BACK STAGE REPORT 〜北区つかこうへい劇団〜父親が挑む『蒲田行進曲』〜【山本哲也インタビュー1】
 取材場所は、稽古場でもある「田端・文士村記念館」。
 インタビューを受けるべく腰を下ろした山本さんの背後には、今回の『蒲田行進曲』のポスター……さらにその後ろでは、山本さんが師と仰ぐ主宰・つかこうへい氏の写真が、静かに彼を見つめている。
 まずは今公演の経緯について、山本さんに改めて振り返って頂くことにする。
山本 哲也
1972年生まれ。千葉県出身。

1995年、大学4年時に北区つかこうへい劇団養成所3期生として参加。劇団最終試験で(就職が決まっていたという理由からつか氏の判断で)不合格となる。

1996年、三井物産に就職。翌年、三井物産退社。

1998年、北区つかこうへい劇団所属。以後、つか作品に出演する傍ら、劇団の制作、つか氏の運転手なども務める。

2003年、劇団退団。
名作・『蒲田行進曲』への挑戦
―今回は「長女誕生記念特別公演」と銘打たれた企画なのですが、改めて経緯からお聞かせ下さい。

 3月に娘が生まれまして、それを伝え聞いたつかさんから「父親らしい、ちゃんとした仕事をしてみろ」とお話を頂いたのが始まりです。……演目は『蒲田行進曲』でどうだ、と。

―お話が来た時点で、すぐにお受けになったのでしょうか?

 いえ(笑)。実は劇団にいた頃から色々と「こんな企画はどうだ?」といったお話は頂いていたんですが、これまでは自分の中で踏ん切りがつかなかったと言いますか……。ただ、自分に娘が生まれたということで、ちょうどつかさんが娘さんがお生まれになった時に書かれた本「娘に語る祖国」を読んだんです。その中に「パパはもう逃げません」という言葉があって……。それまでも自分は理由をつけて逃げているんじゃないか? という自問はずっとありましたし、またいつこんなお話を貰えるかも分かりませんので、ここはもうやるしかないだろう、と。

―構成・演出・主演を全て手掛けるのはご自身初めてでもあり、かなり大変なお仕事になるのでは?

 構成と演出というのは、ほとんど一つの仕事だと思っています。なので、大変な部分はそれらをしながら役者をやるという部分でしょうか。どちらかだけならまだやり易いんでしょうけど……ただまあ、今回僕としては全て引っくるめての勝負だと思っていますので。全てを任された責任というのは、とても強く感じています。

―『蒲田行進曲』という有名作を任された心境はいかがでしょうか?

 う〜ん……これはつかさんの作品全般に言えることだと思うのですが、『蒲田行進曲』という作品は年代や会場、特に出演者によって面白さが凄く変わってくる作品だと思うんです。それは「変える」のではなく「自然と変わる」もので、新たに行なう公演で全く同じ『蒲田行進曲』をするのは不可能だと思うんですね。ならば、今回のメンバーと向き合って作った『蒲田』をどう面白くするかが僕の仕事なのではないかと。それがつかさんの芝居の面白さであり、僕はつかさんからそういう芝居の作り方を学んできたと思っていますから。そういう意味で僕だけでなく、今回の出演者、スタッフ全員で作品と戦っていけたらなと。

―やはりプレッシャーはありますか?

 もちろんありますね。映画としてもとても有名ですし、直木賞を取っている小説でもありますし……加えて、僕は以前に『蒲田行進曲』の舞台をやった時に大部屋俳優の一人の役として出ていたこともあって、どれほどの作品かを身をもって知っているだけに、プレッシャーがないと言えば嘘ですよね。ただ、つかさんの一ファンでもある僕としては、「俺がやってもここまで面白いんだよ」という、つかこうへいの、そして『蒲田行進曲』の素晴らしさというものを改めて伝えたいという思いが強くあるんです。面白くて当たり前のものをやるという、更なるプレッシャーもあるんですが(笑)。

―それだけにやり甲斐もあるのではないでしょうか。

 はい。今回は制作を含めたあらゆることを僕たちに「全て任せる」ということで……何をもって成功なのかというと難しいのですけど、とにかくつかさんから「ああ、お前らに任せてもちゃんとできるんだな」と思われるような結果を出したいですね。

―過去に『蒲田行進曲』に出演された時の、印象的な思い出はありますか?

 僕は「猫助」という役でして、ヤスから階段落ちの座を奪おうとする役だったんですけど……当時つかさんから「ホームーページで日記を書け」と言われまして、「猫助日記」というのを毎日書いていまして(笑)。それは凄く思い出に残ってますね。

―過去に出演したことによって、今回活かされた経験の糧はありますか?

 これは以前の『蒲田』だけに言えることではないんですけど、ずっとつかさんの芝居作りに参加してきた中で、例えばつかさんが台本を直されたりする時に側にいたり、稽古場でつかさんの後ろからどういう作り方をするのかを注目して見たりという、そうやってこれまで勉強してきたものが活かされればいいなと思います。
現在の自分と、『蒲田行進曲』とのオーバーラップ
―今回の会場である滝野川会館は、【北区つかこうへい劇団】の旗揚げ公演と同じ会場ですね。

 そうですね。僕はあの旗揚げ公演の時に舞台に立っていた一人でもありますし、劇団のオーディションもあそこでしたし、劇団を離れる時につかさんと最後に話したのも滝野川会館でした。なので今回、僕にとって本当に色々なものが詰まったあの会場で勝負できるというのは、とても幸運ですね。

―今回はキャスティングにも関わられているのでしょうか?

 はい。もちろん劇団公演ですので、劇団員の中からのキャスティングという形です。

―登場人物のヤスは「父親になるべく仕事に奮戦する」という役どころで、今の山本さんと重なる部分が多いように思うのですが……

 それはありますね。そもそも、つかさんが僕に「『蒲田行進曲』をやれ」と言われた理由を考えた時に、ラストの「階段落ち」のシーンでの、「こんな所でくたばるんじゃねぇ。お前は父親になるんだろう。上がって来い」という銀ちゃんからのヤスへの台詞がまず思い浮かびまして……やっぱりこれはメッセージなんだろうな、と。つかさんと僕の関係自体が、銀ちゃんとヤスみたいなところがありますし(笑)。今回僕は銀ちゃん役で、その言葉を発する側なんですけど、「発することで自分に言い聞かせたい」という気持ちがあるんだと思います。

―銀四郎というのは、劇中では「子供を押し付ける側」の役どころなのですが、あえてその銀四郎を山本さんが演じる意図は何でしょう?

 子供云々の話だけなら父親=ヤスという話かも知れませんが、小夏・ヤス・大部屋…、全ての人のことを考えている銀ちゃん、それが父親像かもしれません。そしてまた演出という仕事も。
【北区つかこうへい劇団】の特色と、演出家・山本哲也の特色
―山本さんの演出の工程とは、どのようなものなのでしょうか?

 今回はすでに本がありますので、まずは各人に自由にやってもらおうかなと思っています。見せ方云々をどうこうする前に、先に人間関係を成立させておかないと、何をやっても嘘になってしまいますので……まずはどんな演じ方でもいいので、キチンとそれぞれの心をぶつけ合う作業をしてもらいます。いま演出として気を付けているのは、その場・状況というものをできるだけこちら側で作ってあげるという点でしょうか。

―今回の公演に当たり、山本さん「ならでは」という特色が強く感じられる演出はどういう部分があるのでしょうか?

 まず、ロックバンド「The Hundreds」による音のアレンジでしょうか。アコースティックバージョンなんかも作ってもらっているんですが、それが芝居にカッチリとはまれば、一つ僕の色が出るんじゃないかと思っています。ただ、あまり「自分らしくやろう」と思い過ぎず、純粋に舞台を観終わったお客さんに「やっぱりつかこうへいの『蒲田行進曲』って面白いね」と感じて頂けるような芝居が作れれば、僕としては一番嬉しいですね。

―【北区つかこうへい劇団】といえば、「一気にまくし立てるような熱い台詞回し」や「人間、男女の情念のぶつかり合い」などが個人的に強く印象としてあるのですが、劇団の持つ「色」は踏襲されるのでしょうか?

 特に意識はしていませんね。確かにそういう「色」はあるかと思いますが、それは結果としてどう表に出てくるのかの話です。登場人物たちの心や気持ちのぶつかり合いの中で必要に応じて、その「色」は出てくると思います。

―今回の『蒲田行進曲』、オリジナルなシーンというのはあるのでしょうか?

 細かい部分ではあるんですが、大きな流れはもう変えようがないと言いますか、変える必要のない作品ですので……本当に細かい部分だけですね。ただまだ稽古初日なので、生まれる可能性は大きいですよ。

―『蒲田行進曲』は有名作だけに、観に来られるお客さんの中にも何らかの形で鑑賞されている方が多いと思いますが……。

 一番多いのは映画を観られた方ではないかと思うんですが、映画の『蒲田行進曲』というのは比較的、舞台の芝居に近い作り方をしているような気がしますので、映画が好きだった方ならば楽しんで頂けるのではないかと。舞台観劇というのは映画鑑賞などに比べてエネルギーを使う行為だと思うのですが、それに見合うだけのものは必ずあると思います。是非観に来て頂きたいですね。
→【山本哲也インタビュー(2)
2005/11/1 文責・インタビュアー:毛戸康弘 撮影・編集:鏡田伸幸
BACK STAGE REPORT 〜北区つかこうへい劇団〜父親が挑む『蒲田行進曲』〜【山本哲也インタビュー1】

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