【坪田 文インタビュー】
 【空間ゼリー】主宰の坪田文さん。笑いに走らず、本当に女性の心に訴えかけるものを舞台上に送り続ける坪田さんの志向、その始まりから、劇団のこと、更には【空間ゼリー】の新たな一歩として一年がかりで準備した新作のことなど、多くを聞いた。
坪田 文

日本大学芸術学部演劇学科劇作コース所属(今春卒業)
2002年7月、女性のみの劇団として日芸演劇学科の女性中心に【空間ゼリー】を結成
以降、同劇団の全作品を執筆
もう学生劇団とは呼ばせない
―坪田さんは今春で大学卒業。気になるのは【空間ゼリー】の今後ですけど、劇団は存続するようですね

 存続していきます。8月の公演ももう決まってますし。だから続けていくんですけど…やっぱり今までとは気概が違いますよね。この3月公演からはもう学生じゃない――それが自分たちにとって良い刺激になっています。これからはプロの劇団として、決意新たに頑張っていこうって

―3月公演は本公演としては1年ぶりですよね。これだけ時間が空いたのは?

 
この公演にかけてずっと準備をしていました。
 これまでうちは「学生劇団」という言われ方をすることが多かったんですけど、それは私としては一番言われたくない言葉だったんですね。他の劇団と一緒に扱って欲しいって思ってましたから。だから、どうにかこの3月で他の劇団さんと肩を並べたいという意気込みが強くあって、そのためにできることをずっとやってました。この作品の構想を練ることはもちろん、例えばフライヤーも2ヶ月くらい打ち合わせして作ったり、キャストも本当に自分が出て欲しいと思った女優さん、男優さんを、人によっては1年がかりで口説いたり。本当は一つの公演に1年もかけるのは非生産的で良くないと思うんですけどね(笑)
女性のために、演劇
―そもそも【空間ゼリー】という名前はどんなところから?

 劇団を始める時から女性メインでやっていくことは決めていたんです。で、女性ばっかりの劇団でやるんならやっぱり女性にしかできない芝居をしたい。だったらまず女性のことをよく考えないといけないと思ったんですね。

 「女性ってなんだろう?」って言って出てくるイメージは色々ありますよね。「綿菓子みたい」とか「お花みたい」とか。でもそれだと一般的にキレイなイメージになっちゃう。私の中では女性はもっと不安定なもので、しっかりしていないイメージがあったんですね。水でもない、つまり液体でもない、固体にもなりきれないもの。ゲル状の、グチャグチャした状態のもの、そういうイメージじゃないかと思って。でもそのまんま【空間ゲル】だとちょっと格好悪いから(笑)、それで【空間ゼリー】にしたんです


―初めから劇団のコンセプトは決まっていたのですね。そのコンセプト、「女性のために、演劇」という【空間ゼリー】が掲げるコンセプトについて少し解説して下さい。そもそも、なぜ女性メインでやろうと考えたんですか?

 日芸に入ってから、周りが男性主体の劇団しかなかったんですよ。男の子が「ワーっ!」とやって、それを女の子が「キャー!」って観てるっていう、そういう演劇が一般的に流行ってた時期なのかも知れませんけど、日芸もそうで、男の子が主宰で“男の人の笑い”みたいなのをガッツリとチカラワザでやっているところが多かった。私もお笑いはすごく好きだし、笑わせる芝居もいいとは思うんです。でもそれで「女の子が何かを本当に心の底から感じたりすることってあるのかな?」っていう思いはあった。だから自分たちが芝居をやる上でどこを目指そうかと考えたとき、女の子にしか分からないもの、女性みんなが心の中で共通意識として持っているものを舞台に上げられたら、女の子たちは喜ぶんじゃないかって思ったんですよ。そういうものは周りに無かったし、自分自身、そういう芝居が観たかった。そこから「女性のために、演劇」というコンセプトで芝居を始めました



―女性の視点で演劇を作る。それはある意味で、坪田さん自身の内面と向き合い、さらけ出すことでもあるかと思います。それゆえの苦しさもあるのでは?

 そうですね。特に一回目の『垣間見の病室』から三回目の『カラダホテル』までは、自分を削るようにして、自分たちの年代の子のみをターゲットに自分の心の中をさらけ出して書いていて……そのときは本当に、すっごくしんどかった(笑)。

 でもやっていくうちに、そこまでターゲットを絞らずに、もっと幅広い人に観て頂きたいという気持ちが目覚めてきたんですよね。だから前回の『穢レ知ラズ』からは「女性のために、演劇」というコンセプトは変えずに、個人の内面劇を書くというより、集団として、一つのコミュニティーの中における女性の心情の変化みたいなものを書いていくように変わりました。そういう意味では『穢レ知ラズ』は自分の中で一番の転機だったかもしれません。
 
 最近は少し客観的に書いているところが多いかも知れない。あちこちに出向いて、いろんな人に取材もしますし。そうして書いた方がやっぱり面白いって最近は思いますね。その分、作品の幅も広がりますし


―作品の幅が広がった今後、目標にしていることはあります?

 今、うちの若い子たちは若い子の役はしっかりできます。だから同世代のお客さんの心には芝居が届きやすいと思うんですよ。でも、やっぱり年上の方となると……「若いときは私もああだったわ」みたいな感想がすごく多くなるんですね。

 自分の中でのコンセプトとしては、自分の母親が楽しめるような芝居を作りたいんです。私の母親たちはやっぱり、家に閉じ込められてたりっていう年代。そういう人たちにも「楽しかった。私の気持ちを分かってくれているのね」って言ってもらえるような芝居をこれからは作っていきたいと思ってます。だから、役者たちにも、もう少し上の年代まで演じられるようになって頂きたいな、と
演出を男性に任せる理由
―女性の話を女性キャストメインで作り上げるなか、第三回公演から演出は男性の深寅芥(みとら・あくた)さんが担当されています。演出を男性に任せようと考えた意図は?

 『恋愛修行僧』(第二回公演)のときとかは、やっぱり女の子のアンケートはものすごく熱狂的だったんです。「すごく面白かった!」とか「私のことを書いているのかと思った!」とか。それは嬉しかったんですけど、でも男性の感想は「全然分からない」というのがとても多かった。…実は昔はそれでも良かったというか、「男の人は観たければ観てもいいよ」みたいな気持ちもあったんですけど、やっぱり次第に男の人にも「女の子はこういう風に思ってたりするんだ」って感じてもらいたいっていう思いが強くなっていったんですね。

 特に今、小劇場の演劇を観るのって多分、男性の20代〜40代くらいの人が一番多いと思うんですよ。レヴューとか見ててもそう感じます。だから、そういう男性のお客さんも観に来てくれる以上、何とか男性・女性ともに満足させたい、でもうちのコンセプトやオリジナルは歪めたくないって考えたときに、深寅さんという私たちより年上の男性が演出することによって、私の中には無い男性の目線や感性が作品に入るかなと思ったんです


―そうして深寅さんというフィルターを通してアウトプットされた自分の作品に対して、どんな感想をお持ちですか?

 私はすごく感情を重視して書いてしまうんです。客観的に書いていても感情の起伏を中心に書いてしまう。その点、彼はやっぱり男性的というか、理論的ですね。もちろん感情はすごく大事にして作ってくれるんですけど、私の2〜3倍は冷静に見てくれていて、物語としてひとつ、まとめてくれる力みたいなのが加わったんじゃないかと思います。だから今は信頼してお任せしてて、作品の出来上がりが前より倍くらい楽しみになってますね
心の中に巣食う鬼
――新作『つの隠し』について
―今作『つの隠し』について聞かせて下さい。タイトルから想像すると、結婚が物語の柱になるのでしょうか?

 もちろん結婚のことも出てきますけど、テーマは結婚というより“鬼”ですね。

 人は誰しも心の中に鬼を飼っていて、その鬼を隠して生活している。中でも天邪鬼という鬼は心で思っていることとは違うことを口にしているとどんどん大きくなっていくんですけど、そんな鬼を、人がいかに抑えているかというお話なんです。

 結婚のことで言うと……角隠しってお嫁さんの表情が見えないようにするという意味もあるらしいんですよ。角を隠すというだけじゃなく、これから角が立たないように、つまりお嫁さんは少し我慢して生きなさいっていうこともあるらしい。そういうように抑えつけられてきた女性のお話でもあります


―今作、役者さんたちに期待していることは?

 今作は話としては多分それほど華やかではないし、前作(『穢レ知ラズ』)のようなキッチリした落としどころがあるというのでもないんです。でも、だからこそ日常性、日常を生きていく人間の感情の動きをリアルに演じてもらいたいと思います。今の、多感な年代だからできることを、静かなんだけれどもお客さんが目を離せなくなるほど華やかに演じてもらえれば。そこにすごく期待しています

―最後に、今作を楽しみにしている皆さんに一言!

 女性のお客さんには「舞台にいるのはあなたかもしれない」ということを伝えたい。そういうかたちで共感してもらえたら嬉しいですね。男性のお客さんには「あなたの傍にいる一番近しい異なる者は、こういう風に考えている」ということを、分からなくてもいいから「なるほどね」って思ってもらえたらいいですね。だから是非、男性の方にも覗きに来て欲しいです。

 とにかく他では観られないものが観られると思いますし、どこもやっていないものを表現していきたいという気持ちは誰よりも強いので、そこに期待して下さい!
 周りに無かったから始めた――シンプルな動機で目指した女性のための演劇。女性の内面に真摯に向き合う作劇が支持を得て重ねた公演は、ついに正念場とも言える今作へと繋がった。

 学生劇団という前置き抜きで評価される為に費やした1年。それは作品づくりだけに留まらず、劇団活動の長期的継続を見越した体制づくりの期間でもあったという。その土台固めの過程で「プロデューサー業にも興味が出てきた」と語る坪田さんのもと、プロの劇団として動き出す2006年の【空間ゼリー】。彼女たちの今後を占う上でも、新作『つの隠し』は必見だ。
2006/2/13  インタビュアー・文責:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 
【坪田 文インタビュー】

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