【赤堀×前川インタビュー】
 大胆な手法で非日常を召喚し、観客を常識の向こう側へと連れ去る前川知大(イキウメ)。
 生々しい息遣いをもって、格好の悪い人間たちを格好の悪いまま舞台上に“存在”させる赤堀雅秋(THE SHAMPOO HAT)。
 リアリティーの創出において方向性を違えるこの二人が、今回の企画で驚きのタッグを組む。
 この邂逅が産み落とすものは、果たしてキメラか傑作か――。
 ――と、堅苦しい前置きはここまで。
 新しい出会いをそれぞれ存分に楽しんでいる様子のお二人に、今作を軸に、創作についての率直な話を語ってもらった。
赤堀雅秋(あかほり・まさあき)写真左
1971年生まれ 千葉県出身
パフォーマンス集団【STAGE14°】を経て
1996年に【SHAMPOO HAT】旗揚げ(のちに【THE SHAMPOO HAT】と改名)
以後、同劇団全作品の作・演出をてがける
俳優としても自劇団のみならず、数々の舞台、映像作品に出演し存在感ある演技を披露
また近年では、他劇団への脚本提供なども精力的に行う


前川知大(まえかわ・ともひろ)写真右
1974年生まれ
東洋大学哲学科出身
大学在籍中、自主制作映画製作に携わる
卒業後、【イキウメ】の前身劇団【東京23区外劇団】に役者として参加
【イキウメ】結成以降は同劇団全作品の作・演出を担当
2005年度若手演出家コンクール・優秀賞受賞
根底に流れるものにズレは無い
―今回の企画以前に、お二人は面識は?

赤堀:僕は前川君を知らなくて、この企画での顔合わせが初対面でした

前川:僕は【THE SHAMPOO HAT】の公演を観てましたから、赤堀さんのことは一方的に存じ上げてはいましたけど


―でも、相性は抜群ですよね。何せお二人は吸ってるタバコも持っている携帯の機種も同じだし

赤堀:そうなんですよ! だから二人で打ち合わせしてるとホモのカップルに見える(笑)。お互い無精ひげ生やして、おまけに前川君は坊主頭だし。ねぇ?

前川:(笑)…初めてお会いした時に、お互いに出したタバコと携帯が一緒なのを見て、赤堀さんが「あ、これは良い作品になるよ!」って言ってくれたのは強く印象に残ってますね


―その作品、『散歩する侵略者』ですが、赤堀さんが最初に本を読んだときの印象は?

赤堀:本自体はすごく面白くて、【イキウメ】での公演は観てないんだけど、きっとすごく熱のある舞台だったんだろうなって思いました。ただ、表現の仕方はまったく違うから、最初は「これは俺がやるべき本だろうか?」って戸惑いも正直あった。でも読んでいくうちに、根底に流れている世界観みたいなもの――何に対してリアリティーを持っているか、何が好きで何が嫌いかっていう部分には大幅なズレは無いことが分かってきて。そこにさえズレが無ければ何とかなると思ったので、じゃあやらせて貰おう、と

―前川さんは赤堀さんが自分の作品を演出すると聞いてどう思いました?

前川:【THE SHAMPOO HAT】の舞台を観て思うのが、役者さんの、舞台での存在の仕方が【イキウメ】とは全然違うということ。赤堀さんが演出する舞台の登場人物は、まず“人間”として息づいている。【イキウメ】の場合、マンガっぽいとまでは言わないけど、ちょっとデフォルメしたようなキャラクターだったりしますからね。だから赤堀さんの描く“人間”たちがこの物語をやったら一体どうなるんだろうって、すごく楽しみに感じましたね
“関係性”を重視して
―その表現の違いについて少し。前川さんの作品の登場人物がわりと観念的なのに対して、赤堀さんが普段描く人物像は、より即物的ですよね。この違いを埋める上で今回考えたことは?

赤堀:確かに、最初に貰った台本は本当に理数系という感じだったかな(笑)。きっと、人間の匂いとか生活感とかは、敢えて提示しないところで見せようという舞台だったんしょ?

前川:ええ、そうですね

赤堀:でも僕の場合、実際に匂いが感じられるとか、湿度であるとか、生活感に満ち溢れているもの――お芝居の方向性も、舞台セットも――が好きなので、まず、生活感をどれだけあの台本に与えられるかっていうことを前提にしたんですよ。そういう部分で、本直しの段階で前川君には結構追加してもらいました


―では、今回の上演用に改稿してるんですね?

前川:ええ。と言ってもストーリーは全然変わってないんですけどね。登場人物たちの背景にある、描かれなかった設定とかが言葉の端々に絡んでくるかたちで、セリフが増えたりしているところはあります

赤堀:関係性を重視した、という感じだよね。例えばニートの若者二人、《マルオ》と《ハセベ》という役についても、当初の段階では関係性については重視されてない――って言ったら語弊ある?

前川:いやいや(笑)。でも、確かにそこは描いてないです

赤堀:うん。でも僕はお客さんが、観ていながら想像力を喚起されるようにしたい、っていうのがあるんですよ。
これは僕の勝手な解釈だけど、【イキウメ】の『散歩する侵略者』は、“前川君の叫び”をみんなが聞いて、終わった後にどう思うかっていう作品だった。でも僕のやり方としては、観ている人たちが観ている最中に、登場人物の誰かに感情移入することで、そこを介在させて何かを感じる、という作りにしたかったんです。
 例えば、この作品で仮に“愛”というものを訴えたい場合、“兄弟”にリンクしやすい人がいれば、物語に登場する“兄弟”という関係性の中から“愛”を探って欲しい。あるいは主人公夫婦の“夫婦”という関係性からでもいい。さらには今回、《車田先生》と《患者》の関係性も深めたので、そこの関係性からでもいいんです。お客さんがそれぞれ好きに感情移入できる登場人物を見つけてくれることで、何かを感じてくれればって

前川:そうなんですよね。僕の場合は新しい情報とか登場人物が出てきては、まくし立てるようなセリフまわしで、ギリギリ舞台が追い付くぐらいのスピード感でラストに向かっていくっていう見せ方。だからこの作品で言えば最終的にお客さんの印象に残るのは、多分《ナルミ》と《シンジ》のラストシーン。それをドーンと見せて終わるっていう感じでした。
 でも、一昨日、こちらの立ち稽古を初めて見たんですけど、登場人物それぞれの“人間”という部分を描く視点にはっきりと重点が置かれていた。…これが全部繋がったときにはどういう風に見えるのか、改めて楽しみになりましたね

赤堀:…ま、どうなるかは僕も想像ついてないんだけどね(笑)。実はそんなに自信満々じゃない……(笑)

戦争を描く、ということ
―ちょっと作品の内容について。『散歩する侵略者』は背後に“戦争”という大きなテーマがあります。赤堀さんもまた、【THE SHAMPOO HAT】の前回公演『恋の片道切符』で、戦争を背景にした物語を描いていますね

赤堀:いやぁ、かぶりましたね

前川:初めてお会いした時にもその話になりましたよね

赤堀:そうそう。「僕の次の芝居でも題材として、背景に戦争があるんだけど」って。だから、本当に結構似ているところがあるんですよ……って、前川君。パクったんじゃないからね!(笑)


―そもそもお二人が戦争を描こうと思ったのは?

赤堀:僕は今まで、僕なんかが戦争を語るべきではないって思ってたんですよ。それは語るべき人が語ればいいと。無責任と言えば無責任ですけど、でも、中途半端な知識で声高に叫ぶことの方がもっと無責任でしょう。だから、やるのであれば本腰を据えてやらなくちゃいけない。けど、なかなかそういうところまでは至っていなかったんです。それに、そもそも僕は半径3キロ以内くらいの生活圏を描くのが好きだというのもあったし。
 でも、一応10年間劇団をやってきて、1回ちゃんとそこに向き合っておかないと、もう次には行けないような気がしてきたんですよね。これは本当に感覚的なものなんですけど、失敗してもいいから、前から気になっていた戦争という題材に正面から取り組んでみないといけないって。じゃないと、また仮に「『3千円貸した』『貸してない』って話で揉めて人を殺しちゃう」みたいな話があったとしても、何か上手く描けないんじゃないかって。
 …まぁ、それなりの年齢になってきたってこともあるし、本当に自意識の問題なんですけどね。そこを逃げていてはいけないかな、と

前川:僕は初めから戦争を意識していたわけではないんです。僕が話を作るときには設定から思考実験を繰り返していって、そこからどんな可能性が生まれてくるかを考えていくんですね。で、『散歩する侵略者』の場合、その過程で「もしこんなことができたら、戦争も無くせるんじゃないか」と登場人物が思ってしまった。それはつまり僕もそう思ったってことです。
 思考実験の結果として戦争に行きつく。それは、機会さえ与えられれば戦争に目が向くということですよね。つまり僕の深層心理には絶対に戦争に対する問題意識があるはずなんです。そして、それは実はみんなも同じなんじゃないかって思ったんですよ。
 普段は誰もが、戦争なんて自分とは無関係だと思っているかもしれない。でも、何か機会があればきっとみんな戦争に興味を向けると思う。問題意識は抱えているはずだし、抱えてなきゃいけない、って。だから、観てくれて共感してくれる人にとって、これは一つのきっかけになるんじゃないか――そんな期待もこの作品には込めているんです

赤堀:日本人が戦争というものに、もうちょっと意識的に目を向けなくちゃいけないんじゃないか…そこには僕も賛成です。――「賛成です」って、なんか気持ち悪い言い方だよね。「おまえ、どんな団体の奴だよ」って感じで(笑)。
 でも、特に最近、同年代の作家さんが戦争を描くことが続いてますよね。それはきっと、無意識かもしれないですけど、危機感みたいなものを何となくみんな感じているってこともあるんじゃないかな。
 …ただもちろん、そこには“演劇的な流れ”みたいなものもあるのかもしれないですけどね。いわゆる、“日常を描いた”“ウェルメイドな”“静かな演劇”が溢れるなかで、ちょっと違った日常をどうやって描けるか。その部分で、嫌な言い方をすれば、単純に器を変えるために戦争を描いているってのも正直あるとは思うんです。
 僕自身、戦争を題材にすることで、それまで描いてきた“日常の中の非日常”とは逆の、“非日常の中の日常”を描きたいというのもあった。で、最初に安易に思い浮かんだのが、ジャングルの中でドロだらけになっている兵士たちの、不毛な日常の話。…でもね、いざ書こうとなったらやっぱりそこにはリアリティーが持てなくて、それでああいう形になりました。
 ……リアリティーと言えば、本当はあれ、構想の段階では工作員とかも出てくるはずだったんですよ。僕が工作員になるはずだったんですけど、結局それはボツ。「こんな太った工作員はいないよな」って(笑)

ちょっと怖くて、不思議な手触り
――新しい『散歩する侵略者』
―『散歩する侵略者』は宇宙人が地球人の“概念”を奪うという設定です。奪われることによって何かが壊れ、何かが生まれる。…唐突ですが、ご自身が一つ概念を奪われるとしたら、どんな概念を奪って欲しい?

赤堀:…う〜ん、何も奪って欲しくないなぁ(笑)。だって、例えば「自分の自意識過剰なところがあまり好きではないからそれを奪って欲しい」とか思ったとしても、そういう駄目な部分が自分の作家性というか、源(みなもと)なので。いざ奪われたとしたら、多分商売にならない(笑)

前川:僕も今ちょっと考えて、自意識過剰なところとか嫉妬であるとか、そういうネガティブなものを奪ってもらえたら楽になれるかなって思ったんですけど……やっぱり赤堀さんと一緒で、それを奪われたらきっと何も書けない(笑)。別にコンプレックスを力に変えてるつもりは無いんですけど、でもきっと、そういう部分は少なからずあるんだろうな

赤堀:あ、でも、そうなったらなったで作家辞めればいいだけか(笑)! そうしたらずっと楽に生きていけるよね(笑)

―前川さんは今回の赤堀雅秋演出版・『散歩する侵略者』にどんな期待をよせています?

前川:僕が見てみたいのは、あの物語が僕らの日常と、より地続きの物語として立ち上がってくるところ。やっぱりそこにすごく期待してます。
  日常の延長線上にこの(物語の)世界があるって、ある意味でかなり怖くなるんじゃないかって思うんですよ。実際、稽古で寺十さんが演じる《シンジ》を見て「怖いな」って印象を受けたし。本当に、不安感そのもののような存在として「怖いな」と思ったんですよね。比喩的に“宇宙人”と呼ばれる人間が世の中にはいっぱいいるけど、そういう現実と繋がっている感覚があった。もともと僕はホラーが好きで、この作品にもホラーの要素が入ってるんですけど、そのホラー感が【イキウメ】でやるよりも増すんじゃないかって思います。楽しみですね

赤堀:でも逆に、そこに危機感も持ってるんだけどね。日常の延長線上に描くことによって、例えば“宇宙人”という存在について、お客さんに重箱の隅を突付かれるようなことにもなりかねないな、と(笑)。前川君の演出のやり方、方法論ならそこを突付かれることなくお客さんに提示できるんだと思う。観る人も、今見たもの――例えばデフォルメされたキャラクターだったりとか――ではないところを通行して見る、或いは感じようとするので、かえってそこにリアリティーが増す。でもいま僕がやってるような方法論をとるとその部分が露呈してしまって、お客さんに「それ、嘘だろう!」とシャットアウトされてしまうんじゃないかって。そういう危機感を持ちつつ……でももう止まらないので(笑)、探り探りやってます。自分でやっておきながら「相当危険なことをしているな」と認識はしてるんですよ(笑)


―では最後は赤堀さん。今作の見所をお願いします

赤堀:なんかすごくね、不思議な手触りの作品になればいいなって思ってるんです。
 僕の印象として、こういう題材を取り扱う場合はちょっとマンガチックな形で見せるやり方が多いと思うんですよね。でも、前川君と僕が上手く融合することで、何か今までに無いような感触のものになるんじゃないかなって。
 僕の知識やボキャブラリーでは考えつかないことを前川君は台本の中で提示している。それは例えば僕が和食の料理人だとしたら、洋風な材料を持って来られた、みたいな感じなんです。だから、それをどうやって和の店として出せるものにするか――きっとね、お客さんが食べたことの無いような料理になるんじゃないかな。「味は和風だけど、なんだこれ?」みたいな(笑)。そうなればいいですね

 登場人物がそこに“在る”説得力を求める赤堀さんと、「理数系」的に物語の構造や構成を突き詰める前川さん。好んで書くセリフの肌触り一つ取ってみても違うこの二人だが、話しながら不思議と噛み合う様子はまるで兄弟のようにも見えた(ホモのカップルではなく!)。
 もちろん兄は赤堀さん。その兄の包容力と確かな腕に信頼をあずけ、前川さんが差し出した食材。その食材に遊び、大人の舌に心地よい、絶妙の塩梅を楽しませてくれそうな顔ぶれの俳優陣。
 あとは赤堀さんの包丁さばき次第だ。
 さて、彼らが供する料理の味や如何に――?
 今は匂いだけで我慢して、劇場公開の日を喉を鳴らして待ちたい。
2006/5/14 文責・インタビュアー:北原 登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸
【赤堀×前川インタビュー】
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