BACK STAGE REPORT【風琴工房】〜生きることは揺れること〜風琴工房 新作『紅の舞う丘』【詩森ろば インタビュー】
 【風琴工房】の新作がいよいよ幕を開ける。
 『紅の舞う丘』――べにのまうおか、と読む。
 紅(べに)、つまり化粧品がタイトルに入っていることでも分かるように、この作品、女性を描く視点がひとつ、大きな核となりそうだ。
 そんな期待の新作について、作・演出の詩森ろばさんに話を聞いた。
詩森ろば
(しもり・ろば)

主宰・劇作家・演出家

宮城県仙台市生まれ
小学校入学と同時に岩手県盛岡市に転居、高校卒業までを同地で過ごす
1993年 劇団風琴工房旗揚げ
以後すべての脚本と演出を担当

近年は俳優教育にも深い関心を寄せ、さまざまなメソッドを研究アウトリーチ的な演劇ワークショップも多数行い、高い評価を得る
核だけを取り出したら
真っ赤になった
――今回、まず驚いたのが赤一色の公演チラシ。これ、すごいですね

 真っ赤ですね(笑)。これまでチラシのコンセプト・プランニングはいつも人にお任せしてたんですけど、【TOKYOSCAPE】とかをやってみて、やっぱり「コンセプトから全部携わる」ということが必要だと思ったんですよ。それで今回はチラシのコンセプトを立てるところから自分でやってみよう、と。…こんなに驚かれるとは思ってなかったんですけどねぇ(笑)

――「赤一色でいこう!」と思ったのは?

 あの…いいビジュアル・イメージが浮かばなくって(笑)。写真にしようか、それとも別のものにしようか――でも、考えてみたら素敵な写真のチラシとかはいっぱいあるんですよね。【風琴工房】もいつも素敵な写真を使わせていただいていますし。じゃあ逆に写真、あるいは絵だとか格好いいデザインだとかを一切排して、一番の核だけをバーンとのせたらどうかなって思ったんです。で、どうせやるなら、文字も要らないかな、と。赤一色って見たことなかったですしね

――「核だけをのせた」と同時に、“何かを覆い隠す”という印象も受けました

 うん、そうですね。きっと、そのどちらでもあるんだと思います



――作っていく過程でも面白いことを試みていますね。なんでも、今回公演の稽古と平行して、同じテキストを使った一般参加のワークショップを開いたとか

 ええ。折角だから面白いワークショップをやりたいと思って。それで、いまリアルタイムで作っているものをやってみたらどうなるんだろう、と。…ま、思いつきなんですけど(笑)。そこに【風琴工房】の宮嶋、山ノ井、笹野も参加して

――やってみて、どうでした?

 すごく刺激にはなりましたね。けっこう人数が集まってくれたので3チーム作れたんですけど、経験は少ない人たちでも、それぞれ対抗心もあるからチームワークもとても良くて、何より「ものを作るぞ!」みたいなエネルギーがあったんです。そういうエネルギーこそが、この芝居には一番大切なんだっていうことも再確認できました

ウーマンリブ的ではない形で
“女性”を描ければ
――さて、その新作『紅の舞う丘』。どんなお話になるのでしょう?

 1980年代を舞台にした、化粧品会社を起業する女性のお話です。会社を立ち上げてから軌道に乗るまでの5年間、なかでも最初の1年間を丁寧に描く、という感じになります

――その話だけを聞くと評伝的な作品に思えるのですが、モデルは?

 モデルはいないんですよ。ただ、実際に80年代に創業した無添加の化粧品会社にはいくつか取材させていただいて、そのエピソードなどはかなり入ってますけど

――創作当初は80年代より、もう少し前の時代を舞台にする予定だったとか

 そうなんです。実は「高度経済成長期を書きたい」というのが別な欲求として、ものすごくあったんですね。…もういま、私、高度経済成長期に夢中なんです(笑)。
 でも、「女性で起業する人を書こう」となったとき、1970年代だと女性が働くこと自体がすでに大変だったりしたわけですよね。ましてや起業となると、かなり特殊な感じになってしまう。もちろんそういう女性の話も面白いとは思うんです。でも、あんまりウーマンリブ的なところには行きたくなかったし、今回は私たちと同じ、等身大の女性が悩んだり苦しんだりしながら会社を作っていく話を書きたかったんです。それで60年代〜70年代の高度経済成長期を舞台にするのはちょっとキビシイな、と。でもバブル期、あるいは2000年代になると、今度は逆に、起業が当たり前になってしまうんですよね。大学生でも起業する時代ですから。もうちょっと「よっこらしょっ!」っていう感じが欲しい――ということで、1980年代を選んだんです



――今作、こんなところを見て欲しい、というのは?


 去年の『砂漠の音階』は「こんな風に生きられたらいいな」っていう、素敵な生き方をする人を描こうと思って書いた作品だったんですけど、今回はもうハッキリと、私たちが分からなくなっている「生きていく」っていうことについて、観て下さる皆さんと一緒に考えられるような作品にできたらいいなと思って書いたんです。立派だとか素晴らしいだとかじゃない、言ってみれば普通の人たちが、「生きる意味って何かしら?」っていうようなことを探す、そんな話にしたいって。…こうして言葉にすると安っぽくなるんですけどね。
 なんか今、起きているいろんな現象を見ていると、「苦しい時代だな」って思うんですよ。そんななかで、いいんだよ、生きるっていうのは揺れることだし、悩むことだし、「自分が何者か」なんてどこまで行っても分からないけど、それでも生きていくんだよね――みたいなことが伝わる作品になればいいな、と思ってます


――今作については、「秋篠宮家男子誕生にヒントを得た作品」という紹介が一部であったようですけど、どうもそういうことではないようですね

 そうなんですよ。なんでそういう話になってしまったのかは分かりませんけど(笑)。
 …ただ、あのときの女性を巡る論議にはすごく違和感があったのは確かです。だから、これまでフェミニズム的なものとかウーマンリブ的なものとかは敢えて避けてきたんだけれども、そういうこととは別に、私なりに「女の生き方」みたいなものとか「どういうことに悩んだりするのか」みたいなことを、正面切って書いてみようと思うきっかけにはなりましたね


――その結果、「生きるとは?」というところにまで辿り着いた

 ええ。口はばったい感じなんですけどね。でも、誰かが言わないといけないんじゃないかって。
 今、“アイデンティティー”なんて口にしたらダサい、みたいになってますよね。でも「みんな本当はそのことが一番苦しいんだよね?」って思うんですよ。だから、「アイデンティティーが何か分からなくて苦しい」ってことさえ言えない今って、なんて大変なんだろうと思う。それで、ちょっと口火を切ってみたいなって(笑)。もっとも、そういうものを描きたいと考えているのはウチだけじゃない、ちょっとずつ出てきてるって、周りを見てて感じるんですよね

 「やっぱり女性の話なので、自分の感覚や体験はいっぱいに使って書こうと思った」と語った詩森さん。そのゆえか、当初書き上げた台本は読み合わせで2時間を優に越えたという。「当然カットして、1時間50分くらいにします」と笑ったが、こんなエピソードひとつ取っても、「正面切って」取り組んだ、その腰の据え方が窺い知れよう。
 【風琴工房】が敢えて女性の目線で問いかける“生きる意味”。性の別なく根源的なこの問いに、今一度立ち返るべき――いまは、そんな時代なのかもしれない。
 とはいえ、堅く構えること無かれ。作品自体はコメディー的な要素を多分に含んだものになりそうなので、是非とも気軽に劇場まで足を運んで欲しい。
2007/3/22   文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

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