「LIVES」の稽古風景を見学に行ってきました。
LIVES。
「ライヴス」ではない。「ライヴズ」と読む。
関西出身の4人組。「コントユニット」と紹介される事が多いが、その、リアリティーに裏打ちされた独自の舞台世界は、単なる「お笑い」の枠を超えて、高い評価を集める。その実力の程は、某団体が主催した演劇コンテスト、「エンゲキバトルライブE-1グランプリ2001」で全国優勝を成し遂げた事からも窺える。また、これまで「コント」本来の語義である「(機知・風刺に富んだ)小品」で構成された公演を行なって来たが、最近では長尺の舞台にも取り組み、こちらも好評を博した。そんな、今、乗りに乗っているLIVESの稽古場に、今回、我々BACK STAGEがお邪魔する事となった。伺うメンバーはいつもの鏡田と北原に、新メンバー・菊地女史(菊地の「LIVES」稽古見学コラムは此方)を加えた3人。
| 11月22日。約束の時間、14時ちょうど。武蔵野にある某市民会館、その二階講座室のドア前に立った。一部ガラス張りになっているそのドアの向こうからは、野太い複数の声が廊下まで届いている。今まさに緊張感を孕んだ稽古の真っ最中らしい。ガラスを透かして中を覗く。と、ドアのすぐ前に座っていた女性が我々に気づき、ドアを開けて下さった。取材担当者の大田梨津子さんだった。大田さんは以前にこのコーナーで一人芝居の稽古見学をさせて頂いた、「ActSpice本店」の座長さんだ。顔を出した大田さんと簡単に挨拶を交わし、導かれるまま入室した。 20畳程の室内では、長机に着いた演出の大浜直樹さんを前にして、石橋政人さん、伊藤鈍一さん、登守髭生さんが賑やかにセリフのやり取りをしていた。楽しげな場面・・・が、その浮かれようとは裏腹に、室内にはヒリリとした緊張感が張り詰めていた。 我々に気付いた大浜さんが一旦芝居を止めて下さったので、この間にご挨拶する。 「よろしくお願いしますっ!」 4人から返ってくる声は力強く、気持ちよい。ふと、その昔筆者が在籍していた運動部の空気を思い出した。 |
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我々が用意された席(大浜さんのすぐ横)に腰を落ち着けるのを待って、稽古再開。 ・・・どうやら、合コンの一幕のようだ。女の子を前にして、浮かれ騒ぐ男達の図・・・と、始まっていくらも経たないうちに、大浜さんの厳しい声が舞台に飛んだ。 |
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| 「登守っ、想像させろっ! 1人で高笑いするなっ!!」 いきなり真横で炸裂したその声の強さに、落ち着けたばかりの腰が少し浮いた。 その後も、しばしば芝居を止めては鞭のようにダメを飛ばす大浜さん。 「グチャグチャやぞ」 「段取りをするな! 流れでやれ!」 「さっき出したダメを直して演れよ! 同じこと垂れ流してどーすんだよっ!」 「あ〜せ〜る〜な〜っ!! 何度も言わせんなっっ!!」 これらの厳しいダメ出しに対し、 「はいっ!」 「すみません!」 「もう1回お願いしますっ!」 石橋さん、伊藤さん、登守さんの返事がパリッとしていて香ばしい。 そして、納得のいく芝居が出来あがるまで、延々リピートが続く。 「もう1回!」 「はいっ!」 「も・う・1・回っ!」 「はいっ!」 ふと、鬼コーチの千本ノックを受けている高校球児、そんなイメージが頭をよぎる。ご挨拶の時にも感じた、体育会的な空気。その印象が益々強くなった。 |
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| ちなみに、稽古の段階としては、(ここまで見る限り)役者さんの手もとから、まだ完全には台本が離れていない状態。細かい部分の動きまで大分固まってはいるものの、ダメ出しの合間に各人、台本に目を走らせつつ、という具合で稽古は進む。 | ||||||||||||||||||||||||||||
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| それにしても、大浜さんのダメ出しは、微に入り細をうがつ。間(ま)、声の調子、表情、ちょっとした動作etc.etc.・・・。その場の空気感を僅かでも損ねる所、その場にいる事を観客に想像させなければならない人間(この場合は合コンの席の女性達)へのリアクションとして少しでも腑に落ちない所。それらを敏感に感じ取っては、すぐさま居合いの様に斬りつける。しかもそのリアクションは、あくまで演じる役としてのモノでなければならない。 | ||||||||||||||||||||||||||||
| 伊藤さんが、登守さんがセリフを喋っている間、「うん、うん」と頷いた。すかさず飛ぶ、大浜さんの声の鞭。 「人がセリフを言っている時、頷くな! それは、お前の癖だろっ! 役の癖じゃないだろっ!」 見ていて気持ちが良いのは、こういった、知らぬ人なら蒼ざめてしまう程の勢いで投げかけられるダメ出しに対し、役者さんがたじろぐでなく、必死に役を見つめようとする姿勢が伝わってくる事だ。「闘っている」という表現がぴったりくる。 またまた、大浜さんの、恐い声が飛んだ。 「今の、セリフが出て来んかったんか?」 |
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速いテンポで進む芝居、その中で生じた間(ま)とも言えない小さな隙。正直、筆者は全く気付かなかったその隙を、決して捨て置かない大浜さん。集中力が違う。 「はいっ! すみません!」 即座に頭を下げる伊藤さんの表情には、ダメが飛ぶ前から自身の中で走った悔恨が、余韻を残している。「バレたか・・・」と悪びれるのではなく、出るのが当然のダメを受け止め、心の中で「俺のバカっ!」と叫んでいる、そういう顔である。垣間見る、プロフェッショナルとしての矜持。そして、演出家と役者の確固とした信頼関係。 |
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| 14時30分。 人のセリフの合間に、台本に幾度か目を落とした役者さんの姿。それを見た大浜さんの、 「(ココから先)セリフ、全然入ってない? じゃ、無駄だから、やめましょう!」 叱咤とも取れる声が室内に響き、この部の稽古が打ち切られた。 |
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| 続けて、渋谷、ハチ公前で繰り広げられる小話の稽古に突入。 先ほどの話の登場人物達より、役の年零層がグン、と上がったようだ。などと見る間にも、いきなり大浜さんが石橋さんをぶった切る。 「無理して笑わなくてい・い・か・らっ! 形になってるんだよ!」 この調子で、ここでも、バンバン芝居を止めてダメをぶつける大浜さん。驚嘆すべきは、それら、大なるものから細部に到るまでのダメ出しを、自らの役をこなしながら発射している事だ。4人で全てを見せる芝居だ。当然大浜さんのセリフもかなりの量にのぼる。そのセリフを(演出席に居ながらも)なおざりにせず、テンポを崩さずに入れながら、その上で、1人1人の細かな仕草にまで目を光らせているのだ。改めて大浜さんの集中力に舌を巻く。 ややあって、伊藤さんに、 「お前、役、変わっとるで!? ちがうやん!」 キツいダメが落ちた所で、休憩に入る。 |
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| この休憩の間、石橋さん、登守さんにそっと耳打ちしてみた。 北原 「いやぁ、(大浜さん)恐いですねぇ(笑)」 すると、石橋さん、登守さん、揃って屈託無く笑って、言った。 登守 「いつも通りです」 石橋 「いや、いつもはもっと・・・かな(笑)?」 上手に揚げた天麩羅のように、実にカラッとしている。 北原 「結構、体育会的、というか・・・」 登守 「そうかもしれませんねぇ」 聞けば、大浜さんは、石橋さん・伊藤さん・登守さんの1つ先輩に当たるとか。だから、これが当たり前なんです、との事。 北原 「でも、時には喧嘩になったりなんてこともあるんじゃ?」 意地悪く訊いてみると、 登守 「いえ、大浜さんが言われる事、一々もっともですから。自分のいたらなさを感じるだけで・・・」 穏やかに答えて下さった。皆で表の喫煙所に行けば、そこには役の事で真剣に話し合っている、大浜さんと伊藤さんの姿。先刻まで怒っていた人、怒られていた人の2ショットには見えない。そこにあるのは、良い舞台を創ろうとしている人達の、真摯さだけだった。 |
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| 15時10分。稽古再開。また別の話で、今度はラジオのDJだ。 のっけから炸裂する大浜さんのダメ。伊藤さんが座っていた椅子を、セリフの合間にちょっと引いた、その動作を見逃さず、大浜さんが問いただす。 「何で今、椅子引いたの?」 うやむやにせず、必死に理由を考える伊藤さん。やがて、 「・・・はい、なんか、照れ隠し、っていうか・・」 口にした伊藤さんの言葉を、 「いらない。身体1つで表現しろ!」 一刀両断する大浜さん。 この後も、舞台に向けてマシンガンの様に叩きつけられるダメ。その弾を、いつしか全身に食らいまくっている伊藤さん。どうも今日は「伊藤さんの日」らしい。南無。 「お前、役が無い!」 「なんでこんなセリフも憶えられんねん!」 「ここは完全にリアクションなんやから、人が話してる時に、台本見るな!」 ここまで見てきただけで、各人3役。年零もバックボーンも違う3つのキャラクターを演じ分ける事の大変さ。それだけ、稽古も密度の濃いものになる。なにより問われるのは集中力。大浜さんの厳しい態度は、その集中力を持続させるための武器なのかもしれない。 |
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| この後、更に2話分の稽古がサンドバッグ状態で続き、16時50分、この日の稽古が終了した。 「お疲れ様でした〜!」 終り方もパキッとしていて、やっぱり体育会的。ダラダラした所がなくて気持ち良い。 |
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| 少しだけ、大浜さんとお話する事が出来た。演出している時とはまるで違う、柔和な顔と穏やかな口調で応対して下さる大浜さん。まずは1番気になった事を訊いてみた。 北原 「大浜さんは、いつ頃から稽古に完全に入るのですか?」 大浜 「大体いつも、(本番)2日前くらいですね」 この答えには驚いたが、それまでには「後はもう自分が入るだけ」という所まで完璧に仕上げる。その自信が窺い知れた。なお、大浜さんが舞台に入ってからの稽古には、前回の稽古見学でお世話になったシンクロナイズプロデュースの久次米健太郎さんが演出につくという。蛇足ながら、この流れは偶然で、縁というのは面白い。 LIVESが考える「コント」についても聞いてみた。今公演の煽りでも、「人生はコント。人間はコメディアン。」とあるが・・・ |
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北原 「LIVESさんの舞台には『コント』という言葉がついてまわりますね。芝居、コントと分けて考えれば 、LIVESさんが目指すものはやはりコントなのですか?」 こう質問しながら、筆者はどこかで、信条表明のようなモノを期待していたのかもしれない。もしくは、「コント」という言葉に付随する「笑わせる事だけを目的とした寸劇」という語義。それに対するロジカルな反駁を。けれども、大浜さんの答えは、いたって、あっけらかんとしていた。 大浜 「はい。コントです」 |
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| 聞けば、そもそも大浜さんは、コントである、芝居である、という枠組みには拘ってはいないようだ。LIVESの舞台、それがただあるのみで、それを余人がどうカテゴライズしようと、それはその人の自由だ。そういうことらしい。 この後、大浜さんは既に7年前に東京に拠を移して、2人芝居をやっていた事、LIVESでの活動は3年に及ぶ事、今年取り組んだ長尺の芝居が好評で、来年も行なう予定である事、等々のお話を窺い、最後に、今公演への抱負を語って頂いた。にっこり笑った大浜さんの口からこぼれ出た答えは、 大浜 「楽しい舞台にしたいですね」 垣間見た道程の峻烈を感じさせない、それだけに胸に響く、一言だった。 (文中、一部敬称略) 2002/11/22 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 |
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