BACK STAGE REPORT
(稽古見学記)


「ミスタースリムカムパニー」の稽古風景を
見学に行ってきました。その弐


記念すべき第1回目の稽古見学で訪問した劇団『ミスタースリムカムパニー(以下MSC)』。
その『MSC』の稽古場に、またもやお邪魔することになりました。
今回はBACK STAGEの鏡田と北原にTeam engekizinの小野氏を交えた3人での訪問です。
場所は東武東上線下板橋駅、その眼と鼻の先にある集会所でした。


18時30分。扉の向うから聞こえる熱の入ったセリフ。そしてそれを圧する演出の深水氏の怒鳴り声・・・。その緊張感に ― 約束の時間ではあったが ― ノックがためらわれた。(・・どうも間の悪い時に来てしまったな・・・)
しばらくは扉を前に、中の様子を覗うことにする。

 今回、MSCは前回公演の『 Shanghai Dream 』を再演するとのこと。26年のMSCの歴史の中で同一演目の再演はこれが2度目というから、深水氏のこの作品に対する思い入れの強さが覗える。そのせいかどうかは判らないが、外まで響いてくる深水氏のダメを出す
声は前回の稽古見学では見られなかったほどに烈しい。
どうやらそのダメ出しは今、一人の役者さんに集中しているようだ。
扉を隔てていることもあり深水氏の声の内容までは判らないが、その声の調子からハッキリした事が一つ。(いよいよ入りづらくなった・・・)
 
そうして扉の前で固まったまま5分も経った頃、ふいに八田さんが扉を開けて顔を出した。
立ち聞きのバツの悪さを覚えつつも、救われた想いで山本さんを呼んで頂き、ようやく中に入る事が出来た。
用意された席(深水氏のすぐ横)に我々が腰を落ち着ける合間にも、フィチン役の八島さんに厳しい言葉を投げかけ続ける深水氏。どうやら彼女のセリフの所で稽古が止まっているらしい。
「声を張るなっ!」
「もっとワンさん(この場面の相手役)を愛してっ!」
次々と飛ぶ深水氏の声に必死に応えようとする八島さん。それでも応えきれない自分に対する悔しさからか、眼には涙が浮かんでいる。
「それじゃあセリフ喋ってるだけじゃないかっっ!!」

台本上ではたった2行程度の、中国娘のセリフ。そのセリフが舞台の上で生きた言葉になるまでに払われる努力がどれ程のものか。その努力の現場に立ち会う喜びと、それを気楽な立場で、しかも偉そうに座って眺めている恥ずかしさ。稽古見学で複雑な気分に陥る瞬間である。

18時45分。八島さんに対するダメ出しに一段落着いて、通しが再開する。場面はラストに近い。流れは順調。深水氏も「いい、それでいいですよ」
納得の声を幾度かあげる。
のっけからの重たい緊張感で痺れていた私の脳もようやくほぐれてきたので、改めて周囲に眼をやった。すぐに気付いた事があった。
それは役者さんの顔ぶれが前回と多少違っている、という事。メインの配役はほぼ変わっていない様だが、新しく加わったらしい顔もちらほら見える。前回稽古にお邪魔して、意外と役者の皆さんが若いのに驚いた記憶があるが、その時よりも更に全体に若返った印象。
もっとも年齢を聞いてまわった訳では無いから、あくまで印象だが。
19時ちょうど。タバコ休憩後の稽古再開を前に、深水氏が言った。
「作りモンが一番つまらない!」
<演技>を徹底して嫌い、役者には舞台上でただひたすらに「生きる」事を求める深水氏らしい言葉である。続けて氏は言った。
「誰かオレにウーロン・ハイ買って来てくれない?」
見れば、深水氏の机の上には既に空になったチューハイの缶が2本。そろそろガソリンがキレて来たか。この辺も深水氏らしい(?)。
再開後暫くして、今回新たに加わった役者さん二人によるシーンの稽古に入る。前回無かったシーンでもあり、ここではMSCで一つのシークエンスがどのようにして作られていくかを頭から拝見する事が出来た。

まずは声、である。声の大小、強弱というより、役者の声がそのシーンを支えるだけの「力」を持つまで、深水氏はとにかく彼らに声を出させる。セリフを喋らせる。動きは無し。
「まだ弱いっ!」
ちなみに氏は役者が「叫ぶ」ことは是とするが、「声を張る」事は許さない。
こうして声作りとでもいったものが終わって、初めて氏はセリフの話し方、表現の部分に言及する。これが次ぎの段階。役の感情の流れを彼のセリフが観る者にちゃんと伝えているか。細かな指摘が入る。
 最後に動き。
「まずここからここまで走りながら言ってみろ」
アバウトに動きを設定して、何度も役者にやらせる中で、肉体とセリフがシンクロする一点を探す、そんな作業である。
「もっと走れ! 全力で走れっ!」
「体だよ! 身体をもっと使えっ!」
どう観せるか、といった計算を役者が忘れ去るまで追い込む、そんな風にも見える。

こうして、野球の千本ノックのような厳しい演出を経て、このシーンは20分後、完成した。
続いて稽古は、出演者のほぼ全員によるダンスの場面に突入。狭い集会場内で15人近くの役者さんが身体を一杯に使って踊るのだから、その迫力は凄い。ただ、まだ若干不安定さも垣間見え、深水氏もかなり不満に思った様子。すぐさま頭からやり直し。息が切れてもたつく役者さん達に、
「コラッ、勝手な事やってんじゃねぇぞ! カウント始まったらちゃんとスタンバイせえっ!!」
深水氏の厳しいカツが炸裂。
鬼軍曹の一喝が効いたか、2度目は大分ダンスが揃ってきた。けれどまだ充分ではない。
「ここさぁ、(今日中に)揃えてくれない?」
深水氏の一言で、この後しばらくダンスシーンの練習が続く事になる。
ここで、芝居の内容に少しだけ触れておこう。
終戦の足音が間近にまで迫った上海。その上海の夜を彩る一軒のナイトクラブが物語の舞
台である。
日本人の経営するこのクラブきってのスター、リリー。この謎の女と清王朝の秘宝を巡って、華やかなステージの背後で様々な想いが交錯する。野心、欲望、夢、悲しみ。
日に日に悪化していく戦況。そんな中舞い込むクラブ対抗ダンスコンテスト開催の報せ。
時代の大きなうねりに翻弄されながら、やがて、このクラブに引き寄せられた人々の情念は一つのファンタジーへと収斂していく・・・。
非常に大まかに言ってこういう話しなのだが、舞台がナイトクラブだけに、歌とダンスはこの芝居の大きな目玉ともなっている。当然練習にも熱が入る。結局このシーン(通しで5分程度)の稽古は30分以上続いた。
19時55分。熱気と息で真冬のそれのように真っ白く曇った窓ガラスを開け、本日最後の休憩に入る。

この休憩の間、深水氏は喫煙所で一人の役者さんを捕まえ、熱心に語りかけていた。
「いいか、直球で勝負しろ。カーブとかシュートとか、変化球なんかじゃなく!」
「芝居をしようとするな。舞台の上で生きろ!」
深水氏の一貫した演出理念。それを繰り返し役者さんに説く姿には執念さえ感じられた。
20時。一番最初から通しで。深水氏も舞台に上る。
前回の公演に出ていた役者さんも多いので順調に進むかと思ったが、むしろそうした前回公演経験者に深水氏の不満の声がしばしば飛んだ。馴れから来る緊張感の無さ、深水氏の言葉を借りれば「一生懸命じゃない」ところが気に障るらしい。
「一生懸命じゃねぇ奴なんか、魅力ねぇよっ! なめとんのか!」
だから、一生懸命やっている役者さんに対しては、
「お前、いいよ、いいですよぉ」
芝居の途中でも思わず賞賛の言葉が口をついて出る。
 
 20時45分。深水氏が今日最後の一喝。
「舞台は上手い下手じゃない。生きてる奴が舞台にいるか。いれば舞台が生きるんだよ。面 白くなるんだよ!」
この言葉で、本日の稽古は終了となった。
最後に深水氏に御挨拶。幾つか質問もしてみる。
北原 「前回には無かったシーンも見受けられましたが」
深水氏「僕の場合は役者を見て本を書きますから、メンバーが今回多少入れ替わって、そのぶん書き加えたりした所もありますね」
北原 「何か、劇団として決められたエクササイズの実践とかは」
深水氏「やってません。演技理論だとか、そういうのもねぇ・・・。そもそもうちは劇団四季とか、ああいう大きいところに入れない連中が集まって来ますからね(笑)。だから下手なのはしょうがないから、とにかく舞台の上で一生懸命生きろと、ただそれだけ言ってるんですよ。一生懸命の奴はカッコいい、と」
小野氏「お客さんに何て言われるのがいちばん嬉しいですか?」
深水氏「(迷わず)面白い。そう言ってもらえるのが一番ですね」

この後、アメリカのテロの話しなどを少しして、お別れした。
強い父親。そんな印象の深水氏のもと、一生懸命舞台に取り組むMSC。非常に密度の濃い稽古見学となった。
→→→公演観劇記は此方

2001/9/26 文責・インタビュアー:北原登志喜 インタビュアー:小野正昭  撮影・編集:鏡田伸幸

ミスタースリムカンパニー
ミスタースリムカンパニー 9月27日(木)〜9月30日(日) Shanghai Dream 新宿シアターモリエール お問い合わせ HP ★詳細★
キャッチコピー
終戦直前の上海を舞台に、永遠の命を約束するという魔法の水晶をめぐる切なくも温かい摩訶不思議なお話。

BACK

Questions?Problems?Suggestions?Contact backstage@land-navi.com
BACK STAGE【SideA】 Since 1999/09/01.2000/10/01.Presented by LAND−NAVI
Copyright (C) 2001 LAND-NAVI .All Rights Reserved.