この四月、東京の名刹・池上本門寺の大堂横グラウンドに、真っ黒いテントが立つ。

昨年秋に二人の若手演出家をデビューさせた劇団【黒テント】。
その【黒テント】、今年は創立メンバー三人の演出による、まったく趣の異なった三作品を上演するという。
その第一弾が、佐藤信氏が演出する『三文オペラ 新装黒テント版』だ。
今回のBACK STAGE REPORTは、公演を間近に控えたその【黒テント】のアトリエから、演出の佐藤信氏と、今作では剃刀左平次(原作でのマック)を演じる【黒テント】代表 / 斎藤晴彦氏のインタビュー、更には緊張感漂う稽古の模様をお届けする。

BACK STAGE REPORT 〜三文オペラ 新装黒テント版〜【藤晴彦インタビュー】〜
藤信インタビュー重博之インタビュー】【古REPORT番直前!テント内稽古REPORT
藤晴彦 氏(黒テント 代表)
稽古場に入ると、剃刀左平次を演じる斎藤晴彦さんが、真剣な表情で稽古をしている。するどい目つき。演技に合わせ、すぐにパッと笑顔になる。ベテラン俳優としての余裕と共に、気になるところがあると何度でも確認する真摯な姿勢が窺える。そんな稽古の合間に、役者の視点から見た『三文オペラ』、ブレヒト作品の魅力、さらに秋に公演が決まっている自ら演出・出演する『ぴらんでっろ』について斎藤晴彦さんに聞いてみた。
ント芝居の体質は簡単には変わらない
―14年ぶりの新バージョンの『三文オペラ』ということですが、変化したことはありますか?

歳とったからね……(笑)。原作のマック(左平次)もそんなに若くないけど僕よりははるかに若い。壮年、っていうのかな。とにかくね、喜劇的にやりたいなと思います。

―久々のテントはどうですか?

10年以上やっていなかったとは言っても、テントでの芝居の経験の方が長いから、そんなに簡単にテント芝居の体質は変わらない、ということがよくわかりましたね。

―では、すぐにテントに入り込んでいけた?

うん。ただ、昔のテントの経験者が少ないですからね。それにテントの構造も違うし昔は自分たちのテントで今はリース。
ただ、テントでやっていて劇場と違うのは、解放感というのがものすごくありますよね。そこが面白い。実在の街と地続きでしょ? だから全部がセットになるんですよね。そういうことでは、映画のロケーションみたいなところがありますよね。それと、足が地べたを実感している。
の方が、過激なエネルギーをもちやすかったね
―若い役者さんたちにテントのノウハウを伝えることは?

思い出話はいろいろ、若い団員に教えてあげますけどね。でも、それはテントのノウハウってのとはちょっと違ってね。一人ひとりがテントでどういう芝居をするかっていうのは、もう、その人の感性がすべて。だからテントに向いていない人もいるわけですね。テントって、そういう不思議な物なんですね。テントの中でと、劇場の中での感性はちょっと違うと思いますね。

―それは時代によっても変わってくるものだと思いますか?

それはあるでしょう。どんどん変わっていますね。

―若い方たちがテントに入ったときに、それをご覧になって「違うな」と感じる部分は?

今の若い団員たちは、みんなすごく一生懸命やってくれてるし、面白いですけどね。同時に、僕らの若い頃とは明らかに違いますよね。今の子は優しいですよ。僕らのころは良い子じゃなかった。別に、悪さをするとかじゃなくってね(笑)。なんかもっと、生意気だった気がするね。それに、もっと芝居も下手だったんじゃないかなぁ? いい意味で。いまどきの若い団員はなかなか本性を見せないね。

―創立メンバーは皆さん、養成所などで芝居の勉強をされていたのでしょう?

いや、そういうのもあったけど……どうもね、今の子は、ある形まで行くのが早い。でもその先がね。僕らは本当に不器用で、毎日まいにち闇雲にワーワー喚いていたって気がする。

―技術的な面の他に、精神的な面ではどうですか?

僕らの時よりね、色々なものが周囲にいっぱいあるでしょ? 僕らの時はコンビニもなかったからね。高速道路もやっと通ったとか、そういう時代だから。まわりにこう、あんまり色んな物がなかった。
今は、色々な物があるから、「何もない」ということで過激なエネルギーを出すってことがものすごくむずかしい。いま、【黒テント】にいる子もね、すごいですよ。もっと楽なこと、他にあるのに(笑)。そういう意味では、昔の方が過激なエネルギーを持ちやすかったね。だって無いんだもん、何も(笑)。 今は色々なものがある中で芝居やらなきゃならない。
レヒトって、芝居の面白さを分かってる人なんですよ
―今回、【黒テント】はブレヒトの『三文オペラ』を上演するわけですが、ブレヒトの魅力って何でしょう?

僕達は結構ブレヒトをやっています。ブレヒトっていうのは、よく言われるところの“イデオロギッシュ”、それだけではないと思うんですね。ブレヒトというと、よく社会主義者とかコミュニストとか言われるじゃないですか。でも【黒テント】のやっているブレヒトは、たぶんそういうのとは違う。むしろその、芝居の面白さをよくわかっている劇作家じゃないかって思うんですよ。芝居ならではの面白さをわかっている人。
だから、僕らはブレヒトというものに影響を受けている劇団だと思うんですけど、やっぱりブレヒトをやろうとする時は一貫して「楽しい芝居を作ろう!」と。これがいちばん大きいですね。ブレヒトというと、すごい理知的で尖ってて、暗くてすごい政治的な発言があるって思いがちだけど、もちろんそういうのもあるでしょうけど、それらをひっくるめての「芝居の中での面白さ」っていうね。それがあるから、飽きずにやっているんですよね。いろいろなことを考えられる。時には「ブレヒトはちょっとおかしいんじゃないかな?」と思ったりね(笑)。色々なことをひっくるめて。でも、ブレヒトやっていると色々なことを発見できます。飽きないんだなぁ。


―そのブレヒトの作品の中でも特に、『三文オペラ』について思うことは?

『三文オペラ』はもう、ほんとうに、“これぞ芝居”。どのようにでもやれる構造になっていると思います。ブレヒトの作品と言うけれど、三文オペラは作曲家のクルト・ヴァイル抜きではもちろん絶対考えられません。音楽が素敵。……でも、エンターテインメントっていう言葉では言いたくない。
からこそ、今やって古くないものを
―今回、銀色だったテントが黒いテントに戻りましたね

佐藤信が黒いテントが好きだからね(笑)

―それで黒いテントに戻って、山元清多さんが台本を書き、佐藤信さんが演出をして……

ええ、劇団総力挙げての作品ですね。

―ある意味で70年代〜90年代の黒テントの元の形にかなり近いですね

そうですね。だからこそ、今やって古くないものにしたい。それが一番大きいんじゃないですかね。新しい喜劇にしたい。若い人にも、どんどん頑張ってもらいたい。
を観るのに、人がお金を払う。不思議な関係ですね
―ここを観てもらいたい。或いは、こんな風に観てもらいたい、というものは?

僕はやっぱり自分が役者だから、芝居というものはどんなに素敵なものかということを、お客さんにわかってもらいたい。その為に、一生懸命がんばりたいですね。
やっぱり、芝居っていうものは人間が生でやっているわけで、いちばん人間の魂を揺さぶるものだと思うんですよ。お客さんが我がことのように、「ああ、あれは私のことを言ってるんだ。私のことをちょっと悪口言ってるな。私のことを褒めてるな」みたいな。そういうものが劇場だと思うし、そういう芝居をやるべきだと思うんですよ。単なる娯楽とかではなくて、お客さんが来て、青ざめて帰るような芝居もあっていいと思うし、泣きながら帰るようなものがあってもいい。何か、お客さんが芝居を観て、一生の思い出になるようなものをやりたいなと思っているんですよね。何となく芝居っていうと、芸能とか言っちゃうんだけど、もっと、違うんじゃないかと。人間が演じているものを人間がお金を払って観に来るわけだから、不思議な関係なんですよね、よく考えるとね。物じゃないんだからね。人を観るのに、人がお金を払って来るのは、実に不思議なことだと思うんですよ。やっぱりそれは、役者から何かを買うってことだと思うんですよ。役者は何かを売ってるわけです。それは、何かね、心っていうか、魂みたいなものだと思うんですよ。そういう交流ができれば良いなと思うんですけどね。
さくれたものをぶつけたい
―秋に公演する、斎藤さん演出・出演の『ぴらんでっろ』についてもお聞かせください

『三文オペラ』もそうなんですけど、やっぱり、人間の感情を……さっきの観劇の話じゃないけれど、一人ひとりの人間の感情っていうのはこうも激しくなるんだっていうのを表現した芝居にしたいんですよ。ようするに今は、感情をばあっと爆発させる時代じゃなくて、みんなニュートラルっていうか、なるたけ当たらず障らず生きていくっていう時代じゃないですか。僕はそういうところに感情をぶつけてみたい。人間ていうのはそういうもんじゃない。もっとこんなに色んな感情で、怒鳴りまくって、泣きまくって、笑いまくる。そういう風なものを人間は本来持っているのに、今はみんな抑えている時代だと思う。人間の感情はもっとオ−プンでいい。『ぴらんでっろ』というのはそういう作品なんですよね。徹底的に感情が外に、表に出る。人間の赤裸々な姿というかね。そういうのをやりたい。
お客さんが今そうでしょ。お客さんもあんまりそういうのを望まない。エンターテインメントという言葉があるように、非常に平和で清潔で柔和で、そういうとってもマイルドなものが好まれているんですよ。僕はそういうのに、ささくれたものをぶつけたい。「なに気取ってんだ!」ってね。そういう風な気がするな。お客さんも、もっとアナーキーで良いと思うんだよね。だからお客さんも、もっと色んな感情を劇場に持ち込んで来ても良いと思うんだよね。

――昔のお客さんはアナーキーでしたか?

時代が時代だったからね。昔は学生運動もあったし。もっと、昔はみんな元気があって、怒っていましたからね。今の学生を見ていると、そういうことがなくて、どうしてしまったんだろうと思うんだけどねえ。今の若い子はね。そういうことをおじいさんとしては言っておきたいんだよね。「ちゃんと社会に怒れ!」

――ありがとうございました。
(文中、一部敬称略)
2004/4/9 文責・インタビュアー:浅井貴仁 撮影:鏡田伸幸 編集:北原登志喜 鏡田伸幸

BACK STAGE REPORT 〜三文オペラ 新装黒テント版〜【藤晴彦インタビュー】〜
藤信インタビュー重博之インタビュー】【古REPORT番直前!テント内稽古REPORT

BACK


Questions?Problems?Suggestions?Contact backstage@land-navi.com
BACK STAGE【SideA】 Since 1999/09/01.2000/10/01.Presented by LAND−NAVI
Copyright (C) 2004 LAND-NAVI .All Rights Reserved.