BACK STAGE REPORT〜【innerchild】公演『青ゐ鳥』
〜【手伸也インタビュー+稽古風景(1)】〜

「小手伸也」という役者を知る人は、舞台上でのテンションが振り切れた姿から、とびきり濃い人物像を思い描くかも知れない。けれど、待ち合わせ場所に現れた実際の小手さんは、いたって物腰穏やかだった。「早稲田最後の核弾頭」とまで評される小手さんの、驚くほど柔らかい人柄に内心で胸を撫で下ろしつつ、早速、【innerchild】という劇団のことから話をして貰った。

手伸也(【innerchild】主宰)
1973年12月25日生まれ。
山羊座。B型。

'94年、早稲田大学教育学部入学。同学内演劇サークル【早稲田大学演劇倶楽部】に所属。
以後、卒業まで大小内外併せて約30の公演に参加。

大学卒業後フリーを経て、'98年に自主ユニット【innerchild】を旗揚げ。
主宰として全作品の作・演出を手がける。
また、役者としても自劇団の他、【NODA・MAP】【劇団☆新感線】【カムカムミニキーナ】【ナイロン100℃】【拙者ムニエル】など数々の客演で、独特の存在感を発揮している。
」を扱う責任
―まずは【innerchild】という劇団についてお聞かせ下さい。「innerchild(※)」というのは心理療法の専門用語ですよね。なぜこの語を劇団名に?

もともと僕は心理学、多重人格とか精神病理的なものにすごく興味があって、独学でそういう本を読み漁ったりしていたんですけど……以前、ダニエル・キイスの本が流行りましたよね。『アルジャーノンに花束を』とか『24人のビリー・ミリガン』とか。それらの本を読んだ時に、「こういう演劇ってやれないかな?」ってことを強く思ったんですね。ダニエル・キイスの本というのは、すごく綿密な取材に基づいていて、しっかりとした構成を持っていて、読み進むうちにいろんな情報が頭の中に入ってくる。そういった本の持つ、重厚な感じ…緻密な情報量とか、説得力とかを上手く演劇化できないだろうか、と。
…その頃、僕が認知できた範囲に限って言うと、精神的なものを扱っている舞台っていうのはすごく抽象的なものが多かったんですね。ともすれば自己満足的というか閉鎖的というか。非常に分かりにくい世界に突入していく感じのものが多かったように思うんです。そういうものではなく、ちゃんと具体性とか説得力を伴った、観た人が「あぁ、だからか!」って腑に落ちるような構成の基で、深い心理を描けたら……そう思って始めたのが【innerchild】なんですね。
ですから、心の問題を扱おうというのは最初からあったんです。だったら、どうせならそのことに“責任を負う”みたいな感じの名前にしようと思ったんです


―決意表明のような意味もあったということですか?

そうですね。……扱っているジャンルがシビアで、それをそのまんまやると、ちょっと重いですよね。演劇とかの芸能って、エンターテイメントとして消化できるものであっていいと思うんですよ。もっとも、エンターテイメントと言っても、「あぁ、面白かった!」で忘れられてしまうものではなく、何か心に残るものではありたい。…良い本を読んだ後の読後感って、いつまでも後を引きますよね。同じように、良い芝居を観た後の、何か考え込む瞬間みたいなのが僕は好きなので、そういうものを感じて貰えたらいいな、と。僕が言うのはそういうエンターテイメントです。
そして、エンターテイメントとして成立する為には、やっぱりフィクションであるべきだと思うし、その「フィクション」という意味で、絶対に嘘はつかなきゃいけないと思うんですね。でも、その嘘のつき方にしても、「無責任にはつけない」っていうのが僕の中にあるんです。
それだけ心の問題というのはシビアな問題でもあるし、人によっては過剰反応を起こします。そういう、すごくシビアなものをエンターテイメントにする時に、一段階「嘘」をはさむとしても、やっぱり無責任にはできない。これこれこういうものをちゃんと調べていって、積み重ねた情報に立って、その上でエンターテイメントである為にここは嘘をつく……そんな責任のある嘘のつき方をしたいんですね。そういう意味で「innerchild」っていう団体名は、何て言うか……一つの「門」みたいな感じなんです。その「門」を出入りする時に一回心を戒める、みたいな。そういう団体名ですね

※インナーチャイルド
心理療法の専門用語。心理療法には、自分の中の傷ついている部分を「傷ついた内なる子ども(子どもの時の自分)」として具体的にイメージし、向き合い、その子どもの傷を癒してやることによって心的外傷(トラウマ)そのものを癒そうとする自己カウンセリング法がある。
「インナーチャイルド」とは、この「傷ついた内なる子ども」のこと。
ンダーチャイルドにはなれない?
―決して小手さん自身の<傷ついたインナーチャイルド>と向き合う、ということではない?

そうですね(笑)。……確かに作家として書いていると、多少は自分の内面みたいなものも入ってきちゃうかもしれないですけど。でも、そこもやっぱり責任というか、あんまり自己に埋没していくと、それはもうエンターテイメントとして成立しないものになってしまうので、できるだけ客観性を置いて、ちゃんと僕とは別の物語としてやれるように努力しています。だから毎回、「心」オンリーというよりも、「心と神話」ですとか、「心と宗教」ですとか、「心と数学」ですとか、まったく別ジャンルのものと交えて、まったく違う壮大な世界を描けたらいいな、と

―心理療法では、自分の中の<傷ついたインナーチャイルド>を癒すことで、<ワンダーチャイルド=自然のままの子供>を現すことがカウンセリングの最終的な目標になりますよね。劇団【innerchild】が<ワンダーチャイルド>になる時は来る?

どうなんでしょうかねぇ(笑)。……それが消化できた時っていうのは、劇団が無くなる時なのかなぁ(笑)。…常に問い続けるという姿勢で取り組んでいきたいと思っていますし、毎回、いろんな世界から心理学っていうものに光を当てていくと、その度に出てくる答えが違ったりしますから…。だから多分、【innerchild】が続いていく限り、<ワンダーチャイルド>にはなれないのかな(笑)?
家 / 出家 /
―小手さんは役者として客演で演じる姿と、【innerchild】主宰としての姿にしばしばギャップを指摘されますが、ご自身の中では役者・作家・演出家と、切り離して考えている?

完全にバラバラですね。僕、いろんな事を同時に処理しようとすると、フリーズしちゃうタイプなんで(笑)。もう、作家 / 演出家 / 役者って、全部切り離してプログラムしているみたいなものですね。
だから困ることも多いんですよ。例えば作家としての仕事が終わって、演出家としてそのホンを読む。するとそこに、すごい乱暴に「目の前に海が広がる」ってだけのト書きがあるわけです(笑)。「えぇっ?! これ、どうしよう…」って(笑)。
役者として舞台に立つ時にも、演出家としての僕から無理難題をふっかけられたりとかしますね。「それ全部一人で表現してくれ」とか「葛藤しろ!」とか(笑)。あるいは……僕、色っぽいシーンとか、すごい苦手なんですけど、そういうのを「やれ!」とか言われたり(笑)。「あ、これ、俺やるんだ!?」みたいな。で、僕だけ「このシーン、後回しにしましょう」とか言って、みんなから「やれよ、バカやろう!」みたいなこと言われたりしてます(笑)。
…本当に、まったく別のパーソナリティでやっているんですよね
本を書く前の作業が好き
―では、それぞれのパーソナリティにお聞きします。まずは作家・小手伸也さん。先ほどお話にも出たように、神話や宗教や数学と、毎回の材の取り方が面白いですよね。こうした作劇の発想はどういうところからくるのでしょう?

…心理学では、有名なところでフロイト派とユング派っていう風に大体二つに分かれるんですけど、僕はどっちかと言うとユングの方が好きなんですね。フロイトっていうのは、リビドーだとか性的衝動だとかエディプスコンプレックスだとか。ユングっていうのは集合的無意識とか夢の世界とか、人間の認知できない世界での共時性というか、共通項みたいなものを探っていこうっていう。僕はそのユングの、深遠というか、何がつまっているか分からない世界っていうのが、「すごく演劇的だな」って気がするんですよ。ユングは興味がいろんな所に移り変わっていくというか…どんどん心理学を突き詰めていって、結果としてオカルトの方に興味を持っていった。錬金術の成り立ちを心理学的に解明するとか、霊的な現象を心理学として解析するとか。そういう未知の領域に心理学を持ち込んでいって、何かを解明していこうっていうスタンス、それを僕は演劇でやれたら面白いかなって思うんです。一見無関係な世界に心理学を持ち込んで、「何が釣れるか?」みたいな。
だから、僕がなんとなくピントを合わせたところ、いま自分が一番興味を持っていること。それと、自分が【innerchild】としてやるべきもの。その両者を毎回対立させた上で、融合させていく。それが僕の作品の作り方ですね。その為にも、心理学への興味と同時に、日々の生活の中で面白いと思ったことを積極的に拾い上げていく。いろんな事を面白いと思える自分でありたいので、そういう意味でアンテナを張り巡らせて、そのアンテナに引っかかったものを「これを心理学として取り扱ったら、どういう話になるのかな?」と考えてみる……そんな感じですね


―ちなみに、そうした創作の過程・軌跡は劇団ホームページ上の企画書内で、とても丁寧に解説していますね

わりと……全部、公開しちゃってますね(笑)。やっぱり、話としてはそんなに簡単に処理できるものではなかったりしますから。リピーターのかたが何度も観ても楽しめるっていう作品を僕はずっと目指していて、だからいろんな仕掛けをはさみ込んだりして……噛めば噛むほどいろんな発見のある作品を作りたいので、それだけに「こういうプロセスを経て、あの話が出来ているんです」というところを見せちゃうことによって、お客さんの引っかかり所というか、「あ、なるほど!」と腑に落ちる手助けになるとか、お客さんがまた別の視点からこれを面白いと思ってくれたらいいな、とか。なんか、僕が考える過程をお見せすることによって、お客さんにとっても何か考えるきっかけになってくれればいいな、と思いまして

―今回公演の企画書にしても、読んでいてとても好奇心をそそられました。そういう意味では、あの企画書を読んでいる時点で既に演劇的体験が始まっている、という印象を受けました

そういう部分もあるかもしれませんね。……実は僕、ホンを書く前の作業がすごい好きだったりするんですよ(笑)。調べ物とか、そこからの発見とか。実際に台本を書き始めるとやっぱり、血ヘドを吐く思いをするんですけども(笑)。
それまでの取材の過程というか、こんなところにこんなネタが落っこちていて、これってここと繋がるなぁ、みたいな。なんか、自分の中でレゴ(ブロック)を作っているみたいな感じの、そういう一人遊びがすごい好きなんです(笑)。僕の感じているそんな楽しさを、皆さんにも感じてもらえたらいいな、と思いますね。
…もっとも、あそこまで全部あけっぴろげにしなくてもいいじゃないかって言われるんですけど(笑)。あのHPに書いてあることは難しすぎるっていう意見も寄せられますし(笑)
→【手伸也インタビュー+稽古風景(2)
(文中、一部敬称略)
2004/10/28 文責・インタビュアー:北原登志喜  撮影・編集:鏡田伸幸

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手伸也インタビュー+稽古風景(2)

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