BACK STAGE REPORT〜KUDAN Project『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』【稽古REPORT】
記者会見の行なわれた同日、続けて『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』の稽古場にお邪魔させて頂いた。
気温は30℃、湿度は約47%……うだるような暑さにも関わらず、稽古場はエアコン設備がない学校の体育館。今日はここで70人を超す出演者たちが、ひしめき合って稽古をすることになる。
体育館を見学させてもらっていると、間もなく出演者たちが続々とやってきた。
応募により集まった彼らの顔触れは、実に多岐に渡っている。俳優はもちろん、主婦、学生、図書館の司書……さらには原作者のしりあがり氏、名古屋市議会議員の斉藤まこと氏までもがそこに名を列ねているのだ。
さすがに話題性の高い注目公演であるだけに、稽古場には取材陣も多く、テレビ局からのカメラも数台入っている。ウォームアップをしながら稽古開始に備える各人の表情からは、ひとしおの緊張感が窺えた。
稽古開始に先立ち、現場指揮を務めるスタッフが本日のスケジュール説明を始めた。
今日のメニューは、主に読み合わせとダンス。あらかじめ決められたグループに分かれた出演者たちが、早速台本で自身の台詞を確認し、グループ内での打ち合わせを始める。老若男女、そして外国人までもが一堂に会して体育館を埋め尽くしているその様は、眺めているだけでも実に興味深いヒューマンウォッチングになりそうだ。
……そんな中、稽古場に原作者のしりあがり寿氏と脚本・演出の天野天街氏が到着した。しりあがり氏は出演者たちへの陣中見舞いとして、赤福餅を持参しての登場である。赤福餅といえば伊勢の名物……これはおそらく、劇中にてお伊勢さんを目指す弥次・喜多の旅に掛けられているのだろう。
簡単な挨拶ののち、しりあがり氏が天野氏の希望で、小道具として使う幟(のぼり)に何やら文字を書き始めた。独特のゆがんだ線でしりあがり氏が書いていくのは、天野氏らしい言葉遊びの効いた語句。本番では、しりあがり氏直筆のこの幟が舞台に立て掛けられることになる。
そんな一幕が一段落し、しりあがり氏が見守る中、いよいよ稽古が開始された。まずは冒頭部分からの読み合わせである。
小熊ヒデジ氏と寺十吾氏の主役二人による、台詞の掛け合いが始まった。記者会見でも触れられていたが、今回の舞台は映画との一つの差別化として、主人公の弥次郎兵衛と喜多八に主演二人の性格が色濃く反映されているらしい。二人は過去の二人芝居においても同役を演じ合った仲。すでに時間をかけて築き上げられた両氏の絶妙な呼吸は、弥次&喜多として芝居の中でさらに深く絡み合い、恋愛関係にまで昇華されたものになっていく。
しばらく弥次と喜多のやり取りが続いた後、やがて他の出演者たちが次々に登場し始めた。時にはあちこちから声が上がり、また時には全員が声を合わして発する大人数による言葉の波は、肉声によるサラウンド効果といった感じである。
じっと聞き入りながら様子を眺めていた天野氏が、ふと芝居を止めた。
「最終的には静かな台詞になるかもしれませんが、とりあえず今はできるだけ声を張って下さい」
「恐る恐る言うのはやめて、間違えても構いませんから確信を持って言って下さい」
「自分の台詞箇所だけでなく、全体と前後を把握して下さい」
……今回の160人以上に及ぶ出演者たちは、もちろんその全てが芝居経験者ではない。通常の劇団の芝居稽古ならば、敢えて言及することもないかもしれない基本的な演技指導も、省くことなく何度も丁寧に施されていく。
冒頭部分の読み合わせが終わると、続いて合唱のレッスンが始まった。ここでも天野氏はスピーカーを片手に、丁寧な指導を根気よく続けていく。
「ノドを傷めないように、お腹から声を出して下さい! 迫力が出るように!」
それを受け、合唱の歌声が段々とまとまり、大きくなってきた。やがて天野氏が体を左右にカクカクと揺さ振り出した。出演者たちも、それに合わせて体を揺らし出す。天野氏がさらにカクカクすると、出演者たちも負けじとカクカク……曲のリズムを取っているというよりは、即興の振り付けといった感じである。
ちなみに歌は、誰もが知っているメロディーに妙な歌詞が乗ったもの。その歌詞とカクカクが相まって、なんとも不気味可笑しい。
そんな歌の練習が終わって、カクカクをやめた天野氏より一言……「本番でこの動きをするかは分かりません」
そしてダンスレッスン。どうやらこれが本日のメイン稽古のようである。
まず最初に、整列しての全員での踊り。同じ振りのダンスを、テンポの違う曲で何度も踊り続ける。
……一通りが終わった頃。今まで椅子に座って見学をしていたしりあがり氏が立ち上がった。どうやら帰る時間が来てしまったようである。氏は最後に出演者一同の前に立ち、挨拶と激励の言葉を述べた。
「稽古を見学していて、僕の大好きな『天野ワールド』がいかにして出来上がっていくかが見れたような気がします。もう皆さん、天野さんの世界の住人になりかけてますね(笑)。貴重なものが見れました、頑張って下さい!」
全員の盛大な拍手に送られて、しりあがり氏は退場していった。
再び稽古再開。今度は全体稽古から各グループに分かれてのレッスンである。
一足早くレッスンを始めていた名古屋の劇団員たちがリーダーとなり、大きく2グループに分かれてのダンスが始まった。その一方で、個人的な事情などでレッスンの進行が遅れている者には、体育館の脇でマンツーマンによる個人レッスンが行なわれる。百人を超す規模ではどうしても目が届き切れない稽古を、様々な形に分割することによって統制していこうという方法論のようである。
グループレッスンの方は、ダンスの中の一つ一つの動きを抽出しながらの反復練習である。一つは女性だけのグループ、もう一つはほぼ男性だけのグループとなっている。ダンスの内容はどちらも同じように見えたが、もしかしたらこの分け方にも何らかの意図があるのかもしれない。
また、ダンスにはその動きに合わせて名前(節)が付けられており、覚えやすさ、合わせやすさの面で非常に効果的になっている。
「二つの 頭の 子供の 幽霊」
「口から ひまわり 咲いている」
「芸者と 戦車で 遊んだ夜は 壊れた 橋から 花火見る」
……といった感じで、その拍子に合わせて踊るのである。
以降、サウナのように蒸し返る体育館の中で、一時間二時間と熱の入ったダンス練習が繰り返された。
見ているだけでも立ちくらみがする室内の中で、絶えず激しく体を動かしている出演者たちの体力には脱帽してしまう。中には小柄な女性や高齢の方もいらっしゃるのだが、一向に動きの衰えないそのエネルギー、バイタリティにはまさに目を見張るものがある。
……途中、ようやく僅かな休憩時間に入ったのを見計らい、出演者たちに少し話を伺ってみることにした。

「まだ一週間目ですから、全貌は見えていません。だから凄く楽しみですね。全員が揃ったときにどうなるのか……」(演劇未経験者・女性)

「ベリー・エキサイティング! 日本語の台詞は難しいですけど、これは私のチャレンジです」(オーストラリア人・劇団員・女性)

「60歳以上という募集枠があるのを見て応募しました。最後までついていけるか少し心配ですけど……もうチラシにも名前が載ってますので(笑)」(65歳・男性)

「以前に天野さんの演出された公演に出演しまして、それが今回の出るきっかけです。全員揃っての練習はまだないので、それだけ完成への期待感はありますね」(【人形劇団むすび座】・水谷文夫氏)
休憩が終わると、またもやひたすらダンスの反復練習。
レッスンも佳境に入ってくると、もはや彼らはテレビカメラも取材陣も全く目に入らない様子だった。次第にダンスも足並みが揃い始め、もはや老若男女はもちろん、芝居経験の有無もダンスの習得度合いも超越した所でまとまりつつあるように見える。
疲労もかなり溜まってきているはずだが、一心不乱に踊るその表情はみな真剣そのもの。70人もの人数がいれば、一人ぐらい手と気を抜いてしまう者もいるのでは……などと、己に照らし合わせて懸念していた自分が無性に情けなくなってしまった。

……時間も押し迫り、最後は再び全体での仕上げのダンス。
テンポを落とした緩やかな曲での、動きを確認しながらのダンスに続き、その感覚を持ち越してのアップテンポのダンス。そして締め括りは、本番仕様の最も速いテンポのダンスを二回行ない、ようやく本日の稽古は終了した。
尋常でない熱気の篭もる体育館でのハードな練習に、さすがに出演者たちも疲労困憊の模様。「本日は以上です!」との掛け声に、あちこちから「フ〜〜ッ」と溜め息が上がった。
全出演者が揃っていたわけではないが、70人という規模で見せられたダンスは、ただ一言「圧巻」だった。本番の舞台上では、160人以上の人数による完成されたパフォーマンスが披露されることになるはず……それが一体どれほどのものなのか、正直想像がつかない。だが、彼らが一体となって舞台上にひしめき踊る様は、おそらくそれ自体が一つの大きな生命のうねりのように見えるのではないだろうか。
とても興味深く、そして面白く稽古を拝見させてもらったが……やはり稽古では駄目である。この「百人芝居」は、舞台での完成された「百人」を見たときに、初めてそのインパクト、迫力が真に分かる代物に違いない。
……約170人分の情熱を叩き付けられる芝居とは、どんな芝居なのだろうか? 観客はそれを正面から受け止めたとき、どんな感覚に陥るのだろうか? 無数に登場人物の出てくる世界……裏を返せば、実は「0」(無数)かもしれない世界で、果たして弥次・喜多と観客は「リアル」を見付けることができるのだろうか?
演劇が好きな人はもちろん、そうでない人にも是非、一人でも多くの方にその感覚を体験してもらいたい。

前代未聞の一大スペクタクル・『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』……来たる8月10日〜13日、いよいよ開演である。
稽古場の大きな画像をご覧になりたい方は、【稽古REPORT(2)】へ
2005/7/8 文責:毛戸康弘 撮影・編集:鏡田伸幸

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