BACK STAGE REPORT
(稽古見学記)


「劇団演奏舞台」の稽古風景を見学に行ってきました。


今回は、間もなく結成28周年を迎える『劇団演奏舞台』の稽古場を見学して来ました。
お邪魔したのはいつもの2人、BACK STAGEの鏡田と北原に、フォトジャーナリストの今氏の3人。場所は東京九段下です。
4月25日。19時23分、約束の時間より少し早く稽古場に到着した。
とあるビルの1階、表に「劇団演奏舞台」と大書されている。劇団持ちの稽古場を訪れるのは初めてなので、少し緊張しつつ呼び鈴を押すと、程なくして和服姿の女性が出迎えて下さった。制作兼役者の加藤真紀さんだった。
その場で簡単な挨拶を交わす。その加藤さんの背後から、響く大声。しばし耳を奪われる。声はほんの数メートル先、カーテン(暗幕?)でしきられた戸口の向うから聞こえてくる。「もう稽古が始まっているんですか?」「ええ、7時からだったもので」
早速、我々もカーテンの内側へと入れて頂いた。

カーテンをくぐると、カーペット敷きのちょっとしたスペース(8メートル四方ほどか)があり、そこでは既に、役者さん達の力強いセリフの応酬が繰り広げられていた。
上座、我々から見て右手に主宰・演出の久保田猛氏。椅子に座り、少し俯き加減で、じっと役者さんのセリフを聞いている。どうやら、一つの場面を通しでやっているようだ。
挨拶は後回しにして、取り敢えず邪魔にならないよう、我々もその場に腰を据えて稽古を拝見することにした。
まず奇異に感じたのは(仮想)舞台に立つ役者さんが、セリフを発する時も、そうでない時も、殆ど正面(客席側)を向いていること。もちろんただの読み合わせでないことは、役者さんが衣装(おそらくは)を身に着けての稽古段階であることからも判るので、これはそういう場面なのだろう。
他にも、幾つかの事に気がついた。
劇団の息の長さから考えて、意外な程、役者さんが皆さんお若いこと。そのみなさんの立ち姿が、どなたをとっても美しいこと。声が大きいこと。特に声に関しては、無理に怒鳴るというのではなく、トーンを押さえた声で皆、朗々とセリフを語るのだが、その声がよく響くのだ。ふと、先日法事で知り合ったお坊さんが言っていたことを思い出す。
「坊主がお経を読む時には、背中から声を出さにゃあいかんのです」
まさにその「背中から声を出」している感じである。この劇団のプロフィールに、「独特の意識的丹田呼吸法」という言葉があったが、立ち姿の美しさも含め、その呼吸法が鍵になるのかもしれない。
19時38分。ここで一旦、演出の久保田氏が芝居を止め、段取りの確認を含め、ダメ出しを入れる。
「全体にね、気持ちが低いですね。それと君のところだけれど―」
ダメを出すと言うよりも、評価を下すと言った方が適切か。とにかく語り口が丁寧で、温厚な大学教授、といった趣きがある。今年で64歳になられたという氏と、役者さん達との年齢差が、その印象を一層強くする。
ここでも、気になる事が一つ。段取り確認の際、氏の口から「3−1−5」「3−5−1」といった数列がしばしば出た事だ。この数列の変化に重要な演出意図があるようなのだが、はたして何なのか。

このダメ出しが一区切りついたところで、加藤さんが久保田氏のすぐ横に我々のための席を用意して下さった。恐縮しながら着座。その際、主宰の久保田氏及び皆さんに御挨拶する。まだ稽古の最中なのでここでは簡単に。
今回の芝居は「差別」という重いテーマを扱った法廷劇だという。重いモノが避けられがちな昨今にあって、この種のテーマにしっかりと向き合う姿勢に、素直に敬意を表したい。

それにしても、法廷物はセリフが大変そう。なじみ薄い言いまわしや頻繁に出てくる人名。それらに、セリフの内容が深刻ということも手伝ってか、ついつい役者さんの力が入る。
つっかえてしまうことも何度かあった。ただ、現段階で久保田氏はそのことに関して心配していないのか、ダメ出し時、氏の指摘は別の事に集中した。
「トーンが高いです。気持ちが入っちゃうとトーンが上がるんだよね」
この、「気持ちが入っちゃう」という言葉は色々に解釈できるだろうが、この劇団が目指す「演技者からも観客からも自立した『共有の表現』」と無関係ではないだろう。
 
8時20分、休憩が入る。
この機にあらためて、今日の見学を快く受け入れて下さった久保田氏に御挨拶とお礼を申し上げる。こんな若輩者の我々にも、やっぱり丁寧に受け答えしてくださる久保田氏。この劇団の息の長さは、氏のお人柄に拠るところも大きいのだと実感した。
気になった事もいくつか質問してみた。
まず、役者さんの立ち姿のこと。やはり立ち姿の美しさは呼吸法に拠るところが大きいようだ。そして、背骨。久保田氏は独自の理論に基づき、役者さんに背骨をしっかりと「キメる」ことを実践させているという。
また、例の「3−5−1」などの数列は、スポット(照明)の位置だそうだ。それがそのまま役者の立ち位置にもなる。スポット芝居は氏の好むところ、とのこと。
これで、役者さんがみな正面を向いていた事にも合点がいった。
その他にも、演出についての話しを色々として下さる久保田氏。
「例えば、演出家が役者に『もうちょっと前に出て』と言う。それは照明の関係であるとか、いろいろ理由はあるでしょうが、その時、『前に出よう』と考えるのは役者ですね。演じている人物、つまり役、ではない。こうして舞台では、役者の中で役者本人と役とが入れ替わる瞬間がたくさんあるわけです。そのきっかけとして呼吸を利用するんです・・・」
氏の話しは続く。かなりの理論家。それを私のような素人にも噛み砕いて説明して下さる心遣い。わけても一番感銘を受けたのが、その理論の根幹に<観客>を据えていることだった。「これをお客さんが見た場合・・・」そんな言葉がたびたび挿入される。
スポット芝居が好きな理由も「お客さんに向かって芝居ができるから」だそうだ。
8時33分。稽古再開。それまでの深刻な場面から一転して、和やかな雰囲気漂うシーン。
どうやら芝居の冒頭の様だ。役者さんの妙な動きが可笑しい。それを見て一番笑っているのは久保田氏だった。
場明かりの場面らしく役者さんの動きも活発で、ステレオから流れる音楽と相俟って、本番の雰囲気が伝わってくる。氏もおっしゃっていたが、スポット芝居は実際に役者さんがスポットの下に立ってみないと、今一つ雰囲気が掴めない。これは演じる役者さんも同様なのだろう。先のスポット下の場面に比べ、この辺り、大分完成度が高くなっている。
ちなみに、「芝居は生物である」という観点から、本番では劇中音楽に生バンドの演奏を使うという。その日の芝居に合わせた演奏、これは確かにテープでは出来ない。この劇団のこだわりである。
途中一回のダメ出しを挟み、9時20分、久保田氏の「はい。今日はここまで」の声で稽古は終了した。
総じて、非常に真摯さの漂う稽古風景だった。娯楽性を前面に押し出す芝居が数多く作られていく一方で、こうした劇団が堅実な活動を続けている。そういう事実に触れ、芝居の多様性を再認識した、そんな稽古見学だった。

2001/4/25 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸  撮影:今


劇団演奏舞台
劇団演奏舞台 5月3日(木)〜5日(土) 破戒裁判 六本木 アトリエ・フォンテーヌ maki-k@sf6.so-net.ne.jp ★★★
キャッチコピー
裁判を芝居にたとえるなら、台本無し、稽古無しのぶっつけ本番!

BACK


Questions?Problems?Suggestions?Contact backstage@land-navi.com
BACK STAGE【SideA】 Since 1999/09/01.2000/10/01.Presented by LAND−NAVI
Copyright (C) 2000 LAND-NAVI .All Rights Reserved.