BACK STAGE REPORT〜ラストクリエイターズプロダクション『落ちる飛行機の中で』【稽古REPORT】〜
今舞台はとにかく出演者の顔ぶれがバラエティーに富んでいて、アソートチョコの箱を開けるような期待感を観客に与えてくれる。畑は違えど豊かな舞台キャリアを誇る役者たちを中心に、この福袋のようなアンサンブルはどんなかみ合わせの妙を舞台上で見せてくれるのだろう……そんな「開けてからのお楽しみ」の一端を、公演より一足先に稽古場で追った。

小さな公演なら十分打てる設備の整った稽古場。舞台上には旅客機の機内を模して、パイプ椅子が等間隔に並べられている。椅子が小さいせいか意外と手狭感は覚えないが、それでも芝居場は制限されてくる。出演者の多い今舞台では、役者の動線の処理も一苦労だろう。この限られたスペースをどういかすかもこの芝居の見所になりそうだ。
「はい! じゃあ、元気出していきましょう!」
中津留さんの掛け声に応え、役者たちが元気よく舞台上に駆けのぼり稽古は始まった。
『落ちる飛行機の中で』は、タイトルの通り飛行機内が舞台。その飛行機が果たして「落ちる」のかどうかはともかく、どうしようもなく閉じた空間で物語が進行していくところに妙味がある。当然と言うか、そこにはパニックがあり、現在の場面はそのパニックが極まったあたりか……
どこか周囲のパニックから乖離した二人を演じる汐風幸さんと樋渡真司さん。この主人公二人のやりとりが軽妙で面白い。一歩一歩踏み固めるように芝居を作っていく汐風さん。出し入れ自在の技巧で転がるように芝居を組み立てる樋渡さん。スタイルは違えど、いずれも舞台経験豊富な本格派らしく芝居を引っ張っていく。原作に忠実な部分を核にしつつ、汐風さんが縦の変化なら樋渡さんは横の変化と、変化球も頻繁に交えて芝居のテンポを生み出していくさまは、淀みがなくて心地良い。
更に芝居を引っ張る存在がもう一人。右往左往する「その他の乗客たち」の一人に扮した井手らっきょさんだ。意外と知られていないが、井手さんといえば蜷川幸雄などの舞台にたびたび出演し、自身も【劇団井手食堂】を主宰する舞台経験豊かな役者でもある。
出演者の中では最年長ということもあり、積極的に芝居で場を盛りたてようとしているのが見て取れた。今作、観客の感情移入度は彼ら「その他の乗客たち」次第とも言えることを考えると、井手さんの存在はなんとも頼もしい。
シーンの途中で中津留さんが舞台にかけ上がった。役者さんの手を直接とって、立ち位置を指示していく。「とても一回じゃ見きれない」という人数だけに、一人一人に声をかけるよりこの方が文字通り「手っ取り早い」というわけだ。
立ち位置の指示の後は、動きのチェック。これも手っ取り早く、いくつかの動きを自身で演じてみせたのだが……でかい身体、長い手足、そして巨大な眼球をフルに使ったそのハイテンション芝居は、ほとんど反則スレスレの面白さ。途端に舞台の中と外で爆笑がはじけたが、その反則っぽい動きを再現しなければいけない中村綾さんだけは頭を抱えていた……
さて、立ち位置や大まかな動きも決まって、あとはひたすら微調整を繰り返しながら、通しては返しが続いていく……
狭い機内で、それも極限状態の中で、大勢の人間が動き回る。当然、同時にいくつものことが起こるわけで、とにかく段取りは細かく、きっかけの取り方も込み入ってくる。小さなズレが芝居を止めるほど大きな破綻に繋がったりもする。だが、そんな中で出てくる問題が一つ一つクリアされていくスピード、それは驚くほど速かった。
理由は一つの駄目出しを、出された役者個人の問題に済ませず全体が連動して変化するためだ。例えば中津留さんが一人の役者に「もっと動きを大きくして」と言えば、周囲のリアクション、ひいては舞台全体の動きが「大きく」なる、という具合。だからときに「こう見えるように」「こんな感じで」という演出家の簡単な言葉が劇的に芝居全体を変えることもあって、その変容は実に刺激的だった。打てば響くチームワークとプロ意識。中村綾さんの動きも中津留さんのそれ同様、大いに笑いを誘って、このシーンの作りが一段落した。
この後は、少し前のシーンにさかのぼって通し&返し。原作には無いキャラクターたちがしばしば見せ場を作っていく。「その他の乗客たち」の顔を描くことで原作の持つブラックな可笑しみが増していて、このあたり、中津留さんの資質が今作品にハマッた表れだろう。見ていてニヤリと笑うことしばしば。原作を読んだ人にも楽しめるよう、仕掛けが色々施されていることもシーンの随所にうかがえた。中津留さんはこの後も何度も舞台に上がり、役者たちは互いに影響し合って芝居をどんどん変えていき……笑いの絶えない稽古はどこまでも順調に続いていった……。
この小説を演劇で表現する意味。それは小説ではほとんど描かれなかった「その他の乗客たち」が、生身を持ってそこにいるのを目にした瞬間、了解されるだろう。彼らの感情が、存在が、主人公たちの血肉に手触りと温度を加える。それだけでも原作の持つ面白さを更に増幅してくれるのは疑いない。
ブラック度がちょっと増して、それに比例して可笑しみもプラスされたこの舞台。原作を読んでいない人にはもちろん、読んだ人にもきっと新鮮な驚きがあることだろう。
稽古場の大きな画像をご覧になりたい方は、【稽古REPORT(2)】
2005/2/9 文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 

BACK STAGE REPORT〜ラストクリエイターズプロダクション『落ちる飛行機の中で』【稽古REPORT】〜

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