BACK STAGE REPORT〜KUDAN Project『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』【小熊秀司/小熊ヒデジインタビュー】
しりあがり寿氏の漫画『真夜中の弥次さん喜多さん』を、【KUDAN Project】が二人芝居に仕立てて発表したのは3年前。そのとき、この漫画の舞台化を提案したのは小熊秀司さんだったという。
そうして生まれた二人芝居が、今度は百人芝居へ。プロデューサーとして、主演俳優として、誰よりもこの企画に深く関わってきた小熊さんに『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』の7月7日現在のカタチを、詳しく語ってもらった。
小熊秀司/小熊ヒデジ
(プロデューサー/俳優)
愛知県瀬戸市出身。

19歳で自主制作映画に関わる。

1985年、劇団【てんぷくプロ】旗揚げに参加。

1995年、天野天街らと【KUDAN Project】の前身となる演劇ユニット【キコリの会】を立ち上げ、東京・名古屋で『くだんの件』を上演。

1998年、同作品を『劇終/OSHIMAI〜くだんの件』と改題し、台北・香港・名古屋・東京で再演したのを機に【KUDAN Project】を発足させる。以後、名古屋を拠点に国内・海外での公演活動を実施し、高い評価を得る。

2003年には二人芝居『真夜中の弥次さん喜多さん』で中国3都市(北京・ハルピン・重慶)連続公演を実施。今作でも役者・小熊ヒデジとして二人芝居版に続き喜多八役を演じると同時に、プロデューサーも務める。
はじまり―
―そして実現した組み合わせ
―そもそも、今回の企画の元となる二人芝居で、原作にしりあがり寿氏の『真夜中の弥次さん喜多さん』を選んだのは小熊さんですよね。この作品を選んだ理由から、まずは聞かせて下さい

僕、子どもの頃から漫画が好きだったんです。それでしりあがり寿さんの漫画も結構初期の頃から読んでたんですけど、『真夜中の弥次さん喜多さん』に出会った時にはすごい衝撃を受けたんですよ。それはかつて手塚治虫さんの『火の鳥』を読んだ時と同じ衝撃だった。馬鹿バカしくって、でも、奥が深い。本当に底知れないものがあると思いました。そんなでしたから、【KUDAN Project】として二作目をやりたいと考えていた時期に、うちの本棚にあった『真夜中の弥次さん喜多さん』を読み返してみて、すぐに「これだ!」って思ったんです。弥次さん、喜多さんという二人が主人公ですから「二人芝居としてやれる」というのもありましたし。で、天野に話したら、天野もしりあがりさんの作品が好きだったので「それはいいんじゃないか」って。寺十君(注)も漫画を読んで「凄い。やろう!」となったので、早速しりあがりさんに会いに行ってお話しして。そうしたら「どうぞ、どうぞ」と言って下さったんです

注:寺十 吾(じつなし・さとる):劇団【tsumazuki no ishi】(東京)主宰。【KUDAN Project】の過去2作品(ともに二人芝居)ではいずれも小熊さんの相方を務め、今作でも弥次郎兵衛を演じる

―とんとん拍子に決まった、というのは分かる気がします。天野さんとしりあがりさんの世界の構築の仕方には、どこか通じるものがあるように感じますから

ありますね。間違いなくあると思います。
…しりあがりさんの原作の中で、動物が「台風何号」っていって上陸してきて、宿場を襲う場面がありますよね。実は天野も以前、芝居の中で台風が上陸してくる場面で――こっちは動物ではなく人間ですが――人がこう、「台風何号ですよ」っていって訪ねてくる、というのをやっているんですよ。あくまで一例ですが、そんな一致にはドキリとさせられますね。
とにかく、どこか共通のものを二人は持っていると思うし、だからとてもいい組み合わせだと思います
プロデューサーとして考えること
―そうして実現した二人芝居『真夜中の弥次さん喜多さん』。それが今度は百人芝居に生まれ変わります。しかも実際に出演するのは160名以上。プロデューサーは相当大変だろうと思うのですが、わけても一番大変なことは?

大変なのは……まず、一つは当然ですけど予算。衣装だって人数分要りますし、小道具だって一人一個持つと×160ですからねぇ(笑)。あと稽古場も広い場所が必要になってきますし…。普通の芝居が20人出るとすれば、単純に計算してもその8倍は費用がかかるわけです。その費用の面がまず一点。
次に、同じくらい大変なのが参加する人たちのマネージメントというか、どうやってフォローしていくかという部分。参加する人それぞれが充実した時間を過ごせなければ、やっても意味が無いって思うんですよ。「あぁ、“群集の一人”で終わってしまった」ではつまらない。だから、どこまでみんなが充実した時間を過ごせるのか、辞めていく人をどれだけ最小限に留められるか。そこに一番気を使いますね。だから、事務局を作ってチームで動いているんですけど、出演者を管理する人たち、稽古の進め方を受け持つ人たち、踊りを担当する人たちと、部署を作って対応してます。
……踊りがまた、難しい踊りなんですよ。すごく覚えにくい(笑)。全員が毎日稽古場に来られるわけではない。仕事で週に2日しか来られない人もいれば、家が遠くで週末しか出られない人もいる。いろんな条件の人たちが来るなかで、その踊りをどうやれば全員に覚えてもらえるか……とにかく、全員がこの芝居に関わって良かったと思えるような稽古の進め方、本番の迎え方に最大限に神経を使ってますね


―この芝居の意義として挙げられている“地域文化振興”と“国際文化交流”。この両者に対して、どんな成果を残すことを期待していますか?

地域文化振興に関して言えば、これだけの規模のことが行われるのは全国的に見てもそんなに無いと思うんです。それが東京でも大阪でもなく名古屋から発信される。東京や大阪と比べると名古屋は演劇人口も観客も少ないんですけど、その名古屋でもこんなにすごいことが出来る。そのことをまず、名古屋の演劇に興味のある人や文化関係に携わっている人たちに知ってもらいたいし、それが一般の人にも広がっていって、少しでも演劇人口・観客が増えるといいなって思います。今回は特に、一般の人たちがたくさん舞台そのものに参加してますから、その人たちを通じても、今まで演劇を見たことの無かった人に演劇の面白さを感じてもらえると思うんです。この芝居を通して、演劇・生の舞台にもっと興味を持ってもらえる土壌が広がることを期待しています。
国際文化交流については、今まで僕らは海外でも公演をやってきたんですけど……実はすごく評判がいいんですよ、向こうで。で、それってやっぱり嬉しいんですよね。基本的に日本語で芝居をしていて、それでも、文化が違うところでもちゃんと伝わる。その感激があったから、今度はこちらで、つまり日本で、名古屋で、こちらにいる外国の人たちと一緒に作業をしてみたいと思ったんですね。そんな経験をすることはその人たちにとってもまず無いでしょうし、そういう貴重な体験をしてもらいたい。日本にこんな文化があるってことも知ってもらいたい。そしてその先、名古屋で、日本でそういった外国の人たちが行ってる活動と僕らの活動が何らかの形で展開できる…そんなところまで広がっていけばって、夢というか、考えてはいるんです
毎回100人近くが参加する稽古
―稽古の様子を聞かせて下さい。稽古が始まったのはいつからですか?

6月26日からプレ稽古を始めました。プレ稽古というのは名古屋にいる演劇関係者だけでの稽古です。100人の稽古なんて経験したことがなかったから、とりあえずみんなの力を借りないと無理だろうと考えて、それでまずは演劇関係の人たちに来てもらったんです。そこで踊りをみんなに覚えてもらい、チームを作って、どういう風に稽古を進めていくかを話し合って…そうやって、一般の人たちが来るのに備えたんですね。
一般の方の稽古参加は7月2日から。そこから全体稽古が始まりました。


―現在、稽古には毎回、何人くらいが参加しているのでしょう?

80人〜90人くらいは毎回集まってます。遠方の人は平日にはなかなか来られなかったりとか、例えば東京の【tsumazuki no ishi】のメンバーは7月の後半からとか、それぞれの事情があるなかで、それでも大体100人近くはコンスタントに来てますね

―100人近くで進める稽古というのは、ちょっと想像がつかないですね。…やっぱり、グループ分けみたいな形で進めているのですか?

今はまだグループ分けはしていません。ただ、今は踊りが稽古のメインになってますから、踊りの習得具合によって分けることはあります。かなり覚えた人、あまり覚えていない人、という具合に。来週くらいから実際の役柄に関するグループ分けができたらなって思ってます

―ちなみに、参加者のうち、東海以外に在住の方はどのくらい?

一般参加ですと関西・関東からそれぞれ6〜7名。やっぱり東海三県からがほとんどですね。でも【tsumazuki no ishi】のような招聘メンバーも入れれば、関東からもかなりの人数が参加しています。30人くらいかな? 今日の稽古にも神奈川から来ている人が出ますよ。この前の週末にも、僕が知ってる範囲だけでも東京から一人と、横浜から一人来てました
スタッフワークがもたらした手応え
―稽古に参加されている皆さんの様子はこれまでのところ、どうですか? 演劇未経験者も40人ほどいらっしゃるそうですが

結構楽しんでくれてるみたいですよ。稽古に来てみたらつまらないとかしんどいとかで、その人たちが辞めていくことがあったら困るなって心配してたんですけど、それはないですね。みんな楽しんで、一生懸命やってもらえてます

―プロデューサーとして、予想以上に手応えを感じている部分は?

稽古場を運営していくスタッフ達の成果は見事だと思います。稽古場担当っていうリーダーが一人いて、彼が基本的に稽古場を仕切っているんですけど、その、100人できちんと稽古を始めて、稽古の段取りを組んで、終わったら10分から15分くらいで全員稽古場から出す見事さ(笑)。着替えだけでもグズグズしてたら30分以上かかりますからね。
現在稽古できるのは踊りと、若干の歌と、今ある分の台本の読みくらいなんですけど……全員にちゃんと踊りを覚えさせるダンスチームの成果とか、歌唱チーム、この前演出チームっていうのができたんですけど、そういう、各部署の仕切りは見事だと思います。すごく上手に進めてくれていて、始まってみて本当に安心しました


―あとは天野さんの脚本完成を待つばかりですね(笑)

そうですね(笑)。…彼は、脚本を書く時点で演出上の細かいところまで頭の中で構築しているタイプだと思うんです。現場で作り上げていくというより、台本を書きながら演出している、といいますか。それで、さすがに170人をどう演出したらいいのかっていうところで今、苦労しているんじゃないでしょうか。
また、彼の場合は自分で衣装デザインもやるし、もちろん選曲もするし、チラシだって彼が作ったし…という具合で、作品全体ありとあらゆるところに神経を配らないと気がすまない、そうでないとやれないタイプだと思いますので、余計に苦労していると思います
役者として
――恐さ、そして楽しみ
―役者・小熊ヒデジさんとしてのお話も聞かせて下さい。二人芝居でも今作でも喜多八を演じる小熊さん。衝撃を受けたという原作の世界の住人となって、改めて感じたことは?

喜多さんを演じてみてつくづく思ったのは、喜多さんは本当に弥次さんのことが好きなんだ、っていうことですね。ヤク中で、何を考えているか分からないところがあるけど、本当に弥次さんを愛している。僕が演じる喜多さんは、その「愛している」という部分が原作の喜多さんよりも出てしまう感じです

―役者として、ご自身の土俵・舞台上でこれほどたくさんの一般の人に接する、言葉を変えるなら晒(さら)されることはまず無い経験だと思いますが、稽古をしていてどんな感慨を抱いています?

あの…このまえ東京の寺十君が初めて稽古に参加して、読み合わせをしたんですね。その時に、100人近い人間の前で読みをやる、というのを経験してみて彼は、「恐い」と言ってました(笑)。すごく恐い、って。実は僕も稽古が始まる前までは恐かったですね。やっぱり…恐いですよ。僕の場合は稽古に入ったらむしろ楽になったんですけど、それは僕が企画の立ち上げから関わってきて、オーディションにも立ち会ったからその分だけ早い段階で恐さが来た、ということだと思うんです。急に飛び込んだ寺十君は遅れて恐くなっただけで。…多分、僕、もう少ししたらまた恐さを感じると思います。で、寺十君がまたそれに遅れて恐くなるんでしょう(笑)。
でも、寺十君と二人でやってきた弥次喜多がこの人数の中でどうなっていくのか。それはやっぱり、すごい楽しみでもあるんですよね
―では最後に…まずは役者・小熊ヒデジさんから今作への抱負をお願いします

弥次さんと喜多さんの二人が、160人もの人間とどう向き合っていくのか……当然弥次さん・喜多さんが話の中心には居るわけですけど、天野も「二人で一人、全員で一人」と言っていたように、170人近い出演者のそれぞれが主役というか、“すべてで一つ”という芝居ですので、そういう風に観てもらえるものにできればいいですね

―次に、プロデューサー・小熊秀司さんからは今作を楽しみにしている人たちに向けて一言!

天野天街はいま、作家として、演出家として、とてもいい時期にあるんじゃないかと思うんです。今回、その彼に、最高のタイミングで最高の仕事を手がけてもらうことができました。そして、最高のスタッフ達がそれを具体化します。この芝居、間違いなく「ダレモミタコトノナイ一大スペクタクル演劇」になると思います。是非、観にいらして下さい!
二人芝居で金髪の喜多八を演じるようになってから、本人もずっと金髪を続けているという。そんな小熊さんは、いま目の前にいながら、舞台上の世界と現実の世界、その両方に自然に足をかけているような、不思議な魅力を湛えた人だった。
百人芝居をプロデュースする――考えただけでも大変そうな話だが、そんな苦労など微塵も感じさせない小熊さんの佇まいに触れ、ふと、自分はいま小熊ヒデジ=喜多さんの夢の中に入り込んでいるのでは?…と、おかしな気分に襲われた。
漫画の中で始まった弥次喜多の旅。この世の“リアル”を求めて伊勢を目指した二人は、幻想と現実が交錯する狭間へと迷い込んでいく。幾つもの夢をすり抜け、生と死をくぐって……この百人芝居もまた、二人の旅の途上、狭間に生まれた夢の一つなのかもしれない。

この夏、【KUDAN Project】が仕掛ける渾身の演劇的事件――
   『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』

弥次喜多が、160人以上の登場人物たちが、旅路の果てに見るもの――それを目撃しに、8月、あなたも劇場に足を運んでみては?
2005/7/7 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

BACK STAGE REPORT〜KUDAN Project『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』【小熊秀司/小熊ヒデジインタビュー】

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