BACK STAGE REPORT
(稽古見学記)


「シンクロナイズ・プロデュース」の稽古風景
を見学に行ってきました。


我々が今回お邪魔したのは、シンクロナイズ・プロデュース第11回公演、『海はなかった』の稽古場。
シンクロナイズ・プロデュースは、その母体である<オフィス シンクロナイズ>と共に、1997年に創設された。中心となったのは、兵庫県立ピッコロ劇団に籍を置いていた役者さんやスタッフ。以来、劇団所有のアトリエ=シンクロナイズスタジオでの6回の公演を経て、昨年4月に劇場デビューした。以後、計4回の劇場公演を行なっているが、いずれも出演者が全員女性、という特色を持っている。今作でもやはり7人の現代女性の「今」を描く、とのこと。事務所、及びアトリエは東急田園都市線・二子新地駅から歩いてほど無い所にある。そのアトリエでの稽古見学となった。


10月13日、午後2時20分。約束の時間より10分早くアトリエに到着。アパートの地階にあるガラスの引き戸をノックすると、すぐに制作担当の土屋武之さんが出迎えて下さった。導かれるまま入室する。入ったそこは事務所になっていて、一通りのOA機器が揃っていた。左手に扉が1つあり、稽古場はその奥になるらしい。今、事務所に居るのは土屋さんお一人。まずは事務所の応接セットをはさんで、土屋さんと改めましての御挨拶を交わす。現在、稽古は? の問いに、今は奥の稽古場で読み合わせの最中、とのお答え。
「せっかくですから、役者が動いての稽古になったら御案内しましょう。それまで、何かお聞きになりたい事があれば、私でよろしければお答えしますが」

丁寧な土屋さんの申し出に、それではと、以後しばらく土屋さんにお話しを伺うことに。
― やはり1番気になるのは「出演者が全員女性である」ということですが、これは敢えてこういうスタイルで行こうと?
「いえ。自然な流れ、でしたねぇ。アトリエでの公演を経て、自分達のスタイルを確立していく中で、この形に行きついたという感じです」
― 作・演出は男性である久次米健太郎さんですよね。男性が女性を描く難しさは?
「いや、客観的に見られるという点で、難しさよりもむしろ描きやすさを久次米は感じているようです。実際、女優さん達にしても、客観的な視点を突き付けられて、かえって『あ、そうなんだ!』と気付かされる事が多いようですし」
― 劇評を見ると、女性からの共感が多く寄せられています。そういった共感も、客観的に描いているからこそ得られる、と。
「ええ。また、うちの役者陣は皆30歳くらいなんですが、芝居の登場人物も主役をはじめ、大体同じ位の年令。今、2002年の現在を生きている、同年代の女性達を描いていますから、その世代の方々にはより共感して頂けるのではないでしょうか」

― では、やはりその年代の女性達に1番観てもらいたい?
「そうですね。同世代、或いは30代真ん中以上の女性に、出来れば観て頂きたいですね。よく久次米が『ブサイクな女性を描きたい』と言うんです。仕事に、子育てに、人間関係にと七転八倒しながら、それでも今を一生懸命生きている女性達。その姿は決して美しくはないかもしれないけれど、だからこそ魅力的なんじゃないか、と。そういう魅力を描きたい。だからそこが分かってもらえる、社会を知っている女性達に、観て頂ければと思っています」
・・・この後、元々ピッコロ劇団に居た皆さんが、阪神淡路大震災を機に、芸術家・演劇人としての自分を見詰め直し、縁もゆかりもないこの地で1から演劇活動を始めた事、制作としての土屋さんの苦労話(土屋さんは「制作」という不明確な言葉ではなく仕事の内容にあわせて「General Manager」などと呼んだらどうか、とおっしゃっていた)や、アトリエのレンタル状況等々のお話しを伺っているうちに、気がつけば時計は15時半をまわっていた。
「では、そろそろ、稽古場に入られますか?」

そう言って立ち上がった土屋さんに従い、アトリエへのドアをくぐった。
ドアを抜けると、目の前が舞台で、今、まさに稽古が行なわれていた。我々はいきなり舞台上手に登場したことになる。恐縮しながら役者さんの横をすり抜け、用意された席へ。
腰を落ち着け、周囲を見回す。5.4m×7.2mという室内。その5分の3が仮想舞台になっており、3つのテーブルと、8脚の椅子が置かれていた。喫茶店を思わせる配置だ。その舞台上で、現在は井上加奈子さんと水谷純子さんが、台詞を交わしていた。 
客席側に目を転じると、舞台正面に長机が1つ置かれ、そこに主宰の久次米健太郎さん、演出助手の横溝浩一さんが座っていた。後ろの方には照明の芦辺靖さんの顔も見える。その他、思い思いの格好で座り、舞台を見詰めている女性達は役者さんだ。再び舞台上に目を戻す。
今は木内美帆さんも舞台に上がっていた。3人とも手から台本は離れていない。稽古はまだ、動きを決める段階のようだ。頻繁に久次米さんの指示が出される。
「ここでちょっと立ってみようか」
「〜を置きました。コップを手に取ります。飲もうとします。やめて、(そのセリフを)言ってください」
しばらくはこうした、大きな動きを指示する言葉が続いたが、ことが細かいニュアンスの確認になった途端、久次米さんが舞台に飛び出した。そして、躊躇無く自身で演じて見せた。土屋さんが私に耳打ちする。
「久次米はこれ(実際に演じて見せる事)、よくやるんですよ」
やがて久次米さんの指示の大半は、このニュアンス的なモノに集中しだした。
言葉では表現し難い動きのニュアンス、セリフのニュアンスを、久次米さんは丹念に伝えていく。その為に何度も舞台に出て行く。小さなニュアンスを積み上げて、<空気感>を創り出す作業、と言えばいいか。やがて、漠然とした空間だった舞台上に、その世界の「雰囲気」とでもいうものが感じ取れるようになって来た。
芝居の進行に連れて、外で見ていた女優さん達が、1人ずつ、舞台に上がり出す。西村いづみさん、菊地奈緒さん、上仁牧子さん、そして、野中紀希さん。久次米さんの動きが忙しくなった。何せ、舞台に上がって実演する事しばしばなので。言葉もバンバン飛ぶ。
「ミホちゃん、こっち座ろうか」
「ナオちゃん、もっとゲスに歌ってね」
「イズミぃぃ、マイペース、やめてくれない?」

こういった言葉を関西のイントネーションでひっきりなしに飛ばす様は、さながら、各人のボケに久次米さんが一々ツッコミを入れているようにも見え、妙に可笑しい。実際、笑いも頻繁に起こる。
役者さん達のレスポンスもとてもいい。今作から新たに加わった役者さんもいるそうだが、皆、とても稽古を楽しんでいるように見える。今回は久々の「標準語の芝居」だそうだが、関西出身の役者さん達は標準語も苦にはしてないようだ。逆に、新たに加わった関東出身の役者さん達の方が、元からのメンバーが芝居の外で使う関西弁に引っ張られるのか、時々イントネーションを狂わせてしまう。そんな時、すかさず久次米さんのツッコミが入る。
「ナマってるやないかいっ(笑)!」
16時35分、小休憩に入る。この間に久次米さんをはじめ、皆さんに改めて御挨拶する。久次米さん、休憩の後は「せっかくだから」と、冒頭のムーブメントを見せて下さると言う。気を使って頂いて、スミマセン。
10分後、7人の役者さんが舞台に勢揃いし、音楽に乗せてムーブメントが始まった。

真っ直ぐに前を見て、舞台上を幾何学的な軌跡を描いて歩く女性達。その軌跡は近づき、離れ、時に交錯し、やがて・・・。
ムーブメントが終って、久次米さんの手直しが入った。
「このまえ、曲がる時、Rにしてくれって言ったけど、直角にしてくれる?」

更に、歩く時の目線、タイミングのズレの修正などを施し、もう1度やって、我々へのサービスで始まったムーブメントの練習が終った。 
この後は、
「ほな、3戻る? 3戻ろか?・・・あ、1、行こか?」
という久次米さんの言葉で、1場(おそらく)からの稽古に移った。この言葉から察するに、我々が入室してすぐに拝見したのは、3場だったらしい。ここで1場、つまり芝居頭の場からの稽古に入ったのも、我々に対するサービスかもしれない。
テーブルを挟んだ西村さん、菊地さん演じる2人が、顔を寄せ合い、たわいない昔話で盛り上がっている。そこはやはり喫茶店のようだ。と、「カランカラン」 喫茶店のドアのベルが鳴り、一人の女性が入って来た。隅のテーブルに着いたその女性は、どこか落ち着かなげな様子で・・・・・続きは劇場で、ということで。
この場でも、相変わらず久次米さんの実演付きダメ出しは繰り返し出された。そして、水谷さんが劇中でつまんでいるスナック菓子について、
「そんなん、本番では絶対ダメだよ? それはオレのイメージでは、クラッカーの上にチーズとイクラとキャビアが乗ってて・・・」
という久次米さんの要求に、General Managerの土屋さんが、
「キャビアは却下やなっ!」
とツッコンだ所で、笑いと共に18時少し前、本日の稽古が終了した。
アトリエを去る前に、少しの間、久次米さんとお話しをする事が出来た。土屋さんにもした質問も含め、幾つかお聞きする。
― 男性の久次米さんが女性を描く事に関してですが
「・・・あんまり難しくはないんですよ。引いて見れる分、ものすごく客観的になれますからね。むしろ男性を描こうとすると、自分が男性であるが故に、どうしても自分の『想い』しか出て来ない、というのがありますんで」
― では、今後も女性だけ、というスタイルで芝居作りを?
「それは、判りません。男を出したい、と思うこともありますし。ただ、男は稽古しないですからねぇ(笑)。明らかに女性の方が稽古熱心ですよ。やっぱり、続けられるうちは今の形で続けていこうとは思っています」

― やっぱり、女性に観てもらいたいですか?
「そうですね。ただ、『女性特有の何か』と言った時にイメージするもの、そういうものを見せようという芝居ではないんで、男性が観ても共感できる部分は沢山あると思います。実際、男性の方からも評価して頂いてますし」
― 演出についてお聞きしますが、演出面で特に気を配ることは?
「う〜ん・・・僕の書く芝居って、ドラマがですね、展開しないんですよ(笑)。日常の中での可笑しさであったり、哀しさであったりを描きたい、というのがあって。ですから、ダメ(出し)で言うのはニュアンスであるとか、雰囲気であるとか、そういう所ですね。どうしても役者って、芝居をしたがるんですよ。僕らは誰でも日常を演じて生きてますよね。役者達だって普段の自分を演じている。その、既に演じている人間達が、その役のキャラクターがどうだとかってことで、更に上塗りで演じると、物凄く嘘臭くなるんですね。もちろん、役のキャラクターがどうだとか、過去にどういう背景を持っているかだとかは必要だろうけれど、そういう事よりも、その場に居る、その空間に存在している雰囲気を出して欲しい。(気を配っているのは)そこですかね」
― その為に、ご自身が演じて見せる場面も多いようですが
「ええ。ただ、僕が演って見せて、その通りに演じてくれ、という訳ではないんです。あくまでニュアンスを掴んでもらうため、ですね。ですから、今日はまだですが、これから台本が手を離れたら、一人ずつ交代で外から見てもらうんです。僕がその役をやったり、あるいは他の代役を立てたりして。それで場の雰囲気を掴んでもらって、また入ってもらう」

― 面白いですね。ところで、おっしゃったように、まだ台本が離れていないわけですけど、稽古の進捗状況は久次米さんから見て、どうですか?
「『いけるっ!』って感じですね。ぜんぜんあせることはないなって」
― それでは最後に、今公演への抱負を
「やっぱり、そうきますか(笑)」

―まとめるのに便利なんで(笑)
「はい(笑)。・・・そうですね、あらすじで見ると、暗い感じのお芝居だと思われるかもしれませんけれど、基本的には明るいお芝居、という形に持っていきたいと思ってます。日常の可笑しさが全面に出る芝居、そういう芝居をいつも心がけていますから、そういう所を、お客様には観て頂きたいですね」

 綺麗にまとめて頂いて、ありがとうございました(笑)。

2002/10/13 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸



シンクロナイズ・プロデュース
シンクロナイズ・プロデュース 11月1日(金)〜11月3日(日) 海はなかった 銀座小劇場 synchro@mvj.biglobe.ne.jp HP 詳細
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何でもいい。明日まで生き延びる理由があれば、それでよかった…

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