BACK STAGE REPORT
(稽古見学記)


「SPIRAL MOON」の稽古風景
を見学に行ってきました。


今回お邪魔するのは、年1回のプロデュース公演を行なっている『SPIRAL MOON』さんの稽古場。
ちょっと長いので、第1部・稽古場編、第2部・インタビュー編と、2部に分けてお送りする。

第1部・稽古場編

9月7日、17時50分。巣鴨駅前で担当の落合由人さんと合流する。落合さんは本来役者さん。SPIRAL MOONの前回公演にも出演しているのだが、今回は様々な事情から役者ではなく制作として参加しているそうだ。憂いを湛えた瞳と渋いヒゲが印象的な、オトナの男性である。
そんな落合さんの誠実そうな背中を見ながら歩く事5分。本日の稽古場、駒込区民集会所に到着。

さて、導かれるまま、稽古が行なわれている会議室に入る。ちょうど休憩に入った所らしく、室内では20人程のメンバーが和やかに食事をとっていた。その中に、主宰・秋葉正子さんの姿も見える。数日前に腰を痛めたと聞いて心配していたが、元気そうでなによりだ。早速御挨拶をする。
「たった今、通し(稽古)が終ったところでして・・・」
 それなら漸く訪れた憩いのひと時、邪魔しては申し訳ないと、この場では挨拶だけに留めて用意された席へ向かう。その途中、気になる物が目に入った。仮想舞台に向けて、上手と下手に1台ずつ、ビデオカメラがセットされていたのだ。・・・あれは何だろう?    
席に腰を落ち着け、落合さんがそばにやって来てお話しの相手をして下さった。
気になった事を訊いてみる。
「あのビデオカメラなんですけど、あれは?」
「ああ、あれは稽古を撮って、後で演技のチェックに使うんです」
 ・・・なる程。ただ、ビデオで自身の演技を役者さんに見せる事は、演出家にとって賭けでもある。ダメ出し前後で何が変わったかを見せる事によって、演出意図に気付かせるという効用があるかわりに、役者さんが「形=見え方」だけに捕われ、内面をおろそかにしてしまうという危険もそれは孕んでいるからだ。
「それはいつもやっていることですか?」
「いえ。今回が初めてです」
 秋葉さんは何故今回に限ってそんな賭けをする気になったのだろう。後でぜひ訊いてみよう。

(制作統括の落合さん)
この後、落合さんに「あれは誰」という風に部屋にいる方達の説明を受ける。今日は脚本家の門氏をはじめ、照明の南出良治さん、舞台監督の田中冬生さんなど、スタッフも随分みえているようだ。役者さん、スタッフさん、いずれも平均年齢は見た目に若干高めか?

それからしばらく落合さんと茶飲み話の様な会話をしていると、目の隅で何か動く気配が。見れば、仮想舞台の隅で小野明子さんとまるおみかさんが、何と言うか、こう・・・妙な動作を繰り返していた。あれ?でも、あのお2人、SPIRAL MOONの常連さんではあるけれど、今作では出ないんじゃ?
「ああ、確かにあの2人は出演者としては名前がなかったですけど、ちょっとだけ出てもらう事になってまして・・・」
「・・・そう言えば、こちらはプロデュース公演ですよね? 役者さんはどうやって集めるのですか?」
「基本的に秋葉がよその劇団の公演を自分の目で見て、その役に合った人を連れてきます」
「見込みが違った、なんてことは?」
「ははは・・・これまでの所、ありませんね」
 ハズさない眼を持つ秋葉さん。ちょっと突っ込んで、演出家としては? と訊くと、
「そうですねぇ・・・真面目で・・・とにかく『考える事と感じる事』を強く要求されますね」
どことなく嬉しそうに、ちょっと照れ臭そうに答える落合さん。その眼にこもった熱を見ても、強い信頼関係が築かれているのが判る。

と、新屋信明さんの声が室内に響いた。
「ダメ出しに入りま〜す」
ようやく稽古再開らしい。時計を見れば18時40分。

(左から照明の南出さん、演出の秋葉さん、演出助手の新屋さん)
役者さん7人が仮想舞台に上り、ダメ出し開始。通し稽古は止めずに流したらしく、ここでまとめて、各場面ごとにダメを出す秋葉さんと新屋さん。

(星さん)

(左からさくらさん、平岡さん)
肝腎の通し稽古を拝見できなかったので会話の意味が解らない所も多いが、お2人の指摘はセリフ以外のもの、まさしく落合さんの言った「考える事と感じる事」に集中しているように見受けられた。間(ま)の意味を問い、動きの意味を問う。
「ここの間(ま)、ものすごく長いんだけど」
「そこ、なんで後に下がったの?」

それにしても面白いのは、秋葉さんと新屋さんが交互にダメ出しする事。演出と演出助手、というよりもまるで演出が2人いるようだ。
「落合さん。こういうシステムは以前から取り入れているんですか?」
「はい。なにせ秋葉も役者として舞台に出るものですから」
 なるほど。けれども、これはよほど秋葉さんが新屋さんを信頼していないと出来ない事だ。2人のダメ出しにしばらく耳を傾ける。・・・新屋さんのダメ出しは秋葉さんが出ていない(であろう)場面にも及ぶ。そして、それに深く頷く秋葉さん。我が意を得たりの表情。また、秋葉さんのダメ出しを「だからこうすれば・・・」と引き取る新屋さん。決して互いに遠慮する事無く、言いたい事を言い、それでいて演出方針で意見が食い違うといった事も無い。見事な2人3脚だった。そんなお2人を見ているうちに、新屋さんは単に秋葉さんが舞台に出ている間の<代打演出家>というだけではない事が解って来た。おそらく新屋さんは秋葉さんのもう1つの眼、俯瞰する眼なのではないだろうか。芝居の最初から最後まで責任を持って見通す眼。それは<最初の観客>と言っても良いし<プロデューサーとしての眼>と言ってもいいかもしれない。この、小劇場の主宰が往々にして棚上げしてしまいがちな「プロデューサー的なモノの見方」を、秋葉さんは強く意識しているに違いない。それは、秋葉さんの締めの一言にも明確に表れていた。
「はい。今(の通しは)、1時間28分でした。1時間25分にしましょう!」

(小野坂さん)

(三品さん)
19時20分。通しのダメ出しが終り、抜き(場面毎)の稽古に移る。まずは秋葉さん、最上桂子さん、星達也さん、平岡美里さん、森野健吾さん、この5人で創るシーン。新屋さんの合図でスタート。
抜き稽古が始まって間もなく、秋葉さんが芝居を止めた。
「ここ、今の間(ま)、半分でいいから。それと(平岡さんに向かって)ちょっとカタチになっちゃってるかな」

さて、気を取り直してもう1度。細かい動きに不満が残り、更にもう1度。ちなみにこの場面、星さんがギターを弾く所があるのだが、最後に秋葉さんが星さんに向かってキツいダメ出し。
「頼むからもっとギター、上手くなって!」 
次は秋葉さんと星さん2人だけの場面。先の通し稽古で星さん、この場面の「ある動き」が出来なかったらしい。その理由を指摘する秋葉さん。
「リアル持ってないでしょ? 想像出来てないでしょ?」

結構厳しい。う〜ん、このメンバーでの星さんの役割がなんとなく見えてきた。ズバリ、<叱られ役>。打たれ強さが買われていると見た。あ、またダメ出しくらってるぞ。
「ここはもっとジョン・ウーのようにっ!」
 ・・・いや、それよく解りません。私が言うのもなんだけど。
この間、脚本を提供した門さんと少しお話しする。
「どうですか? 稽古を見てると口出ししたくなる時とかありませんか?」
「それはねぇ(苦笑)・・・でも、私は一切口を出さないって決めてますから。私、脚本に『!』とか、或 いは感情を表す言葉とか、書き入れない主義なんですよ。そういうのは演出家と役者さんが創り上げるも のでしょう。私の手を離れたらもう、その人達のものですから」
「秋葉さんとは確か、学生の頃からのお付き合いだとか」
「ええ。ただ、やりたい事の方向性が大分違いましたからね。彼女はアングラ、私はお笑いというか。で長い事疎遠になってたんですけど、去年急に連絡もらいましてね」

そこで門さんが観た秋葉さんの芝居は、それまでの秋葉さんのイメージとは随分違うものだったらしい。そして、その秋葉さんの芝居、セリフとセリフの間を丁寧に創り込んで積み上げていく芝居に、深く感銘を受けたという。
「『ああ、こういうのもあるのか』と。それからなんか、私のやりたい事も少し変わってきましてねぇ」

30代半ばになっても影響し合える友人。本当にここ、SPIRAL MOONの芝居は良い人間関係の上に成り立っているんだと実感した。

(BACK STAGEスタッフ北原と脚本の門さん)
この後も抜きの稽古が続く。新屋さんが年下らしく、丁寧且つ威勢のいい声を上げる。
「次、予約が入ってないのでやりたい方いらっしゃいましたら!」・・・なに? カラオケ?

さにあらず。自分の出るシーンで自信のない所を見てもらいたい人がいたらどうぞ、という意味らしい。
小野坂貴之さんが進み出た。秋葉さんとの絡みのシーン。
続いて最上さんとのシーン。2シーン続けて確認する。が、ダメ出しということもなく、姿勢その他の細かい修正でOKが出て、9時20分、今日の稽古が終ったのだった。

お疲れ様でした〜!

・・・・・インタビュー編に続く。

(秋葉さんと、最上さん)

2002/9/7 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸

SPIRAL MOON
SPIRAL MOON 9月19日(木)〜9月23日(月・祝) あのひとだけには ザムザ阿佐ヶ谷 yo_ochiai@nifty.com HP 詳細
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突然死んでしまったら、あなたは誰に逢いたいですか

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