
BACK STAGE REPORT
(稽古見学記)
「ActSpice本店」の稽古風景
を見学に行ってきました。
2002年9月10日。
西武新宿線・花小金井駅より歩く事10分、ActSpice本店の稽古場に到着。本日我々がお邪魔する『ActSpice本店』の稽古場だ。『ActSpice本店』は菅野立子の作品を上演するプロデュースユニットとして結成され、これまで、座長の大田梨津子さんを中心にフリーの役者さんと共に年1回ペースで作品を発表してきたが、今回は座長大田さんの一人芝居を上演するという。。役者さんが1人しかいない稽古場。その模様は果たしてどんなものか。期待に胸をふくらませつつ、約束の時間、18時ちょうどに、稽古が行なわれている1階の大部屋に入室した。
| 入り口を抜けると目の前に30畳の和室が広がり、その中央で、小柄な大田さんが動き回っていた。上座に演出家の西片亨氏と照明の鈴木ジミー氏が座り、その様子をじっと見つめている。どうやら通し稽古の真っ最中に飛びこんでしまったようだ。邪魔をしないよう、目顔で軽く挨拶だけして、とにかく我々も部屋の隅に腰を落ち着けた。 | ![]() |
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| このお芝居は『おむにばする女(ヒト)』というタイトルからも判る通り、短編3本のオムニバスで構成される。今、目の前で繰り広げられている話はその1本目、「演歌・湯けむり情話」のようだ。途中からなので話の筋は解らないが、コロコロと変わる大田さんの表情を見ているだけでも楽しい。特に、よく動く眼が印象的だ。・・・15分後、このお話しが終り、2話目へと進む際、演出の西片さんが声をかけて下さった。 「あの、何かおありでしたら・・・」 だが、せっかくの通し稽古、腰を折っては申し訳ないと、 「いえ、我々のことは気にせず、どうぞ続けて下さい」 とお願いする。そして、2話目が始まった。 |
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| 2話目・「フツウノ・カゾク」は1話目とはまた随分と趣きの変わったお話。ミステリー調で、登場人物も多い。と言っても、冒頭で対話の相手となる何者かを除いて、全て大田さんが演じるのだが・・・。世代の違う複数の女性を、巧みに演じ分ける大田さん。家族でありながら、拠って立つ世界が大きく違う彼女達を待ちうけるものは? 更に間を空けずに3話目・「ある土曜日のできごと」へ。ある主婦の、何気ない日常のひとコマを、ちょっぴり可笑しく紡ぐ、ハートフルなお話。ご自身主婦でもあり、2児の母でもある大田さんの素の姿が見られる? |
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19時、西方さんの 「ハイ。・・・流れがね、説明的過ぎるかな。もっと感情線を大事にしないと」 との総括で、通しが終った。 |
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| この後、西方さんと鈴木さんの間で照明の打ち合わせに入り、その間、ようやく大田さんと御挨拶する。なお、通し稽古中、ギャラリーに女性が2人加わっていた。聞けばお2人とも「制作を手伝って」らっしゃるそうだ。 | ![]() |
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| 挨拶後、大田さんに色々とお話をうかがう。 「今回は1人芝居ということですが・・・」 「いやー、勉強になりますね。とにかく何がいいって、演出家が自分だけに細やかな演出をしてくれるわけですから(笑)」 過去に大田さんが出演した舞台では、舞台美術チーフと役者を兼ねていたり、演出と役者を兼ねていたりと、なかなか役者だけに専念出来ない環境で舞台に立って来たのだそうだ。また、「演出家にあまりいじってもらえたことがないんですよね。どうでした?って聞いても、ん〜いいんじゃない?って放って置かれることがほとんどで(笑)」と言う。そんな中で、役者として「きちんと演出されてみたい。」と常々思っていた大田さん。 そんな大田さんの役者としての向上心が、今回、1人芝居という挑戦に大田さんを踏み切らせたようだ。心強い味方もついた。かねてから大田さんがその「演出を受けたかった」と言う、芝居歴30年という新人会(演出部)の西方亨さんだ。 |
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「実際に西方さんの演出を受けて、ご自身の中で変わったものは?」 「もう全てですね。今までやって来たものを全部壊して、最初から創り上げてる所です」 役者はどうしても自分のセリフ、自分の役を追う事で芝居を見てしまう。けれども、西方さんの演出を受けて、芝居全体、芝居そのものをとても大事にするようになった、と大田さんは言う。もちろん大田さんは(芝居全体を見通す)演出家の顔もお持ちだから、この言葉は「役者の生理」レベルの話で、とても感覚的なもの。第三者にはちょっと解り難い。 |
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| だが、 「まるで芝居というものに初めて取り組んでいる気分です」 と、屈託無く笑う大田さんのお顔を見ていると、とても充実して稽古に取り組んでいるのが伝わってくる。主婦業を、育児をこなしながら、おまけに「腰骨を支える骨が2本」も折れて(!?)いながら、芝居作りに取り組む(今回は制作の仕事もしていたらしい)というのは、どれだけ大変な事だろう。だが、そんな『今』を、大田さんは心から楽しんでいるようだった。 |
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| だが、まだ楽しみ方が足りないらしい。西方さんは言う。 「もっともっと楽しんでもらいたいんです」 |
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| 役者さんが楽しんで芝居をする。そして、それを観て、お客さんも楽しんでくれる。それが一番素晴らしいんじゃないでしょうか。照明の打ち合わせが終った西方さんは、穏やかにそう語った。役者さんが芝居を楽しむ、ということは、役者さんがより芝居に集中する、ということでもある。 「1人芝居は大変です。今までは周りの人が助けてくれたりもしたでしょうが、それが無い。1人で全部や るわけですからね。それだけ役者さんも集中してないといけない」 ここに人がいる。ここに犬がいる。そういう役者さんのイメージを通して、我々観客もそこに、実際にはいない人を、犬を見る。1人芝居とはそういうものだろう。だから、裏を返せば、役者さんの集中が途切れた時、イメージが崩れた時、観客には何ひとつ見えなくなってしまうといういう恐さも1人芝居にはあるのだ。 「けれども、こういう大変な経験をすると、人間は余裕を持つことが出来るようになりますからね」 だから、こういうチャレンジは役者さんにとって、とても良いことだと、西方さんはおっしゃった。 西方さんは演劇に対する自身の考えも少しだけお話しして下さった。 「結局ね、特別なものをお見せする、そういうものではないと思うんですよ」 誰もが自分の内にドラマを持っている。本当に面白い事はいつだってに身近にある。なのに、近過ぎて、あるいは忙し過ぎてそれに気付かない。だから、お客様がそういうドラマ、身近にあるドラマを発見出来るような、そんな芝居をお見せしたい。 「本当に特別なものではないんです」 繰り返し、西方さんはおっしゃった。 |
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| 20時ちょうど。抜きの稽古に入る。西方さんの、 「湯けむり、やりたいね」 の言葉で、我々が頭から観損ねた第1話をやることに。 |
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| ここからの稽古は先ほどの通しと違って、西方さん、繰り返し芝居を止めてダメ出しする。 「メリハリがない。怒ってるの? ただ会話してるの?」 「相手がいないよ。見えない」 「テンポ上げて!」 ・・・改めて、全てを1人の役者さんのイメージで創り上げる事の大変さを実感した。役者さんの集中がちょっとでも途切れると、「対話」がただの「独り言」になってしまうのだから。それだけに、西方さんの要求も厳しくなる。ただ、大田さんも打たれ強い。ダメ出しの回数が多い割に、稽古が止まる、という印象はない。結局、20分ちょっとのこのお話を1時間程練り込んで、21時少し前、本日の稽古が終了した。 |
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| 「お疲れ様でした〜」 疲れた様子も見せず、笑顔でそう言う大田さん。その首に、遊びに来たお子さんが取りすがる。女優の顔から母のそれへと変わる大田さんの表情を見ながら、大田さんが言っていた言葉を思い出した。 「このお芝居のテーマは『愛』です」 なんだか大田さんのバイタリティーに圧倒されっぱなしの、そんな稽古見学だった。 |
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| 2002/9/10 文責・インタビュアー:北原登志喜 撮影・編集:鏡田伸幸 | ||||||
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