BACK STAGE REPORT
(稽古見学記)


「インプロモーティブ『月刊即興』」の稽古風景を見学に行ってきました。


インプロ。インプロヴィゼーション(improvisation:その場で作ること。即興)の略。ジャンルに関わらず、「その瞬間のできごとに対応しながら作り上げられていくエンタテイメント」と定義されるようだが、そのインプロを演劇で実践しているのが今回、我々が稽古にお邪魔する『インプロモーティブ『月刊即興』』だ。まだまだ日本では認知度が低い「インプロ」という表現活動。その実際を、読んで下さった皆さんに多少なりとも感じとって頂ければ幸いである。なお、伺うのは前回同様、鏡田・菊地(菊地の「インプロモーティブ」稽古見学コラムは此方)・北原の3人。


1月19日、12時。笹塚駅前の某喫茶店に入る。待っていたのはインプロモーティブ主宰の<さやか>こと大浦さやかさん、そしてメンバーの<クマサン>こと久間木尚之さんのお2人。稽古は13時からだが、事前にインプロについての簡単なレクチュアを大浦さんにお願いしていたのだ。御挨拶の後、早速お話をうかがう。
北原  「正直、『インプロ』という言葉は耳慣れないのですが、『即興劇』と解釈してよいのでしょうか?」
大浦(以下、敬称略)
     「ええ。ただ、インプロには、例えばエチュード(即興芝居)などとは違う、明確なルールがいくつかあります。その中でもっとも大事な一つ、それは受け入れる、ということなんです」
北原  「受け入れる、とは?」
大浦  「つまり、演じる相手の言葉やアイデア、イメージ。それらを否定することなく、全て受け入れた上で、それを膨らまして芝居を創っていく。それがインプロの特徴ですね」
NOではなくYES。そのYESの積み重ねが1つのストーリーとなる。インプロとはそういうものらしい。例として、インプロのトレーニングゲームの1つ、「イエス アンド イエィ!」というのを大浦さんが紹介してくれた。

役者AとBがいる。AがBに対して「Bって、〜〜だよね!」と語りかける。それをBは「イエス!」と受けた上で、最後に「イエ〜イ!」と結べるように、つまりプラスの方向に膨らまさなければならない。
例えばこんな感じだ。
A  「Bって、顔が曲がってるよね!」
B  「そうなんだ! だから、欽ちゃんの仮装大賞で素顔のまま『テトリス』のブロックやって、大賞取れたんだよ!」
A・B「イエ〜イ!」
なお、大浦さんによると、こういったトレーニングはプラス思考を養う意味で、実生活でも大いに役に立っているそうだ。また「全てを受け入れる」という事は逆に、全てを受け入れてもらえる、という事でもあり、それが《自己の解放》に繋がっている。そんな話も大浦さんはしてくれた。
ここで、<りゅうじ>こと吉村竜児さんが登場。さっそく吉村さんにも参加してもらい、座談会風味で、お話は続く。

北原  「インプロを始めたきっかけは?」
大浦  「もともとは、芝居に役立つんじゃないかと思って学んだのが最初だったんですが・・・」

聞けば、現在演劇における「インプロ」として確立されている体系、ゲーム的要素・スポーツ的要素を取り入れた幾多のプログラムは、元来、役者が役の作り方や表現力を身に着けるためのエクササイズだったそうだ。それが、やがてエンターテインメントとして自立していったという。そういった背景から、インプロに足を踏み入れる役者には、現在でもインプロそのものへの興味より、スキルの獲得が動機となっている者が多いという。大浦さんも吉村さんも、そのパターンだったようだ。だが、そうした人達の中で、インプロのショーとしての可能性に惹かれた者、或いはプログラムそのものの面白さにハマッた者が徐々にインプロに留まるようになり、ようやく日本でもフェスティバル(※)が開催される程に、表現ジャンルとしての「インプロ」が定着してきたらしい。
久間木 「だから、私みたいにいきなりインプロっていう人間はむしろ希(まれ)なんじゃないでしょうか」

そう言って笑う久間木さん。久間木さんはもともと、演劇とは全く接点を持たないサラリーマンだった。それがある時、知人に誘われてインプロの公演を見に行き、その楽しさに触れた久間木さん、「自分もやってみたい」と強く思い、インプロの門を叩いたという。

北原  「で、実際にやってみて、どうでしたか? こんな風に変わった、とか」

久間木 「そうですね・・・クライアントとの折衝や皆で何かを検討していく際に、話の中心は何か、それはどの様な姿や性質を持っているのかを詳細にイメージし、かつ表現出来る様になりましたね」

北原  「ほう、面白いですね。大浦さんや吉村さんも、インプロをやる事で何か変化をお感じになってますか?」

大浦  「私は、明るくなったというか、落ち込まなくなりました。以前はどちらかというと落ち込みやすい方だったんですけど」

吉村  「僕は・・・日常生活の中でも遊び心や自由度が増したと思います。また、芝居の事で言えば、他の現場やオーディションで演出家やディレクターから出された指示にすばやく対応するのも楽になりました」
インプロをやることで各人が各様の変化、プラスの変化を実感しているという。これは、先にも出た《自己の解放》という部分にも起因しているのだろう。

大浦  「あと、自分以外の人に前より注意を向けるようになりました」
吉村  「それはあるね」
久間木 「うん」

「他者、あるいは周囲の情報に対して、より意識を向けるようになった」という変化。この変化は共通のようである。それが対人関係の上でも、あるいは久間木さんにおいては仕事の上でも、良い方向に作用しているという。

北原  「こうしてお話をうかがっていると、インプロを演劇だけのものにしておくのはもったいない、って思えて来ますね。豊かなコミュニケーションを形成するプログラムとして、インプロはとても優れたものに感じられるのですが」
久間木 「ええ、そうですね。実際、欧米では既に企業が研修に取り入れたりしていますし」
演劇のインプロは、そのプログラムの完成度の高さから、対人関係を築く能力や表現力を高めるメソッドとして、近年注目を浴びてきているらしい。

日本でも最近では、主にビジネス誌などで取り上げられる事が増えて来たそうだ。また、インプロの公演やワークショップには保母さんや、養護学校の先生などが来るようになったという。演じる側でも、幼稚園や小学校、さらには老人ホームなどでのワークショップを積極的に行う団体が出てきているとのこと。いずれこうした活動、インプロのメソッドを様々な分野で活かしていこうという活動が実を結ぶ頃には、久間木さんのように、「いきなりインプロ」という人がたくさん出てくるのかもしれない。

吉村  「年配の方のインプロ、絶対面白いと思うんですよね。観てみたいなぁ」

吉村さんが期待に目を輝かせてそう言った頃、稽古場に移動する時間となり、座談会はお開きとなった。

喫茶店を出て、歩く事10分。本日のインプロモーティブの稽古場である某公民館に到着。その一室、24畳の和室に入ると、室内では既に三嶋<さちえ>幸恵さん、降幡<つよぽん>剛志さん、高山<ナオたん>直さんが身体をほぐしていた。ここに、大浦<さやか>さやかさん、吉村<りゅうじ>竜児さん、久間木<クマサン>尚之さん、それに、ここまで来る途中で合流した福田<はっち>麻里さんが加わり、更にはいつの間にか現れた川添<部長>圭太さんも入って、13時20分、総勢8名での稽古が始まった。
まずはストレッチ。昨日見たテレビの話、猟奇的な友人の話などで盛り上がりながら、とても和やかな滑り出し。・・・が、やがて、どこかからあがった「あと3分!」の声で、それまでのお喋りがピタリとやみ、それぞれがストレッチの仕上げに入った。
13時30分。ストレッチ終了。ストップウォッチを手にした<りゅうじ>さんの掛け声で、8人が立ったまま円になる。全員、両足を軽く前後に開いて、両の手は拳を握り顎の下へ、という、まるでガードを固めたボクサーの様な姿勢をとっていた。と、<りゅうじ>さんの合図で、そのまま前後にステップを踏み出す8人。
「シッ、シッ」

吐息がもれる。これが1分半ほど続いたと思ったら、
「はい、スイッチ!」
<りゅうじ>さんの声に、全員がサウスポースタイルにチェンジして、更にステップを1分半。徐々に息が切れる人が出ていることからも、見た目以上にきつい事がうかがえる。  
ようやくそれが終ると、今度は筋トレ。腕立て20回、腹筋30回、側筋、下腹部腹筋、背筋・・・ゆっくりと、声に出して数えながら、全員でメニューをこなしていく。みるみる室内に充満する、剣道の防具の匂い・・・
(・・・結構、ケイン・コスギ系?)
だが、その後には更なるトラの穴が待っていた。2列に並んだメンバーに向かって飛ぶ<りゅうじ>さんの声。
「ワンツーからキック、10本! はい、1!」

全員が躊躇無く、左右のワンツーから、ハイキックを繰り出す。飛び散る汗!
全員、それなりにさまになっているから、おそらくいつもやっている事なのだろう。
・・・が、なにゆえ?

これもスイッチしてもう10本。更にワンツーからフック、というコンビネーションまで全員でこなしたところで、ようやく<さやか>さんが説明してくれた。
「これは、お客様に見せるための身体と立ち居振る舞いを作るのに重要な、身体の中心線を確認するために取り入れてるんです。<りゅうじ>が格闘技をいろいろやってるんで」

なるほど。大道塾の支部に紛れ込んだ訳ではなかったんですね。良かった。
この後、ようやく顔面のストレッチ、発声などの見なれた光景へと移り、14時ちょうど、「レピテーション」と呼ばれる稽古に入った。この「レピテーション」、もともとは「メソードアクティング」と呼ばれる演技技術の訓練方法だそうだ。メソードにもかなりの思い入れを持っているという<りゅうじ>さんの発案で稽古に取り入れている、とのこと。なお、「メソードにはインプロに負けないぐらい奥が深い世界がある」とは、<りゅうじ>さんの弁。
 
で、レピテーションである。どんなことをするかというと、まず、2人、向かい合って立つ。そして、一方が口にした言葉をもう一方が繰り返す、というのが基本。これを1分間なら1分間、続ける。だが、ただ繰り返すのではない。相手の言葉、表情、声質、仕草などを受けて、自分が感じたままの思いを言葉に乗せて繰り返すのだ。また、繰り返しの中で更なる想い、あるいは別の感情が瞬間に言葉になれば、それをそのまま口にしても良い。すると、今度はその言葉が繰り返されるわけだ。そうして繰り返しを続けるうちに、やがて「言葉」そのものは意味を無くしていき、「言葉では表現しきれない感情や思い」を互いに交換し合うようになっていく。まさに「考えるな! 感じろ!」の世界で、傍で見ているとなかなかに面白い。
全員が2回ずつ、1分半程のレピテーションを行なったところで、小休憩。その休憩の後、ようやくインプロの稽古へと突入した。
14時40分。まずは身体と頭をほぐすミニゲームから。が、ここで<さやか>さんが我々の前に来て、意外な事を言い出した。
「せっかくですから、皆さんも参加しませんか?」
「え゛っ!?」

ということで、ここからはBACK STAGEの菊地が稽古に参加する事に。以下、ミニゲームのメニューを簡単に箇条書きすると・・・
1) ミーティング・グリーティング:各人が全員に、握手しながら自己紹介。更に相手の名前を声に出して確認。
2) 狼と子羊:狼(鬼ごっこで言う鬼)役の1人を除き、全員が前の人の肩に両手を置く
形で一列に繋がる。1番尻尾の人が子羊となり、残る全員が一致団結して
狼から子羊を守る。子羊が狼にタッチされたら、狼チェンジ。
3) 名前の交換:2人1組で、互いの名前を交換(入れ換え)。
4) 私、あなた:フォーカスを意識する訓練。任意の誰かに対して、「私、あなた」と語り
かける。語りかけられた者はまた別の誰かに「私、あなた」。こうしてフォーカス(注意の中心)を次々と移動させていく。
5) 連想回し:全員で輪になって、隣の人に連想を回していく。同時に幾つものお題が回る。
6) ポーズ回し:簡単なポーズと擬音を隣に回していく。これも同じに複数のポーズが回る。回す方向を途中で変えてもOK。
7) Yes, I am.And:先に紹介された「イエス アンド イエィ!」の類型。
この他にも、更に幾つかの楽しいゲームが、16時少し前まで続いた。そして、16時。ウォームアップもすっかり終り、と思いきや、まだいくつかのメニューが残っているという。ただ、ここからはより高度なゲームになるので、菊池はここで終了。「3ライン」「オーバーアクセプト」といった、専門的(?)な言葉も出てきて、確かにここからは内容も、より演劇的なものになっていった。

ふと、先の喫茶店で大浦さんの口から出た言葉が頭をよぎる。
大浦  「(稽古の)間隔があくと、鈍るんですよね」
あの時点ではなんとなく聞き流してしまったが、なるほど、稽古を目の当たりにして納得した。これだけ「慣らし」に時間を要するのだ。ちょっと間が開けば、スキルに錆が浮くのももっともである。

16時20分。ついに、本番(公演)に沿った形での稽古、公演当日に披露するゲームの稽古に入った。 ここに辿り着くまで3時間。菊地がゲームに参加した事で、だいぶ余計に時間を浪費させてしまった感もあるが(申し訳ありません)、既にみな、ラクロス1試合分くらいのエネルギーは消費しているのではないか。インプロヴィゼーションの原義である「準備無し」からは程遠い、綿密な、準備だった。
最初は[ペーパーズ]。どんなゲームかというと、まず、事前に観客に、紙片にセリフを書いてもらう。その紙片を舞台上にばら撒く。そして役者は芝居の合間にその紙片を拾っては、そこに書いてあるセリフ(大抵はそれまでの話の流れとは全く関係のないセリフ)を必ず口にする。こうして幾多のセリフを何らかの理由をつけて話に組み込みつつ、制限時間内で芝居を成立させる、というもの。ちなみに、今回の制限時間は3分だ。
今回は我々も紙片作りに参加して、いざ、開始。1本目。舞台に出てくるやいなや、小動物にならざるを得なくなる<部長>。やがて現れる<さちえ>は密猟者で、何故かハングルの難しさに頭を悩ませる・・・・・こんな調子で、支離滅裂な展開を見せながらも、舞台上に1つのストーリーが捻り出されていく。なんというか、脳のスポーツといった趣きで、見ていてとにかく楽しい。また、自分の書いたセリフが舞台上で口にされると結構嬉しいものだ、ということも発見した。
この[ペーパーズ]を3本。更に、[タイプライター]というゲームを2本練習したところで、本日の稽古が終了した。と言っても、終了したのはあくまでこの場での稽古で、この後、場所を代えて、更に稽古は続くそうだ。なるほど、あれだけの慣らしをしておきながら、本番でやるゲームの稽古はまだ30分ちょっとしかしていないのだ。これで終るのはもったいない。公演では上の2つ以外にもまだいくつもゲームを披露するようだし・・・。なお、タイプライターがどんなゲームかは・・・本番をお楽しみに。
とにかく、我々の見学はここまで。最後に、喫茶店で話を出来なかった皆さんに、インプロを始めた事で何か実生活で変化があったか訊いてみた。その答えは・・・

<はっち>さん :性格が良くなった。
<部長>さん  :人の話の腰を折らなくなった。
<つよぽん>さん:友達が増えた。
<ナオたん>さん:自分は人とは違うものを持っている、という確信が持てた(<ナオたん>さんは「自分のドメインが持てた」という言い方をしていらした)。
<さちえ>さん :人が口にした言葉、その言葉面よりも中身を感じるようになった。

皆さん、真剣に答えてくださって、有り難う御座いました。

・・・やっぱり、演劇だけのものにしておくのはもったいないですね、インプロ。

(文中、一部敬称略)
2003/1/19 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 



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インプロモーティブ『月刊即興』 2月4日(火) 月刊即興 〜Impro Jam〜 Vol.9 東中野・Art Ground エウロス impromotive@yahoo.co.jp HP 詳細
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東京インプロフェスティバル4日目!

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