当たり前の価値観なんてつまらない、
僕たちはもっと自由になれる

『月の子供』――秦建日子インタビュー

ありふれた通勤通学の朝のラッシュ。喪われた名前を探す孤児の少年が、奇妙な狭間からプラットホームの下にこぼれ落ちると、そこには永遠の命を求める浮浪者の男がいた・・・。

12月、始まったばかりの稽古場を訪れてみて、驚いた。『月の子供』のストーリーから抱いていた「ひょっとして暗くて静かな芝居では」という予想は見事に裏切られ、そこにはオーディションで選ばれた50人の役者たちが汗を流して激しくダンスをする光景があったのだ。作・演出を担当する秦建日子さんは「エネルギッシュに躍動するパワフルな役者たちで本多劇場を揺らし、熱い芝居で観客を圧倒したい」と語ったー。

2006/12/2 インタビュアー・文責:栂井理依  撮影・編集:鏡田伸幸

*劇場フリーペーパー「カンフェティ」2007年2月号15頁に関連記事・掲載中です。

秦建日子(はた・たけひこ)

昭和43年生まれ。早稲田大学卒業後、劇作家つかこうへいに師事。96年より、劇作家・演出家として「秦建日子プロデュース」での演劇活動を始め、つかこうへい事務所の特別公演やその他のプロデュース作品など20本以上の作品を発表している。現在は、演劇ワークショップTAKE1も主宰。自分の信じる演劇を精力的に世に問い続けている。一方では、『天体観測』、『ドラゴン桜』、『鉄板少女アカネ』など人気テレビドラマの脚本、篠原涼子主演『アンフェア』の原作『推理小説』(河出書房新社)などの小説やCHEMISTRY『キミがいる』など作詞も手がけ、活躍の場を広げている。今回の『月の子供』は、第17回下北沢演劇祭参加作品である。


■なぜ『月の子供』を
      再演するのか

―今作は、2005年に「劇」小劇場で一度、上演された作品だそうですね。なぜ再演しようと思われたのですか。

 実は、前回の公演を終えて、僕自身の物語を紡ぎ出す脚本の技術とくらべて、演出の技術が追いついていなかったのではないかという反省がありました。だからなのか、初日から3日間、観に来ていただいたお客さんを置いてきぼりにしてしまった。4日目からは好評をいただいたのですが、その3日間の悔いもあり、ずっとやり残したことがあるような気がしていました。そんなとき、偶然、この演劇祭のお話があったので、よりしっかりと『月の子供』の物語を起こしなおしたいという想いから、ご提案をさせていただきました。

―台本はほとんど変えていらっしゃらない、と聞いています。

 そうですね。そのかわり、キャストを一新し、演出方法も大きく変えて、チャレンジします。お客さんに親切にするところには親切に、不親切にするところはより乱暴にダイナミックにして、メリハリをつけたいと思っています。

―主役は、NHKドラマ『ふたりっ子』でも有名な三倉茉奈、三倉佳奈さん。

 明るく元気なへこたれないキャラクターが欲しかったのと、ストレートプレイは未経験というフレッシュさが魅力的で、2人にお願いしたところ、台本を読んで即答していただきました。2人で主役の少年を演じてもらうのですが、演出的に面白い試みができるのではないかと思っています。

―他のキャストはどのように選ばれたのですか。

 テレビで活躍する人気俳優だけでも、小劇場のベテラン役者だけでもなく、こういう人たちが一同に集まるって不思議だなという組み合わせをしたいと、考えました。たとえば、浮浪者の役は、風間トオルさん。他に、伊藤裕子さんや宮地真緒さん、林泰文さんも出ます。一方で、舞台でずっと活躍してきた円城寺あやさんや春田純一さんなども出ます。稽古はこれからですが、どんな科学反応が起こるか、ちょっと予想もつかない(笑)、楽しみにしていてください。

―メインキャスト以外の皆さんは、オーディションで選ばれたんですよね。

 はい。オーディションには、僕も参加して約1ヶ月かけました。一緒にいい芝居を作ろうという熱意を持っているか、ダンスができる身体能力があるかなどを考えて、選ばせていただきました。冒頭の通勤ラッシュのシーンに不自然ではないよう考えたので、皆さん、年齢や性別、身体の特徴などもさまざまですね。

■物語が内包する
    ふたつのテーマ

―『月の子供』という物語を一言で表わしていただくと?

 ストーリーだけ聞くと、観念的で難しくて暗いお話のように思われてしまうこともありますが、本当はそんなことなくて、単純に「今の世の中って、僕から見ると、こんなふうに見えるんですけど」ってそういう話なんです(笑)

―それは、この物語のテーマである<月の子供>ということに関係しているんですよね。

 そうですね。<月の子供>というのは、月で生まれる子供のことです。もちろん実際には月で子供は生まれないのですが、もし生まれたとしても、彼らは骨や筋肉が月の重力でしか育たないため、地球にくるとつぶれちゃうだろうと言われています。だから、月の子供は、青く美しい地球に憧れるんだけれども、けっして来ることはできない。主人公の孤児の少年は、学校でその話を聞かされ、そんな月の子供よりは不幸じゃないと教え込まれているのですが、そのうち、様々な出来事を通じて、自分の住む世界の嘘や不自由さに気づいていくんです。

 例えば、人々は、平等とか平和とか幸せとか簡単に口にするけど、実際にそれがみんなの手元にあったことは一度もない。真実をちゃんと知っていたことすらない。親は子供を殺すし、子供は親を殺す。結局、僕たちは、実際は何も持っていないんです。それは、月の子供と同じではないか、と。むしろ、不幸を自覚している分だけ、月の子供のほうがましかもしれない。そんなことを考えながら、とりあえず、孤児の少年は、今できることをがんばろうとするんですよね。


―そう考えていくと、私たちが信頼している「常識」って何だろうと疑問を抱かずにはいられませんね。

 僕は、がんばりとか努力とか、世の中的によしとされていることって、結構つまらないものなんじゃないか、僕たちはそこからもっと自由になれるんじゃないかと思っているんです。実は、この物語の裏のテーマはそこなんです。
 だから、人によっては、この芝居を見て、すごく楽になるかもしれないし、猛烈に腹がたつかもしれない。あるいは大切にしていたものが急につまらなく見えるかもしれないし、その逆もあるかもしれない。ただ、とにかくどんな形にせよ、これはファンタジーのふりをして、現代の自分たちのことを言っているんだなってことを、誰に対しても届くように作りたいと思っています。


   

■舞台が
   ホームグラウンド

―最近、テレビドラマや映画の脚本家や小説家として活躍の場を広げられていますね。

 そうですね、でも僕にとってはあくまで舞台がホームグラウンド。食べられなかったので、ドラマの脚本にも手を出したという(笑)。だから、今でも、プロデュース公演やワークショップ卒業公演など、僕が作・演出をする舞台を年に3本くらいはやっています。

―ドラマの脚本や小説を書くのと、演劇の台本を書くのは違いますか。

 もちろん、技術的に違うところはあります。特に、僕が演劇の台本を書く場合は、たいてい舞台美術は抽象的なものしか組まないですから。ただ、映像と比べて、演劇のお客さんの想像力は、何倍も信用しながら書くというところが違うかもしれませんね。両方やってみて思いますが、演劇のお客さんは、一番信用していて、怖いお客さんです(笑)

―そこまで秦さんがこだわる舞台の一番の魅力って何でしょうか。

 やっぱりダイレクトにお客さんに何かを響かせたいし、自分が何か届けられたのか、突きさすことができたのかってことを、僕はその場で確認したいんです。それには舞台が一番。テレビドラマや小説だと、多くの場合、後で感想を聞くことしかできませんから。ありきたりだけど、一期一会で、同じ空間をお客さんと共有するということは、すごく美しいことのような気がするんですよね。経済効率はとても悪いですけど(笑)、何ものにも変えがたいと思います。

―それでは最後に、お客さんへのメッセージをお願いします。

 ちょっとなんか最近、息苦しいなとか、まじめにがんばっているのに、なんか気が晴れないなとか、一生懸命がんばっているけど、これで人生あってたっけと迷っているような人には、ぜひ見てほしいと思います。よろしくお願いします。

   

 インタビューを終え、熱気溢れる稽古場に戻った秦さんは、休憩の合間にもう一度、「ダンスあり、ギャグ満載のエネルギッシュな舞台になりますよ」と笑った。秦さんの熱い想いと、素敵な役者たちによる化学反応は、いったいどんな舞台を生み出すのかー。初演の舞台を観た人にとっても、初めて観る人にとっても、この出会いは最高にエキサイティングなものになりそうだ。


『月の子供』
〜第17回下北沢演劇祭参加作品〜
2007年2月7日(水)〜2月18(日)
下北沢 本多劇場

オフィシャルサイト

作・演出 
秦建日子 

出演
三倉茉奈 三倉佳奈
円城寺あや 伊藤裕子 宮地真緒
林泰文 白石みき
風間トオル 春田純一

松下修 築山万有美 川津春 滝佳保子 
納谷真大 白国秀樹 渡辺紘平 藤岡麻美

青木愛 浅川尚志 足木俊介 新井みずか 
安藤悠美 五十嵐貴子 伊倉舞 
伊勢田隆弘 井筒大介 井筒洋介 入江亨弥 
浦田麻緒 浦中杏奈 江原百合 
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