BACK STAGE REPORT〜【innerchild】公演『青ゐ鳥』
手伸也インタビュー+稽古風景(2)】〜

心の問題と向き合う…そのことへの責任を強く意識する小手さん。だからこそ、取材も徹底している。だが、その作業を小手さんはかなり楽しんでもいるようだ。
インタビュー後半では演出や演じることの話に加え、そんな綿密な取材を積み重ねた上についに姿を現した、第9回公演『青ゐ鳥』についての話も聞いた。

手伸也インタビュー+稽古風景(1)
レギュラーが嬉しい
―では、今度は演出家・小手さんに伺います。演出する上で一番大事にしていることは?

僕はあんまりその、役者に対してシビアに「立ち位置をこうして欲しい」とか「こう動け」とかっていう風に指示するよりも、みんなで「空気を作って欲しい」ということを毎回言ってるんですね。だから結構、具体的な稽古よりもワークショップのような形式を通じて、みんなの意識の統一というか、一つの空気を生み出すこと、そういう「場」を作ることに意識を注いでいますね。心を扱うからこそ、他人を感じること、2人で1つのものを見るっていうことをすごく大事にしています。コンセンサス、統一された意思、テーマ性を全員が共有するっていうことを。
ただ、今回は舞台が特殊(一本道の舞台)なので、バランスの良さはある程度演出家が指示していかないと、結果的にお客さんから見えにくくなったりしますからね。そういう心くばりはありますけど


―空気に関して言うと、【innerchild】は毎回客演も多いですから、「このメンバーだからこの空気が作れる」というものも探っていく作業があるかと思いますが

ええ、そうですね。人によって全然違いますからね。だから、演出家として毎回いろんな人とやっていることが僕の中ですごく刺激的なんですね。「あぁ、こういうものを持ってくる人もいるんだ」っていう。イレギュラーが発生した時、「それは違う!」というよりも「あ、そんなことを思うんだ」って、その意外性にドキッとしたりして。だから、逆にそうしたイレギュラーが出る瞬間が嬉しかったりしますね。人間それぞれ、いろんなものを持っている。で、そのぶつかり合う個性が一瞬同じ方向を向く瞬間の、その劇的な感じっていうのが僕は好きなんですよ
像という表現
―更に、劇団の特徴として舞台への映像の導入があります。映像の演出で気を配る点は?

…例えばさっきの「目の前に海が広がる」っていうシーンを、お客さんの頭の中で想像して貰うのと映像で実際に見せるのとでは、まったく別の意味、別のスケール感を持ってくると思うんですね。そこは場合によって使い分けるんですけど……どうしてもその人が本当に見ている景色や心象風景っていうものを、具体的にしたいっていう場合があるんですよ。それはおそらく、本の情報量っていうものを意識して演劇化したときに必要になってくる手法なのかな、と思ってます。ともすれば心の中の複雑な心象風景みたいなものだとかって、映像を使った方が真に迫るというか、衝撃的だったり、ストレートに伝わる、そういう瞬間があるんですね。ただ、いたずらに映像を使うわけではなく、物語の中で敢えて必要なシーンに、ライブの世界と同居するように映像を使っていきたいって思っています。
それと、メインストリームとして「オープニングは映像」っていうのは最近では結構多いのかもしれないけど、それはうちも旗揚げ当時からやっています。イメージと音と映像と、ライブの、役者達の身体の動きを全部オープニングに凝縮させて、「今回の物語はこういう方向です」っていうものを打ち出す。と同時に、キャストの紹介も入っています。……なんか、毎回それを楽しみにして下さるお客さんもいて、結構、オープニングは評判がいいんですよ

者として純粋に楽しみたい
―役者・小手伸也さんのお話も聞かせて下さい。役者としての【innerchild】との関わり方は?

僕はやっぱり、もともと役者が好きなんだと思うんですよ。客演先でいろいろ…テンションの高い役とか、乱暴な役とか、ぶっ壊す感じの役を結構やっているんですけど(笑)……そういうのって作風とは全然違うキャラクターではあるけれども、どっちも好きだったりするんですね。演じることっていうのが純粋に楽しいっていうのがあるので、僕は【innerchild】でも出来るだけ役者として純粋に楽しめる、自分が納得できる形でやっていきたいと思っているんです。
実はこれまで【innerchild】では、僕はテーマを握る役というか、最終的な説得力を伴うキャラクターとして登場することが多かったんですね。何でかって言うと、やっぱりホンを書いた本人の持つ「分かっている感」が物語の中でどうしても必要だと感じたからなんです。だから最終的な…「要石」と言うか、そこに僕がその役でボコっと居ることによって物語の蓋が閉まる、みたいなポジションが多かったんですね。でも、それも今回からちょっと違ってくるんですよ。今回は本当に純粋に、役者として伸び伸びやろうと考えています。どうしてもその、作家の僕がテーマの中心的な部分を担ったりすると、観る人はどうしても僕の個人性と作品を結び付けてしまいますからね。やっぱり、より作品への客観性を保つ為には、そういう部分を他の役者に委ねて、自分は自分としてそこにいるべきじゃないかって思ったんです。……そんなことを考えるようになったのは、いろんなところに客演した経験、特に、野田(秀樹)さんのところに出た経験が大きかったですね。野田さんって、すごい丁寧に自分のホンを書いて、すごい計算して作り上げて、それで台本をくれるんですけど、野田さん本人が舞台に上がった時に……もう、メチャメチャにぶっ壊すんですよね(笑)。その、なんか「客観性」と言うよりも「無責任性」みたいなものに対して(笑)、「すげぇ!」って思ったんです。この人はあんなに自分が作ったものを愛しているようで、ここまで足蹴にできる。それは多分、自分がどうあってもこの作品は揺らがないっていう自信の表れだろうし、また、それを他の役者がちゃんと表現できるっていう信頼の表れでもあるんだろう…って。だからそのへんは見習って、自分で負えるものを簡単に負っちゃうのではなく、みんなで分けるべきを分ける。……そういう意味で今回はちょっと、自分で自分の作品をぶっ壊せるかな?…っていう挑戦でもあったりするんですね。それはやっぱり1年半以上【innerchild】の活動を休んで、新たに始めようと思った時のモチベーションの1つでもあったので……だから、役者としては今回は結構、勝負ですね
19ヶ月の準備期間
―お話の出た活動休止、正確には1年9ヶ月のお休みでしたけど、その期間を企画書の上では「準備期間」と言っていますね。具体的に、この1年9ヶ月は【innerchild】にとってどんな時間だったんでしょう?

…それまで8ヶ月に1度とか、そういったスパンで公演を続けてやってきて…で、一昨年というのは劇団が5年目を迎えた年でもあったんですね。それくらい続けてるとやっぱりその、いろんなもの…鬱積というか、先送りにしてきた問題が溜まってくる。多分、大体5年に1回、そういうものをさらわないといけないんだと思うんです。…実際、10年目で解散っていうこと、多いですよね(笑)。だから5年目というのは多分、そういう転機なんだろうなって思って……で、このままみんなでいろんなものを抱えたまま続けるよりも、一旦考えようよ、自分達で【innerchild】というものに対して距離をとってみようよ、っていう。僕はたまたまその頃に大型客演が、つまり3ヶ月以上拘束されるような舞台が続いたりして、物理的に【innerchild】の公演が出来なかったということもあるんですけど、そういうことと合わせて、メンバーみんなが自分のやりたいことは何なのか、役者として何がやりたいのか、この先どうなっていきたいのか、っていうことを真剣に考える、そういう時期でしたね。
そして、その答えとして、僕にとってはやっぱり【innerchild】はライフワークとして続けていきたいことなんだって再認識した。だから、たとえ一人になっても、たとえ年に何回も公演を打つことができなくなっても、必ず、再演に堪える重い一発を常に打ち続けていきたいって。対してメンバーたちも、自分がやりたいと思えるのはやっぱり【innerchild】であるっていうことを再確認してくれて…それじゃあもう一回頑張ろうか、ってなったんです。それに伴って新しいメンバーを入れたりとか、ワークショップをやってみようとか、いろんな挑戦もして……そうして今日に至る、という感じなんですね。
……だから多分、またあと5年は続けます(笑)。10年目にまた転機が訪れるかと(笑)
作『青ゐ鳥』とは?
―そうして、いよいよ第9回公演『青ゐ鳥(アヲヰトリ)』が近付いてきました。これはどんなお芝居になるのでしょう?

そうですねぇ…役者が22人出るんですけど、その、人間の持つ壮大な何か…絵巻物と言うか。物語を紡ぐ一人一人の想いから話が流れていくんですけど、一人一人を追うというよりも、全体を俯瞰して観て貰えると、最終的に何か一つのでかい答えが浮かび上がってくる…そんな感じの作品になってると思うんですね。それぞれが様々なモチベーションを抱えて生きている、壮大な古事記の世界。神々が住む世界。その300年くらいの歴史をぎゅっと2時間に凝縮させたものなので、細かく見ていくとそれはそれで楽しんで貰えると思うんですけど、それよりも、全体から最終的に生み出されていくものが今回の芝居の一つのテーマになると思うんです

―『古事記』の他にも、キーワードがいくつかありますね。まず、舞台が「一本道」だとか。これは今、話に出た「絵巻物」という発想にも絡んでくるかと思うのですが

そうですね。あるいは掛け軸だとか屏風だとか。例えば掛け軸や屏風では縦の軸の中で物語が上から下に向かって流れていたりするんですね。古い日本の話を表現する時に、こうしたものの中に日本の物語の表現の仕方っていうものを見ながら、「縦じゃないかなぁ、横かなぁ」とか考えて、「道かな」と。人がどこかからどこかへ向かう……始まりから終わりに向かって流れていく物語、っていうのを端的に表現できるものは何かっていったら多分、道だと思うんですね。「アヲヰトリ」の「アヲ」というのは「狭間」…つまり何かと何かの間です。目的から結果とか、始まりから終わりとか……間を繋ぐものってやっぱり、人の歩く道だと思うんですよ。だから、この「道」っていうのが、すなわち狭間になっている世界です
と女の間にあるもの
―「青ゐ鳥」と聞くと、メーテルリンクの『青い鳥』がまず頭に浮かびます。そちらの『青い鳥』のエッセンスは?

メーテルリンクの『青い鳥』は、チルチルとミチルが青い鳥を探して色んな世界を旅していく夢の話なんですけど、最終的にその青い鳥っていうのが何なのか。それを日本の神話に置き換えた時に、じゃあ、神様達は何を求めるのか、古代の人間達は何を求めていくのか、っていうのが出発点だったんですね。自分が『青い鳥』っていうものにピントを合わせて、一方でもともと『古事記』をやろうというのがあって、その2つを合体させようとした時に、「じゃあ何だろう?」っていう疑問点からこれは始まったんです。その答えみたいなものを僕は今回の台本で表現したつもりなんですね。……「アヲ」っていうもの、昔の人間にとっての青い鳥のイメージが最終的に、「そうか、これか! これを求めていたのか!」っていうことで……まぁ、観て頂いてのお楽しみ、ということで(笑)

―また、今回は正面から「男と女」の問題に取り組んだそうですが

ええ。やっぱり、何を描いても結局「男と女」って、重要なキーワードとして登場してくるんですよ。だから、そもそもの葛藤の、すごく根本にあるという気がして。いろんな神話とか古典とかの世界でも、やっぱり「男と女」の話っていうのは語り継がれているものですし。僕は正直、「男と女」という単純な構造をメインに捉えて芝居を書いたことがなかったんですね。それで今回、男と女というものの狭間=アヲって何かな?って考えて。
その、男と女を「man」と「woman」って英語で書いてみて並べると、「man」と「man」の間に「wo」がある。じゃあ、この「wo」って何かな?っていう。その「wo」が果たして人と人をどう繋いで、どう導くのか…


―それが、小手さんにとっての「男と女」の問題の、一つの答えになる

そうですね。一つの答えかな、っていう感じがしますね

―では、最後に今公演『青ゐ鳥』、久々の【innerchild】の公演を楽しみにしている皆さんに向けて一言!

この話は…最終的に何を僕たちは求めていって、その先に何があるのか、っていうのをすごく考えた作品なんですけど……とにかくやっぱりその、22人のキャストが織り成す壮大な世界、『古事記』の世界を、純粋に楽しんで頂けたらなって思います。
『古事記』を知っていると「お!? そうくるかっ!」っていうのがあるかもしれないし、『古事記』を知らない人でも純粋に楽しめるものになっていますので、是非足を運んで頂きたいですね。
とにかく、一年以上の準備期間で温めてきた「お蔵出しの一本」と言うか…それだけ熟成させて考え抜いた話なので、きっと面白いものになると思います!
心の問題に取り組む小手さんの真摯な姿勢は、質問に対する受け答えの丁寧さにも表れていた。そんな小手さん率いる【innerchild】が、満を持して贈る第9回公演『青ゐ鳥』。
ファンにとっては待ちに待った、1年9ヶ月ぶりの公演である。それだけに「期待を裏切れない」と面を引き締めた主宰の言葉には、確かな自信が漲っていた。
「古事記」「狭間」「男と女」……【innerchild】という門をくぐったこの青い鳥は、どんな世界を巡り、観る者をどんな答えへと導いてくれるのだろう。舞台上でこの鳥が描く軌跡を、絵巻物のようなエンターテイメントにどっぷり浸って追ってみたい。
(文中、一部敬称略)
2004/10/28 文責・インタビュアー:北原登志喜  撮影・編集:鏡田伸幸

BACK STAGE REPORT〜【innerchild】公演『青ゐ鳥』【手伸也インタビュー+稽古風景(2)】〜
手伸也インタビュー+稽古風景(1)

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