BACK STAGE REPORT〜想像が産み落とす 音の紋――庭劇団ペニノ UNDER GROUND〜【タニノクロウ インタビュー】
 独特な舞台作りと、その舞台美術へのこだわりから、一部の演劇ファンから圧倒的な支持を受ける鬼才・タニノクロウ氏。
 今作『アンダーグラウンド』は、シュールレアリズム作家レーモン・ルーセルの『アフリカの印象』をモチーフに、ジャズバンドのいる手術室を舞台にした作品だというが、果たしてどういう内容なのだろうか? その秘密に迫ってみた。
タニノ クロウ
医師免許を持つ異色の劇作家、演出家
絵画その他の美術にも才を発揮し、公演によっては舞台美術やチラシ絵も手がける
手術室は想像のできる
         ぎりぎりの場所
――レーモン・ルーセルの『アフリカの印象』をモチーフにした作品という構想は前回にもお聞きしましたが、今作『アンダーグラウンド』(以下、UG)はどのような舞台になるのでしょうか?

 舞台は手術室です。実際にある場所で、誰でも知っているけど、多くの人が手術をされる側で、ほとんど麻酔で寝ている場所。つまり、知っているようで、実はよく知らない。そういう特殊な場所が舞台です。それをいじって作品にしようと思っています。

――なぜ、手術室なのでしょう?

 「知っているようで、よく知らない」という意味で、現代において唯一残された聖域のような幻想性が保たれている、貴重な場所だと思ったからです。テレビの報道番組やドラマなどでよく映されていますが、「こんな器具が使われているのかなあ」とか、想像のできるぎりぎりの場所だと思います。

――『アフリカの印象』におけるアフリカが、タニノさんにとっては手術室だったということですね。実際の手術室にはもちろん入ったことが――

 ええ、学生の頃にあります。実際に手術しているところなどを見学しました。手術室では、手術着を着てマスクをしているため、目の部分しかお互いに見えないんです。だから、相手の表情を読み取ることができない。マスクをしていても清潔を保つために話もあまりできません。ほとんど会話もなく、必要な単語をとても短く言うだけ。そんな状況で、信頼関係を基に細密な共同作業をする場所――そんな印象を受けました。
ジャズバンドの生演奏が担う
            舞台での機能
――その手術室にジャズバンドがいて生演奏をするというのも、今作の大きな特徴の1つですね。

 ええ。いわゆるオーケストラピットではなく、手術室の一角にジャズバンドの人たちがいて、手術室の一部として存在させています。その存在や一人ひとりの役割というのも重要な機能をするわけです。

――もともとルーセル自身が音楽家を目指していただけあり、『アフリカの印象』のなかにも音楽がたくさん出てきますが、なぜ、生演奏を入れようと思ったんですか?

 手術室では、普通に生活をしていると聴けない色々な音が出るんです。それを聴いているのが楽しかったんですよね(笑)。頭をドリルで開けたり、見たことのない器具を使ったりするんですが、それぞれが違う音を出す。とても音楽的というか。そのときに感じたものを、生演奏によって1つの作品として集合させられればいいなと思ったんです。
 その生演奏ですけど、シーンによって音楽単体のときもあれば、シーンを後押しするように、演奏自体が手術を煽動する機能をするときもありますし、効果音的に使うときもあります。

もともと人に備わっている
         共感する能力
――『アフリカの印象』では第一部で次々と不思議な品物や芸術作品が出てきたり、演曲が披露されていき、第二部でそれらの謎解きをするという構成ですが

 『UG』では、最初は何もない昔の手術室があるだけで、そこに人や器具がどんどん出てきて、後半で手術を開始するという構成です。観る人が不思議と感じるかはわからないですが、幻想的というより、実際にもともとあるもので「何か変だな」というものが出てきますね。手術器具などもそうです。最初は雑多な雰囲気ですが、後半はメッセージ性が強いものになります。

――かなりイメージ通りに仕上がりつつあるようですが、実際にこれまで稽古をしてきて意外な発見などはありましたか?

 ありましたね。稽古を始めてから気づいたのですが、目しか見えていなくても、役者さんたちが感情豊かに作業していることを発見しました。マスクで顔を覆っているので目しか見えないし、実際の手術は職人技で習得するのは困難ですから、機械的に手術の過程をやってもらえばいいと思っていたんですが、それは間違いでした。それは、役者さんの演技が上手い下手という以前に、もともと人に備わっているものだと気づいたんです。それを私自身が信じていなかったのかもしれません。言葉がなくても共感することは可能なんだ、ということを。
 とにかく、今回は手術中の話なので、ほとんど動かないししゃべらない。ここまで役者さんがストレスを感じる強い制約のなかで舞台を作るのははじめてなので、気づくことが多かったです。

アンダーグラウンド
       というタイトルの意味
――そもそも、タニノさんはレーモン・ルーセルのどのようなところに共感を覚えますか?

 私は作者の存在がなくなればなくなるほど芸術作品はよくなると思っています。そういう部分でルーセルの作業には共感しますね。ルーセルは作品への所属度をなくすということをしようとしたのではないかと思います。それがまた、むずかしかったんだと思いますけど。

――ちなみにルーセル自身、『アフリカの印象』をはじめとした自分の作品を舞台化してますね。興行的には成功しませんでしたけど。タニノさんは成算は?

 いやぁ、どうでしょう(笑)。……でも、ルーセルのやったあれは、やっぱり無理があったんでしょうね(笑)。想像ですけど、たぶん、ものすごくチープなものだったと思いますから

――『アンダーグラウンド』というタイトルに込めた意味は? 寺山修司もレーモン・ルーセルを偏愛していたようですが、どうしてもこのタイトルには“アングラ演劇”への連想が働いてしまうのですが――

 そうしたことももちろん含まれていますけど、ひとつは手術室の存在です。俗っぽい見方ですけど手術室って真昼間でも窓が閉められていて、温度も一定にしてあって、ビルの中の地下にあるイメージですからね。あとは、芸術活動的な営みという意味あいを託せるかなとも思いました。
自由な思考をすることは
          人間としての権利
――前作についてのインタビューで“支配と被支配”というテーマの話が出ましたが、そうしたことも含めて、最後に、今作を楽しむためのポイントを教えてください。

 今回は権力的なものに対する不安や恐怖感というものが前面に出てしまっていますね。人間というのは、おそらく権力的な存在であると思います。たとえば、能動的に何かをする場合、それが人に対する気遣いや優しさといった倫理に適っているものであっても、そこには権力がもとにあると思うんです。
 とにかく、この作品は楽しいと思えない部分が多いかもしれませんけど(笑)、でも、もしそうであったなら、それはどういうことなのかをふりかえって考えて欲しいですね。

 それから今回、音というものを表現したいと思っています。「見る」「考える」「聴く」の3つを同時並行でやるのは大変なことですが、そのこと自体をおもしろく感じてもらえればと思います。『アフリカの印象』でもそうですが、人は分断された数々のイメージを、勝手に関連性を持って頭でつなげてしまうものです。そのこと自体が人間としての自由だと思うんです。自由な思考をすることは、生まれながらにあるものではなくて、後天的に獲得した人間としての権利だと思います。

 最後に、これは注意点というか……。血を見ただけで気持ち悪くなる人もいると思うので、心臓の弱い方、血が苦手な方は気をつけてください。私たちとしては、誰も途中で(具合が悪くなって)帰らなければ成功かなと思っています(笑)。でも、それ自体が目的ではなくて、手術の場面を美しく見せられたらいいなと思っています。
 ワープロの誤変換がときに思いがけない文章を作り出すように、レーモン・ルーセルは単語、或いはその羅列そのものから、思考を飛躍させる新たな意味を探り出して作品を書いたという。そんな彼の方法論と、手術室に響く音そのものに着想を得て作品を成そうとするタニノさんの試みは、間違いなく呼応する。

 まさしくルーセル的な庭劇団ペニノの新作・『アンダーグラウンド』――地下から響くその音楽的な冒険に自由な思考をもって臨んだとき、きっと未知の大陸を発見するような興奮を味わえることだろう。
2006/9/3 監修:北原登志喜  文責・インタビュアー:浅井貴仁 撮影・編集:鏡田伸幸

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