1937年に配水塔として建築され、1995年に演劇を中心とした舞台芸術の練習専用施設として生まれ変わった“演劇練習館アクテノン”

名古屋市の都市景観重要建築物に指定される、白亜美麗のたたずまい。
中身は演劇練習場。このミスマッチの妙。
こんな施設が「我が町にも欲しい!」と思う演劇人もさぞ多いことだろう。

このアクテノンを管理する(財)名古屋市文化振興事業団 渡邊五輪男氏・岡部紀子氏から、館の特徴・現状や今後の活動など話を聞いた。
BACK STAGE REPORT〜report no.12 名古屋 【アクテノン】【クテノン職員インタビュー】
クテノン外観・内観
邊 五輪男 氏
(財団法人 名古屋市文化振興事業団)

アクテノン一階の、広い資料コーナーの脇。そこは自動販売機が並ぶ休憩コーナーになっている。中央に椅子が数脚。その椅子に、人生の大先輩方が何人か腰掛け、話に花を咲かせていた。どうも「稽古の合間の一休み」というのではなさそうだ。散歩の途中で少し足を休めに来た、という風情。ここは、ちょっとした憩いの穴場なのかもしれない。関わり浅い身なれど、こうした施設をご近所の方もしっかり利用してくれているのは、見ていてなんとなく嬉しい。
そんなご近所会談の横をすり抜けて突き当りにある部屋で、アクテノンを管理運営するお二人に話を聞いた。
用者の気持ちが分かるって大事ですね
―早速ですが、お二人はもともと演劇に関わっていらしたのですか?

渡邊 私は昔ですけど、就職してから社会人の劇団でお芝居をする機会がありました。岡部は*ご主人が劇団を主宰しておられまして ― NHK名古屋放送劇団の代表の方だったんですね。だから演劇には詳しいこともあり、その知識を借りる形で、嘱託としてこちらに来て頂いてます

―スーパーバイザーとして

岡部 いえいえいえ(笑)。・・・・・・アクテノン平成7年に出来たものですから、それで私は平成8年からこちらでお世話になっています。演劇に関わる仕事でしたので、私の知っていることがちょうど役にたったという……私にとっては、ですけどね。アクテノンにとっては、果たして役に立っているのか分かりませんけれど(笑)

渡邊 ありがたいですよ。劇団の中に若い方、たくさんいらっしゃいますよね。そういう、若い方の気持ちが岡部は分かるんですね。そういった面で、本当に助かっています

岡部 そんな、そんな…・・・でも、確かに演劇関係の人と話をすることには慣れていましたからね

渡邊 利用される方々の気持ちが分かるというのはとても大事なことです。そういう人間が集まって管理運営が出来ればいいと思っていますから


岡部 雅郎(おかべ まさお)氏:1954年にNHK名古屋放送劇団入団、1965年に【劇団名俳】を設立する。1989年に愛知県芸術文化選奨を受賞
水塔から演劇練習館へ
―管理運営は何名でしているのですか?

渡邊 嘱託職員があと2名おりまして、その他に事務職員が1名、市から派遣の館長が1名、計6名でやっております

―築60数年を経た建物ですから、管理も大変ではないですか?

渡邊 それが、それ程でもないんです。演劇練習館になる時に大掛かりな改修をしておりますから……屋上に集まる鳩に悩まされるくらいですかねぇ(笑)

―名古屋市の都市景観重要建築物に指定されたほどの建物が、演劇専用の練習館に生まれ変わった経緯を教えてください

渡邊 もともとここは稲葉地の配水塔だったのはご存知ですね。その配水塔としての役目を終えた後、今度は図書館として改修されました。その図書館も平成3年に移転しまして、ここはしばらく空き家になっていたんですね。で、当時の名古屋市長・西尾武喜氏はもともと水道局出身の方だったんですが、その西尾市長と、【劇座】という名古屋の劇団の主宰・天野鎮雄氏が対談される機会がありまして。その時に天野氏から「稽古場が無くて苦労している」という話を聞いた市長が、ではここを活用しよう、となったそうです

―驚くべき決断ですね

渡邊 そうですね。それまでは公共の施設というと、「より多くの方々が利用できるスペース」というものが検討されてきましたからね。演劇に特化するというのは、勇気がいる決断だったと思います
ずはPRからでした
―付近の方たちの反応はどうだったのでしょう?

渡邊 「なぜ演劇なのか?」という疑問はあったと思います。それまでは図書館という、みんなが利用できる施設だったのに、演劇をやる人だけのものになってしまう……公園に集う方々にとっては「ここは自分たちの公園だ」という想いが、やはりあると思うんです。それだけに、なおさらですね。そういう意味で、ご批判はあったと思います

岡部 そうですね。やはり当初は地域にもあまり理解されていなかったですね。周辺の方には「練習を見せて欲しい」と言っていらっしゃる方もありました。「公共の施設なのに、どうして中が自由に見れないのか」って。「稽古風景が見られる施設」という誤解があったようです


―そうした付近の方々の反応に対して、どのように理解を求めていったのですか?

渡邊 やはりですね、「中で何をやっているのか分からない」という部分が一番大きかったと思うんです。だからまずは、「ここは何をやっている施設なのか」をPRしようということで、ここの利用者の方々で実行委員会を作りまして、<アクテノンフェスティバル>という、付属の野外劇場を使ったフェスティバルを催しました。そのフェスティバルで、ここを利用されている舞踊の団体や演劇の団体に発表をして貰って、付近の方々に観て頂く、という…

岡部 そのフェスティバルのおかげで、「こういうことを中で練習しています」というPRができましたね。更には、「何時までやっています」「皆さん、お金を払って練習しています」ということも少しずつ分かって頂けて、それがだんだんと広まっていきました。
……実は今でも、練習室がガラス張りになっていて中の練習が見学できるんだと思っていらっしゃる方、多いんですけど(笑)


渡邊 また、<アクテノンフェスティバル>とは別に、中村区のアクターズタウン事業の一環として、毎年*まるはちの日にはイベントを開催して頂いてます。これも野外劇場を使って、地元の方々にも出て頂いて…

―<中村区夏祭り>ですね

岡部 そうです、そうです

―そうした形で、付近の方々も徐々に巻き込んで

渡邊 そうですね。そうしたイベントを通じて「ここは何をやっている所なのか」ということはPR出来ているんじゃないか、と思います。また、そうしたイベントに常連さんとして集まって下さる方々も出てきましたし……これはとてもありがたいことと思っております
ミュニティーの中心になっていければ
―演劇の公共性という点からも、そうしたイベントは大事ですね

渡邊 そうですね。演劇を介して、地域のコミュニティーの中心になっていければ、と思っています。その観点からワークショップも開催していますし。ここのワークショップはタイトルも「演劇を始めた人の」という言葉が枕につくように、これから演劇を始める方や、始めた方たちをサポートしていきたい、というものなんです。良い道しるべになれればいいですね

―現在、地域のコミュニティーセンターとしての機能は?

岡部 この会議室が残っておりますね

渡邊 ここが図書館だった頃も、この近くにはコミュニティーセンターというものが無かったんです。それで、図書館時代もこの会議室が地域のコミュニティーセンター代わりに活用されていたんですね。その流れで、この会議室だけは演劇関係の練習では貸し出さず、コミュニティーセンターとして使えるようにしてあるんです


岡部 この地域の自治会の会合用に、ですね。……会議室以外ですと、資料コーナーも利用して頂いてますね。例えば公園に集う年配の方たちが、ちょっと暖まりにいらしたりですとか……

渡邊 夏は涼んで頂けますしね(笑)


まるはちの日:名古屋市の市章“まるはち”にちなんで8月8日を「まるはちの日」と決めて毎年実施される。市民、各種団体、民間企業に広く参加を呼びかけ、市内全域で“なごや”“八”にこだわった各種イベントやセールを展開
部 紀子 氏
(アクテノン嘱託職員)

まで利用できると、かえって良くない!?
―演劇等の練習専用、というだけで十分特徴的ですけれど、それ以外で何かこの施設ならではの特色は?

岡部 24時までご利用頂ける、ということでしょうか

渡邊 24時まで、というのは決して長いわけではないかもしれません。実際、他都市では朝までやっている施設もありますからね。でも、朝までやっている所の話を聞くと…・・・どうしても練習ではなくて宿泊してしまう方もあるようです(笑)。かえって集中できなくなったりするので「24時まで」というのが区切りがついてちょうど良い、という声も寄せて頂いてますね

―でも、24時まででも職員の方は大変だと思いますが

渡邊 夜は職員は9時半までなんです。朝9時からの早番が2人、昼1時からの遅番が2人、ローテーションで回しながら。夜9時半以降は、警備の方に退館の管理をして貰ってます

―「朝までやっている施設」とお話に出ましたが、最近はこうした施設が他の地域にも作られていますね。そうした施設との連絡は?

渡邊 あります。うちはこの種の施設としては早い方で、金沢、京都、仙台、大阪、北九州、福岡等にもありますが、そうした所と情報を交換をする機会を設けていますね。その話の中で、「あ、それはうちではやってない」ですとか「これがうちにもあるといいな」ですとか、お互いに良い所を取り入れたりしています


岡部 それらの地域の中には、ここから機関紙を発信していますしね

―施設自体のネットワークも構築されていく

岡部 それは本当に大事ですね。全然気が付かないことに気付けますし、負けないようにやろうって気持ちにもなりますから
曜お昼が狙い目です
―現在の利用状況は?

渡邊 日数で言いますと、平成14年度の統計で99.1%の利用がありました。ただ、今年度は不況の影響かは分かりませんけれども、少し空きが出ていますね

岡部 昼間が空いているんですね。夜は埋まるんですけれど。それと、どういうわけか金曜日の昼間が空いているんです

―金曜日ですか……意外ですね

渡邊 不思議ですね。火曜・水曜などはかなり埋まるんですけどねぇ。金曜日だけはまるっと空く、なんていうことがありますね

―では、予約を入れるなら金曜日が狙い目?

渡邊 そうですね(笑) 練習場をお探しの皆様よろしくお願いいたします。
ークショップを強化していきたいですね
―先ほど<アクテノンフェスティバル>やワークショップのお話しがありましたが、そうした自主事業に関してお聞かせ下さい。今後、自主事業としてメインになっていくものは?

渡邊 まず、毎年秋にやっていた<アクテノンフェスティバル>についてなんですが……実は今年度は休止になったんです。理由は、経費の事が一番の理由なんですが、それと「一つの区切りとして」という意味合いも強いんです。ここ、アクテノンをスタートとしてきた利用団体、それまで公演場所を持てなかったそれらの団体が、公演場所を持てるようになってきた、という背景があるんですね。第二段階へ踏み出す方々が増えてきて、自分たちの公演と<アクテノンフェスティバル>がかち合ったり、ということがありまして。だったら、そろそろ区切りをつけもていいんじゃないか、と。
ちなみに<アクテノンフェスティバル>を始めた年は予算が0円からスタートしました。それから予算が10万円もらえるようになり、それでも足らないので区役所からも10万円いただけるようにお願いして合わせて20万円。……もう、みんな手弁当でやってました(笑)

岡部 ……やってましたねぇ(笑)

渡邊 ……それはともかく、<アクテノンフェスティバル>に一区切りつけました。では「その分の時間をどこに使うか」となった時に、ワークショップへの切り替えというものが浮上してきたんです。今後は、このワークショップを強化していきたいと考えています。
それに絡めて、これは機関紙の中でも触れているんですけど、今後、小学校や中学校といった教育の場との連携を築いていきたいですね。
実は、地元の稲葉地小学校の校長先生が、たまたま以前に人形劇に関係していらしたこともあって、「演劇を教育現場で活かせないだろうか」と、そういうお話をする機会があったんですね。そうして実際にクラブ活動の時間を使って、2回、ワークショップをやらせて頂きました。この例のように、教育現場とも連携を深めて、小学生・中学生の皆さんにも演劇に触れて貰おうと、今、動き始めたところなんです
こはコミュニケーションがすごいですよ
―こうした施設ですから、利用者と職員のコミュニケーションも深くなっていくでしょうね

岡部 ここはコミュニケーションはすごいですよ。皆さん、毎日のように24時まで練習なさいますので、本番前には、もうくたくたになってますでしょう(笑)。それをこう、いかにしてハッパをかけるか、ですとか(笑)……或いは「本番で失敗しないように、少し休んだら?」とか、そういうところで、コミュニケーションが深まっていきますよね

渡邊 岡部の人柄もあるのでしょうけど、結構ここの事務所がですねぇ、愚痴をこぼす場所になってます(笑)。劇団の中では言えない事とかもありますよね。そういう事が、こう、ポロっと

岡部 (笑)……その分、こちらもやっていて楽しいですね。いろんなお話できますから

渡邊 岡部をカウンセラーと呼んでます(笑)。……本当に、練習場に勤められるというのはすごく幸せなことだと思うんです。ここは、夢の途中なんですよね。作って発表するまでの、こう、高まっていく部分をずーっとここでやっていくわけです。これが劇場に行くと、良くも悪くも現実になってしまう。何らかの事情で制約が加えられたり、自分たちの描こうとした夢が「大きすぎた」「小さすぎた」なんて事に気付かされたり、って。それがここには無いんです。まさしく夢の空間で、そこに接することが出来るわけですから。……だから、ここは利用者の方にも喜んで頂いていますけれど、実はこちらにとっても「有り難うございます」って素直に言える、幸せな場所なんですよ
代を超えた、演劇の拠点に
―では、最後に、今後「こんなことができたらいいな」と考えていることは?

渡邊 先ほどもお話ししましたけど、教育現場との連携を深めていきたい、というところですね。更には、高校演劇の方たちが講師を探すのにけっこう苦労しているようなので、講師を務められる方々を「アクテノン・マイスター」……これは私が個人的にそう呼んでいるだけなんですけど(笑)……として紹介する、なんていうことも考えています。教育現場との連携の、次のステップとして、ですね。
あとは、機関紙のこと。開館当初から発行しておりますが、これは何とか続けていきたいですね。もう41号まで出ていますが、けっこう演劇の機関紙というのは経費的な問題もあるのでしょうけど……すぐに消えてしまうものが多い(笑)。ですから、これだけ続けてこられたというだけでも意味があると思いますので、これはなんとしても継続を。……演劇というのは、公演が終わると無くなってしまいますよね。だからこそ記録として、ここに入ってきたものは残していきたい

岡部 機関紙はもう8年くらい続いているわけですからね。これだけ続けてきますと、やはり一つの歴史になりますし。……それと、これは内容に関してなんですが、アクテノンだからこそ接することができる団体がたくさんありますよね。出来て間もない劇団だとか。そうした人たちを機関紙ではどんどんアピールして、紹介していきたいと思っているんです。これは、これからも劇団を解散せずに続けて欲しい、という私たちの想いも込めて(笑)

渡邊 あとは、もっともっと演劇の方々が使いやすい環境を整えていきたい、ということですね


岡部 私たちが気付いていないことがまだまだあると思うんですよね。そういうことを少しずつでも整えていって……

渡邊 情報も整備していって、東京の方もここに来れば名古屋の演劇のことが分かる、名古屋の方もここに来れば東京・大阪の演劇のことがわかる、そんな<拠点>にしていきたいと思っています。演劇資料はここはけっこう揃っていますし。それを充実していって、例えば自分の子供が演劇を始めた時に「お父さんが芝居やっていた頃の資料がここにあるよ」といって、また子供がここに来てくれる、そういった、世代を超えた空間にしていきたいですね

―ありがとうございました。
(文中、一部敬称略)
2004/2/28 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

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クテノン外観・内観

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