BACK STAGE REPORT〜from サブテレニアン〜
欲求から生まれる動き――冨士山アネットpresents[在処/sugar]
【長谷川寧インタビュー】
 「余白があると落ち着くんですよ。」
 冨士山アネットのスタイルは、言葉をそぎ落とした身体の動きから作られる。
 ダンスとも演劇とも異なる動きの秘密とは?
 サブテレニアンのさたけれいこがインタビューした。
長谷川寧

作家・演出家・振付家・パフォーマー。
1999年、演劇活動を開始。以後5年間活動。その後、身体表現やパフォーマンス等への興味を持ち、時々自動や、パフォーマンスダンスユニット「ま」の作品等に出演。イベントやファッションショーの構成・演出等も手掛ける。
2003年、ユニット[冨士山アネット](フジヤマアネット)結成。類稀な空間演出と創造的なヴィジュアル、身体性を強く意識したパフォーマンスにて、可笑しくも奇妙な空間を描き出す。近年では、経済とH[なまけもの百科事典](作・演出・振付 小林顕作)の美術や、ラドママプロデュース[しあわせな日々](作 サミュエル・ベケット 演出 杉浦千鶴子)への演出協力、shizuoka春の芸術祭[マクベス](作 ウィリアム・シェイクスピア 演出 億土点)への出演、ミクニヤナイハラプロジェクト[青ノ鳥](劇作/演出/振付 矢内原美邦(NIBROLL))出演予定、パパ・タラフマラ[シンデレラ](作/演出/振付 小池博史)出演予定等、活動の幅を広げている。
【動きが生まれるまで】
――前作「DiSTANCE」(2007年1月、アサヒ・アートスクエア)は、ダンス、演劇、冨士山アネットの三つの動きを並べて比べてみるという実験的な作品でした。私は前作を見て、冨士山アネットと、ダンス、演劇の違いはどこにあるのだろうと思ったんです。その動きの生まれる過程を見てみたくて、今回ワークインプログレスを行っていただいた訳ですが、三つの動きの違いを長谷川さんの言葉で語っていただけませんか?

 そうですね・・・うちは「火星の生活」(2005年、吉祥寺シアター)あたりから、台詞がほとんど無くなっていったんです。大切な部分だけを言葉として抽出したい、ダンスの様に活動の場を広げたい、というのがあって。演劇とダンス、その二つが融合したものが冨士山アネットだと思ってます。
 「DiSTANCE」では後ろで同時にテキストを読んでもらい、それに動きをあわせたんですが、そうすると演劇の人たちは意味を知りたがるんです。動きを指示すると、感情的に気持ちが悪いとか、なぜその動きをするのか意味が分からないからできないと言ったりする。一方、ダンスの人たちはテキストを読む音やリズムを音楽として聞いているんです。その違いが大きいですね。(手をひろげながら)こういう動きをして、と言った時にできるのがダンサー、役者はそこに意味を求める。その違いをどう埋めるのか、その時に有効なのが欲求です。


――欲求?

 行動は欲求から生まれると思っています。例えばコップで水を飲むという動作をとってみると、まずコップをつかむという動作のベクトルがある。それを強く強くしていくと、コップを握りつぶしてしまう。また、のみほして上から下へ下ろす、そのベクトルを強くするとコップを叩き潰してしまう。その動作を繰り返すところからうちのスタイルがはじまったんです。
 あとは、関係性ですね。押し引き、差し引きの関係性を舞台にあげるのがアネットのスタイルです。演劇がベースで、それをどう動きとしておこしていくかというようなことをやっています。


――出演者に演劇の役者を起用しているのはそのためですか?

 欲求を出すのは役者の仕事だと思っています。僕自身が演劇から来た人だから、それを捨てるのはもったいない。そこを活かそうと。
【舞台に上げるもの】
――原作はシェイクスピア「ハムレット」ですね。古典をとりあげようと思った理由を教えていただけますか?

 今までも、何かをモチーフにすることはあったんです。『火星の生活』はデヴィッド・ボウイの曲の歌詞だったり、『猿女』は『サロメ』だったり。過去2作はオリジナルをやったんですが、客席の前にあらすじが全部書いてあって見ても見なくても自由、パフォーマンスとして見てもいいし、あらすじを読みながら見てもいいというようにした。でも、例えば遅れてきたお客様はあらすじを見ることができなかったりして、そうなると意図と違ってきてしまう。ビハインドをどうなくそうかと考えた時に、古典が原作のものをやってみよう、と思ったんです。

――古典ならあらすじをあげなくても、共通認識で補えると?

 それもありますが、関係性を舞台にあげようと考えた時、骨組がしっかりした素朴な作品の方が台詞のほとんどないアネットのスタイルには効果的だと思ったんです。
【現代性が欲しいと思った】
――今回のハムレットは「引きこもり」とのことですが、『ハムレット』のどの辺りが現代とリンクしていると思われますか?

 その辺りは僕自身の話にもつながるんですけど、ハムレットは父親が死んで自分の家に戻ってくるわけですが、家にいるから何もしなくてよい。働かなくてよいし、家から出なくてよい。家にいれる、出なくても過ごせる。前に自分が家にいた時に同じことを感じたんです。実家にいると生きて行ける。食べ物もあるし、何もしなくてよい。それってある意味王様だと思うんです。小っちゃい世界の王様。それはハムレットも同じなんだろうな、と思って。

――ハムレットは自立していない?

 全然自立していないと思う。優柔不断だし、我が儘だし。自分のテリトリーを守って何かをする。殊更現代風にしているわけではないけど、家族は家族だから王子だってお母さんから何かを言われたらむかつく。そういう感情を、今の観客に近い形で取り上げたいな、と。

――ハムレットは自立できないまま死んでいくという?

 そう言うと救いがないけど、悲劇ですからね、悲しいんですよ(笑)。現代性が欲しいと思ったんです。そこら辺で僕自身、身につまされる部分があったので・・・いや、身につまされないんだな、多分。実家にいると身につまされない。外界からの刺激がないから。じゃあどうすればよいのか?ってことですよね。身につまされないということを舞台にあげたい。身につまされない身につまされなさを舞台に上げたい(笑)。
【今回の見所と次回作について】
――次回「太陽(仮)」のモチーフは決まっているんですか?

 『ファウスト』をモチーフにしたいと思っています。それも現代的に。クラブが出てきたりとか。去年1ヶ月ヨーロッパを回ったんですが、僕はドイツの舞台表現に影響を受けて。古典をモダンに、現代的にした作品をたくさんやっていて、とてもおもしろかった。また、去年から外部で仕事をする機会に恵まれたので、そうやって得てきたものをフィードバックさせたいですね。

 今回は、会場でチラシのイラストを描いてもらった時松はるなさんの個展もやるし、ワンドリンクもついてくる。パフォーマンストークもはじめてやってみるんですよ。第一日目はニューヨークの演出家、イェレナ・グルーズマンさん。台詞が少なく外国の人も見易いと思うので、どういう感想を持ってもらえるか聞いてみたいです。二日目は宇宙レコードの小林顕作さん。ダンスも演劇もやっている方だから、その辺りの話をしたいと思ってます。

 何を舞台に上げたいのかという事についてよく考えるという長谷川さん。その姿勢が、スタイルも独自のものにする。映像、衣装のパフォーマンスも冨士山アネットでしか見れない独自のものだ。ワンドリンクのお酒でも飲みながら、そのパフォーマンスを楽しんでほしい。
2007/7/8   文責・インタビュアー:さたけれいこ(サブテレニアン) 撮影・編集:鏡田伸幸

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