やチラシ絵も手がける
インスタレーションのようだと
          よく言われる
―今日は【庭劇団ペニノ】という劇団自体のお話と、1月に再演される『ダークマスター』についてうかがっていきたいと思います。まず、そもそもの設立のきっかけは?

 もともと大学の頃から演劇をやっていたんです。2年ぐらい役者をやって、在学中に劇団を立ち上げました。
 卒業したら止めようと思っていたんですが「終わらせるのはもったいない」といわれたので、続けることにしました。仕事しながらでも何とかやっていけるし、仕事とリンクして活かせるだろうという甘い期待をしつつ。
 でも、結局大学の頃の仲間は今ほとんどいないですね。残ったのは自分と、演出や美術を共同でやっている玉置(潤一郎)の2人だけです。


―作風は今のようなスタイルでしたか?

 だいぶ変わりましたね。卒業前も後も、作品1つひとつを意識的に変えています。昔は劇団員にどう恥かかせるかということに、終始力を注いでいました(笑)。
 アメリカに「ジャッカス」というハプニング番組があるんですが、その延長で芝居をやっていましたね。裸で買い物に行かせたり(笑)。


―タニノさんが仕かけ人役ですね(笑)。

 まさにそんな感じでしたね(笑)。でも、卒業してみると、みんな医者になってしまいました。卒業後は別の人とまたそういう人間関係を構築するのは無理だと感じて、役者さんを無機質なモノとして、独裁的に扱うようになりましたね。そのせいか、よくインスタレーション(注)のようだと言われます。

―初期の作品でとても特徴的なのが第3回公演『僕ら3人、夏近くして』だと思います。劇場も観客もなく、役者だけ。まさにハプニング番組という感じがします。

 そうですね(笑)。白塗りしたり、それぞれキャラを作って、渋谷の街で女の子に声を掛けるという内容です。

―これは何か映像とか残っているんですか?

 実は撮っていたんですが、女の子たちに怒られてしまったんです(笑)。
 最後は本当にここでは言えないことになってしまいまして……。若気の至りですね。(笑)すみません。卒業してから当時の役者から連絡がないんです。本当にひどかったです……。

注:インスタレーション:(Installation art)仮設空間設置。絵画・彫刻・映像・写真などと並ぶ現代美術における表現手法・ジャンルの一つ。ある特定の室内や屋外など、場所や空間全体を作品として体験させる芸術。
特別な環境ではないことに
         違和感を感じる
―その後、マンションの1室や、ショーパブ、野外テントなど、いわゆる非劇場での公演が多く行われていますね。

 これまで色々なところで公演してきたのは、もともと演劇畑ではなかったという点が大きかったと思います。つまり、作品を考えるときに、コンセプトやストーリーをまず考えるので、「劇場をどこにするか」ということが頭にないんです。

―枠組みよりも、物語の内容ありきで作品を考えるわけですね。

 ええ。あと、小劇場って、雑居ビルの地下とかが多いですよね。それにものすごい違和感を感じていまして。たくさんある中のひとつで、特別な環境ではないという感覚ですね。
 だから、公演の制作的な部分では『黒いOL』(野外公演)が理想です。


―空間的な部分としては、装飾的な舞台美術が毎回特徴的ですね。

 小劇場に対して、いまは「大きな舞台へのステップ」みたいな捉え方が一般的ですよね。でも、そうではなくてお客さんが少ない分、1人ひとりにスペシャルなことができる場所だと思っています。それもコストをかけずに。だから舞台美術に力を入れて、実際にお客さんに舞台に上がってもらって、作ったものを観てもらうようにしています。

―観客席を個室のように仕切ったり、今回の『ダークマスター』でイヤホンを1人ずつ配ったりするのも、その延長でしょうか?

 そうですね。そういうことができる、利用価値のあるおもしろい場所だと思うんです。それが小劇場の強みだから、活かしたいと思いますね。ネタはそんなにないですけど、簡単にテレビにできるようなものは作りたくないです。

―仮に、大きい劇場から声をかけられたらどうします?

 やりますけどね(笑)。

―あ、やるんですね(笑)。

 そうなったらまた大きい劇場用に何か考えますね。

―個室やイヤホンを用意したりと、普通の劇団よりも、お金がかかるんじゃないですか?

 自然とかかってしまいますね。でも、お金がかかるからといって妥協はしません。それでもチケット代金は他の劇団さんと同じくらいにしようと心がけています。恐らく聞いたらびっくりすると思いますね。

―台湾で行われた第11回公演は台湾の方に声をかけられたんですか?

 台湾で演劇のコーディネイトをしている制作会社の方に誘われたんです。『小さなリンボのレストラン』を見に来てくださって、気に入ってくれたようです。

―台湾の観客の反応は?

 よかったですね。日本人との違いは、終わった後の質問が激しいことです。終わったあと、ワーッとお客さんがやって来て「アレはなんだったんだ?」とかロビーでディスカッションしてました。
 台湾で演劇をやっているのは、ほとんど大学で演劇を学んだ人だけみたいです。だから、そういった学術的なディスカッションが盛んなんだと思います。


―舞台はどういう感じだったんですか?

 もともと、日本の海軍が所有していた警察署のようなところを、劇場に改装した場所でした。牢屋などもあったんですが、ちゃんと中は劇場としての設備が整っています。作品の雰囲気にはぴったりでしたね。
小劇場というものを利用したい
―そして今回、小劇場以外の場所での公演から、駒場アゴラ劇場という小劇場に戻って来ましたが、これはなぜですか?

 まあ、今回の作品が劇場に合うからというのが大きいですね。

―再演ということで、前回と変わった点は?

 前回の時もそう思ったんですが、『ダークマスター』という作品は日本というものを描いていると思います。「あるひとつの政治的な思想を持って生きるのは日本では無理じゃないか」と言っている作品ではないでしょうか。
 再演をしようと思ったきっかけは、初演を終えてから原作を読み返したら、読みが深くなって単純にいろいろとやりたいことが出てきたから。ベースにあるものは変わらないですが、原作の意図をもう少し探ってみたので、けっこう脚本をいじって、伝えたい部分を変えましたね。


―準備に1年かけられたそうですね。

 まず、キャストをこだわりたかったんです。前回の公演が失敗したというわけではないですけど(笑)。久保井 研さん(唐組)と、マメ山田さんに決まるまで、候補がたくさんいて、紆余曲折ありました。

―この二人をキャスティングした決め手は?


 マスター役(マメさん)は身近ではない神秘的な存在であるという点ですね。「どういう生活をしているのかな」と想像が膨らむ人にしたかった。そうすると、マメさんにたどり着きましたね。
 久保井さんは、いつか一緒にやりたいとずっと思っていた方でした。僕は前から唐組が好きだったので。久保井さんは唐組の中でも異色な方だと思います。
 お二人とも、時間をかけたかいがあったなと思うキャスティングになりました。


―エキストラの募集はどうでしたか?

 前回も募集していたんですが、ボランティアだからか、なかなか集まらなかったですね。ただ、本番中に実際に作った料理を食べてもらうので、一応食事付きではあります(笑)。エキストラの方は7人出演していただきます。

―もう1つ、今回特徴的なシステムとして、昼ギャザというのがありますね。

 ギャザリング(注)自体は昔からあって、珍しくないものだと思うんですが、観にきてその場でキャッシュバックするというのは、小劇場ならではだと思いますね。
 観に来て、その帰りに現金を渡されるというのは、大きい劇場ではできないですから、それだけでも面白いと思います。
 いま、どのくらい価格が下がっているかHPで表示しているんですけど、実際に来てお客が何人いるか数えてみたりとか、そういう楽しみ方もできるんじゃないかと思っています。


―非劇場での公演、昼ギャザなどを見ると、小劇場の枠組みや制度みたいなものを意図的に変えようとしているように感じますが?

 そうですね。変えようというよりは、とにかく「小劇場というものを利用したい」という思いはあります。お客さんに変わった体験をしてもらいたいんです。
 それに、一般の人よりも、あるていど小劇場を見慣れている人に受けがよいので「次は何をやらかすのかな」という期待のようなものを感じています。
 このマンションで公演したときも「本当にやるの?」と思われた人も多いと思います。ただ、自宅や知り合いの喫茶店とかで公演をする劇団は多いと思いますが、うちの場合は、場所をただ借りるのではなくて、その場をきちんと劇場にしあげたという点が他と違うと思います。
 客席や照明を作って、ちゃんと暗転もしています。


注:ギャザリング:共同購入。沢山の人が一つの商品を共同で購入する事で通常よりも安い値段で購入できるというサービス。
テーマは“支配と被支配の関係”
―何故このマンションの一室を「はこぶね」と名付けたのですか?

 はこぶねと名付けてくれたのが【維新派】の松本雄吉氏で、たまたまガーディアン・ガーデンフェスティバルに出場した年の審査員を松本さんがしてまして、自宅を劇場にするのでと報告をしましたら、ご祝儀として名前を付けて下さいました。

―このマンションはどのような経緯で借りたのですか?

 実は祖母が所有していたマンションなんです。それで、長くてもあと3年くらいで取り壊して、立て直す予定なんです。だから最後の数年を貸してもらって、利用させてもらっています。

―音など、問題はありませんか?

 音の面は問題ないですね。角部屋で、隣室はたまたま物置として使われていますし、すぐ隣に建っていたマンションも取り壊されましたから。それに、室内には吸音シートを張りまくっているので、漏れはほとんどないですね。
 ただ、一度お客さんが来たときに、廊下で並んでもらっていたら、苦情が来てしまったことがあります。それで急遽「大学から教授を招いて住居に関するセミナーを行っています」という嘘のチラシを配って、ごまかしました(笑)。そのときは危うく公演中止になるところでした。
 それから、ベランダが楽屋で、ちょうど向かいのビルの非常階段の踊り場が喫煙所なので、マチネのときにメイクをしていると、不思議な目で見られます(笑)。


―それでは今後の【庭劇団ペニノ】についてお聞きしたいと思います。今後はどう展開していくのでしょうか?

 お金の問題になってきますが、やはりその作品にあったハコ(劇場)を作るというのが理想ですね。場所を選ぶという問題ではなくて。維新派のように関西だと融通が利くんですけどね。

―作品に関してはどのような構想がありますか?


 僕はもともとずっと絵を習っていて、彫刻とかオブジェを作るのが好きなので、そういう部分を強く出したいと思っています。それが、自動的に動くものだったり、生々しいものだったりしてもいい。そのオブジェを説明するような作品ができたら、おもしろいですね。

―いわゆる演劇的なきちんとしたストーリーがあるというわけではなく?

 そうですね。演劇的な物語ではないです。自分が作ったオブジェがあって、その物体自体にストーリーがある。それを説明する人が役者的にいればいいという作品。そういうものを模索していきたい。

―『ダークマスター』や『Mrs.P.P.Overeem』では、イヤホンや電工掲示版から間接的に指示がだされるという特殊な関係に登場人物がなっていますね。そういう人間関係は意図的に設定されているのですか?

 そうですね。支配する側とされる側という関係は、人間関係を表現するとき、もっとも簡単な方法の1つだと思います。それと、僕は悲しみのにじみ出ている作品を作りたいと思っているので、自然にそういう話になりますね。親子関係や兄弟関係でも何でもそうですが、支配と被支配の関係というのは悲しいと思います。それがテーマですね。

―それでは最後に少し早いですが、2006年6月に予定されている公演についてお聞かせください。

 もともと好きだった、レーモン・ルーセル(注)というシュールレアリズムの作家の本に『アフリカの印象』という作品があります。
 この作品は、たとえば「黒人の太った女がみんな輪になって、躍りながらゲップをしている」とか、行ったこともないアフリカの説明をしている作品です。
 この作品をベースに、さっき話したようないろいなオブジェが出てきて、ただ「これはこういうモノです」と説明していくものを作ろうと考えています。
 ぜんぜん違う作品になると思いますが『アフリカの印象』をモチーフにして、そういう舞台を作りたいと今考えています。


注:レーモン ルーセル:(1877〜1933)パリの富豪の息子として生まれる。幾つかの小説や戯曲を発表するも、当時は金持ちの道楽としか見られず評価はほとんどされていなかった。評価をされ出したのは死後で、彼の作品はマルセル・デュシャンに大きな影響を与え、ミシェル・フーコーに1冊の本を書かせた。日本では渋沢竜彦、寺山修寺らが偏愛していたという。
 作品のイメージからは程遠い、まじめで人懐こい印象。そして1つひとつの言葉をゆっくりと選びながら話す姿は、まるで真摯に作品に向き合う彫刻家のようだ。
 現在、多くの小劇場で行われている演劇が、次々と作られては消費されていくなか、タニノ氏の考える演劇とは、あるメッセージを込めて意図的に作られたオブジェのようなものなのかもしれない。
 それは目の前にいる観客に観賞されることだけを目的として造られた舞台の上の芸術作品なのだ。
2005/12/17 文責・インタビュアー:浅井貴仁 撮影・編集:鏡田伸幸

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