【前川知大 インタビュー】
 【イキウメ】の全作品を作/演出する前川知大さんは今年度の若手演出家コンクール(日本演出者協会主催)でも優秀賞を受賞した、いま注目の劇作家・演出家だ。
 
 日常と非日常を大胆に組み替える作劇。
 息苦しいような可能性の世界へと観客を誘う手腕。
 
 前川さんの存在を抜きにしては“イキウメらしさ”は語れない。
 主宰の宇井タカシさんと二人三脚で劇団を支える前川さんに、【イキウメ】の魅力の秘密について聞いた。
前川知大
(まえかわ・ともひろ)

1974年生まれ
東洋大学哲学科出身
大学在籍中、自主制作映画製作に携わる
卒業後、【イキウメ】の前身劇団【東京23区外劇団】に役者として参加
【イキウメ】結成以降は同劇団全作品の作・演出を担当
「イキウメっぽい」と認知されて
     ――始まりは午前4時
―まずお聞きしたいのが、【イキウメ】というインパクト抜群の劇団名について。由来についてはHP等でも解説されていますけど、名付け親は?

 これ、僕なんです。劇団の名前を決める時、立ち上げメンバーで集まっていろいろ名前を出し合ったんですけど……完璧に煮詰まっちゃって(笑)。で、朝の4時くらいに「イキウメってどう?」って言ったら決まっちゃった。でも、僕はすごく気に入ってたんですけど、やっぱり最初はほぼ全員反対(笑)。とは言っても、みんなもう考えるのやめてたからそのままいっちゃったんですよね。
 …僕もなんかね、今になるとさすがにちょっとアレかなって(笑)。例えば助成金だとか、名前で蹴られることはないにしても、あんまりヨロシクはないのかな、と


―最初に劇団名を聞いたときはノーフューチャーな芝居をやるところなのかと思いました(笑)

 そう、そう、そう(笑)。結構、キワモノみたいなものをやってるんじゃないかって思われることは今もありますね。アングラだと思う人もいるみたいだし

―でも、芝居を観れば不思議と納得できる。提示された可能性に手を伸ばしながらイキウメにされる、とでもいうような不思議な感覚を味わいます

 確かに、僕たちが作っている芝居の内容と“イキウメ”っていうのが、観て下さる側でも繋がってくれているんじゃないかってことは、何となくですけど感じますね。
 「イキウメっぽい」ってよく言われるんですけど、それもそういうことなんじゃないかって思うんです


―前川さんは東洋大学の哲学科出身。主宰の宇井タカシさん、劇団員の國重直也さんも東洋大ですけど、東洋大から出た劇団ってあんまり聞かないですよね

 僕が知っている範囲でも、よく聞くのは※【猫ニャー】くらいかも知れませんね。【猫ニャー】は宇井とかのちょっと先輩らしいんですけど

―それにしては、客演の顔ぶれなどを見ても随分横の繋がりをお持ちですよね

 いやいや、そんなことないんですよ。本っ当に友達いなかったですもん(笑)。だから一回目、二回目の時はキャスト探すのに精一杯だった。これは他の劇団とも仲良くしなきゃって思って、なるべく観に行ったら飲み会にも顔を出すようにしてました。その結果【イキウメ】を観てくれた人がワークショップに来てくれて、出演もするようになって、そのまま劇団員になったり。そうやってなんとか劇団員も増えたし、他の劇団ともようやく繋がりができてきたんです

※猫ニャー:1994年に東洋大学演劇研究会のメンバーが中心となって旗揚げ。【猫ニャー】から【演劇弁当猫ニャー】への変遷を経て、2004年解散。
“もしも”から広がる世界
      ――原点は幽霊新聞!?
―前川さんの作品は“もしも”から始まって、より大きな問題、例えば運命といったものへの“なぜ”に繋がっていきます。アプローチとして前川さんの中では“もしも”と“なぜ”、どちらから入るのでしょう?

 “もしも”の方ですね。「もしこれがこうだったら」とか「もしこんな可能性があったら」という部分で、まず設定なんかで遊んでみる。「遊ぶ」というのはあくまで言葉の上での表現ですけど、そうして遊んでいるときに、一個、もし何かある条件があったとしたらこれだけの可能性が出てくるっていうのがきっと生まれるわけです。そうやっていろんな方向に話が転がっていく中で一番面白いものをチョイスしていくうちに、始まりが“もしも”ですから、絶対日常的なものからは出てこない場所にまで行き着いていく。だからもう、思考実験みたいなものなんですよ。どんどん続けていくと、その“もしも”によって意外なところで“なぜ”ということに対しての解答みたいなものが偶然得られたりしますね

―『関数ドミノ』であれば運命、『散歩する侵略者』であれば戦争という大きな問題を扱っていますが、そこを最初から見据えて出発するわけではない?

 ないですね。ただ、結果的に“なぜ”という部分は、僕の中で貯まってきている興味にどうしてもリンクしてきます。だから最終的に扱っている題材は、よく言えば「一貫した何か」という形で引き出されてはいると思うんですよ。運命論的な話にしても、以前に違う形で作品にしてますしね。前回扱った戦争という問題にしても、たまたま“宇宙人”と“概念”というところから始まって、解決とまでは言わないけれども、一応の結論らしきものを出せるくらいのものまでは見つかったわけです。でも多分、また違ったアプローチで戦争に引っかかるかもしれない。そもそも戦争に対して興味が無いのに戦争を扱おうとは絶対に思わないし、多分それはやっちゃいけないこと。だから逆に言うと、あの話で宇宙人が概念を奪うというネタから、最終的にこれで戦争を止められるんじゃないかっていうような話に持って行ったことで、僕自身も自分の戦争に対する興味を再発見した感じなんですよ
―日常の中に非日常がスルリと大胆に入り込んでくる【イキウメ】作品。そうした非日常に惹かれる前川さんの原点について聞かせて下さい。※『ムー』とか読む子供でした?

 いやいや、読んでないです(笑)。自分の原点に何があるんだろうって言ったら、そういうものよりも藤子不二雄とかですね。『ムー』は友だちに借りて読んだりはしましたけど、アレを読んでマジになるタイプではなかった。ネタとしてなら面白いんですけどね。「ヒトラーが南極に住んでいる!」とか言ってる奴らって面白いじゃないですか(笑)。僕も好きでそういうこと結構言っちゃうんですけど、でもそれだってある種の可能性の一つだし、それを突き詰めていったら面白いものが出てくるかもしれない。だからネタの宝庫ではありますよね。

 実は僕、小学生の頃とかは幽霊がすっごい好きで、友だち何人かと「幽霊新聞」なんてものを作って出したりしてたんですよ(笑)。文献とか言って、しょうもない詐欺まがいの本とか見ては切り抜いたり、学校の中にある壁のシミとか取材して「ここで絶対に人が死んでいる」とかでっち上げたり(笑)。幽霊にしても妖怪にしても、現実は置いといて、単純にこう在った方が面白いんじゃないかって話でしょう。そういうのは好きでしたね


―幽霊新聞……小学生にして既に作家・前川知大の萌芽が(笑)

 いや、さすがに意識はしてなかったですよ(笑)

※『ムー』:世界の謎と不思議に挑戦する月刊誌。これが学研から出ているのも驚きの、オカルト好き必読マガジン。ちなみに3月号の特集は“実録!!「生まれ変わり」の謎”
編集的な演出手法
     / ナマっぽくない言葉
―演出の話を少し。もともと前川さんは自主映画に携わっていたそうですが、それで一つなるほどと思ったのが、場面転換の見せ方。前川さんは敢えてフェードアウトの効果を狙う時は別にして、場面転換で暗転はほとんど使わないですよね

 最近そうですね。場面転換もそのまんま流れるようにやってます。
 …でも僕、実は最初に演劇始めた頃は暗転でしか処理ができなかったんですよ。だからしょっちゅう暗転してた(笑)。でも、やっぱりそれでリズムとか流れが断ち切られちゃうのがすごく嫌だったので、今は必要のない暗転はどんどん無くす方向に来ています。ほとんどの場面転換は本当に映画のカット割りのようにシーンが時間ゼロで変わっていく。最近はもう、シーンの終わりと次のシーンの最初の言葉がくっ付くくらいなんですけど、その方が観ている側にとってもテンポがいいんじゃないかって思うんですよ。それくらいのイメージの連鎖は演劇では全然できちゃうんですよね。だからもうその辺はお客さんを信頼して、サクサクとシーンを変えていくっていう風にしています


―そこが実に演劇的なんですけど、同時に映画の編集っぽくもある

 そうなんですよ。本当に、気持ち的にはそのノリでやってます。もう書く段階から映画の編集のノリで書いてますからね

―セリフについても聞かせて下さい。前川さんが書くセリフは、例えば親友同士でも「〜君(クン)」と呼び合うような距離感、役と言葉との間にある独特の距離感が非常に面白い。“言葉の体臭”みたいなものよりも、言葉のはたらきを重視したセリフに聞こえます。そうしたことは意識します?

 確かにそれはありますね。僕たちの日常のナマっぽい言葉づかいとはもう完全に違いますよね。もちろんそういう風に書けって言われたら書けると思うけど、そんなナマっぽい芝居をいま【イキウメ】でやろうとは思ってないですし。日常と繋がってはいるんだけども、言葉づかいとかはちょっと日常とは違う――そういうところはあると思います。

 ただ、意識するというよりは、多分そういう言葉が好きなんだと思う。例えば僕、「〜君」っていうのがすごい好きなんです。とても仲が良くて、ずっと一緒にいる人間に対してもいまだに名字で、“君”付けで呼んでるっていうのが好き(笑)。なんかそういうのってちょっと漫画っぽい感じですよね。その漫画の感じだとか……あと、映画の吹き替え。あれも僕好きなんですよ。あの吹き替えっていうのも要するに、存在しない言葉じゃないですか。あれは外国人が喋っている他の言語を日本語にした上で、その人の持ってる国民性とかをそこに反映させようとして出来上がったもの。だからあそこで喋られてる日本語って存在しない日本語なんですよね。女を見て「イカすスケだな」とか、日本人は絶対誰も言わない(笑)。でもアメリカ人が言ってるとそれなりに聞こえる、みたいな。そういう、ある種架空の言葉、日常とはちょっと離れた言葉が好きだし、そういう言葉の方が自分の作品、世界観においては作りやすいかなっていうのがあって、それでそうした言葉づかいを選んでいるんだと思います。

 だから逆に言うと、流行(はやり)の言葉とか、テレビでガンガン使われていてみんなが真似しているような言葉はまず使わないですね。そういう言葉を使っちゃうと、こっちがお客さんの日常を引っ張ろうとしているのに、お客さんが自分の日常を引っ張ってきてしまう。そういうのを避けたいからナマっぽい言葉にはしてないし、ナマっぽい芝居にもきっとならない。ナマっぽい言葉って、それはそれでリアリティーは生むかもしれないけど、僕たちが求めているのはそれとは違うリアリティーです。だからそこの部分で引きずられるようなイメージだったり単語だったり言葉づかいだったりっていうのは敢えて避けてますね


―非日常を大切にするために日常を丁寧に描いているけれども、リアルには寄りかからない――それは芝居を観ていても感じます


 そうですね。リアルはもう放棄してます(笑)。オリジナル、こっち側のリアリティーさえ感じてもらえたらいいと思っているので。リアルとリアリティーという言葉は人によって捉え方は違うでしょうけれども、決定的に違うものだと思っています。そういう意味で、リアルっていう部分は放棄してますね
生と死と記憶を巡る5つの物語
番外公演
『短篇集Vol.1〜図書館的人生〜』
について
―さて、今回の番外公演について聞かせて下さい。5つの短篇で構成された『短篇集』ということですが、なぜこういったことをやってみようと?

 まず、いろんな役者さんとやってみたいというのがありました。また、制作的にもここら辺でちょっと企画公演的なものをやろうっていうことがあったんです。じゃあショート・ショートの作品をやろうかって話になった。ま、僕が書きたかったっていうのもあるんですけどね。ただ、短編をやると言ってもオムニバスではなくて、ちゃんと一貫したテーマはあるものにしようと。それで今回は「生と死と記憶」というテーマで連作にすることにしました。
 …もっとぶっちゃけたことを言えば、本公演で使われなかったネタを集めたぞ、ってところもあります。これを20分でやったらえらい面白いけど、2時間はもたないぞ、みたいな(笑)。そういうネタはいくつもあったので、書いている僕はすごい楽しいんですよね


―では最後に、その連作『短篇集Vol.1〜図書館的人生〜』、どんな舞台になるのか簡単に教えて下さい

 【イキウメ】らしい話っていうか、笑える話もあるし、ホラー的な要素が強いちょっとヒヤっとするような怖い話もあるし、ホロっとくる話もあります。結構バラエティーに富んだ作品なので、【イキウメ】っていう劇団が普段どんな作品をつくっているのか、あるいは、これだけのことができるんだっていうことのショウケースになっていると思いますよ。今後、これからの【イキウメ】でやろうと思っているようなことを実験的にやっている作品もあれば、逆にいまは全然やらない一幕物で40分なんていう作品もあるっていうように、本当に作品の幅はすごく広くなっています。実験も含めて、こういうときじゃないと出来ないことをいろいろやっているので、是非楽しみにして頂きたいですね
 シンプルな舞台装置、時空がスライドするように繋がっていくシーンの連鎖、リアルに頼らないセリフ、そして奇想天外な設定。あらゆることを駆使して「お客さんの日常をこっちに引っ張りたい」という前川さんと【イキウメ】の目論見が見事成功しているのは、現在の同劇団の勢いを見れば明らかだ。彼らの舞台は観る者を、振り返る暇(いとま)も与えずに日常の向こう側へ、可能性の世界へと連れ去っていく。そして観客はその場所でイキウメにされるのだ。

 そんな彼らのショウケース、番外公演『短篇集Vol.1』は【イキウメ】入門編としてもピッタリ。ガッツリした本公演とはまた違う形ながらも、きっと彼ららしい遣り方でリアルを揺さぶってくれることだろう。
2006/2/23 文責・インタビュアー:北原 登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

【前川知大ウ インタビュー】

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