「ち(地)ら(原)み(海)」
知覧(ちらん)の語源である。
本土最南端に近い鹿児島県知覧町。さすような陽のもとに降り立ったそこは、反射する海の光が照らす、深緑の大地であった。
その知覧町で活動をおこなっている【劇団いぶき】。

『この町でこの町の芝居を創り続けていくことが、「劇団いぶき」のシンプルでありながらとても難しい挑戦なのだと考えている。』(劇団HPより)

今回のBACK STAGE REPORTでは、【劇団いぶき】主要メンバーへのインタビュー、そして【劇団いぶき】をはぐくんだ知覧町の紹介をお届けする。
知覧の風はどんな風か?知覧の大地の鼓動はどんな音だろうか?そこから芽生える「思い」とは……?

BACK STAGE REPORT〜鹿児島県知覧町【劇団いぶき】〜 【ぶきメンバーインタビュー2】〜
覧町REPORT ぶきメンバーインタビュー1
団いぶき】メンバーインタビュー(写真:脚本・演出家 朝隈克博 氏)
←【ンタビュー1
ぶき】が遊び場
―『ナム!』の前回公演をビデオで拝見したのですが、幕間にオリジナルの生音や歌を入れるというのは初期の頃からやっているのですか?

田中:最初からそうですね。【いぶき】の芝居では、一旦上げた幕は絶対下ろさない。暗転でいくんですよね。その暗転のところをどうやってつなぐかというときに、前の芝居の余韻を残した曲を流したり、次のシーンにするための曲を入れたりしています

―それが良い効果を生んでいると思いました

田中:面白いですよ。役者がセリフに絡んで歌が始まったり、音楽で照明が始まったり……音楽をやりたくて【いぶき】に入ったっていう子も結構います

平木場:そうやって入れた劇中の歌を、たまたま観に来ていた小学校の先生が気に入ってくれて、自分の教室の子供たちに歌わせてみたりとか。…嬉しいですよね

―音楽面で実験的な要素は?

田中:実験…ではないですけど、前回、演歌を入れてみたんですよ。脚本家が「これ、演歌ね!」って言うんで、それなりに作って。演歌といえば日本舞踊ということで(笑)、日本舞踊も入れて……そしたら、それがお婆ちゃんたちにウケましたねぇ

―芝居の為のオリジナル楽曲は、芝居に染み込むといいますか、一体感がありますね

田中:だからいつも言うんです。芝居というのは総合芸術なんだよ、って。何か一つ欠けても…【いぶき】で言えば、音楽、踊り全体の雰囲気、その他色々ありますけど、そのどれ一つが欠けても【いぶき】の芝居じゃなくなってしまう。だからこそ、いろんなところにしっかり力を注いでいますね。
うちは芝居のプロもいないし、踊りのプロもいません。“それで食っている人間”のいない、趣味の劇団。だけど、何かを創るのはやっぱり楽しいですよね。それをやるために仕事をしているみたいな。……だから、公演の一ヶ月前はもう、家族が大変です(笑)。でも、家族のバックアップがあったりして…。みんな子供がいたりするんで、家族の理解がないとやりにくいですからね


―なにか、ここが皆さんにとっての遊び場のようでもありますね

田中:そうですね(笑)。僕にとっては【いぶき】が遊び場です
らのターゲットはこの町、この町に住んでいる人
―現在の【劇団いぶき】の作品づくり。その背景を教えてください

朝隈:僕らの世代は野田秀樹とか、つかこうへいが好きだったんですよ。でも、そういう人たちに影響されたものを書いても、あんまりこの辺りでは受け入れられない

田中:東京ではいろんな人がいて、そういうのが好きな人もいるんだけど、ここら辺ではそういのが好きな人ってごく稀ですからね

朝隈:ただもちろん、この地域の芝居をやりながら、その中に僕らの独特なものを入れていって、お客さんもこちらもお互いに、一緒に育っていこうって。そういうふうに作っていかないと良い芝居ができないのかなって、分かりかけてきましたね

田中:僕らのターゲットはこの町、この町に住んでいる人。お客さんがいないと芝居は成り立たないわけで、じゃあ、この町で受け入れられる芝居というのは何なんだろうというところまで掘り下げたときに、もう素直にこの町のことを演じようという風な形になったんじゃないかな

朝隈:観る人の生活観がそこにある、生活している空気が舞台にある、っていうところから、少しずつ異空間に突入していく。最初の取っ掛かりは、舞台の上にオバちゃんたちが生活している町の雰囲気が漂っていて、そこからいろんな話に展開していく。そういう風に作っていくほうが受け入れられやすい

―『ナム!』は劇中に面白おかしく語りかけるような解説なども入って、とても分かりやすく作ってありましたね

朝隈:『ナム!』に関しては、複雑な話でしたから、オバちゃんたちが観ても分かるようにっていうのが先にあったんです。お客さんがどのていど話について来られるかっていうのを見ながらやっていかないと……一方的にやってもウケてくれないので、お客さんとの対話をしながら、ですね
攻だけは嘘がつけない
―先ほど特攻平和記念館に案内して頂いたんですが、地元に材を取る【劇団いぶき】として、特攻隊の話を今後創ることはあるのでしょうか?

朝隈:今のところは、計画は無いですね。というのは、いろんな劇団、プロの劇団の方がこれまで特攻隊を題材にされていて……それはそれでいいと思うんですよ。それを題材にして、今の世に伝えて頂けるのは良いことだと思うんです。けど……我々は身近に、ここにこういう歴史があって、その歴史に実際に接した人たちが60代後半から70代、80代と、本当に身近にいるわけです。そういう方々の前で特攻隊を題材にするというのは、まだちょっと踏み込み切れないというのがあるんですね。仕事の関係で記念館の資料や遺書を読んだりしていたんですけど、あれを芝居という虚構にする場合、ある程度僕らの読み方っていうのを表現しないといけない。そこまでまだ踏み込めない

田中:やりきれないよね。何をやっても嘘っぱち……芝居は全部、板の上での嘘っぱちなんだけど、特攻だけは嘘がつけないかな、というのもあるんですね

朝隈:それと、僕自身はまだ、はっきり言って分からない部分があるんですよ。あの遺書とか、彼らの思いっていうのを、どんな風に感じていいのか分からないところがある

田中:だから、遺書を読む朗読劇、あれは事実をそのまま伝えるだけなので、あれはいいんです。というより、あそこまでしかできないかな、と

朝隈:誰かのエピソードをモデルとして話を作るときには、その人の生き様を自分の中で咀嚼して、ストーリーに表現しなければならないわけですよね。その表現の仕方によっては、人それぞれ解釈が違ってくる。人の歴史ですからね。
……自分が遺書を読んで感じたこと、それがいいのか、まだ自信がないんですよ。ここであったあまりにもむごい歴史であるからこそ、簡単には踏み込めないんです。…ただね、説明の必要は無いとも思うんです。それぞれが感じて欲しい。その人の顔を見て、その人の書いたものを読んで、そこで感じることは百人百様。それだけでいいと思うんですよ。願っているのは、もう二度とああいうことをやってはいけないという……そこだけなんで
覧町への応援歌
―次回公演の『ナム!』再演についてお聞かせください

朝隈:まず、今回は役者が変わったんですよ。アマチュア劇団ですから入れ替わりがありますので。特に女性は結婚とかですね。役者が変わるんで、芝居の出来上がりも少し変わるのかな、と思います

―『ナム!』とは、どんなお芝居なのでしょう?

朝隈:生きていなければいけない、生きていくことのつらさと喜び……生きていくことはつらいけれど、でもそれは尊いんだっていうことを、僕はずーっと言いたいんですね。そういう芝居です。つらいことが多いからこそ、嬉しいことがより嬉しくなるっていう

―「ナム」は南無阿弥陀仏の「南無」ですね。地域に根ざす劇団として、ここでも一向宗弾圧、隠れ念仏という地域の歴史を取り上げています

朝隈:一向宗では「この世には幸せは無い」っていうのが基本的にあるんですね。この世に幸せは無く、つらい日々を生きていくからこそ、最後に浄土に至るのだというのが一向宗の考え方なんです。
で、つらい人生をそれでも…時には喜びもありながら…生きていくからこそ、その人の生きたことが尊いんだ、というところに共感があってこの話を書いたんです。
物語の中心になる婆さんの人生は、苦しいことばっかりだった。でも、そまんずし(そば汁)を作るのは上手かった。そのことでみんなから感謝されていた。それが幸せじゃないか、って。不幸せの側に立ててきたからこそ、その幸せが光を増すんじゃないか。人生というのはこんな形もあるんじゃないか。そういうことを観ている方たちにも、私たち自身にも、応援歌のように伝えたい。尊いのは、その人が生きてきたことなんだよ、だから頑張って生きていこうよ、ということを言いたかったんです


―その『ナム!』の他に、来年にもう一本あるとか

朝隈:まだ書き始めたばっかりですけど……【いぶき】のテーマは変わらないですからね。同じように家族愛ですとか、生きる喜びですとか、そういうことを常に言っていこうと思っています
酔いが程よくまわり、【劇団いぶき】の皆さんの口も滑らかになっていく。
弾けるように、転がるように、会話もどんどん盛り上がる。
ここ、知覧町で劇団活動を続けていく。そこにある思いは、自然発生的に生じたこの土地への想いと一に重なる。
ときにお上に舌を出し、ときに知覧町への応援歌を力強く歌い上げる。ここで生活する人たちへ新鮮な潤いを与える、必要不可欠な思い。
「お客さんもこちらもお互いに、一緒に育っていこう」…謙虚に語った朝隈さんの言葉が胸に染みた。

創作活動の楽しみを肌で感じている皆さんの笑顔はとても魅力的で、つられるこちらの杯も、ついつい進む。
……ほろ酔い加減が身も心も軽くしていくなか、知覧町の熱い夜は更けていった。
(文中、一部敬称略)
2004/8/22 インタビュアー・文責・撮影・編集:鏡田伸幸 監修:北原登志喜

BACK STAGE REPORT〜鹿児島県知覧町【劇団いぶき】〜 【ぶきメンバーインタビュー2】〜
覧町REPORT ぶきメンバーインタビュー1

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