【稽古REPORT】
【空間ゼリー】の新作『つの隠し』の稽古場。そこで見た彼女たちの稽古風景は、かなり風変わりなものだった。知らずに出くわすと面食らうその稽古システムにも、この劇団が高い目標を持って活動していることが現れている。
そんな【空間ゼリー】の、ちょっと珍しい稽古の模様をレポートします。
私は床を見る/私は振り向く/私は立ち上がる/私はソファーに駆け寄る/私は座る/私は言う/私は……

私はドアノブを掴む/私はドアを開ける/私は室内を見る/私は人を見る/私は部屋に入る/私は……
目の前で展開される、一つのシーンの通し稽古。その最中、役者たちはセリフではなく、自身の行動を言語化して休むことなく口にしている。

私は腕を掴む/私は強く腕を掴む/私は言う/私は聞く/私は聞く/私は……

決して間を空けることなく言語化は続く。舞台上の役者全員の口から絶えずそうして言葉が鎖状に溢れ出ているので、舞台に5人も上がれば声と声が重なって、ちょっとしたパーティー会場のような騒がしさが稽古場を満たす…。
   
シーンを止めて、演出の深寅芥(みとら・あくた)さんが役者の一人に問う。
「あなたのアニマルは何だっけ? 無生物は?」


――初めは何が起こっているのか分からず面食らったが、実はこれ、英国王立演劇アカデミー(RADA)で行われている「I DO」「I WANT」というスタニスラフスキー・システムの演出メソッドなのだそうだ。
深寅さんが解説してくれた。
深寅 自分の役を象徴するような動物(アニマル)と無生物を設定して、動いている時はその動物を、動いていない時はその無生物をイメージします。現在は『I DO(私は〜〜する)』の段階なので自分の行動をああして声に出しています。今後、『I WANT(私は〜〜したい)』になったらまたガラっと変わりますよ
すでに全員、セリフは頭に入っている状態だという。その上で、セリフを受け入れる確かな器(身体・行為)を作り上げる作業を現在しているのだそうだ。器と言ってもそれは定まった“型”を作るのではない。むしろ“型”から自由になるために、つまりパターン化しない芝居を実現する為にこの過程は必要なのだという。確かに、舞台上に仮想された机や箪笥の位置はシーンを返すごとに意図的に変えられるが、それで役者が戸惑いを見せることも無い。自覚的に行為すること、それがパターン化を防ぐ鍵なのかもしれない。

深寅
 こうして作っておけば、あとはセリフを落とし込むだけ。もう、どんな風に動いても、何が起こっても対応できます。だからうちは『キッチリ演出つけてるね』ってよく言われるんですけど、実は芝居はかなりフリーにやっているんですよね
――「英国のメソッド」「フリーな芝居」と聞いて、以前、英国のある芝居を観た人が「観る回によって役者の出はけの位置まで変わっていた」と演技の自在性に驚いていたのを思い出した。それは極端なケースかもしれないが、ともかくこうした果敢な取り組みが生む柔軟な芝居、それもまた劇場での楽しみの一つとなりそうだ。
ただ、こうした作り方ができるのは学生が多いウチだからこそなんでしょうね――そう言って深寅さんは笑った。確かに、新しいものを素直に受け入れられるメンバーの若さがこの場合はプラスに働いているのだろう。かなり特異な作り方なので、経験豊かな役者であれば人によっては拒絶反応を示しても不思議ではない。学生主体という普通ならハンデとなるファクターをこうして武器に転じている様は、見ていて心強い。
   
「それはダラダラしてるだけ。何も見えない!」
「あなたの行動はパントマイムをパントマイムしてるようなもの。本当のことが何もない!」

演出家の厳しいダメ出しを受けながら、シーンは通しては返しを繰り返す。動機と行為の連鎖にまで解体されたシーンを何度も見ているうちに、セリフは無くともシーンの結構細かいところまで理解できてくるのが面白い。制作も務める石井舞さんが今作について「いろいろな女性像が出てくるので、観てくれるお客さんそれぞれにきっと通じるはず」と語っていたが、なるほど出てくる女性の年代や感情の表し方も様々だ。特に後者の感情の表現の仕方・差異の見せ方は登場人物によってかなり細かいところまで設定されていて、ここが一つ、この劇団のこだわりどころと見て取れた。
この劇団での自身の役割を、深寅さんはこう語った。
深寅
 僕は作品に男性フィルターを入れているつもりはありません。ただ通常、女性の作/演出だとウェットになってしまう部分をちょっとカラっとさせて、観客を選ばないようにするだけです。ひとことで言えば僕の仕事は、男性でも普通にデパートの1階に入れるようにするっていうことじゃないでしょうか。デパートの1階って、我々男はなかなか居られないでしょ?
そんな“デパートの1階”の見取り図は、目の前で着々と書き上げられていった。
高められた緊張感。時にそれを適度にほぐす笑い。
若さゆえの気力・体力に物言わせ、ほとんど休みを入れないままに、普通より随分とハードであろう特異なシーンの止め返しはいつまでもいつまでも続いていくのだった。
   
型を持たないけれども型崩れしない芝居のために――。
稽古を見ていて、【空間ゼリー】が目指す芝居の在り様は定形と不定形の間でプルリと揺れるゼリーのイメージに重なった。
ちなみに、こうして出来た“器”にセリフを落とし込むのは公演の1週間前くらいとのこと。それまではひたすらに、何が入っても揺るがない器づくりに費やすのだという。
この、確かな芝居づくりのためには新しい方法論も積極的に取り入れる真摯な情熱が3月3日の雛祭りの日、どんな実を結ぶのか――それは是非とも劇場で確認して頂きたい。
稽古場の大きな画像をご覧になりたい方は、【稽古REPORT(2)】へ
2006/2/13 文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

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